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むしゃくしゃして、やった|ショートショート

むしゃくしゃして、スイカを買った。
ビタミンCを補おうと思ったとか、贅沢をしようと思ったとか、そういうことではない。ただ、後先も考えず、むしゃくしゃしてたから、買った。

大きなスイカに網をかけてもらい、八百屋さんを出た途端、どっと後悔が襲ってきた。どうしてこんなの買ったんだろう。あぁ、重い。一人で食べられるかな。

通りすがりの人にジロジロ見られながら、ようやく家に着いた。
さあ、このスイカどうしてやろう。むしゃくしゃして買ったのだから、やはりパリーンと叩き割るのがいい。

レジャーシートを敷き、その真ん中に丸いスイカを座らせた。準備万端。
「さあ、覚悟!」
目を瞑り、真上から、棒を振り下ろした。
手応えが、ない。

目を開けると、スイカが真剣白刃取りよろしく、両手で棒を押さえている。
「は?」
「まあ、そんなイライラすんなよ」
スイカは両手で棒を挟んだまま言った。
「それに、そんなことしたら案外飛び散るよ、オレ」

「子供のキャンプじゃないんだから、大人が一人寂しくやるもんじゃないわけよ。スイカ割りなんてさ。どうせやり終えた後に寂しさが募って、逆にイラついてたよ、きっと」
呆気に取られて、言い返す言葉が見つからなかった。棒を持つ手からは、いつの間にか力が抜けていた。

「普通に食べた方が美味いよ。美味しいもの食べたらイライラも消えるさ」
スイカは喋り続けている。
「あ、そうだ。種を飛ばせばいいんだよ。ベランダから。種と一緒にイライラを吹き飛ばせ、なんてね」

「どうせあれだろ、むしゃくしゃした理由も、恋人にフラれたとか、しょうもなーー」
スイカの少し毒舌な大演説を断ち切るかのように、ナイフを入れた。スイカはそれきり喋らなかった。

ひと切れ持って、ベランダに出てみた。
日が落ちた夏の風が、爽やかに頬を掠めた。種を勢いよく飛ばす。
下を誰かが通ったらどうしよう。まあ、いい。その時はこう言おう。

「むしゃくしゃして、やった」

〈了〉

今週はへいたさんとショートショートnoteでお題の出し合いをしています。
本日のお題は「イライラする」「スイカ」「毒舌」でした。

同じお題の、へいたさんのお話はこちらから。

このチャンレンジも、あと1日になりました。
明日のお題は、こちら! じゃん。

「逆転」「宝石」

「スイカ」「逆転」「宝石」でいきましょう。よろしくお願いいたします。

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