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「生き残りをかけた病院ホームページ」を取り巻く環境

「病院マーケティングサミットJAPAN」の中核メンバーのお三方が、 次のような視点で病院のウェブサイトの現況やあり方について示唆しています。SEO、ブランディング、モバイルフレンドリーなど話題が多岐におよんでいますが、ここでは竹田氏の記事をベースに共感できるところ、補足したいところ、あるいは別の考え方もできるのでは、というあたりでフォロー記事を書いてみました。

病院経営事例集「生き残りをかけた病院ホームページ 〜選ばれるためのホームページとは〜―病院マーケティング新時代(5)」
https://hpcase.jp/hospital-marketing005/

・「検索エンジンを介して患者に選ばれる病院webサイトとは」
竹田陽介氏(医師、 病院マーケティングサミットJAPAN President、 株式会社Vitaly 代表取締役)
・「医療機関ホームページはスマホから見られています」
小山晃英氏(病院マーケティングサミットJAPAN Academic Director、京都府立医科大学 地域保健医療疫学)
・「小倉記念病院はなぜ、ホームページコンセプトを『主役は街に暮らす人々』にしたか」
松本卓氏(病院マーケティングサミットJAPAN Academic Director、 小倉記念病院 経営企画部 企画広報課)

竹田氏は“Evidence Based PR(根拠に基づいた広報)”を提唱し、病院広報や病院・学会のウェブブランディングに携わっています。この稿でも、ウェブサイトのアクセス解析データなどをもとにした“疫学的な”考察で、病院ウェブサイトがどのように利用され、特にスマートフォンによるネット利用が主流となっている現況について、検索特性とその対策を分析しています。

ブロードバンド回線の浸透を経て、スマートフォンの爆発的な普及により、ネットで生活に関わる情報も検索は日常化しました。ヘルスケア分野でもそれは同時進行し、ついにはスマートフォンアプリが薬機承認の範疇に含まれ、保険適用されるまでになりました。ネットやスマートフォンが医療分野のマーケティングの本流に組み込まれたこの時代に病院として何をすべきか、さまざまなものが示唆されています。

病院の知名度とホームページ利用者数の関係

記事中、最初に目を引くのが「病院ウェブサイトの訪問者」と「病床数(病院の規模)」の相関関係を示したグラフです。別の記事で同じグラフを拝見した際には、n=80とされていました。サンプルサイズが小さめではありますが、この数を集めるのは大変だったはずで、私が知る病院にも「Google Analyticsのデータを提供してほしい」という打診があったようで、地道に集められたデータが、このようなかたちでまとめられたということでしょう。

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調査結果から次のような傾向があるとしています。

・大規模病院ほどウェブサイト訪問者数も多い
・同等な病床数・提供する医療・地域差がない場合でもウェブサイト訪問者・数は大きく異なる
・従来の知名度には必ずしも一致しない分布である

前述の別記事では相関係数が0.45とありましたから、ウェブサイトの訪問者数(UU?)と病床数にはゆるやかな相関が認められるといえます。回帰直線より上に位置する病院は、SEOが奏功していたり、知名度が高い病院や特定機能病院であろうと察しがつきますし、下に位置する病院は「地方の市中病院」とグルーピングされている点も納得のいくものです。

ほかにも私見であり感覚値ではありますが「 急性期か慢性期/回復期か」「診療圏の人口密度」「メディア露出」などもウェブサイトの訪問者数が変動する因子になります。また、ここでは指標を「病床数」としていますが、「外来患者数」の方がウェブサイトの訪問者数に高い相関がある印象です。

ただ、病院広報が当たり前の世の中になった場合、診療報酬のルールが劇的に変わったりすると、このような相関関係は崩れるだろうと思っています。SEOが成功している病院では、病床300ながら月間のウェブサイト訪問者数が10万を超えるところも出てきています。すでにネット上では格差が顕在化し始めています。一方で、このアクセス数を当該病院での受療・来院に転換できてるかというとそうではありません。理由は後述します。

検索エンジンは病院の集患にどれほどの効果をもたらすかのか?

病院webサイト訪問者数を大きく左右する検索エンジンに焦点を当て、患者から選ばれる病院webサイトを作るためのエッセンスをお話します。

という竹田氏の記事のテーマに対して、松本氏は自身が広報を担当する小倉記念病院のウェブサイトの位置付けとして

小倉記念病院では、マーケット範囲の地域でweb以外のタッチポイント(講座・口コミ・メディア露出・広報誌・SNSなど)に多く触れてもらって、googleやyahooで「小倉記念病院」と検索してもらい、最終的にwebで口説き落とすというスタンスでいます。

