【ライブレポート】2024/07/15 LACCO TOWER結成22周年&三部作『有無同然』完成記念公演 「独想演奏会 ~竜巻・綾・無有病~」@Zepp Shinjuku
7月の祝日恒例と言ってもいい、LACCO TOWERの周年記念ライブに行ってきた。例年、会場は恵比寿のリキッドルームであることが多いのだが、今回はZepp Shinjuku。Zepp系列のライブハウスでLACCO TOWERのライブを観るのは、2017年10月28日の『遥なる軌跡』ツアーファイナル@Zepp DiverCity TOKYO以来だ。
多種多様な人たちが集い、昼と夜でまた違う顔を見せる歌舞伎町に位置するZepp Shinjuku。そんな会場で行われるLACCO TOWERの周年ライブは、まさにカオスな街にふさわしく、みだらでありながらスタイリッシュという、混沌に満ちたステージとなった。
登場SEである「狂想序曲」と共に、重田雅俊(Dr)、細川大介(Gt)、真一ジェット(Key)、塩﨑啓示(Ba)の4人がステージに登場する。
そのまま「狂想序曲」から「悪人」のイントロへと切り替わると、会場からは驚きとともに歓声が沸き上がった。やがて、スーツ衣装でビシっと決めた松川ケイスケ(Vo)が満を持してステージへ。
LACCO TOWERの楽曲は、黒と白という2種類に分けることができるのだが、「悪人」はまさしく黒曲。歌舞伎町ライブのオープニングにふさわしい一曲だ。
ジストニアを機にレフティへと転身してから2年が経ったギタリスト・大介。ふと視線を大介へと移したときにあらためて「そうだ、レフティになったんだ」と思ってしまうほど、彼が左手で奏でる音もバンドに馴染んでいる。
フロアはすでに無数の手が上がるほどの盛り上がりで、22周年ライブは最高のスタートを切った。
2曲目へと続く前に、ケイスケがオープニングの口上を届ける。「始まりがあれば終わりがあるというのは世の常でございますが、今日という日、我々の22周年そして三部作『有無同然』完成記念公演ようこそお越しいただきました。新宿の皆さん準備はいいですか? いけますかZepp!」
「群馬のLACCO TOWER参りますどうぞよろしく!」
そんな挨拶によってさらに熱量を増幅させると、重田の重くて逞しいドラミングから「林檎」へと突入。フロア最後方で観ていたのだが、タテノリの凄まじさから、Zeppの床が気持ち悪いほど激しく揺れる。
大介はセンターのお立ち台でギターソロの見せ場を作り、ケイスケは「調子上がってきたかい?」「手を上げようか!」とガンガンに観客をアジテーションしていく。5人の熱が一気に放出されるような膨大なエネルギーが会場中に行き渡るなか、色鮮やかな照明がトキメキをトッピング。
ケイスケの求めに応じてオイコールを炸裂させる観客に「どうした恥ずかしがり屋のBOYS&GIRLS! こんなもんじゃないでしょ!」「誰がどんな声出したって、俺の声には敵いません!」とさらに煽っていく。
軽快な真一のキーボードに重田の圧たっぷりなドラムが重なり、ケイスケの「青春は甘酸っぱい檸檬のように!」という言葉から「檸檬」へ。
ステージで歌を歌うということは、喉を使うだけではないとばかりに身振り手振りで楽曲を表現するケイスケ。また、疾走感を生み出す啓示のベースも聴きどころだ。さらに言うなら、椅子の上に立って手拍子を促す真一の雄姿(?)も盛り上がりポイント。そして何と言っても、大介の情緒たっぷりなギターソロにも惹かれてしまう。
大介の、音源10割増しとも思えるようなドンと胸に響くヘビーなギターサウンドから始まったのは、「証明」。スーツのジャケットを脱いで少しだけ身軽になったケイスケが歌う。その姿には、まるでLACCO TOWERの“歌”をひとり背負って戦うような凛々しさが漂っていた。そしてもうひとり、コーラスで支える真一の歌も楽曲をより豊かにする。
ライブアレンジとして大介のギターから入り、真一のシンセへと繋ぐイントロから観客の耳を奪っていく「十六夜」。ステージ後方に、回転する花びらのような光が照らし出される怪しい照明演出、さらには強く激しいギターサウンドとも相まって、光と音による、いかにもLACCO TOWERらしい世界観が作られていく。
