見出し画像

低出生体重児(母子保健法の未熟児)がマイペースで生きられる社会にするために

私が低出生体重児(いわゆる未熟児)の問題に取り組み始めたのは、第二子が637gという超低体重児として生まれてきた12年前です。当時の経緯については以下の記事をご覧ください。

前回の総選挙以降、当事者の皆さんと話し合いを重ねる中で1つの成果を出すことができました。まずは低出生体重児について知っていただきたいと思います。

学齢主義を徹底する中で低出生体重児にハンデを負わせてはいないか

体重2,500g未満で生まれる低出生体重児の割合は、日本では約10人に1人(2022年は9.4%)と決して少なくありません。低出生体重児は、本来の出産予定日よりも早く生まれている場合が多く、出生後しばらくの期間を保育器の中で過ごすことがあります。保育器内での子どもの成長速度は、その期間を母親の胎内で過ごした場合よりもゆっくりです。特に1,000g以下の超低出生体重児については発達障害などを持つ可能性が、ほかの子どもよりも高いと考えられています。

胎児の成長の差(筆者作成)

日本の義務教育は月齢主義が徹底されています。早産により本来の出産予定の前年度に生まれた場合であっても、実際に生まれた年度の学年に入学するのが原則です。そのため低出生体重児は、修正月齢(出産予定日から換算した年齢)で6歳に達していない段階で義務教育を受け始めることになり、学校生活においてハンデを背負うことになるのです。

低体重児に就学猶予の選択肢を

日本の義務教育は6歳になる年度の4月に始まりますが、小学校入学を遅らせる就学猶予という制度が存在します。学校教育法第18条では、「病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため、就学困難と認められる者」については、「(就学の)義務を猶予又は免除することができる」とされています。

12年前に保護者の皆さんからその話を聞き、1年間入学を遅らせる就学猶予を低出生体重児についても適用するよう文部科学省に働きかけました。2013年には衆議院文部科学委員会で下村博文大臣(当時)に質問もしています。この国会質問をきっかけに、「その他やむを得ない事由」に低体重児も含まれる旨の事務連絡が、文部科学省から全国の教育委員会に向けて発出されています。

就学猶予の活用は進んでいなかった

子どもの発達段階を記録できる母子手帳は日本の優れた制度です。しかし、低出生体重児の発達段階はゆっくりなケースが多いため、母子手帳の存在が親を焦らせる1つの原因となってきました。こうした状況を改善するために、急激に普及したのが「リトルベビーハンドブック」です。Voicyでの放送を通じて各地のリトルベビーサークルの方々と出会い、文部科学省による事務連絡の発出から約10年が経過したにもかかわらず、低体重児の就学猶予がほとんど活用されていない実態が分かりました。

原因の第一は、就学猶予制度の存在を知らない保護者が多いことです。幼い時は子どもの健康を維持するのに精一杯で、就学のことまで考える余裕がなかったという保護者の声も耳にしました。就学猶予という選択肢を地方自治体や教育委員会が積極的に当事者へ伝える必要があります。

就学猶予が許可されるタイミングが遅いために、現実的に活用するのは難しいという課題も明らかになりました。就学猶予の適否が決まるのは、通常の小学校入学日の直前です。就学猶予が認められたとしても、並行して入学準備も行ってきた本人や家族は難しい判断を迫られるのです。保育園や幼稚園で年少、年中、年長と一緒に過ごしてきた子どもが「自分だけ友達と一緒に小学校に行けないのは嫌だ」と納得しないこともあるそうです。また、自治体によって対応に違いがあることも明らかになってきました。

就学猶予制度を実効性のあるものに

幼稚園や保育園に入園する3歳の時に就学猶予制度があることを知らせることができれば、年少クラスに入る年齢を1年遅らせることで円滑に就学猶予制度を利用することができます。保護者の皆さんの声を受けて、各省庁の担当者と議論を重ねてきました。9月27日、こども家庭庁と文部科学省は地方自治体・教育委員会に向けて新たな事務連絡を発出しました。

こども家庭庁・文部科学省の新たな事務連絡

就学猶予に関する事項のポイントは以下の通りです。

この事務連絡の発出先は、教育委員会に加えて、各自治体の母子保健主管部局と保育主管部局も含まれています。両部局に対しては、「就学にあたって不安を抱えている保護者を把握した場合には、状況に応じて市町村教育委員会において対応している就学相談をご案内いただくなど(中略)情報提供をいただく」ように要請がなされています。これにより、低体重児や家族が療育センターを利用した時や、保健師とやり取りをした際に、就学猶予の情報にアクセスできる可能性が高くなります。

また、市町村教育委員会に対して「幼稚園、認定こども園、保育所等の関係機関との連携を図りつつ(中略)保護者からの相談に適切に対応いただくようお願いする」旨の要請もなされました。幼稚園や保育園への入園時から就学猶予を前提とした成長プランを立てることができれば、6歳になる直前で就学猶予を考え始めるよりも選択の幅が広がります。

内政は弱い者の立場に立つ

低体重児を取り巻く課題は就学猶予にとどまりません。低体重児のための母子手帳「リトルベビーハンドブック」は、全47都道府県で整備の目途が立ちましたが、今後の医療研究成果や価値観の変化に応じて改訂が必要になります。その費用は国庫補助の対象となることも事務連絡に記載されました。

また低体重児の中には、発達障害や医療的ケアが必要な子供も存在します。「内政は弱い者の立場に立つ」という政治理念を旨にこうした課題に引き続いて取り組んでいきたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?