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【学会報告】入院患者の「食べられない」を考える

2023年2月18日および2月19日に第26回日本病院総合診療医学会総会が宇都宮で開催されました。久しぶりの現地開催でとても賑やかでした(参加者も今までで最多)。主管の獨協以下大学の先生方、ありがとうございました。

私たち「質の高い病棟診療ワーキンググループ」で一つセッションを担当いたしました。その内容を報告させていただきます。

学会に作成いただいたかっこいいポスターです。

入院患者の「食べられない」はなぜ重要か?

私たち病院総合診療医にとって、入院患者が「食べられない」ことはしばしば経験します。特に高齢患者ではよく見られます。肺炎で入院した患者がしばらく食事が取れない状況をイメージしてください。この「食べられない」は大いに問題があり、十分な食事摂取は体力の回復やリハビリテーションにおいて重要です。また、あまりに「食べられない」と入院期間が伸び、なかなか家に帰れなくなってしまいます。

しかしながら、この入院患者の「食べられない」については研究が非常に少なく、あまりわかっていることはありません。

  • 「食べられない」の何割で、特定の原因が見つかるか?

  • どういうリスクのある患者は「食べられない」になりやすいか?

  • 「食べられない」の患者はいつ改善するのか?また、何割で改善しないのか?

  • 退院し自宅で食事を取れば「食べられる」ようになるのか?

これらの質問によく答えることができる研究結果は十分でているとは言えません。よって、本セッションではこの「食べられない」を主なテーマとしました。症例検討や過去の研究を紹介しながら、新しい研究に繋げていくことを意識した構成としました。

導入-症例検討

導入-症例検討(長崎)

症例検討では、肺炎で入院した患者が食べられなくなったらどう対応するべきかとうことを参加者でディスカッションしてもらいました。医師の間でも対応にはばらつきがあることが再確認でき、このフィールドの研究の重要性が浮き彫りになりました。

過去の研究の紹介

過去の研究の紹介(鈴木)

次のプレゼンターからは今の時点でどこまでわかっているかということを過去の研究をまとめた発表をしていただきました。研究を探してみると、言葉や概念的な揺らぎが大きく、なかなか文献を探すのも一苦労でした。その中では、重要な論文がいくつかありましたので、簡単に紹介させていただきます。

入院患者の食欲不振の原因と回復率

Maki N, Nakatani E, Ojima T, Nagashima T, Harada T, Koike F, Tosaka N, Yoshida H, Shimada T. The cause of anorexia and proportion of its recovery in older adults without underlying disease: Results of a retrospective study. PLoS One. 2019 Oct 24;14(10):e0224354.

単施設の後ろ向き観察研究です。81名の患者のうち、80%で原因(感染→消化器疾患→心血管疾患の順)が見つかりましたが、20%で不明でした。診断に役立った検査は単純 CT検査であり、ついで採血検査でした。原因が見つかった方のうち70%で食欲が回復しましたが、原因が不明だった方は全例で食欲不振が改善しました。原因不明な方で食欲が見つかりやすいのは興味深い知見ですね。医師としてはどうしても探したくなってしまいますが、はっきりしないときは様子を見た方がいいのかもしれません。

食欲不振は終末期医療の患者の予後を予測するか

Arahata M, Asakura H, Morishita E, Minami S, Shimizu Y. Identification and Prognostication of End-of-Life State Using a Japanese Guideline-Based Diagnostic Method: A Diagnostic Accuracy Study. Int J Gen Med. 2023 Jan 5;16:23-36.

日本の終末期医療ガイドラインによる終末期医療の判断の妥当性を検討した研究です。食欲不振を中心とするテーマの論文ではないですが、終末期医療の患者では6ヶ月後の生存は摂食障害(<500kcal/日)がある場合とない場合でそのオッズ比が0.36でした。

これらの研究は重要ですが、まだまだ研究の数が少なく、私たちの臨床的な関心を満たすものではありません。これからこの分野の発展が必要だということが参加者に伝わったかと思います。

現在の研究の紹介

現在の研究の紹介(宮上)

次に現在実施されている研究の紹介をしました。まだ論文化されていないので詳細は述べれませんが、COVID-19患者で食事量ががいつどのように戻るのかを検討した論文です(論文が出版されましたらまた紹介させていただきます)。この論文を踏まえ、参加者と「どういう研究が必要か?」「どういう研究が可能か?」を議論しました。学会を通じて多施設研究など進むととても素敵ですね。

さいごに

本セッションでは入院患者の「食べられない」をテーマとしました。狙いとして研究にフォーカスし、学術的な活動への関心を高めてもらうように工夫しました。オンデマンド配信があると思いますので、興味がある方はぜひご覧ください。


いかがでしたでしょうか。次回の第27回日本病院総合診療医学会総会は2023年8月26日および27日に日本医科大学であります。私たちのセッションがまたあると思いますのでぜひご参加ください。

質の高い病棟診療ワーキンググループ:http://hgm-japan.com/hospitalmedicine/
文責:長崎一哉 水戸協同病院
※当記事の内容は、個人の意見であり、所属する学会や組織を代表するものではありません。


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