一方で、私の視界にはファミリーエリアで手を上げて楽しむ子供たちの、実にピースフルな姿も映し出されていた。これもまたLACCO TOWERがI ROCKSというフェスを中心に築いてきた理想的な景色でもあり、このふたつがLACCO TOWERらしいコントラストとして強く印象に残った。
続く6曲目の「朝顔」は、これまでの激しい時間から一転、とにかく圧倒的に美しい音に酔いしれる時間だ。真一のシンセによるイントロ、さらにケイスケの歌声や大介のギターも軸を「美しさ」に置くようなパフォーマンス。アウトロもまた、シンセが美しさを際立たせるようにその音色を刻んでいく。
そして刹那の静寂を経て7曲目「魔法」へと繋いだ。一瞬のピンスポを浴びて歌い始めたケイスケは、人差し指を使った振りで“魔法”を表現しながら歌い紡いでいった。
「蛍」では、どこかブルージーなテイストを帯びた大介のギターから、ケイスケが呼吸を合わせて歌い出す。ギターが強く前面に出てこない楽曲なので、ベースの音色がより鮮明に味わえるのも面白い。ただし、アウトロの主役は完全にギターで、大介印ともいえるような大きな展開を入れ込みながらスケール感たっぷりにその旋律を披露してくれた。
ドラムのハイハットを刻みながら、「YEAH! Zepp!」と声を上げた重田は、続けて「今日は今日しか」と叫び、後に続くセリフ「ねえからな!」を観客が担うお約束のコール&レスポンス。「最後まで楽しんでいってくれ!」と〆ると、今度はケイスケが「僕らもすでに楽しいんですけれども、一つ間違えたなと思うのは、私冬物スーツで出てきてしまいまして、中はマグマ、皆さんに言えないところがすごく暑いんです。でも今日は最後までこのベストを脱がないように頑張ろうかなと」という具合にジョークを交えてトーク。
MCに対する伴奏が流れるなかで、今度は《何重にも》《何枚も》というフレーズを観客に叫ばせて、次の曲への準備を整えると、啓示のベースが抜群のグルーヴスイッチをオンして「鼓動」の演奏がスタート。観客による4分の4拍子、そして2分の2拍子(裏拍)というふたつの手拍子、さらには先ほど練習した《何重にも》《何枚も》の声出しとメンバーの演奏とが絡み合あって、このZepp Shinjukuがひとつになる、そんな祝祭感が溢れ出る瞬間が訪れた。
啓示と大介が左右で立ち位置を入れ替えてお立ち台で演奏するという見せ場もあり、贅沢なステージングを披露。
ケイスケが「雨は必ず止むという曲、『雨後晴』」と曲紹介をする。さらに「その調子でもう一丁声をいただけますか」「声の準備いいですか?」と続けると、再び観客による「OH OH OH OH」の大合唱と共に「雨後晴」へ。
重田のキックが響きわたり、フロアからは一斉に無数の手が上がる。かつて喉を壊し歌えなくなったケイスケ、そしてジストニアでギターが弾けなくなってしまった大介が再びステージで渾身のパフォーマンスを披露するその姿でもって、「雨は必ず止む」というこの曲がもつ意味を体言する。
彼らの楽曲は彼ら自身の生き様が投影されたものだと証明するような、とても美しい時間だ。
ケイスケは「素晴らしい声をどうもありがとう!!!」と最後は絶叫で観客に感謝を伝えていた。
そしていよいよ、今回の三部作のひとつである新曲「無有病」が披露となる。ピアノの旋律から始まり、その音の元に全メンバーの音が集合するかのようなオープニング。全ての音がドラマチックであり、そしてアグレッシブに奏でられる。
キレ味鋭い演奏が、観客に向かって襲いかかるように畳みかけてくる、これぞまさにザ・LACCO TOWER。その圧倒的強度が彼らの真髄を感じさせてくれるようなナンバーだ。
「後半戦どうぞよろしく!」というケイスケの掛け声から、「無有病」に続いての怒涛な楽曲「化物」が始まった。《白日がまたやって来る》《カラカラに注ぐガソリン》のパートなど、所々挟み込まれる歌謡テイストなメロディが、さらに言うなら「化物」全編に描かれている歌詞の世界観そのものが、かつて歌舞伎町という街に漂っていたドロッとしたムードを想起させる。サビで赤く染まった舞台は実に妖艶な空気を作り出しており、LACCO TOWERと歌舞伎町のフュージョンのようなステージとなっていた。
