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一月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part5

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

一月の文字「定」は1月31日をもって締め切りました!
(part1~のリンクも文頭・文末にありますので、作品の未掲載などがありましたらお知らせください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローいただくと更新のお知らせが通知されます。

そして二月の文字「分」です!
応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください。

応募作(1月27日〜31日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

1月31日

一見 才 @SI_hitOmi_NoveL
知らない宛名から定期的に仕送りが届く。毎月3万程、きっちり25日に届く。通帳アプリからそれを見、一人の女性が「もう5年も送ってくださって、かえって申し訳ないわ」と誰かに電話をかけた。後から聞いたが、それは私の治療費に当てられているという。

……私、どこも悪いところなんかないのにな。

チアントレン @chianthrene
何があっても定跡通りに行動していればすべてがうまくいった。自らのコモンセンスに従うだけでなにひとつ問題がなかった。人間としての出来が違うのだ。僕は僕自身の常識を絶対に裏切らない。直感が読み上げるシナリオを24時間演じきる名優だった。最終回は崖から見下ろすあの岩盤。全く完璧な人生だ。

リリィ @lily_aoi
それは定期的にやってくる。「もしも」のかたまり、「いいな」のかたまり、漠然とした不安。それらがないまぜになったものだ。今回、私はお風呂の栓を抜き、流れていくお湯にそれを紛れ込ませた。お隣さんは芝生に水をやりながらそれを消している。私は見なかったふりをして、翌日、花の調子を尋ねる。

リリィ @lily_aoi
川向こうにあなたは住んでいる。幅広の川なのであなたの姿も家も見えない。洗濯物を干しながら毎日、川の向こうを眺める。年に一度、定期船が来る。丁寧に口紅を引き、船の中にあなたの姿を探す。飴玉の缶に流れ星を集めているのは、向こう岸に渡れるならば一生分の願いと引き換えても構わないからだ。

リリィ @lily_aoi
「あ、間違えた」いつもはフリーハンドの妻が定規を使って二重線を引いた。訂正し「最後くらいはね」とこちらに離婚届を押し出す。
おおらかなところに魅かれて、大雑把なところが嫌になった。彼女にも同じような言い分があるだろう。
真っ直ぐな二重線が胸に刺さる。もうお互いの人生は交わらない。

久寓 @kuguu_
「次は~きしょう~きしょう~」
車内アナウンスとともに鳴り響く大音量のアラーム。渋々起き上がる他の乗客たちを横目に、俺はいそいそと枕を調整し再度就寝体勢に入る。
ここから先の乗車は定期券を購入している者だけの特権なのだ。布団に潜り直して、いざスタンバイ。

「次は~にどね~にどね~」

リリィ @lily_aoi
彼女の家のソファには猫の絵のクッションが置いてあった。僕が座ろうとすると「こっち」と反対側をすすめる。彼女は真ん中だ。彼女が猫を飼っていたと知るのはそれからしばらくだ。ここが定位置だったのとクッションをよける。その部分だけへこんで見える。そうか、だからいつも何かを感じていたのか。

リリィ @lily_aoi
ああ、と間抜けな声が漏れた。エレベーターは定期検査だった。ご迷惑をおかけしますと頭を下げたキャラクターに、32階だぜとつぶやく。休日出勤しようとしたらこれだ。人生何度目かのついてない日。低空飛行は受け入れるに限る。ラーメンでも食べにいくか、と空をあおぐと初夏を泳ぐ飛行機が見えた。

もとし @motobaritone
あなたっていつも笑顔ね。素敵よ。会社に行くのが早過ぎるわ。そうだ!今日ね、あなたの同僚のシマダさんから変な電話があってね。最近、会社であなたを見かけないって言うのよ。一体何を言ってるのかしらね。え?定時で帰る?会社には辞表を出した?そんな事より早く見せてよ、その見事な作り笑顔を。

のび。 @meganesense1
駅のホームで定期券を拾った。私と同じICカードだが文字が掠れていて、日付も駅名も何もかも分からない。お馴染みのペンギンの姿も判別できない。これならどこまでもいけそうだ、などど浮ついて自動改札機にタッチした瞬間、気を失った。次に目を覚ますと電車の中で目の前に座る乗客には頭がなかった。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
冬に逢う女。いつもおなじ袷を着る。しかし一輪のアネモネの咲く処は、胸、或いは腿と、定まらぬ。「もうお逢いしません」聞えずともよさげな、ささやき。髪もまなざしも、他人だった真白き日へと、刻を戻しゆく。雪の影が障子にうすく舞い、女の香も消え失せた部屋には、紫の花弁が一片、おちていた。

