2015年8月の記事一覧
【エッセイ】おわら風の盆
五年ほど前に見た越中八尾の「おわら風の盆」に今また惹かれ始めている。富山県の中南部に位置する、八尾町。「おわら風の盆」という盆踊りが、九月のはじめの三日間、開催される町だ。盆踊りといっても、風の盆はにぎやかな踊りではなく、舞に似た、とても優雅な踊りである。女の一団と男の一団に別れ、着物に編み笠を目深にかぶって群舞するその様を見ていると、異界に迷い込んだ気がしたものだった。
お囃子に、太鼓。胡弓に
【エッセイ】野菜をもらう
定年間近の父が、近所の人から畑を借りて、菜園をつくりはじめた。実家に行ったらその帰り、小さな段ボールいっぱいの野菜を持たされた。なすにきゅうり、紫蘇にプチトマトにじゃがいも。いま生ったもののほかにも、オクラやかぼちゃ、茗荷にキャベツなども種をまいたというから、なかなかのものである。
もらったなすときゅうりは、インターネットでレシピを探して漬物にした。薄切りにして塩でもんだあと、醤油と少しばかりの
【エッセイ】観能の夕べ
能楽をずっと見たいと先日から思っており、ついこの間念願叶って石川県立能楽堂の「観能の夕べ」を鑑賞することができた。白洲正子氏の著作を何冊か読むようになってから、お能について知りたいという気持ちが、せんからあったのだ。
狂言と能学が一幕ずつで、最初に大学の先生の解説があるという、初心者にも楽しみやすい演出である。千円の当日券で、自由席だったので、舞台正面の席を選んだ。着物で観に来ている雰囲気のある
【エッセイ】アジアごはん
東南アジア料理が、このごろめっぽう好きになってきた。苦手と思っていたパクチーも、この間出された飯や麺と一緒に食べてみたら、わりといけたのだ。以前飲み会で連れて行ってもらったタイ料理の店に、先日連れと行ってみた。
まず頼んだのはカオマンガイという、茹で鶏をのせたごはんに、生姜のソースをかけて食べる一皿である。バター味とガーリック味が選べて、ガーリックを頼んだ。こくとうまみがある鶏肉と、あっさりした
【エッセイ】ラ・カンパネラ
フジコ・ヘミングとプラハ放送交響楽団のジョイント・コンサートに行ったのは六月末だったが、そのときからずっとホール内で聴いたリストのラ・カンパネラが耳に残っていた。転がる音のきらめきと、ずっと根底にある哀愁と。少し哀しいメロディが忘れられず、ついに今日、音楽のダウンロードサイトでその曲（もちろん、フジコヘミングのピアノのもの）を購入した。
きらびやかで、せつなく華やかで、なのに無常観を感じさせるこ
【エッセイ】雨の夕方に思うこと
仕事から帰るバスの車窓に雨粒があたったかと思うと、あっという間にざんざん降りになった。お盆が開けてすぐに、夏ごと終わってしまうかのような激しい雨だ。バスの中はざわついて、みんなどう家まで帰ろうかと口ぐちに話している。幸い、私はビニール傘を持っていた。
靴や肩先を濡らしながら、降りたバス停からすぐのショッピングモールへと歩いていって、雨宿りをする。今日は連れが仕事で泊まりこんでくるため、私にはたっ