2曲続いた、燃えるように激しい楽曲の後に披露されたのは、「奇跡」。楽器の音はゼロ、ただケイスケの歌声だけが響くアカペラ歌唱での始まりは、まるで“奇跡”のような瞬間。「化物」演奏直後にフロア(酔客?)から放り込まれた、ライブの空気を壊しかねないような雑音をねじ伏せる圧倒的パワーを秘めた歌声に、ただただ痺れるしかなかった。
途中から加わったバンド演奏に乗せて、さらに飛躍を遂げるようなケイスケの歌唱は見事のひと言に尽きる。
神聖にも感じる時間が終わると、重田、そして啓示にスポットが当たり、リズミカルかつ強度のあるリズム隊の演奏がスタート。さらに大介と真一にも光が差し、ギターとピアノが合流、そしてケイスケの「終盤戦もどうぞよろしく!」の叫びを経て始まったのは「竜巻」だ。
フロアからは勢いよく拳が上がる。キレッキレなロックギターにピアノとベースが織り成す華美なジャズ味も感じるバンドサウンドがとにかく気持ちいい。煌めく照明の下、舞うように踊り演奏するメンバーたちの姿が高揚感をプラスする。
「我々の誕生日と記念すべき日に、あなたたちと一緒に最高の時間を過ごしたいんです。もう1曲、お付き合いいただけますか?」
そんなケイスケの言葉から「非幸福論」へ。ライブで盛り上がり必至の鉄板曲登場に、フロアの熱もさらに上昇する。荒々しいステージングはそのエネルギーを落とすことなく、ライブ序盤からここまで一気に駆け抜けてきた。気づけば大介は右利きスタイルでギターをプレイ。二刀流ならぬ、スイッチギタリストだ。
最後の曲を演奏する前に、ケイスケからメッセージが届けられる。
18歳でバンドを組むことになってからずっと抱えていたという想いを語ったのだが、それはとても意外なものだった。
ケイスケは、この22年間ずっと、「申し訳ない気持ち」でバンドをやっていた気がするのだという。自分がもっと歌が上手ければ…もっといい歌詞を書ければ…社交性があれば…。自分のせいで、みんなをいろんな場所に連れていけないのでは、と申し訳なく思っていたと語る。(鼻があと3センチ高ければ、というジョークを交えて、深刻になりすぎないようバランスをとるあたりはさすがだ)
そしてそのもどかしさから生まれた「責める気持ち」の矛先が、自分ではなく他のメンバーに向きそうになることもあったそうだ。
啓示には「もっとみんなをまとめてくれ」、重田には「もっといいイベントもってきてくれ」、真一には「もっといい曲を作ってくれ」、大介には「もっといいセットリスト考えてくれ」と。もちろんそれは間違っているとわかっていながらも、そうなってしまいそうなほど悩んでしまっていたというケイスケ。
でも、と彼は続ける。自分たちは22年間ステージに立ち続けていたんだと。そしてステージにいられるということは、支えてくれる人たちがいたから。そしてそれは「あなたたち」なんだと。
そうした繋がりもあって、22年間続けられた気がしたと話すケイスケは、もう申し訳ないと思わないようにしたいと決意を伝える。
そして、同じ世代に生まれた5人が、違う楽器をもって、同じ場所に集まって、同じような楽曲が好きで。そんな偶然が重なった天文学的な奇跡を22年間起こせる5人だから、なんだってできる。明るい未来を目指したいと力強く語った。
最後に「いろんな間違いがあっても、それでいいと思って次に進めるような、そんな歩き方をみんなとしたいと思います」と告げてメッセージを締めくくる。
かつて、ライブハウスのスタッフしか観ていないほど観客がいなかった、そんな時代にライブをした新宿という場所に、Zeppの名を冠するライブハウスで周年記念ライブを打つという形で帰ってこられたことに感謝を述べると、いよいよ最後の曲へ。
本編ラストを飾るのは、三部作『有無同然』収録の新曲「綾」だ。先ほどのケイスケのメッセージとシンクロするようなこの歌を、観客一人ひとりにしっかり伝えるんだという明確な意思とともに歌と演奏を届ける5人の姿に胸が熱くなる。ケイスケは最後にオフマイクで「どうもありがとう!」と感謝の言葉を残し、ステージを去っていった。
