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【ライブレポート】2022/4/10 KEMURI Quattro tour 2022 ~'Cancel Me'~

2022年4月10日。最新のKEMURIを目撃してきた。2021年10月にコロナで延期となっていた25周年記念ツアーファイナルを敢行。大団円の終幕を迎えてから2か月半後の12月24日。まさかのメンバー3人、平谷庄至、コバヤシケン、河村光博がKEMURIを脱退するという一報が届く。

特に結成まもなくからのメンバーである平谷庄至、そしてKEMURIの良心としてファンに愛されてきたコバケンの脱退は衝撃だった。

結果的にオリジナルメンバーである伊藤ふみお、津田紀昭、田中“T”幸彦の3人が残ったことになる。

この3人にサポートを加えた編成で新たなスタートを切った新生KEMURIがいったいどんなライブをするのか。正直言って、寂しさはあるかもしれないが、不安はなかった。今までにたくさんの出会いと別れを経験してきたKEMURIが、引き続き音を鳴らすと決めたからには、期待を裏切るようなことにはならないだろう、と。

前置きが長くなったが、KEMURIの『Quattro tour 2022 ~'Cancel Me'~』ファイナルを振り返ろう。

いつものようにNOFX「All Outta Angst」を登場SEに、多くのファンで埋まった渋谷CLUB QUATTROにKEMURIのメンバーが登場する。

サポートとして宮崎雄斗(Dr)、山縣健太郎(Tp)、永田コーセー(T.Sax)、そしておなじみ須賀裕之(Tb)も加わり、7人がズラリ揃ったステージ。

オープニングナンバーは「Kanashimiyo」だ。津田さんの荒々しいベース音がフロアに襲いかかる。これぞパンクロック。

《別れの厳しさよ》
《笑顔で言うさよならよ》

《新たな出会いの喜びを》
《もらすための(悲しみなのか?)》

今のKEMURIを象徴するようなメッセージが込められた一曲に早くもフロアはエモの大洪水。

「前へ前へ!」というふみおさんの言葉と共に「I Am Proud」「Standing in the Rain」と、やはり今のKEMURIとシンクロするような楽曲が続く。1stアルバム収録の「Knockin' on the door」を挟みつつ、「WIND MILL」、そして軽快な田中“T”さんのギターイントロに心も踊る「Mr. Smiling」と、前半は再結成後のナンバーが多めのセットリストだ。

「CHOCOLATE」を演奏後、ホーン隊はステージから去り、ボーカル、ギター、ベース、ドラムというオーソドックスな4ピースバンド編成による「Umi ni saku nami」パフォーマンス。歌詞を口ずさみながらドラムを叩く宮崎の姿に思わず頬が緩んでしまう。パッと見ではとてもサポートメンバーのいるバンドとは思えない、4人の息の合った演奏は見事だ。

再びホーン隊が復帰して、個人的KEMURI四大ホーンイントロ曲のひとつ、「In the Perfect Silence」。意外とライブで披露される機会の少ない曲で(特に再結成後)、一瞬耳がバグってしまい、理解するまで少し時間を要してしまった。惜しむことなくライブでガンガン披露してほしい一曲だ。

曲が終わると間髪入れず、そのまま「Rainy Saturday」へと繋ぐ構成にも唸る。キャリア25年を超え、まだまだ進化し続けるKEMURIの姿に圧倒されてしまう。

「一緒に歌おう」というふみおさんの誘いと共に「New Generation」へ。小さな四角いエリアをあてがわれたファンたちは、ステップを刻むことすら容易ではないそのスペースの中でスカダンスをしたり飛び跳ねたり、拳を上げたりと思い思いにライブを楽しんでいる。

「New Generation」は、かつてのライブであればぐちゃぐちゃのモッシュにまみれてダイバーも続出するような曲だ。しかしコロナ禍で生まれたライブハウスのルールに従い、今できる範囲の中で存分に遊ぶフロアの景色には、頼もしさを感じてしまった。

ダイブができないんじゃつまらない、モッシュできないなら行っても楽しくない…そんな後ろ向きなメンタリティの持ち主はここにはひとりもいない。

KEMURIが、伊藤ふみおが訴え続けてきたメッセージの意味を理解する人たちが集い、表向きはソフトに、心の中では激しく暴れながらライブをステージと共に作っていく。今日のQUATTROはメンバーと観客が一体となった空間だったのではないだろうか。

