見出し画像

【エッセイ】港町の味

輪島という能登半島の港町に育ったせいか、魚を食べるのが好きだ。お刺身はとりわけ大好物だけれども、最近は煮魚もしみじみ美味しいと感じる。夫が無類の肉好きのため、一週間の三分の二は、食卓のメインは肉料理となってしまうが、週に二回ほど、私の好みで魚を買い求めては、調理している。

煮魚や焼き魚を出したときの反応があまりかんばしくない夫だが、そんな彼も喜ぶ魚料理が、アクアパッツァである。季節も冬近くなり、美味しい鱈がスーパーの店頭に並び始めた今など、まさに作りどきなので試してみてほしい。あまり食べたことのない方もいらっしゃるかもしれないが、南イタリアの郷土料理である。

切り身の鱈に塩こしょうをして、フライパンで両面を焼く。みじん切りのにんにくを加え、さらにあさりとトマトを入れる。適量の水と白ワインを注ぎ、フタをしてしばらく蒸したら、もう出来上がりだ。仕上げにドライパセリを振りかけても美味しい。

参考URL:http://cookpad.com/recipe/363478

鱈とトマトに、あさりから出たスープがほどよく絡み、にんにくの風味もついてとても食欲をそそる一皿なのである。

一方、私の好みはといえば、渋いと言われようと、年々煮魚のとりこになっている。かれいやはたはた、はちめなどの白身魚を、少しショウガをきかせた甘辛いお醤油味で煮付けると、この上なく美味しく、ご飯もすすむ。あー、これこそ日本の心の味だと思う。複雑な味ではないが、滋味があって、口にするとほっとできる。

輪島に住んでいた子供時代、魚といって一番好きだったのはお刺身だ。輪島には今でも、リヤカーに魚を積んで町で売り歩く、振り売りの魚屋のおばちゃんたちがいて、おばちゃんたちの売る魚は、スーパーに置いてあるものよりも、比較的あたらしくて美味しい。とれたての魚をいつも持っているから、輪島の地元民でおばちゃんたちから魚や刺身を買う人は多い。

私の祖母の家の近くにも、振り売りのおばちゃんはやって来るから、祖母を通してうちの食卓に刺身が並んだりすると、その美味しさに子どもであっても舌鼓を打ったものだった。

夏の刺身も美味しいが、冬の甘えびや寒ぶりの刺身ほど美味しいものはないといつも思っていた。魚屋のおばちゃんたちから買った甘えびは、とても大ぶりで、エメラルドグリーンの卵がえびのお腹についていて、本当に甘い。口の中でとろけるのだ。また寒ぶりは、脂がのってくる冬が食べどきで、父の実家ではわさびを使わず、大根おろしと一味を醤油皿に入れ、それらと一緒にぶりの刺身を食べる。大根おろしが、冬のぶりのこってりした脂をやわらげてくれて、さっぱりした口あたりになる。

魚の美味しさがわかる私で良かった、そう思いながら、なにか新しい食べ方はないかとネットや料理の本でレシピを探す日々だ。

能登の里山里海は近年世界農業遺産となった。これからも、地元の海の恵みに感謝し、魚をありがたく味わっていきたい。

いつも温かい応援をありがとうございます。記事がお気に召したらサポートいただけますと大変嬉しいです。いただいたサポ―トで資料本やほしかった本を買わせていただきます。