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漢字に内包される情景の奥行というか、ダイナミクスというか。

書き言葉について。


文字を書くとき、言葉は出来る限り漢字で書くようにしている。

日常生活に於いては常用漢字以外はひらがな表記(ここはひらがなの方が意味が通じやすいと判断したためひらがなのまま)が推奨されている。
特に新聞においては新聞常用漢字表によって使用できる漢字が決められており、其処に含まれない漢字はルビを振る、またはひらがなに直すという処置が必要となる。しかし括弧書きで読み仮名を振るのは文字数が嵩む為、掲載面積が限られた新聞という媒体においては不利に働くことが多いためか、ひらがなに直すという処置が多くみられる。これによって問題になってくるのがいわゆる『混ぜ書き』と呼ばれる現象である。熟語に当用外漢字が含まれる場合に、其処のみをひらがなで置き換えるものである。以下に例を示す。

障碍者 は 障がい者 に

隠蔽 は 隠ぺい に

斡旋 は あっ旋 に

なるほど、これならば義務教育を修了した日本人ならば誰でも読むことができるだろう。しかし、このひらがなへの置き換えによって言葉としての意味が不明瞭になってしまう。
そもそも、『あっ旋』の様な漢語読みの熟語では、漢字の意味のみが重要なのであって、単なる音としての読み方には何も意味はないのである。
『あっ』は最早単なる音に成り下がり、元来漢字であった頃の意味は失われる。(斡旋の場合には斡も旋もともに『まわす』という意味なので片方の意味が消失したところで重大な欠陥はないのだが)

主題と少しずれてしまった。今回の本題は『混ぜ書き』の問題点を論じることではない。

言葉を『読む』場合、ひらがな表記と漢字表記では伝わってくる情報量が違ってくるというのが今回の主張である。正確には情報量よりもっと高次の、インスピレーションというか、文字を見ただけで時空間的ダイナミクスであったり、色彩であったり、躍動に満ちた生きた情景を熟語というものは含んでいるように感じる。

小説の挿絵にも近いかもしれない。
一枚挿絵があるだけで、その場の明確な情景が浮かび上がってくる。
漢字は一文字単位で同様の景色の広がりが起こる。
ルーツを辿れば元々は象形文字であったことも関係しているかもしれない。

要は漢字というものは、単純な音としての言葉に漢字が本来持つ意味を添えて表現に奥行きを与える機能を持っていると考えている。


私が文章を書くとき、特にTwitterの様な短文で文章を纏めなければならない場合、漢字を使うことでぐっと雰囲気が出る場合がある。

例えば、

今日は一日中、上司のきまぐれにふり回されておかしくなりそうだった。

これを極力漢字を使ってあげると、

今日は一日中、上司の気紛れに振り回されておかしくなりそうだった。

きまぐれでも十分に日本語としての意味は通じるのだが、
気紛れと書くとより意味の広がりが出るだろう。

『気』という漢字が持つ、情動的、感情的という意味と、
『紛れ』という漢字が持つ、分別を失い勢い任せに何かをするという意味。

分別を失いその場限りの行き当たりばったり的な上司の提案に翻弄される情景がより克明に表現できていると思う。


出来れば『おかしい』にも漢字を振ってやりたいが、
『おかしい』の一般的な漢字表記は『可笑しい』である。

これは一種の当て字である。
上の文において「おかしい」は様子がおかしくなりそう、錯乱しそうという意味で使用した。しかし、『可笑しい』という当て字は「おかしい」が持つこの意味をサポートしていない。

よって本来ならば「おかしい」は「おかしい」のままにするしかないのだが、ここは『可笑しい』い倣って勝手に漢字を当ててみようと思う。

今日は一日中、上司の気紛れに振り回されて狂(おか)しくなりそうだった。

どうだろう。

『狂しく』だと普通は『くるおしく』と読めてしまうので、あまり褒められた当て字とは言えないかもしれないが、精神的に大分キている情景がより浮かびはしないか。(『くるおしく』の正しい送り仮名は『狂おしく』なのだが、省略して『狂しく』と書かれることも多いらしい)

言葉の音というのは勿論大事だが、書き言葉では字面も同程度に重要なのだ。当て字は基本独り善がりなので、読みやすさの面でも多様するべきではないが、それでも言葉に込めた情景を格段に増強できる。

これが表意文字である漢字の凄みではないかと思う。
これを今回の結論として話を閉めようと思う。






が、最後に一つだけ。

これは自分で考えたものではないのだが、
何処で見つけたかは全く忘れてしまったが、

ものすごく納得した当て字を紹介して終わろうと思う。


幸福(ラリ)る



辛い現実から完全に目を背けて、
薬が作る快楽の世界に溺れる人間の様を克明に描写する。




終わり。

(1665文字)

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