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失恋墓地|ショートショート

「和尚さん、大変です!」
「また墓荒らしか。今月で何度目だ?」
「四度目です」
「うむ、やはり警察に相談するか」

「で、具体的に盗まれたものは?」
「失恋の遺品でございます。恋人から贈られた指輪、腕時計。中には高額なものも」
「ここに、そういう類のものが埋葬されていることは、広く知られているのですか?」
「えぇ、私どもはひっそりと失恋墓地をやっておったのですが、口コミで広がりましてね。最近ではマスコミの取材やらなんやらで。墓荒らしが発生するようになってからは観光参拝は禁止したのですが」
「我々も捜査しますが、模倣犯も出そうですね。遺品埋葬はいっそ禁止されてはいかがですか?」
「わかりました」

「また荒らしですか。遺品埋葬は禁止されたのでは?」
「はい、刑事さんのご助言通り、禁止しましたとも」
「それでも?」
「遺品ではなく、思い出供養にしたのです。失恋の経緯を事細かに書いた巻物を埋葬するという。しかし、他人の不幸は蜜の味のようで……」

(410文字)

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