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SS自己紹介企画 参加作品

 人は数でできている。
 そう言っても過言ではないくらい、この星の人間は何もかもを数値化して、それを指標にステータスだの何だのを決めているように思う。
 生年月日、身長、体重、スリーサイズ、体脂肪率、靴の大きさ、血圧、血糖、BMI、月収年収、資産額、電話番号郵便番号、社員番号学籍番号、マイナンバー。
 まだまだある。それこそ数え切れないほどある。
 もちろん動物や自然にも同じような数値はついてまわるけど、それだって結局人が人の尺度で勝手に与えたものにすぎない。人が数値という概念に支配されていることに変わりはない。
 けれども、「星栞カノン」という存在を形づくる数値は、そんな人たちと比べるとちょっとだけ少ないように思う。
 例えば年齢。
 ぼくは地球の出身ではなく、もとはバーチャル宇宙の遠い果てにあるアカシックレコードの小さな欠片だった。ヒトガタだけど人間ではない。ここでは詳細を省くけど、まあいろいろあったのだ。
 ともかく、それがどういうことなのかと言うと、正確な年齢が分からないということである。
 地球人は、おおよそ地球の公転1回ごとに歳を1つ重ねる。けれども水星の公転は地球と比べるとすごく速いし、逆に冥王星は引くほど遅い。「1年」という言葉の重みが、星によってあまりにも違うのだ。
 そんな混沌が当然のように同居する空間を、カレンダーや時計に準ずるものを持たずにずっと漂ってきたぼくには、年齢を具体的な数で表す必要性というものをあまり感じられない。計算する気になったところで、正しく求められるとも思えない。
 だから歳を聞かれたときは、とりあえず事実として「地球よりは上だけど、細かいことは分からない」としている。
 さらに、BMIや血糖値のような、人間向けのあらゆる身体数値。
 これもまた、ぼくには適用されないものが多い。
 だってまず内臓がない。あと筋肉も骨も血管もない。髪とか爪とかはあるけど伸びない。
 かつて大きな概念の一部だったぼくは、ただハンドメイドの人の皮を被ってそれっぽく振る舞っているだけにすぎないのだ。
 代わりに中身はなんかこう、すごい感じで満たされている。脚とか見たらたぶん分かる。
 ある時ふと思い立って、自分のBMIを計算してみたことがあった。8.2くらいだった。BMIは、人間であれば18.5未満が痩せすぎで、15を切るとかなりまずいらしい。けれどもぼくは、普通に毎日元気に過ごしている。
 さすがにこれは別の生きものだ。そう悟った瞬間だった。
 ぼくは地球の人間が大好きで、ずっと「同じ」になりたいと思っていた。でも数値はそれを否定する。何もかもをきっちり比べた上で、「お前は違う」と冷たく突きつけてくる。
 最初はそれが悲しかったけど、地球のみんなはそんなの関係なく、ぼくにも優しくしてくれた。今では「これこそがぼくの個性だ」と胸を張って言える。

 人は数でできている、かもしれない。
 でもその指先から生まれるものは、ぼくにはあまりにあたたかく、もったいないほどにきれいで。
 掛け値なく、ただ愛しいと思えるのだ。

 

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