浅葱佑 @telra12
夜空の下、定点観測で撮った写真を見てみると、そこには見覚えのない、白くて半透明の水牛が一頭写っていた。こういうのは稀にいる、薄すぎるから肉眼では見えないんだ、とカメラに詳しい友人が言った。その後大雨が降り、撮影場所の湿原は浅い湖のようになっていた。水紋が立つ湖を一人で眺めた。

浅葱佑 @telra12
近所の定食屋がとうとう店仕舞いする。最後の日、いつもの定食へ箸をつけながら店主に「私が料理人だったらこの味を受け継げたのに」と冗談を言ったら「大丈夫よ」と店主が言った。その言葉の真意は確かめなかったが、今日も密かに、私は口にする料理に定食屋の味を期待している。自炊の味にさえ。

太陽や月など @as1mind1soul
定刻を過ぎて騒然とする会場に突然、ギターの爆音が落とされて、火が付いた。走って現れたフロントマンがマイクを此方に向けて手を振って煽る。シング!シング!オレたちは身体中の記憶を探りながら直ぐに夢中になって一つの波になる。イントロから大合唱が始まった。マスクが破れんばかりに荒々しく。

TAKA001 @001TAKA
贋作かどうかを見極めるポイントは?と問われた鑑定士は、じっと一点を見据えて「実はわかりません」と答えた。 ここに壺があるとして、私が感じる何かは貴方の感じる何かとそう大きな違いはありません。けれど審美眼の魂で「自らこそ本物なのだ」と主張する塊と無言の対話すると、嘘に気付くのです。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
斜め向う、リビングソファに座る息子を見てきた。言葉を発し、背をのばし、声を変え、口を噤み、皺を刻み……うごかぬので、結婚相談所に電話。結果伴侶と出逢うことはなく、やがて息子は繭糸を吐き、軀を隠した。157年の定点観測の末、家は崩れおち、地へ天へ糸を無数に張らせた息子だけが、遺った。

雷田万 @light_10_10000
定期試験の結果が返ってきた。即座に飛行機に仕立て上げ、帰り道に落日に向かって飛ばす。茜色と水色の狭間で、白い点と横並びになった。点はやがて、野球帽を被った少年たちの歓声を受けて地上へと落ちていく。かつての野球少年は、墜ちた紙飛行機を拾い上げて溜息をついた。未だに進路は定まらない。

もとし @motobaritone
好きな人に告白する。今までは好きになった人なんていなかった。仕事が忙し過ぎて考えもしなかった。だけどもう仕事は引退する。皆の恋が成就するようにと必死に頑張ってきたから今度は自分へのご褒美。天国界のアイドルとして初めて恋愛をする。世間は騒いでいる。仕方ないわ。元アイドルの定めね。

トガシ @Togashi_Design
「ビー!」
エレベーターの定員オーバーのブザーが鳴り響く。
しかし、最後に乗って来た人は降りようとしない。その場にいた全員が「はぁ」と迷惑そうなため息をつく。僕も「なんて図々しい人なんだろう」とその人を見た。
「――あ!」
僕はすぐにエレベーターから降りた。
その人は補聴器をしていた。

のび。 @meganesense1
光の海を見ていた。アンコールが聞こえないのはウイルスのせい。でも、分かる。みんなが待っている。私は私を肯定する。早々と止まった身長。終わってる運動神経。作ってるって言われる声は地声で、滑舌が悪いのは舌が短いから。それが私。ゴーサイン。光の海に飛び込む。そして私は、アイドルになる。

トガシ @Togashi_Design
「本日、臨時休業」
なんだよ、2時間もかけて来たのに。ホームページには「不定休」って書いてあったけど、運が悪いな。
「あ!すぐ開けますから!」
その声に振り向くと、店主らしき人と奥さんと…小さなお子さんが。
「いやいや!また来ますから!」
運が悪いんじゃない。タイミングがズレただけだ。

