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【箸休め】忘れられない先生

私が、小学4年生になった初日のことです。

半袖に短パンの、いわゆる卓球のユニフォームを着て、メガネをかけた男の先生が、

ラケットとピンポン玉を持ち、教室に入って来ました。

教卓を卓球台にし、黒板に向かって

目にも止まらぬ早さで玉を打ち始めたのです。

最後には

ダダンッと大きく足を踏み鳴らし、

私たちに向かってキメ顔、キメポーズ。

これが、町田先生(仮名)との出会いでした。


町田先生は、

毎日の授業の始まりに、

必ず、怖い話をしてくれました。

お話の最後には、

みんながビクッと体を飛び上がらせる程の大声で終わり、

何事もなかったかのように授業に入っていきます。


私たちは、

先生の怖い話が聞きたいのと

授業を始めて欲しくないのとで、

少しでも長く、怖い話をしてもらえるよう、

ちょっとした駆け引きも楽しんでいました。


町田先生が、初日からいつも言っていたことは2つ。

1つ目は、

「笑うことが大事!

笑っていたら病気もガンも治る!

いっぱい笑おう。」

ということ。

その通り、先生は、

よく私たちを笑わせようとしてくれていましたし、

怒っている姿を見た記憶が、ほとんどありません。


2つ目は、

「人が見てないところで良いことをしよう。」

ということでした。

誰かが見ているからやるのではなく、

誰も見ていなくても良いことをしていれば、

必ず良いことが返ってくる、

必ず誰かが見ていてくれているよ、

という様なことでした。

そうして、

一日の終わりには、

何か良いことをした人を自薦他薦で発表する時間があって、

みんなここぞとばかりに

「◯◯君が、みんながいないところでゴミをひろっていました」

「◯◯ちゃんが、いすをきれいになおしていました」

と、良いことの目撃情報を発表し合いました。



そうすると、先生が黒板の上に星の形に切った金色の折り紙を貼り付けます。

これが10個たまったら、お楽しみ会ができる

というのですから、

もう、

良いところを見つけることが楽しくて楽しくて仕方ないのです。


お楽しみ会の内容は、

ゲームだったり、

食べ物一品持ち寄りパーティーだったり、

(今の時代では難しいでしょうが、子供たちで作ったお菓子やら

お母さんが作ったおかずやらが並んで、

最高に楽しいパーティーでした。)

子供たちで案を出し合って決めました。


私が先生のクラスになって一番楽しく取り組んだことの一つは、

日記を書くことでした。

日記を1ページ書く毎に、

数字が一つもらえて、

10、20、30、、、と

十単位で好きなシールを一枚もらえるからです。

どのシールも、本当に素敵なものばかりで、

私はシール欲しさに

毎日毎日、日記を書いていました。

1日1回というのが、もどかしく、

遂には先生に許可をもらって、

絵、漫画、お話など、好きなことを書いた

「いろいろノート」という物を作って、

毎日2冊を提出していました。


先生は、

冬になると、教卓の横の空いてるスペースに

畳を二畳とその上にコタツを置いてみたり、

旅行に行くたびに買ってくる

提灯のお土産を教室の前にずらりと並べたり、

先生仕様に教室をアレンジして、

先生というお仕事を存分に楽しんでいたように思います。


町田先生と生徒の距離はとても近く、

休みの日でも、

希望者で公園まで遠足に出かけたり、

先生の奥さんやお子さんたちも(小学校は違う)

一緒になって遊ぶ機会もありました。


学年最後の日、

一人一人に、

紐を引っ張るとクルリと回って鉄棒をする、

手作りのカラクリおもちゃと、

メッセージの書かれた

ピンポン玉をくれました。


町田先生には、その一年間だけ受け持っていただいたのですが、

今の私は、町田先生あっての私であるとも感じています。

それ程、子どもたち一人一人の個性を大切にしてくださり、

良いところ、得意なことを伸ばしてくださったと感じています。


「養護学校(現・特別支援学校)で働きたい」と

おっしゃっていた町田先生。

その言葉通り、翌年には、希望通りの学校へ赴任されたのでしょうか、、、。

消息は不明ですが、

今もどこかで、何かしらの方法で、

こどもたちに

ワクワクする時間を

与えてくださっているのではないかと

想像しております。


長男が、この春、小学一年生になりました。

これから、いろいろな先生や大人に出会っていくと思いますが、

こどもにとって、一人でも、

「出会えてよかった!」

と思える心の恩師に出会えたら、

こんなに嬉しいことはありません。


町田先生に、会いたいな~!!!


#忘れられない先生

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