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片目失明者は障害者ではない?義眼は美容目的?

国会議員の仕事をしていると、様々な要望を持ってこられる方々に出会います。力のある(お金もある)団体や人々の要望は多くの議員が取り組むため早期に実現することが多く、力のない(お金もない)団体や人々の要望はなかなか実現しないという現実があります。私はある時期から、力のない団体の要望こそ自分の仕事と考えるようになりました。片目失明友の会の皆さんとは、古くからの友人の紹介で昨年末出会いました。

友の会の方々からは、「見た目の違いから子どもの頃にいじめられた」「数年に1度、義眼の交換が必要で経済的に厳しい」「視線が合わないために就職面接を全く通らない」「人混みで体が当たってトラブルに巻き込まれる」「運転免許に制約がある」など、切実な現状を伺いました。お話を聞くまで、片目失明が障害の対象になっていないことを私は知りませんでした。これは私自身が取り組むべき課題だと直感しました。

片目失明者友の会の方々はこれまで多くの国会議員に働きかけを行っていたのですが、議員間の連携が全く取れていませんでした。そこで、これまで友の会と縁のあった与野党議員に声をかけて、友の会の皆さんと政治家が一堂に会し、課題解決に取り組む「片目失明議員懇話会」を6月に設立することにしました。

片目失明は障害者認定を受けられない?

視覚障害者として公的支援を受けるためには、片眼の矯正視力が0.3以上0.6以下、かつもう一方の矯正視力が0.02以下であることが最低要件になります。すなわち、見えている方の視力が0.6を超えている場合には、片目失明であっても障害者認定を受けられません。

片目失明の不自由さは話で聞くより、体験してみるとよくわかります。友の会の方に促されて、片目に眼帯を装着して2~3時間、議員会館の中で仕事をしてみました。階段の上り下りもままならず、見えている方の目を酷使してすぐに頭痛を発症しました。

眼帯で片目失明を疑似体験

議員懇話会では、職場で満足に仕事ができず責められた際、片目失明を打ち明けたところ、「退職して障害年金を受給すれば良い」と言われた当事者のお話もありました。その方は片眼の視力が0.6以上であったため、障害年金の受給すら叶わなかったとのことです。手の指の欠損などが障害者認定される一方で、片目失明が障害者認定されていない現状は理不尽に思えてなりません。

義眼は美容目的で健康保険の対象にならない!?

議員懇談会でもう1つ要望が出されたのは、義眼の交換する経済的負担です。まず制度の概要を説明します。

眼球を完全に摘出した場合には、眼窩(眼が入る骨格の空間)保護のために義眼が必須との考え方に基づき、健康保険の療養費制度を利用することができます。しかし、眼球を摘出せずに上から装着する「被せ義眼」については、保険制度上「美容目的」のものと見なされるため、全額自己負担となります。

実際には、手術の際に医師の判断で眼球を残す選択をする場合が多いのですが、見えていない眼球が次第に縮小するために、眼窩に隙間が生じてしまうことがあります。特に子どもの場合には成長に伴い骨格形成がゆがむ可能性が高く、被せ義眼が不可欠となります。被せ義眼を我々の前で外して見せて、「これが美容目的ですか」と涙ながらに訴えられた女性の姿は忘れられません。

療養費制度を利用できた場合においても、療養費の支給対象は2年に1度で、それ以上の頻度で義眼を交換した場合は全額自己負担(1回10万円程度)となります。特に子どもは骨格が変化するため、2年に1回の交換では間に合いません。また、療養費制度は患者が一旦全額を支払った後に公費支給を受ける仕組みとなっていることについても、問題点を指摘する声がありました。

新人議員の頃、ある先輩議員から「1回の要望では何も実現しない。『あの問題はどうなりました?』と繰り返し問い合わせれば役所も無視できなくなる。官僚に『この議員はしつこい』と思わせないとダメだ」と言われたことを私は今も忠実に守っています。これまで繰り返し要望することで問題が解決する経験を少なからずしてきました。

議員懇話会の後、保険の適用について厚生労働省保険局の担当者を議員会館の部屋に呼んで協議を重ねています。義眼を装着しなかった場合の骨格形成への影響についてはこれまで議論されていなかったようです。突破口を開くことができるのではないかという感触を持っています。

厚生労働省との話し合いを継続

根本的課題である障害者認定については、厚生労働省内で令和4年度から令和6年度にかけて、大学教授を中心とするメンバーによる「視覚障害のあり方を再検討する研究」が進められています。現時点では片目失明そのものを視覚障害として認めることが妥当だという結論には至っていません。

研究の進め方についても厚生労働省障害保健福祉部の担当者と意見交換を重ねています。来年度以降は片目失明の内容に特化した研究を継続する方針となりました。今後は日本眼科医会や日本眼科学会などの専門家集団とも連携しつつ、片目失明者の障害者認定が1日でも早く実現したいと思います。

解散総選挙という試練を乗り越えて必ず帰ってくるであろう有志の議員懇話会の皆さん、片目失明者友の会の方々と共に、近い将来結果を出して皆さんに報告したいと思います。


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