山口絢子 @sorapoky
近くの公園にある、メタセコイア並木。季節毎に違う姿で、楽しませてくれていた。先日行くと、商業施設開発のため当面閉鎖する旨の貼り紙が。定点観測を当たり前のように思っていたが、そうではなかった。一期一会とは、人に対してだけではないのだ。再開されたら、これまで以上に大切に会いに行こう。

百度ここ愛 @cocoa_100oC
初めて出会った時、定められた運命だと思った。だから、なによりも優先してあなたの隣を守った。
その甲斐あって、今日私はあなたの妻になる。
「幸せにしてくれとは言わない。最期まで愛して」
あなたは不思議そうな顔して、一番好きな顔をする。
「それだけで幸せだろ」
きっと、幸せは一生続く。

tomodai @phototomop
父さんは定期的に土産を持ち帰る。新鮮な肉や果物に野菜。自然の恵みに感謝だ。だが最近、父さんはコンビニ弁当やチーズバーガーを持ち帰るようになった。「都会の空はろくに星も見えない」とため息をついている。「いつか父さんのように家族を支える立派なタヌキになるんだ」。僕は月に誓う。

百度ここ愛 @cocoa_100oC
風に吹かれ、たどり着いた場所。隣のおじいさんはいつも僕に話しかけてくれた。そのおじいさんも今日、風になったらしい。
「たんぽぽしゃ」
舌ったらずな声は、おじいさんの孫だった。小さい口から、ふぅと息が吹き付けられる。僕から綿毛が飛んでいく。僕の子もいつか定住の地を見つけるのだろう。

へいた @heita4th
自由研究。1ヶ月間の定点観測の結果、河川敷に住む通称ノラ(又はボス、ミケ、ニャー)は周辺に住む複数の住人に餌を貰っていると分かった。どの名前で呼んでもにゃあと愛想良くなく。誰かがボスと呼んで探すと、ミケはあっちにいましたよと他の人が答える。結論。ノラはみんなの猫で、誰の猫でもない。

神崎鈴菜 @suzu_nasuzusiro
「誰か捕まえてくれ!」叫び声に振り向けば、剪定された木の枝が雪の上を走っていた。両手で掴むと、枝先をばたばたと人間の足のように動かしている。「積もった雪に映る影を見て、人間だと思い込む奴がいるんだ。すぐ燃やさないと…おい、また行ったぞ!」燃やさないとどうなるのか。逃がしてみよう。

句読点。 @novel_green
「キミ、ボクノコトミエルノ?」『見えないよ』「じゃあなんで?」『さぁ』「あ、泣いてるんだ」『泣いてなんかいないさ』「ぼく、なんにもできないよ」『だから話しかけてるんだよ』「へんなの」『変で結構』「ねぇ、その定規とって」『ほれ』「見えないものを測るのなんてさ、やめちゃえばいいんだ」

碧乃そら @hane_ao22
娘が幼稚園で貰ってきた七色のカードを改札口で見せた。「『虹色定期券』ですね」優しげな駅員さんが、娘に目を呉れる。「行きたい処はありますか?」「みぃちゃんね、お空の国に行ってみたいの。雲のわたあめを食べたいの」駅員さんは微笑んだ。「青色のホームへどうぞ。行ってらっしゃい、良い旅を」

ファジーネーブル @Fuzzynavel01
皆、逃げていた。必死に逃げていた。長田と書いて、おさだと読む長田真理に追われ逃げていた。皆が追われる理由は不明だが、追われたら逃げるのがお定まりらしく、皆、逃げて逃げて逃げていた。そしてそれがお定まりとはいうが、おさだまりは皆ではなく、どうしたってあちらのほうなのであった。

明里水也 @m_iya_o
ねぇ、待って。追い縋る声が痛々しい。けれどもうそばにはいられないから振り向かなかった。ともに生きることができないと定められている。どうして、と思わないことはない。半身を引き裂かれるような痛みを覚えながら、流れる黒髪を思い出す。春には花を、冬には雪を。飾った私を、覚えていてほしい。

