半笑いのポッキーゲーム|ショートショート
「見て、これ」
目の前にスマホの画面が突きつけられる。
「近い、近い」
2匹の犬がジャーキーの両端をくわえて食べている動画だった。
「ウチの犬。ウケない?」
高瀬は左手でスマホを掲げながら、右手でポテチの袋をまさぐった。
俺と高瀬はあみだくじで負けた学級委員で、時々放課後の教室で「仕事」をさせられた。俺たちは「仕事」終わりに「打ち上げ」と称して、カバンに忍ばせたお菓子を食べながら二人で他愛もない話をした。今日のお菓子は高瀬の担当だった。
「なんだよ、これ」
「新しい芸」
「しょうもな」
俺はポテチを3枚いっぺんに口に放り込み、指の塩粒を制服のズボンの尻で払った。高瀬はスカートのポケットからハンカチを取り出して指先を拭いている。
「次、甘いの」
俺は机の上のポッキーに手を伸ばす。期間限定の塩キャラメル味。高瀬のチョイス、最高。
*
私は成宮くんがポッキーを齧るのを眺めていた。
この日のために、飼い犬に芸を仕込んだのだ。この時のために、塩味のポテチと甘いポッキーを買ったのだ。気づけよ、ばか。
こちらの視線に気づいて、成宮くんが振り返る。目があう。1秒、2秒。
「あ、高瀬も食べる?」
ポッキーの銀色の袋が差し出された。
私は回収されない伏線をせっせと張っていた日々を思い出し、笑った。
「てか、私が持ってきたやつだし」
塩キャラメルの塩味が、少し強かった。
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