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展覧会は夕げの匂い。

帰る道すがら、通り過ぎる家々を眺める。
じつにまっすぐだ。
塀の線、窓の線、ドアの線、門の線。
ついでに表札の縁も線。
人はまっすぐの中で暮らしているのだと、あらためて思う。

壁の線と線の間に、蔦が這う。
ブロック塀の線の上に、なだらかな弧を描く椿の葉が茂る。
人がつくった直線を切るように、植物はうねりを見せつけてくる。

花や葉が美しいと思うのは、色や形だけではないのかもしれない。
安定した形というのは、ときに退屈で。
直線の中で生きていると、納まりはいいけれど、どこにも抜け出せない閉そく感が生まれたり。

草木の曲線は、そんな四角で囲まれた場所に風穴を開けてくれる。

深い森や、どこまでも続く花畑もきっと美しいには違いないけれど、人がつくり出した直線の中に息づく草木が好きだと思う。
道路の割れ目から芽吹いた草も、伸びすぎて窓にせり出した植木も、なんだかとても、ユーモラスに見えてしまう。
彼らはいつも、自由で生き生きとしていて。

帰り道の五分間、いくつものちいさな額絵を見つけてしまった。





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