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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり

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弁当屋「キッチンさくら」で働く二十四歳の遥。ある日祖母と一緒に公園に梅を見に行った日、転倒した祖母を通りがかりの樋口滋之に助けられる。滋之は、キッチンさくらの近所の鉄工所で働く会…
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記事一覧

【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第1話「梅が運んだ出会い」

花のなかでもいっとう好きな梅を、今年も時季を逃さず見ることができた。 冷たい風に春の気配…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第2話「同窓会の夜」

一歩足を踏み入れたホテルのロビーは、シャンデリア調の照明とふかふかの絨毯が印象的で、遥は…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第3話「恋人のフリ、しましょうか」

桜の木って、わたがしみたいだ。遥は、そう思って満開の花をつける桜の枝を見あげた。今日は弁…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第4話「つのっていく想い」

「うー……」 滋之との初デート(仮)から二週間が過ぎた、夜の八時半。遥は自宅のベッドに寝転…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第5話「お裾分けのついでに」

キッチンさくらの退勤後、なんとなく洋服を見たくなって小松イオンモールに遥は来ていた。 北…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第6話「真面目な話」

滋之と卯辰山に行く予定を控えた、五月中旬の日、遥はいつものようにキッチンさくらのレジに立…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第7話「ツツジの前での告白」

五月半ば、初夏の日差しがまぶしい日、遥はマドラスチェックのブルーのワンピースに袖を通した。去年の夏、母と一緒にデパートで買ったものだ。まだ夏には早いので、紺色のカーディガンを羽織り、サンダルを履いた。 滋之は、自宅近くまで迎えに来てくれると事前に言っていた。 あれから、智弘から届くLINEに、遥は返信をやめていた。自分が応じない姿勢を崩さなければ、彼もあきらめてくれるだろう、そう判断してのことだった。 滋之から「着きました」というLINEを確認すると、遥はそっと玄関のド

【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第8話「梅雨のはじまり」

季節は六月になり、梅雨前線がはりだして雨の日が続くようになった。滋之からの連絡は途絶え、…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第9話「もちろん、友達として」

朝からのどしゃぶりが止まない日、退勤した遥は車のなかでスマホを確認した。1件通知が来てい…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第10話「夏が近づく日」

キッチンさくらの店の前に、聞き覚えのある自転車のブレーキ音がして、遥はひゃっと首をすくめ…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第11話「お見合いを、します」

カレンダーをめくった遥は、今日から七月に入ったのだと気が付いた。キッチンさくらのエプロン…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第12話「お願い、連れていって」

お見合い当日、初夏を思わせるまぶしい陽射しがたくさん入るホテルのロビーで、遥は落ち着かな…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第13話「一人には、しません」

智弘は遥を〇×総合病院の前で降ろすと「ついたぞ」とぶっきらぼうに言った。 「お前の好きな…

上田聡子
3年前
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【連載小説】優しい嘘からはじまるふたり 第14話「そばにいてほしい」

遥が総合病院に駆け付けた日から、二週間が経った。滋之からの連絡はないままだったが、遥は自分からは連絡をせず、彼のメッセージを送ろうとするペースを大事にしようと思っていた。 カレンダーは八月に入り、じりじりと暑い日が続く。厨房で立ち働いていると、汗が出てくるが、調理をしているとまたぬぐうのも一苦労なのだった。 レジにも立ち、遥があるお客様におつりを渡していると、ドアが開いて、作業服姿の男性が入ってきた。一瞬滋之か、とどきりとしたが違って、彼よりもひとまわり年上の社員のようだ