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番組演出論 《 人はパッケージ感のファンになるんです 》

 タイトル画像に使っている「おもてなし庵」にあまり多くの意味はありません。ただ、「ちゃんとデザインされている」と感じます。
 日本語と英語のバランス、文字の細い太いの使い分け、長いスラッシュの入れ方、発売日のところだけ枠入れするなど、ビジュアルへの気遣い、丁寧な仕事ぶりがわかって、参考にしようとスクショを撮っておきました。
 私のPCには「アートワーク」というフォルダを作っており、この手のものを色々と保存しています。
 そこから幾つかのものを見て行きましょう。

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 好きなもの、面白そうだと感じたものはありましたか?

 どの「画面」にも、文字を含む相当な情報量があり、それを巧みにデザインしていることがわかります。番組制作には、グラフィックデザイン的なセンスが必要不可欠なんですね。

 企業秘密的な話ですが、実は、一瞬では処理しきれないほどの情報過多な画面の方が人は魅力を感じるんです。情報量の少ないスカスカな画面を好むのは、処理が追いつかない子どもだけ。Eテレの幼児向け番組や、アンパンマンの画面は相当単純にできています。

 最後のお相撲さんの画面ですが、これはABEMA TVからスクショしました。これを見た時、私は「革命だ」と感じたのです。これまでNHKスタイルの大相撲しか見たことが無かったので、「相撲=NHKのアレ」と先入観がありました。しかし、こんな風にデザインされると、私のような人間でも「ちょっと見てみようかな」という気持ちになるんです。

 同じ素材でも、デザインで人の印象は変わってしまう。

 最近、我々テレビマンは、iPhoneで撮影した映像をフツーにテレビ番組でも使っています。本当に誰でも撮れる時代になりました。
 だからこそ、必要なのはデザインだったりするのです。

 私は以前、テレビ東京の「WBS」という経済ニュース番組で、9分ほどの特集コーナーのVTRを作ったことがあります。番組は好評だったのか、そのVTRは再利用され、合計4パターンの番組となって放送されました。
 
 ①「WBS」で放送
 ②数日後に朝のニュース番組で放送
 ③数日後に夕方のニュース番組で放送
 ④1ヶ月後に海外向け番組で放送

 ①は、番組のレギュラー、佐竹海莉さんのナレーションで放送しました。
 ②③④は、映像の白完(テロップ等を入れる前の完パケを放送業界では「白」とか「白完」と言います)に、それぞれの番組のデザインフォーマットでテロップが入れ直され、違うBGMとSEが乗り、違うナレーターさんが若干変えたナレーションを読み、放送されました。
 ちなみに私が携わったのは①のみで、②③④は、それぞれの番組のディレクターが仕上げ直しています。
 これが不思議な体験でした。
 
 中身は同じはずなのに、印象が変わるのです。
 VTRそのものは、タカラトミーアーツの「そうめんスライダー」という商品を紹介する内容でした。
 キャプチャのこの画面は、アマゾンの方が私のインタビューに答え、「売れています」と言っている所です。

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 ↑これが本来の「WBS」の画面です。

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 ↑こちらは海外向けに放送されたもので、インタビューの音声も全部英訳された英語がかぶさっています。

 ただ、画面として「強い」のはWBSの方だとお分かり頂けるかと思います。左上に番組ロゴ、右上にサイドスーパーが載っていて、ザッピング対策もバッチリですし、全体的にWBSブランドとしてのデザインの安心感も感じられます。

 一方で、映像自体はデザインを変えてしまえば、いかようにも印象を変えられる。

 遊びですが、こんなことをしてみました。

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 アマゾンの方が売れ筋商品を説明していて、それをスタジオの豪華出演者が見て、リアクションを取っている。こんな風に、素材を「盛っていく」のも全然アリなわけです。

 私の撮ったアマゾンの方のインタビュー映像も、加工の仕方次第でいくらでもスタイルを変えられる。変わってしまうのです。

 ある芸人さんが「イッテQの初めてのロケで、どんな凄いディレクターが来るのかな?と緊張していたら、最後まで別に普通だった。ただ、オンエア見たら、VTRが面白く仕上がっていた」という話をしていて、納得感がありました。

 以前「イッテQ」で、ウッチャンがイモトと屋久島を歩く企画を見ていて、私も思いました。映像素材は疲れてただ黙々と歩いているウッチャンなんですが、加工の仕方が面白い。
 「内村、またもノーリアクション!」と大きな文字と大袈裟なナレーションが入るので、笑ってしまうのです。
 素材そのものにコレと言って事件が起きてなくても、大きなテロップと立木文彦さんのツッコミが入ると、面白くなってしまうのが「イッテQ」を生み出した日テレ古立氏が確立した編集工学なのです。

 例えば、ウッチャンがただ黙々と歩く同じ映像に、窪田等さんがナレーションをしたらどうでしょう。
 「内村の人生もまた、屋久杉のようなところがある。芸能界に刻んできた年輪は計り知れない。」
 途端にそれは「情熱大陸」へと早変わりします。
 これがパッケージ感というやつです。

 人はテレビでもYouTubeでも、パッケージ感のファンになるんです。

 パッケージ感とは、「出演者」「決まりのタイトル」「ナレーター」「テロップデザイン」「テーマ曲」といった、その番組の世界観を決定付けている要素のことで、そこに信頼があるから視聴が習慣化します。

 視聴が習慣化すると、具体的な企画や取り上げる題材、いわゆる「ネタ」は何でも良くなります。その世界観が守られていればOK。どんなにマイナーな題材を扱っても安心して見ていられるようになるんです。

 しかしテレビ番組では、諸事情により、パッケージ感のリニューアルをせざるを得ないことが多々あります。
 タイトルCGが変わったり。
 ナレーターが変わったり。
 主要な出演者が変わったり。
 すると当然ですが、パッケージ感のファンであった一定数の視聴者は離れてしまいます。

 一方で、パッケージ感が定着していない番組は、企画や題材で「刺激物」を投入し続けます。数字の見込めそうなよくあるネタを、煽り文句いっぱいに喧伝していたら、それは「固定ファンの少なさ」の表れ。

 だから、「これは誰が見るんだろう?」って思うような趣味性が強い企画や、マニアックに思える題材が扱われていたら、その番組は固定ファンの多い番組だと言えます。

 作り手としては、定着するまでの「まずはいろんな球を投げてみよう!」って黎明期が一番面白いかもしれません。
 玉石混合。120点もあれば、60点もある時期。パッケージ感が固まってくると、平均的に75点〜85点みたいになってきて、作り手もルーティーンワーク化するので退屈になったりします。
 固定ファンが定着すると、一定期間はネタはどうあれ数字が高値安定します。ただ、そこであぐらをかいて失敗した例も多くあります。

 新しいネタを開発していかないと飽きられるのも早いので、そこが難しい。制作者は結局、もがき続けるのだと思います。

 こちらは放送作家の高須さんがめちゃイケの片岡飛鳥さんと番組のパッケージについて語っているWEB対談で、膝を打ちまくる話でした。

 ぼくは制作会社に所属する隅っこの業界人に過ぎないのですが、こんな話題が大好物なのです。


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