ほぼMCなし、ドリンク補給のわずかな時間を除いて演奏も止めずライブは続く。

「木の歌です、レッツゴーTさん!」というふみおさんの掛け声から「Ohichyo」、そしてコロナ禍だけでなく戦争による分断も生まれる今こそ必要な歌「SOLIDARITY」と25年の時を軽々と超える曲たちが次々と投下されていく。

サポートとして演奏面でしっかりと音楽を支え、時にメインを張る山縣、永田両名。しかしステージパフォーマンスにおいてはサポートに徹し、やや控えめな印象だ。

その代わり、須賀は勝手知ったるKEMURIのライブということで演奏だけでなくアクションでもフルパワー全開。エアギターなのかエアベースなのか、トロンボーンを弦楽器のごとく扱った直後に素晴らしい演奏を披露するなど、回転ジャンプで魅せたコバケンの不在を埋めるかのごとく、豊富な運動量で楽しませてくれる。演奏パートでないタイミングでは、公式フォトで残像が生まれるほどのパフォーマンスでフロアをたぎらせていた。

手拍子で長い時間煽ってからイントロが始まり、「Go! Under the! Sunshine!」とふみおさんが叫んで「Go! Under the Sunshine!」へ。イントロのホーンアレンジは今までのものと少し違う印象を受けるが、ポップなギターと巧みなホーン隊がミックスした本楽曲の魅力は健在。

個人的にもトップクラスのお気に入り曲なので、今回のツアーに組み込まれているだけでなく、ラス前という位置に配置されていることが嬉しい。

ここまで18曲、MCナシ。ノンストップで駆け抜けるベテランバンドのパワーたるや。ワンマンライブはだいたい2時間、15~20曲+トークで楽しませる、といったひとつのフォーマットが一般的ではあるものの、そんな型をぶち壊すのがまたKEMURIらしい。

そういえば彼らの2007年ラストツアーでは、本編30曲+アンコール5曲というこれまた型破りなスタイルだった。

最後の曲を演奏する前に、ふみおさんによる、ライブハウスやツアースタッフへ感謝のメッセージ。そして、制約の多い中ライブに来てくれた観客への想いも。

「どうしてもKEMURIを結成してからのライブのノリを追い求めてしまって」

「自分たちが物足りないというよりも、お金払って来てくれるみんなに申し訳ない気持ちが個人的にあって」

「今日いろんな意味ですべて払しょくできました」

さらに、触れずに終わるわけにはいかない、メンバー脱退についても言及する。平谷庄至、コバヤシケン、河村光博と脱退した3人の名を挙げ、バンドを代表し、そして伊藤個人としても心からお礼を言います、と話す。

3人にエールを送るように、それぞれ自分たちが信じる音楽と共に新しい道を進み、その未来は明るいと信じてやってるはずだと話すと、続けて「どこかで平谷庄至、コバヤシケン、河村光博を見かけたら、どうぞどうぞ、けなすなり。応援するなりなんなり。どうぞよろしくお願いします!」と、なんともふみおさんらしいメッセージが場内の笑いを誘う。

さらに今度は「KEMURIの面白いところは、必ず誰かが現れる」と今回力を貸してくれたサポートメンバーを(ふみおさんいわく「サポートとかそういうのじゃない。メンバー」)紹介する。

山縣、永田、須賀と順に名前が呼ばれ、最後に「KEMURIを変えてくれたドラム」という言葉と共に宮崎が紹介された。

「今までは今まで、これからはこれから」とふみおさんは語り、「未来が楽しみでしかない」「でも未来には期待はしない」と続ける。そして「今を最高の時間にすることだけ集中してこれからも進んでいきたいと思います」と締めくくると、本編ラストとなった最新曲「Cancel Me」を披露し、ライブは一旦終了となった。

