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患者向け医療機関検索プラットフォームは医療サービスか

先日、病院検索サービスのビジネスパターンをまとめた記事を拝見しました。

普段から思うところがあり、以下の引用ツイートをしましたところ@aritaku03さんから「異質とは?」「高い倫理観とは?」とご質問をいただきました。かなり感覚的に発言してしまったとはいえ、当事者の方からの投げかけには真摯に答えるべきだと考えておりましたら、長文化してしまいましたので、こちらに記します。


医療は選択と誘導が自由な市場である

ここでは医療機関選択に限りますが、なぜそもそも、患者(被保険者)の受療にポータルサイト(以下プラットフォーム)が関われるかといいますと、医療保険制度が「準市場」で設計されているからです。
被保険者に医療機関を自由に選ぶ権利が与えられ、医療機関間の競争によりサービスの質や効率性向上を期待する設計となっています。もし完全なゲートキーパー制が導入されてしまえば、少なくとも被保険者向けのサービスは不要になりますし、医療機関のクオリティーアップも別の制度下でコントロールされるようになるでしょう。医療機関検索サービスはいまの医療制度だから存在でき、価値提供ができるサービスなのです。

検索ユーザーは被保険者である

被保険者に利便性の高い医療機関検索サービス提供をして来院受療を促すというのがポータルサイトの共通点だと捉えています。このサービスの恩恵を直接的に受けるのは「よい医療機関を探せる患者」「患者からの認知機会を得られる医療機関」の2者です。

患者は被保険者ですから公的資金から分配されたお金を使って受療します。医療機関はそのお金を受け取ります。被保険者は、社会保険制度で補助された経済力を背景に医療機関の選択しています。個人資産で取引が行われる自由市場と異なり、準市場で設計されている経済活動です。したがって、受療先を決めるときにプラットフォームを使うということは、公的資金がどの医療機関に流れるかの影響力をプラットフォームがもっていることになります。

被保険者が医療機関を選択する際、ほとんど信頼財の視点です。情報の非対称性があるため、豊富な医療情報が開示されていたとしても、被保険者は根拠を持って自分に最適な医療機関を探すことが難しいといわれます。そのときに使われるのが、ブランドイメージや口コミを含む第三者評価です。院長のインタビュー形式の記事で「よさそうな印象」を演出することがよく行われていますし、口コミは端的に良し悪しを語ってくれます。

判断材料として口コミはどうあるべきか

この口コミについて、医療広告ガイドラインの検討会(医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会)では、立ち位置やあるべきかたちを定義しきれていません。悪評による医療機関の損害、個人の発言権(言論の自由)の制限の議論が不十分で、せいぜい「金銭授受を伴うサクラはNG」という程度です。

Googleマイビジネスはユーザー数も多く、露出も高いので、ある個人の見解や感想を強力に拡散させる機能を備えています。医療広告ガイドラインの本論からはずれますが、この口コミの内容を被保険者は受療医療機関先を決定する要素として利用します。これも準市場に大きな影響をもたらします。

口コミが妥当性のない・虚偽の内容であった場合、書き込んだ個人への責任は当然ありますが、プラットフォームの提供者が虚偽を拡散する場を提供していることも事実であり、健全でなければならない準市場を崩壊させる可能性ももっています。準市場は適切な制度設計が不可欠といわれ、医療機関の選択は医療機関の競争において重要ですが、その選択へ過介入することは制度運用上の不穏分子です。

情報プラットフォームは医療サービスなのか

構造的には、被保険者と医療機関がサービスと医療費を交換して成り立つという設計になっているはずのところ、選択に関してはプラットフォームが介在し、3者間の利益を成立させねばならない関係にあります。この構造下でプラットフォームが「異質」なプレイヤーと感じます。
金の流れは療担で制限がかかっていますが、よりマクロで見たときにプラットフォームの資金が、名目はなんであれ医療機関から提供されています。これは「高騰する看護師紹介手数料の原資は診療報酬で、本来は医療の質向上にあてられるべきもの」との指摘と重なる部分も多いと考えています。

医療機関へ提供されるサービスは数ありますが、たとえば検体検査、滅菌消毒、患者給食、患者搬送などは医療法施行規則第9条で示される基準に適合している必要があります。医療機関選択に際する患者への情報提供は量的質的とも法的な要件はありません。表現してはいけないことはあるものの、かくあるべしという基準はありません。反対に、情報アクセスの良さが頻回受診や過剰に高度を推奨する方向へ作用するのもまた好ましくはなく「情報提供がされていればなんでもよい」という訳ではないのが「高い倫理観」が求められる所以です。

諸規則をハックして、患者紹介・送客ビジネスをまわしていこうとするプラットフォームがありますが、本質的にはグレーゾーンな事業であり、問題が表面化すれば規制対象となっていくはずです。
一方、準市場の成立させるには情報提供は欠かせない要素のひとつです。
・ユーザーが最も適切な医療機関を選べるように
・ユーザーと医療機関に公平な選択機会が提供されるように
YMYLに関わる事業に矜持あれ。

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