といっています。この2つを要約すれば、

・オンライン(ネット)施策で検索から手広く訪問者を集める
・オフラインでの認知・興味促進活動で訪問者を集める

という構図で対峙するようにも見えます。もちろん、それぞれの特性や良し悪しはありますが、ローカルマーケティングと限定した場合には小倉記念病院の取り組みが費用対効果が高いはずです。少なくとも活動の成果を実感するのは、オフラインを絡めた地域でのマーケティングです。
両者の比較は記事の主題とは外れると思いますが、オンライン(ネット利用)の特性を知ることは、病院広報で何をすべきか・何をしないかの戦略的な判断として重要かと思いますので掘り下げます。

医療情報を能動的にネットで調べるには、まずは検索です。ネット検索はほぼ社会インフラといっていいでしょう。そこに接続するマーケティングとして、記事ではSEOの話題が展開され、検索ワードの観点から2つの方向性が示されます。

・従来は「地域+診療科」のような検索ワードが病院のSEO対策で重視
・最近は「頭が痛い」といった「症状」など医学用語ではないの検索クエリーが多い

前者はローカルSEOのアプローチです。「従来は」という表現がされていますが、いまでも人の来訪を促すには最重要の施策のひとつです。ですので従来型はもう意味がないということはなく、新しい基軸として後者のような傾向もあり、悩み解決型の検索に応えるコンテンツも選択してはという提案であろうと考えます。
他方、記事の後半でこれも松本氏が次のように述べています。

「動悸がする」と検索するのは東京にもいるし、福岡にもいる。なので、ブランドワードとビッグワードどちらからの流入も多いに越したことはないと思います。しかし、マーケティング実務担当者として、webを充実させるために時間を割くことが難しい部分もあります。

要するに、

全国どこでも検索されるキーワードでいい順位をとれば、それなりに集患には貢献するだろう。だけどそれは「SEOで日本一」を目指すための労力が必要になる。まず地域でのプレゼンスを掲げたときに、ウェブマーケティングだけに注力することできない。

ということを考えられているのだろうと思います。私は、非常に冷静で素晴らしい判断だと感じました。ネットは片手間で成果があげられる世界ではないのです。また、Googleの検索アルゴリズムが変わってしまうと積み上げてきたものを失う可能性もあります。現に竹田氏のいう「病院びいき」になったことで病院のウェブサイトはSEOでは優位に立っていますが、その裏では大きな損害や業績打撃を受けたウェブサイトはたくさんあるわけです。病院のウェブサイトもそちら側になる可能性がゼロとはいえません。

考えるべきはユーザーの検索意図

そもそもになりますが、2015年にGoogleは検索意図に注目し4つに分類する記事を発表しました。

・I-want-to-know(知りたい)
・I-want-to-go(行きたい)
・I-want-to-do(したい)
・I-want-to-buy(買いたい)

これに先ほどの2つの方向性を当てはめると次のようになります。

・診療科+地名 … I-want-to-go(行きたい)
・動悸がする … I-want-to-know(知りたい)

この2つは検索ユーザーがやりたいこと、つまりは検索した目的・意図が違うのです。当然「行きたい」ユーザーは来院を検討していますが、「知りたい」ユーザーは知ってしまえば問題解決ということもたくさんあるわけです。

ローカルSEOのキーワードは、その目的の通り外来獲得に直結するものを選んで対策をしないと検索ユーザーの意図からずれてしまい成果につながりにくくなります。一方で「知りたい」はいわば「調べもの」です。知的欲求が満たされればそこで完結してしまいます。よくあるのが、芸能人が「心筋梗塞で倒れた」というニュースが流れると、ネットユーザーは心筋梗塞や周辺情報について一斉に検索します。該当の語で検索上位にくるウェブサイトは一気にアクセスが急増しますが、ほどなくして急降下、鎮静化します。ご想像のとおり、この検索行動が外来患者数に与えるインパクトは非常に小さいものです。
そういった面からも I-want-to-go であるユーザー向けに「診療科+地名」「夜間救急+駅名」などのローカルSEOが第一選択の施策と考えます。

ところが、これには大きな罠があります。すべての医療機関のウェブサイトが 「診療科+地名」を狙えるわけでありません。
端的にいいますと「診療科+地名」のSEOは、クリニック・単科病院が優位になる検索アルゴリズムのため、特に都市部において、いわゆる総合病院がこの検索ワードで上位に表示させるのはかなりハードルが高い仕事になります。たとえば「小倉+循環器科」と検索すると「小倉記念病院」がトップでこそありませんが、上位に表示されますので不可能というレベルではありません。でも道のりは厳しいです。

加えて閲覧デバイス(パソコン・スマートフォン)の特性も考えるとさらに厳しくなりますが、これはまた別の機会にまとめたいと思います(これは小山氏の記事がベースになりそうです)。
総じてどうすべきかとなると、やはり最初に戻って「GoogleやYahoo!で“ 小倉記念病院 ”と検索してもらう」が病院にとっては取り組みやすいのだろうというのが一つの結論です。

