夏の名残を感じながら佐久そるんさん「氷と蜜」を読んだ
上田です!過ごしやすくなりましたね。
今日の本紹介は佐久そるん先生の「氷と蜜」です。小学館「おいしい小説文庫」のうちの1冊として出されたこの小説のテーマは、かき氷。まだ9月初旬だというのに急に夏が行ってしまったかのように涼しいですが、夏を惜しみつつ、ご紹介しようと思います!
物語は、主人公の陶子が母と驚くほど美味しいかき氷、その名も『日進月歩』を、奈良のひむろかざはな祭というかき氷のお祭りで食べるシーンから始まります。
かき氷といって、赤や青のカラフルなシロップをかけた氷を思い浮かべるのは、今の時代もう違うようですね。佐久先生のTwitterでは、いつも美味しそうで現代的なかき氷の写真が載っているのを見ることができますが「日進月歩」の描写を読むと、すごく食べてみたくなります。
中央の窪みにカスタードを流し込み、グラニュー糖の雪を散らすと、勢いよくバーナーの炎を浴びせ始めた。周囲から驚きの声があがっても、削り手の注意がそれたようすはない。氷に熱が及ばないよう慎重に、けれど大胆に炙り続ける。焦げ色がついたところで炎をはずし、香ばしい匂いそのものを閉じ込めるかのように、よく冷えた果実のシロップで蓋をする。
白い羽根と化した氷が、柔らかに折り重なっていった。空気をふんだんに含んだ氷は、指先で整えられると、白くなだらかな丘へと姿を変える。赤に橙と、交互に打たれるシロップを染み渡らせながら、氷は丸みを増していった。
削り手は氷削機を止めて、合い掛けの氷を陶子の目の前に置いた。トップにはラム酒で香りづけした白いクリームの雲がかかり、赤々と照らす陽のごとき大粒の苺に、ひと房のオレンジが飾られる。まるで陽の光を受けた三日月のように。『日進月歩』という名の、艶やかに煌めく削り氷だ。
この「氷と蜜」という小説のなかには、とてもたくさんの美味しそうで斬新なかき氷が登場するので、描写を読んでいるだけでも「これってどんな味なのかな?」と想像がふくらみ、お腹がすきます(笑)
母は『日進月歩』を陶子と食べてしばらくしてから亡くなり、陶子はその味が忘れられずに、『日進月歩』とその削り手である炎炎老師を捜し歩きます。そのなかで出会った氷の食べ歩きの相棒で恋人の一輝とともに――。
しかし、かき氷を愛してやまない人たち、通称「ゴーラー」にも一目置かれるほど、かき氷を食べ歩いて詳しかった一樹(彼はゴーラーたちから氷の月光伯と呼ばれていた)に、ある日いきなり突き放されて、陶子は『日進月歩』探しにも身が入らなくなります。
そんななか、母の遺した喫茶店を継いだ父の大輔が、かき氷に関しては全くの素人なのに、今度のひむろかざはな祭のかき氷コンテストに出場するといいます。『日進月歩』を探しているなかで、偶然陶子と知り合った、関西削り氷研究会の瑞希は、あまり気がのらない陶子とは違って、陶子の父のチャレンジを手助けしてくれます。
母が亡くなる原因が「氷を食べて体を冷やしたからだ」と思い込み、父の大輔や姉の陶子に、厳しく当たり、コンテスト出場にも反対する妹の沙羅。
ゴーラーたちの間で「氷の太陽伯」と呼ばれていて、一樹と同じくかき氷の食べ歩きを趣味とし、その活動レベルも抜きんでている秋山。
関西削り氷研究会の会長で、瑞希の先輩にあたり、大輔が出場するにあたって、出場審査を行う美墨。
個性豊かな登場人物たちがそろい、物語は進みます。
そのなかで、陶子はアクシデントに遭った父の替わりに、自分が氷を削ることを決意し――。
『日進月歩』の削り手、炎炎老師は誰なのか。
ひむろかざはな祭りでのコンテストは、誰が勝つのか。
一樹はどこへ消えたのか。
さまざまな謎が、ひとつずつ明かされてゆく様は本当に面白く読み進むことができました。一人一人の人物が、背景のドラマを持っていて、そこが影響、共鳴しあっていくところが特にいいなあと思いました。
とっても面白いし、そして何より、今風のかき氷が絶対に食べたくなります!!!この本を片手に、街へ繰り出せる、そんな夏がいいなあと思いました。
ぜひ、みなさま読んでみてくださいね。
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