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スキを集めた物語ベスト10

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これまでの物語の中で、読者のみなさまに特にスキを集めたショートショートをセレクトしています。【月毎更新】
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#毎週ショートショートnote

失恋墓地|ショートショート

「和尚さん、大変です!」 「また墓荒らしか。今月で何度目だ?」 「四度目です」 「うむ、やはり警察に相談するか」 「で、具体的に盗まれたものは?」 「失恋の遺品でございます。恋人から贈られた指輪、腕時計。中には高額なものも」 「ここに、そういう類のものが埋葬されていることは、広く知られているのですか?」 「えぇ、私どもはひっそりと失恋墓地をやっておったのですが、口コミで広がりましてね。最近ではマスコミの取材やらなんやらで。墓荒らしが発生するようになってからは観光参拝は禁止し

ショートショート王様|ショートショート

「あ、ショートショートおじさん来た」 駅前のコーヒーショップ。 そのおじさんは決まって月曜日の朝7時にお店にやってきた。 注文はブレンドを二つ。お持ち帰り。 「サイズはいかがいたしますか?」 「ショート、ショート」 そんなわけで、おじさんは「ショートショートおじさん」と呼ばれていた。 その日は、新入りのアルバイトがショートショートおじさんのレジにいた。 「サイズはいかがいたしますか?」 「ショート、ショート」 「お名前はなんとお書きしましょうか?」 今まで誰もショー

噛ませ犬ごはん|ショートショート

レストランの入り口ドアのベルが鳴った。 「すみません、もう閉店の時間で……」 入り口に立つ男の姿を見て、すぐに口をつぐんだ。この街で一番のお金持ちのご主人が、立っていた。 「まだやってるかね? 腹ペコだが、他はどこも閉店でね。外から君の姿が見えたのだが」 ギャルソンは、チップを弾んでくれそうだ、と頭の中で計算した。しかし、シェフはすでに帰ってしまっていて、料理は出せそうにない。どうしたものか。 「確認いたします」 ギャルソンは急いで厨房に向かう。何か出せる料理はないか。

オノマトペピアノ|ショートショート

先ほどから、ピアノの音が変だ。 調律師め、仕事をサボりやがったな。 いや、何かが違う。 指の動きに合わせて鳴る旋律は、どこか啜り泣きのようでもある。 クスン、クスン。 音楽は、奏でる人の心の内をよく表すと言う。僕の心の奥の悲しみが、ピアノを伝って流れ出ているに違いない。 そう気づいた僕は、全身から溢れる悲しみを鍵盤を叩く指に込めた。 でも、なぜ僕はこんなに悲しいのだろう。 シクシク、シクシク。 それでも鍵盤の上を流れる指は、止まらなかった。 ふと、この啜り泣きの旋律は、

心お弁当|ショートショート

その日は、雨が降っていた。 夜も遅く、コンビニ弁当でもと思ったところに、見慣れないお弁当屋さんの灯りが見えた。 傘の雫をバサバサと落とし、お店に入る。大人が3人も入ればぎゅうぎゅうになるような小さなお店だった。 「いらっしゃいませ。今日はどんな御気分で?」 並べられた黒い箱のお弁当を覗き込んで驚いた。 「雨でぐしょ濡れ嫌な気分」 「残業終わってほっとした気分」 「恵みの雨で嬉しい気分」 「ナイターの結果にワクワク気分」 無機質なプラスチックの蓋に覆われていて、肝心の中身は

ヘルプ商店街|ショートショート

「ヘルプ、一丁いかがぁですかぁ〜」 店先の店主の大声に、思わず振り返る。 今さら人の助けなどいらない。そう思っておきながら、声に反応した自分自身に腹が立った。 声の主から無理やり目を逸らして歩き出そうとすると、店主が店を飛び出し追いかけてきた。 「お兄さん、お兄さん、ヘルプ売ってくれませんかねぇ」 「なんだ、急に」 「うちね、ヘルプの買取もしてるんです。よかったら、お兄さんのヘルプを買い取りますよ」 「買い取る?」 「えぇ、お店が人を助けるのがヘルプ販売、お客さんが人を助

告白雨雲|ショートショート

「できたぞ!」 博士の雄叫びを聞きつけた助手が、研究室に飛び込んできた。 「どうしました?」 博士は落ち着いた笑顔で応えた。 「なんでもない」 博士は慎重にドアを閉める。 「誰にも見られてはならん」 博士はフラスコの透明な液体を揺らしながら、微笑んだ。 この透明な液体こそが、長年の研究の成果、「愛の妙薬」であった。たった一滴でたちまち恋に落ちる。 博士はこの大事な研究成果を自宅で保管しようと考えた。 フラスコに栓をし、家路を急ぐ。博士は研究のため三日三晩寝ていなかった。