のび。 @meganesense1
奥のキッチンに通じる小窓から、毛深い腕と共にオムライス、カレー、ミートソーススパゲッティが飛び出した。顔も身体も見えなくてまるで腕だけが存在しているみたい。自分でも変だと思う。でも好きになってしまったのだ。店奥窓際ソファー席。定位置から伸びる腕を今日も定位置から眺めている。

もとし @motobaritone
私はまだ1回も寝た事がない。いつものように今夜も会社で寝泊まりする。定時?初めて聞く言葉だ。随分耳障りの良い言葉だな。社員が少ない我が社は私が出世頭だ。だから私が頑張らないと。あっ社長!今から会議?はい!分かりました。やります!—-。『父さん凄い寝言だな。夢の中まで働き過ぎだよ。』

Cafe @ruru0424ruki
いつからだったろう。彼女が僕に話しかけるようになったのは。たまたま所属した委員会が一緒になったのがきっかけか。彼女はいつも青い三角定規を愛用していたのをよく覚えている。ある日彼女は僕にその三角定規を貸してくれた。僕はそれを彼女に返したいのだが、彼女に会えることはもうない。

のび。 @meganesense1
無職のお化けに会ったことがある。駅前の蕎麦屋でだ。「周りが定職につけと五月蝿いのです」とお化けが言うので自分も無職だから気持ちが分かると言うとお化けは酒を奢ってくれた。それから何度かその店へ行ったが、再びお化けに会うことはなかった。仕事に就いたのかもしれない。未だ私は無職である。

のび。 @meganesense1
野良定礎を見に行く。野良定礎とは、建物が取り壊された跡地に何かの手違いで残された定礎と書かれたプレートのことだ。定めるべき物もなく取り残された定礎だが、不思議と物悲しさはない。むしろ気高さを感じる。それでは君は誰がために祈るのか。冷たい風が吹いた。定礎に白が落ちる。初雪であった。

永津わか @nagatsu21_26
お勘定頼むよ。いつも私を呼び、お釣りは貴方にと受け取らないお客様。きっと孫の代わりなのよと周囲に言われても、気が引けて貯金箱に食べさせていた。そんなある日、ふと会話が漏れ聞こえる。苦笑を浮かべ「早くに引っ越した人に似ていてね」と上を指して。私は貯金箱を私のために開けようと決めた。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
ロビーには記者達が張る。誰も、冬陽さすテーブルで紅茶を飲む私に気づかない。銀幕とブラウン管の姿が私と、皆思い込んでいる。ふいに紅茶の海が翳り。立ちはだかる男。角の生えた。「映画みたいに定刻どおりね」「天の巡りですので。参りましょう」男の手に触ると、地上の明暗も喧騒も歪み、消えた。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
恋人だよ、と男は云う。けれど私は首を傾げる。袋からどさどさと証拠らしい品をだす。パジャマの緑青にすこし胸が詰るが、やはり定かでない。翌日、別の男に会う。黒い眸を見た瞬間、恋人をふかく傷つけたことを彼に告白した記憶が、泪とともに溢れだす。それでも、思い出せない。恋人が誰であったか。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
大人から少女へ姿を戻し、小学生からやり直している。銀髪を揺らす算数の教師に私は恋する。はじめに少女だった頃とは、ちがう好み。電車にのる。ラッシュより早い刻にくる彼にあわせ。私はラグランジュの定理について質問する。初恋でもあるまいに、ぎこちなく。教師は橙の陽を眼鏡に耀かせ、微笑む。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
定時五分でおまえの首をつかまえて、うしろから、おもいっきり吸い込んだって構わないのが在宅勤務のほぼ唯一いいところだ。四六時中おまえが気になって指先が焦れる。頬が震える。上司にも能率が落ちたと言われる始末。オフィスを引き上げたのはてめえらだろうが。おかげで今日もおれは愛猫の奴隷。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
定年退職を迎えた父が実家の敷地の隅を耕しているという。かつて祖父が同じ場所へ植えたニラは、庭の侵略者となり、大事なバラをニラの香りにされた祖母が卒倒した。「おじいちゃんの二の舞にならないようにね」「俺のはミントだから大丈夫さ、いい香りだろ?」受話器の向こうに人の倒れる音を聞いた。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
火曜定休の貼紙がパン屋のガラス戸の内側から、私をにこりと見詰めていた。曇るところのない透明の板は夕方三時五十分の寒空を写し取って、閑静な住宅街を湛えている。いつもはふっくらとあたたかな一斤のベッドへ迎え入れてくれるじゃない。明日は氷点下の予報なの。冷えたシーツじゃお腹が膨れない。

