告白雨雲|ショートショート
「できたぞ!」
博士の雄叫びを聞きつけた助手が、研究室に飛び込んできた。
「どうしました?」
博士は落ち着いた笑顔で応えた。
「なんでもない」
博士は慎重にドアを閉める。
「誰にも見られてはならん」
博士はフラスコの透明な液体を揺らしながら、微笑んだ。
この透明な液体こそが、長年の研究の成果、「愛の妙薬」であった。たった一滴でたちまち恋に落ちる。
博士はこの大事な研究成果を自宅で保管しようと考えた。
フラスコに栓をし、家路を急ぐ。博士は研究のため三日三晩寝ていなかった。
足がもつれた博士の手からフラスコが飛び、宙を舞った。
博士が瓶が落ちた場所を見ると、太陽に煌めくガラスの破片だけがあった。愛の妙薬は失われていた。
こぼれた妙薬の上に燦々と太陽が照りつける。
液体はやがて蒸発し、空の高いところで雲となった。雲は渦を巻き、黒く沈んでいく。
雨が、博士の住む街を濡らしていた。
人々は不意に愛の言葉を口にした。それが博士の耳に届くことはなかった。
(410文字)
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本作品はamazon kindleで出版される『410字の毎週ショートショート~一周年記念~』へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です。
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