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初めてのラーメン屋~22~

ラーメン屋でラーメンを注文をする。程なくして熱々のラーメンが出てくる。豪快に麺を啜るひと。レンゲで掬ってスープから始めるひと。色々な食べ方があり、畏まった礼儀作法はないけれど、妻と初めて行ったラーメン屋で私は驚かされたことがある。

私の実家、そして妻が通っていた大学は、大学から専門学校までが乱立する学生街の裏に位置し、大通りにでるとそこはラーメン激戦区であった。地方で成功をおさめて満を持して新しいラーメン屋が出店する。大通りに面した好立地。しかし熾烈なラーメン戦争に勝ち残れる店舗は本当に少なくて、出店から閉店の短さを観察しては、社会の縮図をみるような気持ちになった。そして生き残った名店は平日にもかかわらず長蛇の列ができている。

初めて妻を連れて行ったラーメン屋は九州とんこつラーメン屋のチェーン店で、特に理由もなく「ラーメンたべよっか」と私から切り出して入店した。まだお付き合いして間もない頃。この地域に根差していながらラーメン屋を経験しないのは勿体ないと説くと「一緒に行ってくれるひとがいなかった」と照れくさそうに妻は笑った。テーブル席に通されて、周辺の美味しいラーメン屋さんの話をしながら「一軒ずつ制覇していこうよ」なんて会話が弾んだ。

程なくしてラーメンが運ばれてきた。私は箸で具材をひっくり返して麺から啜るタイプで、「濃いめの硬め」とアレンジしてもらうことに慣れていた。自分なりの美学もあり、ラーメンは熱々の麺を啜り喉越しを味わう食べ物だと思っている。ラーメンと対峙する時間が短いほど、その店の本来のラーメンとスープの味を損なわずに食べられると考えていた。

替え玉を注文している間に「おいしいでしょ?」といって彼女に視線を向けると、なんと彼女は具材のモヤシを2~3本ずつスープに浸して食べていた。麺はまだ隠されている。おいおい。ちょっと待ってくれ。お嬢さん。「いつもそんな感じで食べるの?麺がのびちゃうよ?」と問うと「何だか恥ずかしくて」と口元を隠しながら話してくれた。この調子だと食べきるまでに季節は移ろい、麺は水分を含み本来の味わいは失われる。スープも冷めていく。これは死活問題だ。とはいえ、そんな些細なことに自論を持ちこむのも野暮なので、3倍くらい替え玉を楽しみながら彼女が食べ終わるのを待っていた。

妻は急いで食べると腹痛になりやすい女性だ。だからお付き合いから15年経ったいまも、食を急かす発言は控えるように心掛けている。子供が生まれると母親は立ち食いでパッと済ますようになるとも聞いていたけど、妻は、妻なりの最高速度でゆったりと食べる。「私にしては早く食べたでしょ」と問われることもあるけれど、それは私がゆっくりと味わって食べたと同義だから面白い。

だからいつからか妻の食事を眺めるのが好きになった。小動物がご飯を食べていると思えば愛しさすらこみあげてくる。長女は食が細く妻に似たようだ。しかし長男は0歳児にして妻よりもご飯を食べるようになったらしい。私の血を受け継いでるようで、妻も「どれくらいあげていいのかしら」と電話口で悩んでいた。

そのうち子供達が大きくなったら全員でラーメン屋に行くのは秘かな夢である。ゆっくりと食べる妻と娘。替え玉を注文する息子と私。早ければ2年後かな。でもその前に息子を保育園に預けて、妻とラーメンデートもしたいな。私も入院生活でだいぶ胃が小さくなったので妻のリズムにあわせて少しのびた麺でも啜ってみますかね。

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