石森みさお @330_ishimori
毎朝駅前の自販機で缶コーヒーを買う。ゴチャンと出てパッカと開けてグィ飲む。液晶画面のスロットがぴぴっと回って当たればもう一本。外れると自販機は『マタ挑戦シテネ!』と毎度おなじみの挨拶を返してくる。定型文の音声に宿るぬくみとおかしみ。ひとつ伸びをして仕事に向かう。うん、じゃあまた。

彩葉 @sih_irodoruha
空から降りてくる赤い欠片に気が付き、半分に割れたハートが不定期に降るという話を思い出す。手のひらでひとつ受けると、ゆらゆらと赤い線がのびた。導かれた先にいた人を見て、胸の奥があつくなった。お互いが持つ半分でひとつの完全な形になる。その人は笑顔を向けると消え、ハートが宙に舞った。

カプセルコーヒー @cp_coffee_W
明日、世界が終わる。突然の発表に人々は慄いた。避けられない事実。最期に何をしようか。家族や恋人と過ごす者、積年の望みを果たす者、罪を犯す者、普段通りに過ごす者。だが定刻を迎えても何も起こらない。誤報だという。でもこれでようやく、誰もが自分の本質を認識したでしょうと、誰かが言った。

Cafe @ruru0424ruki
毎朝俺は自宅近くの飲食店で、魚の定食を食べている。温かいご飯にお味噌汁、それに焼き魚とお漬物と海苔がセットになった定食だ。これを食べないことには1日のスタートが決まらない。だけどたまに金欠でその飲食店に立ち寄ることができない日がある。その日は1日中、調子が出ない。

草野理恵子 @riekopi158
彼女は巨大な顔になり浮かび、安定して木の間に挟まった。「顔以外いろいろ失っていくね」「いろいろっていうか全部だよ」ってにらんだ。「もう誰にも会えないよ」「僕には会ってるよ」「他の人は顔も見たくないって言うよ。顔しかないのにね」君は笑った。こんな状況でも笑える君が凄く好きで震えた。

もとし @motobaritone
新しくゴミの分別をせずに廃棄できる、街の決まりが制定された。同じ頃、彼氏と同棲を始めた。掃除を頼む事も多い。綺麗好きなのだが、私の好きな紙の本を誤って捨てた事があった。生ゴミが付着して読めなくなり、喧嘩。関係も解消された。『本の為…。』今ではきちんと分別をしないと夜も寝られない。

海人 @Leonids0809
早く帰れた日に限って「先に食べてて」と君からメール。慣れない冷蔵庫から余り物を取り出す。流し見るホームドラマに僕らを重ねても将来は定かじゃない。不意にチャイムが鳴りドアを開けると「あっ!こんな所にいたのかー!」君が指差す先には昔あげたキーケース。僕らの足跡が、床でふて寝していた。

きり。 @kotonohanooto_
息が苦しい。精神的におちつかなくなり、不安が増してきたので、安定剤を飲む。飲まないですむ日が多いといいんだけど、冬は特に飲む気がする。もうすぐ、たいせつなものを失くした二月がやってくる。わたしはいつ、そのことを忘れられるんだろう。問いかけてもわからず、ただ薬が効くのをじっと待つ。

森戸林 @Rin_Morito
「最初に桂馬の動きを思いついた奴って、何考えてたんだろ」
盤を挟んで向かいの友人が歩を突いた。僕は考え、それを銀で封じる。「トリッキーな奴が欲しかったんだろ」
彼は長考した。
「それでも定石には組み込まれるんだから、皮肉だよな」
最終下校時刻を過ぎている。彼のピアスが、揺れて光った。

句読点。 @novel_green
窓際のゆり椅子。昼は日が差し、夜は星が見える、君の定位置。「手紙を“書く”のと“待つ”のどっちが好き?」唐突に僕に尋ねた。「私はね?待つほうが好きなの。書くより切ない感じがして」君は、“トキメキよりも切なさがいい”と口にする、変な人だった。『僕も、好きだよ。』呟いた言葉は、空に消えた。

