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昨日までは気体になっていた君 4

10月の後半空いてる?

なんてアバウトな質問でも
きっと君は返してくれるよね?
そんな圧力とも捉えられるこの言葉を
用いてしまうのは、
今朝の苛立ちのせいなのだろうか。

昨日洗ったばかりの枕カバーは
やけに洗剤のにおいが強く、
大学時代の初めて泊りにいった人の部屋を
嫌なほどに脳内の記憶に差し込んでくる。

食器が洗われる音がする。
電気をいくつか消してテレビをつけ
ソファの左端に座る。
結婚生活も4年経つと行動が一緒にいなくても
わかるのだ。
しかも大抵あの人が帰ってくるのは
私がこうしてシーツと毛布に挟まれてから。
まだ勇太が生まれる前はその予想の答え合わせをリビングに見に行き
二人でいつも一杯だけビールを飲んだ。

あのビールはとっても美味しかった。

そろそろ寝室に向かってくる気配がして、
アイマスクと耳栓をつけ、
洗剤の香りに飛び込み、
もう片方の洗剤の香りはなるだけ遠ざけた。

ぼそぼそと話しかけられている気もするが、
一旦今日は口を利く気にはなれない。

今日の朝は工藤に誘われ公園に出かけた。
勇太も工藤と遊ぶのが好きだし、
工藤も毎回勇太に何か仕事先でのお土産を買ってきてくれる。

「写真撮りましょうか?」
「素敵なご家族ですね」

私より5つほど年下であろう女性の声が

耳栓で塞がれた脳内を
ぐるぐるとコダマする。

勇太が泣いた原因は
その一言だったのかもしれないと
今になって気づき始めたが
どうすることもできなくて、
こっそりと片方の耳栓を抜き、
響き渡る言葉を寝室の重々しい空気へと
馴染ませていく。

さっきの喧嘩を見ていなかったとも
言わんばかりに佑介の鼾が
すぐに重々しい空気へさらに
私の苛立ちを追加する。

携帯をひらき今日の工藤から送られてきた
私と勇太を眺めて、
そこに写ることはできない工藤を想う。
痕跡を探し、痕跡を消して
次の瞬間には勇太の明日の弁当を考え始める。
インスタグラムに近所の昔よく工藤といった
居酒屋が弁当販売している投稿を見つけ、
久しぶりに大将の顔見たさもあり
弁当を考えるのをやめ眠りについた。

目を閉じてからずっと
素敵な家族 が模様のように脳内に

広がり消え

それが繰り返され

ついには工藤の顔だけが思い浮かんだままだった

そう思いたいと

痕跡を消したはずの携帯に

工藤から1件メッセージが届いていた。

『予定空いているよ』

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