見出し画像

旅に出たくらいで、人生は変わらない|映画感想文

私が大好きなケイト・ブランシェットの出演作、『バーナデット ママは行方不明』をオンライン試写で観る機会をいただいたので、一足先に感想を。

あらすじ

シアトルに暮らす主婦のバーナデット。
夫のエルジーは一流IT企業に勤め、娘のビーとは親友のような関係で、幸せな毎日を送っているように見えた。

だが、バーナデットは極度の人間嫌いで、隣人やママ友たちとうまく付き合えない。
かつて天才建築家としてもてはやされたが、夢を諦めた過去があった。

日に日に息苦しさが募る中、ある事件をきっかけに、この退屈な世界に生きることに限界を感じたバーナデットは、忽然と姿を消す。

彼女が向かった先、それは南極だった──!

公式ホームページより

人生がうまくいかないバーナデット

バーナデットは創造者でもあり、破壊者でもある。
若い頃に天才建築家として名を馳せ、かつてクリエイティブに人生を捧げてきたが、今ではご近所のママ友から疎まれる厄介者だ。

度重なる隣人とのトラブルはだんだんエスカレートし、最後はどうにも押しつぶされそうになるバーナデット。追い詰められ、逃げるあてもなく、小さなトイレの窓から抜け出して向かった先は、南極だ。

暗がりの中に蔓を伸ばす植物

バーナデットの家は、美しくかつ廃れている。
建築家だった彼女の過去と、挫折を象徴するかのようだ。

映画の冒頭で、家の中に侵入し、カーペットの下に伸びた植物の蔓のために、バーナデットがカーペットに穴を開け、蔓の先っちょを覗かせてやるシーンがある。
彼女は、自分の家を覆い尽くす勢いで伸びていく蔓の成長を、助けてあげている。

太陽を求めて伸ばしている蔓のはずなのに、カーペットの下に潜り込んでしまい、どんなに伸びても光は差さない。
それは抑圧された想いを抱え、虚無の日々を過ごすバーナデット自身と重なる。

旅に出たくらいで、人生は変わらない

人は現状を打開したい時に、旅に出る。新しい土地、見たことない景色、誰も知らない街に行き、全く新しい刺激を求める。

でも、本当に旅で人生が変わるのだろうか。

旅は本当に小さな、見逃してしまうほどの小さなきっかけに過ぎないのだと思う。

バーナデットはもともとクリエイティブな人だった。創造に対する情熱の炎を内に秘め、その火で自分自身が火傷をしていただけだ。

そこで、バーナデットは旅で人と出会い、自分を求めてくれる建築上の課題を見つけ、再びクリエイティブに生きることになる。

旅が全ての特効薬になるわけではない。旅だけが解決策でもない。
ただ、旅が人生を前向きにするきっかけにはなりうるのだ。

自分の居場所

ケイト・ブランシェットの前半の鬱屈した日々から、後半の家族への電話のシーンへの表情の変化は素晴らしい。
前向きなオーラは、画面を超えて観る人に伝わり、伝染していく。

これは人生に前向きになれる映画だ。

バーナデットは、かつての恩師との久しぶりの会話で「さっさと仕事に戻れ」と言われる。全ての不調の原因は、クリエイティブから離れていることだ、と。

創造こそが、彼女の居場所なのだ。創造者であり、破壊者。
旅を通して自分を見つめ直す、なんて陳腐なことじゃない。でも、自分の居場所の(再)発見は、人に力を与える。
シンプルにそれを目の当たりにできる映画だった。

この記事が参加している募集

また読みたいなと思ってくださったら、よろしければスキ、コメント、シェア、サポートをお願いします。日々の創作の励みになります。