もとし @motobaritone
この村では15歳になると大人、つまり成人であると法律で定められている。法律を破ったらどうなるかはまだ知らない。
僕はまだ13歳。大人達を困らせたくて、つい村の木の実を食べた。「おいお前!今年から成人は少子化の影響で13歳からだぞ。よし皆!今夜はご馳走だ!食事の準備だ!」その後の記憶はない。

なみ @goo31Hlz
定価三十万円が、今なら特価の二十万円ですよ、お得ですよ……って粘ってる店員よりも、キミのなき声はずっとうるさいね。まさか、ぼくは迷子だとでも? あの有名な童謡に感化されてさ。でも、今のキミはいくらないても迷子じゃない。迷子になれるのは家がある者だけで、キミは売り物だからさ、子猫。

なみ @goo31Hlz
やっと海に来られたと吐息して、彼女は定規を取り出した。小学校の授業で使っていたという、三十センチ定規だった。そしてそれを眼前にかかげるや、地平線ってほんとうにまっすぐなのねと涙を一筋。生まれ育った山ではすべてがでこぼこだったと、この海の街で、僕と添い遂げることを誓ってくれた。

なみ @goo31Hlz
ああ、こっちにも。パソコン画面の一点を指で弾く。爪の先が甘く痺れた。「なにしてるの」問われたときには、すでに再び指を構えている。画面上……定点カメラが映すスクランブル交差点の雑踏に、ポイ捨て人間を見つけたからだ。その人間を指で弾き、「神様ごっこだよ」答える声は我ながら愉しげだ。

しまモク @mokutanpen
「やりたいことが決まってないってのは幸せだぞ」真っ白な進路希望表を見て父さんが言った。じろりと一睨みしてまたペンを手にとる。「でもな、もう決まってるのはもっと幸せだ。堂々としろ」ハッとした。紙に目を落とす。「…」私は何度も書いては消してを繰り返した文字跡に、ペン先を定めた。

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
恋人が眼鏡になった。「視力、悪かったんだ?」尋ねたら、軽く口元を緩ませたきり、何も答えなかった。しばらくして僕も眼鏡を作った。レンズ越しの恋人はそれまでと少し違って見えた。お気に入りのマグも部屋の形も。「ようこそ、日常のパラレルワールドへ」そうか、現実って、定まった形はないんだ。

TAKA001 @001TAKA
出産予定日が過ぎても陣痛のこない妻は、休日なんだし隣り町の緑地公園を散歩したいと言い出した。
「スタミナをつけたいから、ランチは焼肉ね」
結婚披露宴で使った入場曲をハミングしながら化粧を始めた姿を鏡越しに見つめた。何十年経っても忘れない1日になる予感がして、僕はお腹を優しく撫でた。

ikue.m @ikue_mini
ミニマリストである私は『定番』を大切にしている。着る服も使う物も食事も、決まっていれば迷わない。一生という限られた時間は効率的に使わなければならない。最も無駄なのが『迷う時間』だ。このようなポリシーから、私は配偶者にも定番制を用いている。今回三度目の結婚だが、配偶者はクローンだ。

きさらぎみやび @KisaragiMiyabi1
先頭から3両目、車両中央右側のドアの横。ここが私の定位置。階段からもエレベーターからも遠いからか、いつもここだけぽっかりと空いている。
「この前の事故ヤバかったな」
「ああ、電車に鉄骨積んだトラックがぶつかって女子高生が串刺しになったやつな」
ここが私の定位置。私はここから動けない。

きさらぎみやび @KisaragiMiyabi1
夜空に定規をそっと当て、月の雫で線を引く。星たちが線で繋がり寄り集まれば、宇宙に星座が浮き上がる。
「やあやあどうもこんばんは。今夜の星の調子はどうだい」
「そうですね、一等星から二等星、よりどりみどりで揃えてますよ」
星座で織った敷物は、宇宙クジラのお気に入り。百万光年彼方の光。

きさらぎみやび @KisaragiMiyabi1
「ねえ、お願い。行かないで」
懇願する私に対し彼は目尻の皺を深くして困ったように微笑む。
「すまないね、そういうわけにはいかないんだ」
定命の人はいつも私を置いて行ってしまう。私の腕の中で目を閉じ、さらさらと片端から砂のように崩れてゆく彼の表情は、少しほっとしているようにも見えた。

