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番組演出論 《 いかに視聴習慣のないコンテンツにまで触手を伸ばさせるか 》

これは番組制作者の端くれにすぎない私がここ数年考え続けているテーマです。

なにしろ今、おもしろいコンテンツが多過ぎます。

日々新しいものが生み出され、過去の名作も見やすくなり、視聴者としての私自身も全然追いきれていません。

そういう状況の中で、自分にはそれなりに面白いものをつくっている自負もあるのですが、それをより多くの人に届けるためには単に面白いものを作っているだけではダメなんだ!と思うに至りました。

大事なのは「自分の作るコンテンツから、事件のにおいが漂っているかどうか」だと思うようになったのです。

① いかに飽和するコンテンツの中から突き抜けるか。



「番組」は工業製品と言っても良いと思います。何重にもわたるチェックの上で納品され、納品済みのものも検査されてから放送に至ります。だからどの番組も事故がないようちゃんと出来ています。時には例外もありますが。

見る人によって「好き・嫌い」は当然分かれるでしょう。「面白い・面白くない」も人それぞれです。しかし逆に、今放送中の番組から「何をやっているか意味不明」「グダグダで退屈」「つまらな過ぎる」ってものを探すのは意外と難しいと思います。

現在のテレビと、私が業界に入った20年前のテレビを比較すると、製作費が削減されスケール感のある画が減った一方で、撮影や編集、構成演出における工学が進化した結果、20年前のテレビより今の方が平均的なクオリティは高くなったと感じています。20年前の方が大きくスベっていて目も当てられない番組がありました。

私はサウナが趣味で、近所のスーパー銭湯に良く行くのですが、サウナに入ると問答無用で普段見ないテレビ番組を見させられます。そこでいつも「初めて見る番組だけど、しっかり作ってあるなぁ〜」と感心しています。

つまり、現在のテレビは飽きずに見られてどれもそれなりに面白いのです。どんな番組だってある程度よく出来ているんです。それが大前提。

問題はここからです。

人は「ある程度良く出来てるもの」を能動的に見に行こうとはしないのです。だって、世の中にはそれを上回る「超おもしろいもの」が溢れているんですから。さらには、おもしろいかどうかはともかく、人それぞれ慣れ親しんだ「いつものやつ」があるのですから。


②いかに視聴習慣のないコンテンツにまで触手を伸ばさせるか。



人はなかなか習慣にないものを取り入れようとはしません。働いている人は暇じゃないし、暇人には暇人のルーティーンがあって、そこには入り込む隙がないものです。

だから私がどれだけ面白い番組を作っても、面白い番組を作ったから見てねー!と告知しても、なかなか見てもらえないのが現実です。

特に私が関わる番組は、ふつうにダラダラ見てもらえればと思っているのですが、見る前に敷居の高さを感じさせるのか、友人知人は皆録画はしてくれるものの再生を押すハードルが高いようでHDDの肥やしにされることがよくあります。

ナニ、それは私自身にも言えること。

有意義だろうから時間がある時にちゃんと見よう!と録画したままのNHKのドキュメンタリー番組が溜まる一方で、特別見たいわけでもない「アメトーーク」や、鬼越トマホークのYouTubeをなんとなく見ている事が良くあります。でも、現代人の暮らしってそういうものですよね。

ですから、「再生ボタンを押すハードルの低さ」も必要ですし、そもそも評判になるような「超おもしろいもの」を作る努力は続けていくべきではあるのですが、それはそれとして、別のベクトルで頑張らなければいけないことがあると分かってきました。

それが冒頭でも申し上げました、こちらです。


③いかに事件のにおいを漂わせるか。



「よく分からないけど凄そう」ってにおいがするから、視聴習慣がなくても「見てみようかな」と思うのです。

だから、制作者は「事件」を起こす必要があると考えています。もちろん、ここで言う「事件」とは、刑事的な意味ではありません。

「いつもと違うこと」を実際にやり、放送前から「いつもと違うぞ」とにおい立つ雰囲気を番宣で漂わせ、放送後も「すごかった!」と書き込まれるようなものを作らなければ。そう思うようになりました。

例えばそれは「神回」と呼ばれ、それをきっかけに見るようになり、視聴習慣に入れてもらえるかもしれません。いつもと同じようなものが繰り返されていても、人は見に来てくれないのです。「入口」になるような回が必要だということです。

日テレ「笑点」では新メンバーをお披露目する回が毎回高視聴率をとります。視聴習慣のない人でも「来週の笑点は新メンバー発表!」と知れば、「新メンバーは誰かな?」とわざわざ見にきますよね。

つまり、勝負は本編放送前に既に決まっています。

「なにやら事件の予感がする」と思わせることが一番大事なのです。せっかく面白いものを一生懸命作っても、見てもらえなければ意味がないのですから。


④事件のにおいがした番組、最近の例。


テレビ朝日の深夜バラバラ大作戦枠「ランジャタイのがんばれ地上波!」という番組がありました。見たり見なかったりだったのですが、最終回は放送前から事件のにおいしかなく、大変楽しみにしていました。

なんと番組の公式ツイッターアカウントが、「ランジャタイのがんばれ地上波!」から「終王ノブ」に変わっていたのです。TVerを見てもそう。何か、いつもと違う。これにゾクゾクしました。

(これ、最高でした。アートでした。)


放送されたものは見事に国崎さんのワールドで、大変面白いものでした。

同じスタッフが作っている「ブチギレ-1グランプリ」もめちゃくちゃ面白かったので、演出の秋山直さんの今後の仕事には注目していきたいと思っています。

⑤いかに自作に反映するか。


さて、理論と実践。

私も番組制作者の端くれです。ここまで考えてきたことを実践しなければなりません。

現在発売中の月刊テレビ誌には既に出ておりますが、今度こんな番組を準備しています。

2024年7月13日(土)22:00〜テレビ東京にて。

村上隆さん×秋山竜次さん
爆笑初コラボです。

さて、どこまで世間に広がるでしょうか。

これから2週間、いろいろと番宣を展開いたします。

番組本編とあわせて、「放送前の広がり」にご注目頂けましたら幸いです。

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