アンコールの手拍子に誘われて再び姿を現したメンバーたち。須賀が、自身の都合で出られなかった今回のツアー別会場でのライブやTOTALFATとの対バンライブに、自分の代わりに出演してくれたトロンボーンのISHIKAWA YUSUKEへ謝辞を述べ、ふみおさんの「忘れてたわけじゃないからね」という言い訳を引き出す場面もありつつ、「明日目が覚めるのがめちゃめちゃ楽しみになりました!」「必ずまた、いい感じで会いましょう!」とポジティブなメッセージを残し、田中“T”さんのカッティングを合図に「Ato-Ichinenn」へと突入する。

かつてのライブであればだれも何も言わずとも大きなサークルが生まれ、《あと1年!》の言葉を合図にカオスとなる、KEMURIの醍醐味が味わえる名曲だ。

もちろん今日のライブでサークルが生まれることはない。それぞれが自分のスペースで感情を溢れさせながら、隣の人とぶつからないように踊る光景をじっくり味わいつつ、自分もスカのリズムに身を委ね、心から楽しんだ。

一方メンバーはというと、須賀がステージ後方で控えめに佇む山縣を前方へと送り出している。もっと楽しんじゃえ、とばかりに。ステージに立ってしまえばメンバー・サポート関係なく存分に目立って楽しんでアグレッシブにパフォーマンスしてOK。それがKEMURIのライブだと思う。

サポートメンバーが須賀を凌駕するほどの弾けっぷりが観られる日は、そう遠くないかもしれない。(とはいえ、アーティストの個性もあるので彼ら自身の持ち味を発揮するライブが一番だ)

最後の曲の前に、ふみおさんからのメッセージ。

「バンド解散して、二度とKEMURIやらないと思って。東日本大震災起こってKEMURI再結成して、ずっとやってきて、いろんなことあったんですけど、今が一番いい」

「今日のライブ、ホントに最高でした。みんな力くれてどうもありがとう」

「KEMURIの音楽が今を生きているみんなの力に、ほんのちょっとでもなればいいなと思ってます」

「どうぞ、どうぞ。お互いに明日にワクワクしながら進んでいきましょう!」

そして「必ず空には太陽が。そういう気持ちで歌った歌やります」と告げると、『Quattro tour 2022 ~'Cancel Me'~』ラストナンバーとなる「Sunny Side Up」を披露。

会場中が両手を上げて、笑顔いっぱいにメンバーと共に踊る。そんな幸せな空気に満ち溢れた時間を最後に、KEMURIのQUATTROツアーは幕を閉じた。

勢いを感じる宮崎のドラムを活かすように、極力MCを省いてノンストップで駆け抜けたワンマンライブ。彼をはじめ、新たなサポートメンバーを迎えて開催された新生KEMURIの挨拶代わりのツアーを体感し、ライブ前に感じていた「不安はない」という思いが正しかったことを確認できた気がする。

やはり寂しさはあった。曲終わりの庄至の絶叫はもうない。コバケンの回転ジャンプも見られない。

それでもKEMURIは進む。

今まで様々な形で別れを経験しながら音を紡いできた彼らの、新しい活動を楽しみにしたい。

余談になるが、ライブ後、QUATTROの階段を下りているとフライヤーを配布する人たちがいた。少しずつ、あの懐かしい光景が戻ってきていることが嬉しかったし、SNSだけではない、直接手渡しによる告知方法の温かみを感じることができた夜だった。

セットリスト

01.Kanashimiyo(77days)
02.I Am Proud(RAMPANT)
03.Standing in the Rain(ALL FOR THIS!)
04.Knockin' on the door(Little Playmate)
05.WIND MILL(F)
06.Mr. Smiling(ALL FOR THIS!)
07.CHOCOLATE(FREEDOMOSH)
08.Umi ni saku nami(our PMA)
09.In the Perfect Silence(シングル)
10.Rainy Saturday(Little Playmate)
11.New Generation(Little Playmate)
12.Blue Moon(SOLIDARITY)
13.Shining Stars(RAMPANT)
14.Ima-Sorewo-hikarini-kaete-susume(RAMPANT)
15.Ohichyo(77days)
16.SOLIDARITY(SOLIDARITY)
17.PMA(77days)
18.Go! Under the Sunshine!(our PMA)
19.Cancel Me(シングル)
EN.
20.Ato-Ichinenn(Little Playmate)
21.Sunny Side Up(RAMPANT)


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