 @caffe_Rin_holic
海の中で月が揺らぐ。緩やかに波間をたゆたう、クラゲだ。一心不乱に泳ぐ私に目的地を問う。言葉に詰まり咄嗟に君は、と尋ねた。どこへ流されているの。半透明の月はさぁね、と皮肉にも動じない。自ら望みわたの原を漂っているそうだ。一定の速度でゆらゆらと。刺された様な心地で、思考が深海へ沈む。

MEGANE @MEGANE80418606
「光り輝くほど美しい、身分の高い男からの」恋文を定期購読している。和紙に、淡い墨で書かれた文字はいつも達筆だ。私にはなんと書いてあるのか読めないが、これは恋文である。内容がわからないのに、どうして恋文だと断言できるのか。それは私たちは文字以外にも愛を伝える術をもっているから「♡」

ファジーネーブル @Fuzzynavel01
会社の男子便所の小便器の前におしっこが沢山こぼれていて余りに酷いので横の洋式トイレの所からトイレットペーパーを取って来て床を綺麗に拭きその紙を流そうと便座の蓋をはぐったら誰かの流し忘れたうんこが待ち受けていて折角良いことをしたのに恩を仇で返されてしまった定めを呪う。

ファジーネーブル @Fuzzynavel01
珈琲奢ったるわ、バックス行こか!ってゆー友達に着いてったら、オートバックスの待合室で自販機のコーヒー奢られた。バックスってスターバックスちゃうんか!ってゆーたら、スターバックスやったらバックスゆわんとスタバゆーわって言われた。じゃ、オートバックスをバックスゆーのは定番なんか?

ファジーネーブル @Fuzzynavel01
あんな、また馴染みの定食屋行ったらおかずの棚にドーナツの皿1枚有ってん。

で、店のおっちゃんに

おっちゃーん、このドーナツ、シナモンか?

って訊いたら、おっちゃん

そのドーナツ、シナモンちゃう、売りもんや!
まあ、そこの皿全部、うちの品もんで売りもんやけどな。

やて。
腹立つわー!

ファジーネーブル @Fuzzynavel01
あんな、こないだ馴染みの定食屋行ったら、おかずの並ぶ棚にドーナツ乗った皿一枚有ってん。

で、店のおっちゃんに

おっちゃーん、このドーナツ売りもんか?

って訊いたら、おっちゃん

そのドーナツ売りもんちゃう、シナモンや!

やて。
ほんま、どーなつてんの?な話しやわ。

おしまい

臼田いちこ(サイトからの投稿)
私の会社はどこかおかしい。普通、定例会議って週1回でしょ。多くても2回。だけど、私たちは毎日定例会議を行っている。真面目な会議はもちろん、今日のお昼はどこがいいかとか今日の飲み会はここがいいとかそんな食べ物に執着ある会議。弊社、スイーツを取り扱っているのに毎日胃もたれじゃないか。

ナヲコ @nawoko140
幸と不幸の総量は一定でなければならないと彼は宣った。一方に傾けば世界は均衡を失うのだと。「だから僕はちょっとした不幸をたくさん発生させることに貢献してるってわけ。世界に奇跡を存在させるために」まずは着替えてきて、と私は静かに言った。彼は頷いて、ソースまみれの両手をひらひらさせた。

今村スイ @tsuduru_0716
お空の上に行ったら、神さまのいらっしゃるところへお行きなさい。神さまは、あかるく陽の射す窓辺にすわっていらっしゃいます。神さまはきっと、T字定規と三角定規の代わりに雲型定規を使って、あなたの新しいおうちの図面を引いてくださるでしょう。ここちのよいおうちを、造ってくださるでしょう。

おかゆ @Okayuno140
いつもは憂鬱なだけの満員電車が、ほんの少しのワクワクを含んでいる。定期券区間の四つ先。貴方の最寄駅には、宝石みたいな思い出が詰まっている。記憶の中の貴方は、どのページでも素敵に描かれているから。物語の最後は、飛びきり綺麗に締め括らなければいけないね。「さよなら」まで、あと一駅だ。

