デビュー酒はほろ苦い

大学2年生の夏休み。
夏生まれの私のために友人が誕生パーティーを開いてくれた。
大学に近い場所に住んでいた私は、自宅でのパーティを提案した。
安く上がるならと大学生だった私たちは自宅でパーティーを開くことにした。

友人の中で一番生まれ月が遅かった私にとって、大学2年生の誕生日は大きな意味を持っていた。
そう。私はこの歳の誕生日からお酒が飲めるようになるのだ。
今思えば何がそんなにワクワクしていたのかわからない。
でも、この時期の私はお酒が飲めるということがとても楽しみで仕方がなかった。
私たちのグループは、4月、6月、7月、8月と続々と居酒屋でお酒が飲めるになる。
でも私は飲めない。
周りがどんどんお酒を飲んでいく誘惑に打ち勝つ努力。
そんな日々ともおさらばである。

ケーキと焼肉の準備をみんなでしながら、一人の友人がボソッと言った。

「ビールがデビュー酒なんだぁ…」

準備をしながらみんなそれぞれに思い出していた。

あれは、一番初めに20歳になった友人の誕生会の時だった。
その時も私の家でパーティーをしたのだ。
「お酒!私お酒買えるから!!買ってきていい!?」
「お酒!!すごい!大人!!私お酒買うとこ見たい!!」
「学生証かな!?学生証持っていけば大丈夫かな!?」
「すごい!!学生証でお酒が買える!!」
バカ真面目に10代でお酒を買ったことがなかった私たちは、学生証を見せないとお酒は買えないと思っていた。
純粋だった。
結局学生証は見せなくてもお酒は買えたのだけど、仲間の一人が大人になったという感じがしてとても誇らしかった。
その日彼女はチューハイを一本買ってまずいといいながら飲んでいた。
なんだか羨ましいと思った。

そして、二人目の20歳になった友人の時だった。
「日本酒!!鬼ごろし!!私鬼ごろし飲んでみたい!」
「うわー!めっちゃ強そう!吐かないでね!!!」
初めてのお酒に鬼ごろしを飲み、私の家のトイレで吐き散らかした友人。
でもなんか大人の階段登ったみたいでとても羨ましかった。

3人目の友人は、もう見るからに酒豪だった。
そのころには友人間ので飲めないのは半分半分の比率になっていたし、みんなももう飲み慣れた様子であった。
3人目の友人の初めてのお酒はワインだった。
みんなでワインを飲んでいた。
もちろん私はブドウジュースを飲んでいた。

そして、とうとう待ちに待った私の出番が来た。
私は兼ねてからデビュー酒はビールと決めていた。
みんなのデビュー酒を見ていたから被らないものを選んだ。
本当は甘いお酒を飲みたかったんだけど、このころの私はウイスキーやリキュールというものはお店でしか飲めないのだと思っていた。
だからスーパーで買えるビールをセレクトしていた。


そんなこともあっての友人の発言。
きっとみんなは知っていたのだ。
ビールの味を。

「ビール一応買ってきたけど」
「本当にビールでいいの?」
「なんで?」
「まぁ。いいならいいけど…」
「一応、ジュースもあるから…」
「とりあえず、飲んでみてダメだったらジュースにしよ?ね?」

みんな笑いながらそんなことを言っていた。
私は子供扱いされてるみたいでイラっとしたのを覚えている。
確かに私は甘党で、喫茶店で出されるコーヒーには、ガムシロップと砂糖とミルクを所望する人間だ。
確かに味覚は子供っぽい。
だからそれでからかわれているのだと思った。
若干機嫌が悪くなりながらも私は、誕生会を始めた。

ムービーを取られながらロウソクの火を消したり、映画のDVDを観ながら焼肉をしたり。
そんなことをしてたくさん写真を撮った。
そして、いよいよ、お酒デビューの瞬間がきた。

「じゃあ、デビュー酒の瞬間録画するね!」
「うん!」
「本当、無理だったら飲まなくていいからね」
「まかせて、今日からもう大人だから!」

そういって、勢いよくお酒を口にした。
瞬間の弾ける苦味。
子供の味覚を抉っていくような苦味。
口いっぱいに入れてしまったがために、舌についている味覚センサーが全て反応する。
これはまずい。
いや、味もまずいけどいや、普通にまずい、これは吐く。
しかし、そこは意地で胃袋に納めた。
胃袋に入れた瞬間に全身の体温が急上昇した。
カッと熱くなった。
頭がホワホワしてくる。
お酒に慣れていない20歳の体は、簡単に酔っ払った。

あの時のことを思い出すとどうして一発目に明らかに向いてないビールを飲んだの?
と思ってしまう。
けど、あの苦味や熱さは10代のお酒の誘惑に勝ったからこそ味わったものだと思う。
それに、考えてみれば私は夏になると毎年ビールを飲むようになった。
だからじゃないけど、今ならあの時の私にお勧めできる飲みやすいビールがある。
そんなにビールがいいなら飲み安いビールをチョイスしてあげれるよ。
でも、あの苦味は一生忘れたくない。
お酒の苦味と熱を初めて味わった20歳の私に乾杯。

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