ホスピタリティ・ロジックのこと その3 〜「顧客目線に立つ」ということ〜

閑話休題、投げかけがあったので「顧客目線」ということについて。

(そもそもの「顧客」という言葉の定義と是非については別な回の話題に譲ります)

これほどまでに、接客や営業のさらなる向上に対して指示や方向性を現場スタッフへ与える時に「万能な言葉」は他にあまり存在していないのではなかろうか、といつも感じています。

「ホスピタリティのある対応を」という指示と同様に、「顧客目線で考えて」「顧客目線での対応を」や「顧客目線に立って」ということを言えば、現場スタッフは同意するしかないからです。

この「顧客目線で」という言葉の便利さは、現場スタッフに下記のようなことを同時に示唆できることから分かります。

⚫︎ 顧客目線なるものが存在するよ
⚫︎ その顧客目線にあなたは成れていないから顧客への対応がベストとは言えない結果になったよね(なっているよね)
⚫︎ ということは、あなたは顧客目線を充分には分かっていないということだよね
⚫︎ なので、顧客目線ということの理解に努めようね
⚫︎ 顧客目線を理解したうえで行動しようね

とまあ、このくらいのことを一度に示唆できるので、現場スタッフのクオリティに対して責任を持つ人にとってはとても楽に使える言葉だと言えます。

なので、経営者や管理者といった立場の人は、真面目に本気でこの投げかけをするのでしょう。

では、「顧客目線」というのは、いったい何で、どうやったら把握したり理解することができるのでしょうか。

上司や管理者はその経験や実績から「顧客目線」の大切さを実感しているのだと思われますが、彼らはどのような気持ちで「顧客目線で」という言葉を投げかけているのでしょうか。

① 「顧客目線に立つ」ということをよく知ってて「顧客目線で・・・」と言っている(A)のか、それを知らずに「顧客目線で・・・」と言っている(B)のか。

② 「顧客目線に立つ」仕方を知ってて「顧客目線で・・・」と言っている(A)のか、その仕方を知らずに「顧客目線で・・・」と言っている(B)のか。

③ 顧客目線に立ったことがあるので「顧客目線で・・・」と言っている(A)のか、顧客目線に立ったことはないけども(大切なことなので)「顧客目線で・・・」と言っている(B)のか。

④ 顧客目線について自分で考えさせたいから「顧客目線で・・・」と言っている(A)のか、顧客目線について教えたいから「顧客目線で・・・」と言っている(B)のか、顧客目線で一緒に考えたいから「顧客目線で・・・」と言っているのか(C)。

⑤ そして、心から「顧客目線で・・・」と思っているからそう言っている(A)のか、そうすることがいいと思っているから「顧客目線で・・・」と言っている(B)のか、他のもの(本やコンサルなど)にそう言われたから「顧客目線で・・・」と言っている(C)のか、それとも(D)。

「顧客目線での対応をしましょう」「顧客目線で考えましょう」という方向性の指示は、これらの組み合わせによって伝わる意味のニュアンス、取り組みへの熱量、方法や行為への考察の深さ、指示そのものへのふるまいが変わることが想定されます。

あなたの上司やリーダーは、どの組み合わせの意味で言っているのでしょう。

上司やリーダーとしてのあなたは、どの組み合わせの意味で言っているのでしょう。

「①はAか?Bか?」にはじまり、「⑤はA〜Cのどれか?もしくはDだとしたら何か?」ということに至るまで。

どうでしょう。

そうしたことはもかくとして、そもそも、「顧客目線に立つ」ということは可能なのでしょうか。

この話題でこういうことを言うと身も蓋もないのですが(笑)

「顧客」という言葉を離れて、別の切り口で考えてみましょう。

例えば、「女性目線」や「主婦目線」という言葉があったときに、「女性目線」とは主に男性が分からないものというニュアンスを含み、「主婦目線」とは主婦をしたことのない人や男性中心の企業には分からないというニュアンスを含むと考えられます。

なので、この場合の多くは、男性が頑張って「女性目線」に立つことや、企業が頑張って「主婦目線」に立つことは放棄されます。

頑張って考えても分からないので。

放棄した代わりに、「女性目線」のことを女性に問い、「主婦目線」のことを主婦から教わるという仕方になります。

これは極めて自然なことです。

そうです、どこまでいっても、人は「鳥目線」になれません。

人は空を飛べませんし、そもそも鳥のように考えることはほぼほぼ不可能だと言わざるをえません。(例外はあるかもしれませんが)

鳥目線に近づくためには、技術としてドローンや航空写真を使うでしょうが、人が鳥目線そのものに立てる訳ではありません。

それらの技術は、「鳥目線のようなもの」であって、鳥目線そのものであるという主張をするのには無理があります。

当たり前のことですが、鳥はドローンの様には飛びませんしドローンのカメラの位置に鳥の目はありません。

ましてや、航空写真の目線でものを見ている鳥はいないと想像できます。(たぶん、建物や街の構造を見たりはしない)

高高度で飛んでいる鳥の目線と、飛行機からの目線は似ているかもしれませんが、「鳥が何を考えているか分からない」ということにおいて目線が同じだとは言うことが難しいです。

しかも鳥に問い合わせて確認することはできませんし。

問い合わせができたとして、鳥が応えてくれたとして、今度は、人の方が鳥が何を言ってくれているのか分かりません。

話が逸れました、鳥のことはさておき。

ではなぜ、顧客目線に立つにおいて、さきほどの女性目線や主婦目線の時のように、「顧客目線に立つ」ことを目指している人が、その顧客の話を聴かないのでしょうか。

なぜ、想像と想定と仮説とそれらの議論に終始して、実際に顧客なるもののリアルな話を訊きにゆかないのでしょう。

例えば、顧客としてのボク(石丸雄嗣)の目線に立つためには、ボクの話を少なからず聞いてみる必要があると思うのですが、飲食店にせよホテルにせよ小売業にせよそれほど聞いてもらえた経験がありません。(全接客機会の10%以下)

なので当然のように、ボクの目線に立てているとボクが思える人はとても少ないです。

もちろん、ボクの目線に近いと思える人はいますのが、そうした人たちは、なんらか必ずボクの話を聞いてくれた過去の経緯があります。

だとしたときに、「顧客目線に立て」という指示は間違いとは言わないまでもアバウトすぎる抽象的な指示でしかなく、具体的には「その顧客の話をよく聴いて対応するように」ということになるのではないでしょうか。

そして、そうした具体的な指示をなぜ出さないのでしょう。

それが、顧客目線というものの不思議であり、ある種のパラドックスのように思えるのです。

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