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オノマトペピアノ|ショートショート

先ほどから、ピアノの音が変だ。
調律師め、仕事をサボりやがったな。

いや、何かが違う。
指の動きに合わせて鳴る旋律は、どこか啜り泣きのようでもある。
クスン、クスン。
音楽は、奏でる人の心の内をよく表すと言う。僕の心の奥の悲しみが、ピアノを伝って流れ出ているに違いない。

そう気づいた僕は、全身から溢れる悲しみを鍵盤を叩く指に込めた。
でも、なぜ僕はこんなに悲しいのだろう。
シクシク、シクシク。
それでも鍵盤の上を流れる指は、止まらなかった。

ふと、この啜り泣きの旋律は、僕のものではなく、僕自身に向けられたもののように感じた。嗚咽が、僕の周りでグルーブとなって波紋のように広がっていた。
オイオイ、オイオイ。

そう気づいた時、悲しげなピアノに混ざって機械音が聞こえるようになった。ピッ、ピッと規則的な音を出すそれは、どこか非情で、この切ない旋律には似つかわしくなかった。
僕は、演奏をやめた。

ピーという音を合図に、泣き声の音量が上がった。
「ご臨終です」
「お父さん、最後まで夢の中でピアノ弾いてたかな?」
お母さんの一言に、新たな啜り泣きの旋律が、病室に広がった。

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こちらの企画に参加しています。3週間ぶり。


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