旅に出たくらいで、人生は変わらない|映画感想文
私が大好きなケイト・ブランシェットの出演作、『バーナデット ママは行方不明』をオンライン試写で観る機会をいただいたので、一足先に感想を。
あらすじ
人生がうまくいかないバーナデット
バーナデットは創造者でもあり、破壊者でもある。
若い頃に天才建築家として名を馳せ、かつてクリエイティブに人生を捧げてきたが、今ではご近所のママ友から疎まれる厄介者だ。
度重なる隣人とのトラブルはだんだんエスカレートし、最後はどうにも押しつぶされそうになるバーナデット。追い詰められ、逃げるあてもなく、小さなトイレの窓から抜け出して向かった先は、南極だ。
暗がりの中に蔓を伸ばす植物
バーナデットの家は、美しくかつ廃れている。
建築家だった彼女の過去と、挫折を象徴するかのようだ。
映画の冒頭で、家の中に侵入し、カーペットの下に伸びた植物の蔓のために、バーナデットがカーペットに穴を開け、蔓の先っちょを覗かせてやるシーンがある。
彼女は、自分の家を覆い尽くす勢いで伸びていく蔓の成長を、助けてあげている。
太陽を求めて伸ばしている蔓のはずなのに、カーペットの下に潜り込んでしまい、どんなに伸びても光は差さない。
それは抑圧された想いを抱え、虚無の日々を過ごすバーナデット自身と重なる。
旅に出たくらいで、人生は変わらない
人は現状を打開したい時に、旅に出る。新しい土地、見たことない景色、誰も知らない街に行き、全く新しい刺激を求める。
でも、本当に旅で人生が変わるのだろうか。
旅は本当に小さな、見逃してしまうほどの小さなきっかけに過ぎないのだと思う。
バーナデットはもともとクリエイティブな人だった。創造に対する情熱の炎を内に秘め、その火で自分自身が火傷をしていただけだ。
そこで、バーナデットは旅で人と出会い、自分を求めてくれる建築上の課題を見つけ、再びクリエイティブに生きることになる。
旅が全ての特効薬になるわけではない。旅だけが解決策でもない。
ただ、旅が人生を前向きにするきっかけにはなりうるのだ。
自分の居場所
ケイト・ブランシェットの前半の鬱屈した日々から、後半の家族への電話のシーンへの表情の変化は素晴らしい。
前向きなオーラは、画面を超えて観る人に伝わり、伝染していく。
これは人生に前向きになれる映画だ。
バーナデットは、かつての恩師との久しぶりの会話で「さっさと仕事に戻れ」と言われる。全ての不調の原因は、クリエイティブから離れていることだ、と。
創造こそが、彼女の居場所なのだ。創造者であり、破壊者。
旅を通して自分を見つめ直す、なんて陳腐なことじゃない。でも、自分の居場所の(再)発見は、人に力を与える。
シンプルにそれを目の当たりにできる映画だった。
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