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『物語』花好きカラス

桜が満開の暖かい季節
たくさんの人達がお花見をしていました。
片手に飲み物を持ち、とても楽しそうに笑い合っていました。

そんなお花見を見ている者がいました。
カラス達です。
どうやらお花見のお弁当やお菓子などを狙っているようです。
いつ獲物を取るか機会をうかがっていました。

それぞれカラス達が獲物を狙いに動き出しましたが
一匹だけ桜の木に停まり花を見ていたカラスがいました。
そのカラスは
「またこの花を見れた、なんて綺麗なんだろう。」
と思っていました。
カラスのフウはこの時期に見れる桜が好きでした。

空から観る桜
枝から観る桜

どちらも綺麗でとても好きでした。
そんなフウは変わり者として見られていました。
他のカラス達にとって花は、腹の足しにもならないからです。
花を見てお腹が膨れるわけじゃない。
そんなものを見ている暇があるなら毛繕いした方がいいと思うカラス達がほとんどで、桜の花に興味があるのはフウ一匹だけでした。

フウは気にせず人と同じように桜を観ていました。
「こんなに綺麗なのに勿体無いな」
と桜を観ないカラス達を可哀想な奴らだと思っていました。
少し遠くから桜を観ようと枝から人が作ったコンクリートの塀に降り立ちました。

ここからの桜もいいなと思っているとカサと音がしました。
音の方を見るといつの間にか一匹のオスのカラスが隣に来ていました。
クチバシに加えていた物を置いたようです。
「獲物を取り過ぎたからやる」
と言いました。
フウは驚きましたが、桜を観てばかりで何も食べておらず
お腹が空いていたのでお礼を言い獲物をいただきました。

そんなフウを見てオスのカラスは言いました。
「なんで花を見てるんだ?」
と聞きました。
フウは
「綺麗だから観ていた」と
食べながら桜を観ながら言いました。
「君も花には興味ない?」
と聞き返しました。
「興味はないが、なんでか気になっただけだ、好きに見ていたらいいだろう」
と、フウにとって予想と違う言葉が返ってきました。
その言葉にフウは嬉しくなって
「そうだね、ありがとう」
と言いました。
オスのカラスは
「?ああ」と
返事を返しました。

それからオスのカラスのクロは何故花に興味がいくのか
気になったようでフウの元に度々遊びに来ていました。
フウはそんなカラスは今まで居なかったので
喜んで花の良さを知ってもらおうとクロを色々な場所へ連れて行きました。

しかし
クロは十回以上連れられても花の良さはまだわかりませんでした。
ある日のこと
「今日はとびきりの場所だよ!」
といつものようにクロを連れて飛び立ちました。

キラキラ光る水面の上を飛び
獲物が多そうな林を通り過ぎ
花が地面いっぱいに咲いている場所にやってきました。

「お花、綺麗でしょ!!」
と青いネモフィラの花びらが見える場所に降りて言いました。
「綺麗かどうかはわからないが、すごいと思う」
とクロはぶっきらぼうに返しました。
フウはそれだけで満足そうにしました。

綺麗と伝わらなくても、すごいと思ってくれた。
クロはいつか綺麗と言うのかな?

雨が続いた時に見た花でも
飛ぶのが嫌になる日差しの時期に咲いていた花でも
獲物がなかなか取れない時に観た一輪でも

綺麗とは言わなかった
いつか綺麗と言わせてみたいけど
それはいつかでいいや
聞く日が来たらいいな
と思っていました。

フウは知りません。

フウが雨に濡れた紫陽花を近くで見ている時
暑い日差しの中飛んでゆき見つけたひまわり畑に
フウが嬉しくなり上下に飛び回っている時
久しぶりに会った時一輪のスイセンの近くでフウが羽を休めていた時
桜の花びらの中フウが首を上げて落ちてゆく花びらを目で追っていた時

クロは綺麗だなと思っていることに。

フウが知るのは季節を巡り
たくさんの花を二匹で観に回ってからのことになりそうです。

おしまい


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