病院ホームページで実施すべき広報施策

病院マーケティング全体でみれば、地域活動は病病・病診・病介の医療連携先にも届けば親密感の醸成として働き、医療関係者は日頃から紹介・逆紹介で病院のことを考えますから即効性も期待できます。 他方、一般の方は「患者」になってはじめて来院を検討しますから、ほかの業界の施設や店舗のマーケティングのように広告接触が態度変容を起こすという、AISASやAIDMAなどの古典的なフレームワークでは施策がうまく回りません。もう少し厳密にいえば、禁煙・AGA・美容系など日頃から問題意識を持つことが多いものに関しては機能するでしょうが、突発的な病気・ケガで選ばれるには「病院の存在をあらかじめ知っておいてもらう」という広報が選ばれるための下地として必要でしょう。水道トラブルや葬儀社のチラシが郵便受けに投函されているのは、態度変容を期待するものではなく、知っておいてもらうための施策です。

ネットでの病院マーケティングにブレーキをかけるような展開の記事になってしまいましたが、諸氏の記事もこのフォロー記事もオンライン/オフライン(ネット/リアル)の二者択一を迫るものではありません。オフラインの活動範囲には限界があります。重篤な病気で対応できる医療機関が限られる場合、あるいは二次医療圏やそれを超える範囲にマーケティング仕掛けたい場合、グループ病院が囲い込みを狙る場合などは、距離的な制約がないネットマーケティングをフル活用する選択する意義も大いにあります。

SEOにも力を入れていきたいという場合、竹田氏のパートの後半が関連します。ページの情報量(文字数)を検索上位表示の関係性を示したもので次のように述べています。

文章型の症状ワードで検索上位に表示されるためには1記事(ページ)あたりの字数も重要です。検索エンジン集客を狙うためには1記事あたり1500字以上のボリュームが求められます。単純に字数が多いだけが全てではありませんが、専門医が執筆した十分なボリューム(3000字以上)の記事は病院webサイトの検索エンジン集客を大きく改善することも期待できます。

コンテンツの文字数はSEOでは昔から議論になるところで、文字数が検索順位に貢献する・貢献しないという議論は収束することなく今も続いています。

文字数(単語数)と順位の関係性を調査した結果ですが、記事中に掲載されているグラフも含め、相関関係を示すもので因果関係を証明するものではありません。調査手法やドメインオーソリティ、リンクプロファイルなどの因子も複合的に考慮されて順位決定がされますので、方法論やスタンスの違いでも調査結果の見え方は変わってくるでしょう。
また、検索意図とコンテンツをマッチングさせることこそがGoogleが目指すものですから、コンテキストなどの定性的な視点で計画的な情報発信がよい結果を生みます。

「患者目線のSEO対策」を行うことが、検索エンジンを介して患者から選ばれる病院webサイトになるための第一歩と言えます。

「患者目線のSEO」はとてもよいコンセプトだと思いました。医療にも「ペイシェント・ファースト」という言葉がありますし、ネットにおいても「ユーザー・ファースト」という考え方も浸透しています。SEOは増患のソリューションとして持ち出され、利益目的のための戦術になりがちですが、こと健康や人命に直結する医療情報は、その届け方も慎重にあるべきで患者の利益損なうようなものではあってははりません。

WELQの一件以来、GoogleはYMYLを重視するというメッセージとして、アルゴリズムを大幅に変更して医療の専門性が担保できないウェブサイトの検索順位を大幅に下げる措置をとりました。しかし依然としてトンデモ医療情報がなくなるに至ってはいません。
Googleのアルゴリズムが標準治療や各学会のガイドライン以外の情報を完全に排除できるとは思えません。医療者が高い倫理観をもって情報発信することで、良貨が悪貨を駆逐するという取り組みも必要だと思っています。よい情報が不適切な情報を物量で市場から追い出せることができないか、そんなことを考えています。

どのような目的であれ、医療者が情報発信をする際にはひとつ心に留めておいていただきたいこと。それは医療者と非医療者間の情報の非対称性です。
両者のとって言葉の壁は案外大きく、たとえば「予後」「重篤」「誤嚥」は医療者にとって日常語ですが、非医療者のこれらの言葉の認知率は50%程度といわれます。医療者目線で、非医療者がよくわからない言葉を使っても、検索ユーザーに情報は届きません。使われるであろう言葉を想像し、あるいは患者が普段話し理解できることばで、傷病や治療・薬のリスクなどを説明するコンテンツが発信されれば、SEOにも有効に作用し、ページに到達したユーザーにとっても理解が容易な情報源となるでしょう。

病院ウェブサイトの医療情報がナレッジの社会資源として重用されるときが来るのを期待したいと思います。

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