メンバー全員が退場するとすぐ、フロアから「ラッコ!ラッコ!ラッコ!ラッコ!(ラッコ!)」というラッコ節アンコールが発生。声が枯れかけるほどコールが続いたのち、衣装からTシャツに着替えたメンバーたちがステージに戻ってきた。
ケイスケが「前にLACCO TOWERがZeppでやったときにアンコールで演奏した曲を」と曲紹介をして、アンコール1曲目「花束」を演奏する。当時、ダブルアンコールでライブの最後に披露した楽曲だ。
《夢のような終幕(フィナーレ)に》
《必要なものは喜びと》
《それをくれたあなた》
こんな歌詞がアンコールというシチュエーションにマッチして、この場のムードをより高めてくれる。
「花束」の演奏を終えると、ケイスケはいつものように、アンコールの「ラッコ節」を叫んでくれた観客にお礼を述べる。そしてこれもまたアンコールでの通例となる、各メンバーからのコメントタイムへと突入。
以下、ざっくりとメンバーコメントをまとめておこう。
以上のメンバーで…とケイスケが話すや否や…
メンバーのコメントタイムが終わると、ケイスケが「自分らの誕生日をライブで祝ってもらうのは恐縮な気もするんですけど、これからも懲りずに祝ってもらおうと思うので、一緒についてきてください」と挨拶。
さらに周年ライブということで、「ラッコ!ラッコ!」とみんなで叫んで終わりたいと告げて「ラッコ節」を披露する。メンバーがひとりずつ「ラッコ!」と叫ぶ演出が組み込まれた貴重なナンバーだ。あっという間に終わってしまうのだが、勢いやインパクトという点では他の名曲にも引けを取らない。
そしてとうとう最後の曲へ。
「夏がやってまいりました、この曲歌わないと終われないでしょということで一曲やらせていただいてもよろしいですか?」というケイスケの煽りから披露されたのは、LACCO TOWERの夏曲、「藍染」だ。
大事な周年記念ライブもいよいよラスト、ということでここまで18曲を無事にやり終えたメンバーたちも、それぞれにリラックスした表情を浮かべ、楽しそうにプレイしている。
この日のために、ステージに立つ身としてだけでなく、宣伝活動含めて様々な準備をしてきたであろうメンバーたちが、プレッシャーから解放される瞬間でもあるのだろう。
啓示と大介が向かい合って笑顔で演奏するシーンが象徴的だ。
「22歳の俺たちもよろしくな!」とケイスケが告げ、22周年ということで22回のカウントでキメて、最後はケイスケの「愛してるぜ!」という叫び声が響きわたるなか、22周年記念ライブは、終幕を迎えたのだった。
ライブ定番曲からレア曲まで贅沢なセットリストはもちろん、今回新たに加わった三部作『有無同然』楽曲たちの、ライブ映えする素晴らしさが印象に残る。22年続けてきて、新曲がカッコいい、しかも音源だけでなく生演奏でその魅力がちゃんと伝わるというのは、ケイスケが言う「22年間ステージに立ち続けてきた」ロックバンドとして最高の結果ではないだろうか。
そして大介が伝えたメッセージ。見栄を張ったりごまかしたりせず、自身のパフォーマンスについて納得できなかったことを自分自身が認めて、しかもそれを皆の前で打ち明ける勇気と強さ。彼の「マジで悔しい!」という言葉は正真正銘の本音に違いない。このバンドはまだまだ成長するんだ…と、ワクワクしてしまった自分がいた。
100%ではないにしても、バンドが抱えてきた問題をなるべく隠さずに伝えてきた彼らだからこそ、ラッ子(ファンダム名)と育んできた信頼関係があるはず。またひとつ太い絆を増やしたLACCO TOWERとラッ子が歩んできた22歳第一歩の足跡は、歌舞伎町タワーという日本屈指の歓楽街にそびえるビルの地下に、しっかりと刻まれたのだった。
セットリスト
SE.狂想序曲
01.悪人
02.林檎
03.檸檬
04.証明
05.十六夜
06.朝顔
07.魔法
08.蛍
09.鼓動
10.雨後晴
11.無有病
12.化物
13.奇跡
14.竜巻
15.非幸福論
16.綾
EN
17.花束
18.ラッコ節
19.藍染
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