しまったか、消えたか、のどちらか。
久々に実家で過ごしていると、物の場所がわからない。
朝、目玉焼きをたべるのに箸がほしかった。キッチンにあるぜんぶの収納を開けて見たがなかった。しかたなく、フォークで食べた。
自分の家には【あって当然のもの】もない。
ボールペンや鉛筆、付箋、ウェットティッシュ、ハンドクリーム。
以前実家にもあったそれらも、いつのまに、まったくない。
(実家に帰って、どこに何があるか分からなくなったら、本当に自立したということなのかもしれないなぁ)
綿棒を探しながら思った。
耳の中が痒かった。
すると、洗面所の引き戸から、綿棒ではなく箸立てが出てきた。
「なぁんだあるじゃないか」
ぼくは箸立てから一本箸をとって、耳の中をかいた。
(いつか、あたりまえに実家にいるはずの母や父がいなくなる時がきたら、念の為全部の棚を開けて探してやろう)
耳の奥を箸でほじくりながらと考える。
冷蔵庫の横の細い棚、トイレの上の棚、床下収納、電話台の下の開き、ここはないだろうというところに、意外といるかもしれない。
ぼくは、そんなこと考えながら、すべての引き出しが開け放たれた実家を頭の中に映してみた。
どこかの引き出しに、ぼく自身も吸い込まれてしまう気がして、いそいでそのイメージを脳内の適当なスペースに放り込むことにした。きっとそのイメージを再び手に取ることはない。
もしサポートいただけたら、こどものおむつ代にさせていただきます。はやくトイレトレーニングもさせなきゃなのですが...