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背中押す緑

あっという間に緑に囲まれる季節になってしまった。
決して言葉から離れていたわけではないのに、しばし自分の言葉を後回しにしていた。

朝、自転車で切る風の匂いに夏が混じっている。
視界に溢れる葉々に心地よさを感じながらも、湿気と熱を含んだ匂いに一瞬身構えてしまう。
次の季節の予感にせっつかれているようで、なんともいえない焦りが過ぎる。

そういえば、最近あまり新しいことをしていなかったな、と思う。
三週間おきに登場する夕飯のメニュー、いつも使う漆の色、職場での挨拶。
どれも慣れた「いつもどおり」だ。
間違っているわけではないし、不快なわけではない。
そのまま使い続けても何も問題ない。
けれど、なにかがむずむずする。

そういうことは時々ある。
無性に何かを変えたくなる。
きっと、それほど難しくはないはずなのに。
いつもの料理に、いつもなら使わない食材を入れてみる。
いつもは決して混ぜない色と色を混ぜてみる。
いつもなら流してしまうような誰かの言葉に耳を傾けてみる。
とりあえず、いつもと違う何かをして「みる」。

疼く感覚を笑うように葉は揺れて。


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