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【掌編】寒雷

草木も枯れ果て、いちめんにさびしい冬ざれの季節となった。小雪がちらほらと降り始め、底冷えがきつい中、ブーツのひもをしっかり結んで家を出る。コートのポケットにはホッカイロが入っている。

今日は友人宅で持ち寄りの鍋会をするのだった。寒い中、鍋を囲んで心も体も温めようという趣旨の会で、メールで詳細が回ってきた。これはいい、と思ってすぐに参加したいと返事を書いた。

私は豆腐と魚の担当だ。魚はなんでもいいと言われていたが、じっさいに魚市場へ出向き、いろいろ見て回ったあげく、冬の味覚あんこうを買った。白身が、出汁と合わさるととてもおいしいのだ。豆腐も、近所の豆腐屋さんで、おいしいと評判のものを買って、友人宅へと急いだ。

ドアチャイムを押すと、主催の奈々が出てきて、中に招き入れられる。ほかの友達は、もうすでに集まっていたので、私も食材の包みを冷蔵庫に入れた後、こたつにいそいそともぐりこむ。

寄せ鍋つゆを、奈々が手作りしてくれていた。ねぎや白菜、たくさんのきのこを用意してくれたのは千穂で、美里は鶏肉と地酒を持ってきてくれていた。こたつの真ん中にカセットコンロを置いて、鍋会のはじまりだ。

煮え立つつゆの中、野菜や魚、鶏に火が通っていく。奈々が入れたくずきりや油揚げも、とてもおいしそうだ。美里が、地元の地酒をあけて、それぞれのお猪口に注ぎ分けてくれる。

あつあつの鍋をつつき、話に花を咲かせて、私たちの真冬の夜が更けていく。今日はみんなで奈々の家に泊まることにしているから、飲みすぎても大丈夫だ。

遠い雷は、北陸の冬を告げる音だ。窓から見える雪模様を、さらに酒の肴にして、やっぱりみんなで集まるのは楽しいねと、口々に言い合う。こたつの中で、足がぶつかったのをきっかけに、千穂が笑いだし、何度も足をぶつけてくる。

冬の間に、あと二回は鍋会したいね。うん、次は豆乳鍋にしようか。あ、トマト鍋もおいしいよ。なにそれやったことない。そんな会話をしつつ、真冬の夜が更けていくゆっくりとした時間を、私は体のかたすみで感じていた。

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