何度も何度も録画を見た「嶋佐オアシス」
もう去年の話なんだ。
2022年6月30日放送らしい。
朝のTBS「ラヴィット!」で、ニューヨーク嶋佐さんが生バンドを従え、自らもギターを掻き鳴らし、Oasisの『Don’t Look Back in Anger』を歌い上げた。
経緯は詳しく知らなかったが、共演者の横田真悠さんの誕生日を祝う企画の一環だったという。
横田さんは、その生ライブに感動して涙していた。
テレビの前のぼくも、なぜかめちゃくちゃ感動していた。
ぼくはOasisを全然知らないのにだ。
ぜーんぜん、知らないのに。
どうして感動したのだろう?
いろいろな条件が重なっていたのだと思う。
ニューヨークのことは「ゴッドタン」の腐り芸人の初回に出てきたあたりからちゃんと認識し始め、屋敷さんが版画の才能を見せた辺りからゆるやかに追いかけるようになり、YouTube映画『ザ・エレクトリカルパレーズ』の前後くらいで完全にファンになっていた。
腐り芸人と言われていたニューヨークだったが、テレビ露出は徐々に増えていき、「第7世代」を巡って霜降り明星との最高に面白い絡みを各所で見せ、M-1やKOCの決勝で大きなインパクトを残し、どんどん売れて行った。
大物芸人とは勿論、長澤まさみや浜崎あゆみといった人達たちとも共演を重ねていくのがファンのひとりとして嬉しい。
YouTubeも面白い。
ただ、「最悪や!」の屋敷さんが、やはりニューヨークのフロントマンとしてどうしても目立つ。
コントや漫才など、本業の「ネタ」ではむしろ、嶋佐さんの方がコメディアンとして縦横無尽に様々なキャラクターを演じ、無双しているのだが。
しかし、嶋佐さんの面白さは屋敷さんほどお茶の間に届いていなかったと思う。
ここ何年かの話ではあるけれど、ずっとその成長を見守ってきた“ぼくの”ニューヨーク。
その嶋佐さんが…!
生放送で! 生バンドを従えて! アーティスト然とした佇まいで! 堂々歌っているのだ。どういういきさつでこうなったのかは知らない。知らないけれど、
なんてかっこいいんだ!!!!
そして、うら若き共演者の女性が泣いている。
罪な男だ、嶋佐。
ぼくのニューヨーク、ぼくの嶋佐が、突き抜けた瞬間だった。
突き抜けた瞬間を見たのだ。
そして、さらなる栄光が待っていた。
2022年12月28日。
「ゴールデンラヴィット!」にて、嶋佐オアシスは今年の名場面として第3位に選ばれ、再び生放送の生演奏で我々の前に現れた。
しかも、何人ものストリングスを従えて…!
オーケストラやん。
曲は『Whatever』。
オアシスを全然知らなかったぼくでも、流石に耳にしたことのある超名曲。
それを、堂々と、朗々と、歌い上げている。
ぼくの嶋佐さんが。
オアシスへのリスペクトをたっぷり捧げているのは、もはやオアシスを知らなくてもわかるレベルだ。
感動した。超感動した。で、
何度も何度も録画を見た。
言語化できないエモさがある。
少年時代からロックが大好きだったお笑い芸人が、少しずつ売れて世間に浸透していく中で、こんな景色を作る日がある。こんな景色をファンに見せてくれる日がある。
追いかけてきて良かった。
そんな気持ちになるのだ。
歌の上手さとか、そういう事じゃない。
この曲は、あんなふうにぶっきらぼうな歌い方が似合う。
あれから何度、嶋佐Oasisの『Don’t Look Back in Anger』と『Whatever』を聴いたことだろう。
何度も何度も繰り返し見ては最初に味わった高揚感を脳内で再現した。
そして、そもそも何を歌っているのかをググったりして、歌詞まで沁みるようになってきた。
俺は自由だし、お前も自由だ。何にでもなれるんだぜ!
『Whatever』の歌詞は実にグッとくる。
冒頭、「I,m free〜」を声高らかに歌い始める。
「俺は何にでもなれるし、お前も何にでもなれる。」と歌い上げる。
沁みる歌詞だ。
お前さ、何か面倒くさいものに縛られてねーか?
「自由にやれよ」と謳う。
なんだか泣けてくる。
空気を読み、顔色を伺いながら生きている現代人に、これはストレートに響いてくる歌詞だ。
聴き過ぎた結果、どうなったか?
テレビ東京で放送中の
「新美の巨人たち」という美術番組がある。
ぼくはディレクターとしてこの番組を時々担当している。
演出の自由度が高く、「他のディレクターより面白い番組を作らねば!」と気合いの入る番組である。
2023年10月14日(土)放送は、ぼくの構成・演出。担当回だ。
(BSテレ東では、10月28日の夜11時30分から放送がある。)
当然ながら、今年一番最高の回にしようと思って作っている。
テーマは江戸時代の奇想の絵師、長沢芦雪(ながさわ・ろせつ)である。※難しい字で「蘆雪」と書く場合もある。
それが嶋佐オアシスと何の関係があるんだよ!とお思いだろうが、ここまでお読みいただいた方に是非ご覧いただきたいのだ。
そして、ちょっとニヤッとしてもらえれば嬉しい。
長沢芦雪はニューヨークであり、嶋佐和也なのだ。
(ニューヨークchの奥田泰監督作が大好きで、ちょろちょろ駄文を綴っております)
2023.10.24 追記
夏休み中で航空券代がめちゃくちゃ高かった、8月末。
南紀白浜空港から無量寺のある串本へと向かう車中での構成会議。
作家の伊藤正宏さんと、長沢芦雪のテーマ曲について。
伊藤さんが、ビーチボーイズの「サーフィンUSA」やデヴィッド・リー・ロスの「CALIFORNIA GIRLS」を提案してくれた。南国感があっていいなとは思う。
しかし、無量寺で《龍虎図》を目の当たりにしたら、もっと芦雪の心情を歌ったような曲が欲しくなった。
そこで思い出したのが嶋佐オアシスだ。
彼が歌った「Whatever」が素晴らしかった。
冒頭はこんな歌詞。「俺は何にでもなれる。その気になったらブルースだって歌うぜ」
それがまさに、師匠の元を離れて自由になった芦雪の心情と重なった。重なると思った。
応挙や若冲や蕭白とは違う、新たな画風を求めていた若き芦雪。
芸人ニューヨークもまた、数多の先輩芸人がいる中に入っていき、自分たちの道を切り拓かねばならない存在だった。
関係ないけれど、ここも重なる。
そんな思いを込めつつ、Oasis「Whatever」を長沢芦雪のテーマ曲として使わせてもらった。
ナレーションを入れず、冒頭の歌詞を聞かせる編集をした。
是非、ご覧いただきたい。
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