飛馬 光 @AsumaHikaru
これが自分の定め
そう想って足を踏み出した時
世界が変わった

定めだと思っていたのは多分自分だけで
実は巧妙な偶然が重なって
今ここにいて

やるべきこと
やらなくてはいけないこと
全てを俯瞰できるこの場所から
踏み出すことに意味がある

それは定めかもしれないけど
自分が選んだ道だから

ダニー @5FUmQge6xskyxmC
ジェットコースターが苦手だった。レールをなぞって定位置に帰ってくるだけの乗り物を怖いと思った事はない。ただ、叫び声を上げる事も、両手を上げて笑う事も、僕にはどうしようもなく恥ずかしかった。何も出来ず、ただ定位置に戻るのを待つだけの居心地の悪い時間が、堪らなく苦手だったんだ。

旅人 。 @ryoi44
顔と体は嫌いだけど、私の心は好き。見える物が嫌いだから、見えない物を好きになった。霧の中に霧色の家を建てたら、霧色の調度品を揃えて、霧色に染めた服を着る。私は、私の全てを好きになりたいから、私から私を見えなくするのだ。不定な白に隠した数字のような日々は、きっと私に目を潰させない。

よつ葉 @Kleeblatt3939
定期船入道雲を超え行くよ
この一句を見た時、比喩表現なのだと思った。《本物》を見て、言葉通りの光景なのだと知った。悠々と海を渡っていた定期船が、いつの間にか空を渡り始め、入道雲を超えていく。上手に生まれることのできなかった魂を乗せて行くのだという。どうか次は幸せになれますように。

カピちゃん(サイトからの投稿)
私は、使った物を定められた場所に戻すのが苦手である。そんなうちのリビングは、案の定散らかっている。でも、ちゃんとわかっている。脱ぎっぱなしの服の山の中にリモコンが紛れていることも、ソファの下にある片っぽの靴下の存在も、直に帰宅する旦那の怒りスイッチが、この部屋の汚さにあることも。

みやふきん(サイトからの投稿)
一定人数詰め込まれた僕ら。きつく編んだ三つ編みの彼女はいつも正しい。白けた空気の漂う空間では窮屈で、みんな薄ら笑いを浮かべて遠ざけた。彼女に染みついていた善意の笑顔が、硬いのっぺらぼうに変わってしまったのは、まわりが醸し出す空虚な冷気に晒されてしまったから。まるで箱の中のみかん。

臼田いちこ(サイトからの投稿)
65歳になった祖父が長年勤めていた会社を定年退職した。もう歳も歳だからこれからはゆっくりしてほしいと思っていた。だけど、祖父はまだまだこれからだなんて言って、働ける場所を楽しそうに探している。仕事先が見つかるかどうかは別として、僕もいつかこんな大人になりたいと思った。

臼田いちこ(サイトからの投稿)
定時に上がれた日は、必ず飲みに誘う上司。最初は部下と仲良くしたいのかと思っていた。
だけど、違ったみたい。本当は私と二人きりで飲みたかったらしい。
そうとは知らず、毎回同期を誘ってしまっていた。ごめんなさい。
今日こそ、二人きりで飲み明かしましょう。
最後まで楽しい日になる予感。

臼田いちこ(サイトからの投稿)
人生で初めて好きになった人にどうしても振り向いてほしくて定期的に「好き」という言葉を伝えている。業務連絡のように。
だけど、何も響いていないようでずっと曇りの顔。
もう届かないのかなと諦めた365回目の告白。
彼女は静かに僕の手を握り、もう一度見たかった笑顔と共に私も「好き」と。

辻本 亮典(サイトからの投稿)
 気がついたとき、目の前にドアがあった。黒くて重そうなドアだ。開けなければならない気がしてドアを開けた。
 美しい女性がいた。彼女は言った。
「申し訳ございません。本日はおかげさまで定員に達しましたため受付は終了いたしました」
 そして僕は生き返った。

百度ここ愛 @cocoa_100oC
ロックオン。
狙うは、初恋の君。
私の視線にも気づかず、幼馴染と楽しそうに話している。
なんか嫌だな。と思っていれば
「居たなら声かけろよ」
幼馴染を置いて、顔を赤く染め君が笑う。ずるい笑顔に、再度ロックオン。
「一緒に帰ろ」
狙いを定めた君の右手を自然と握れた。今日は大成功!

1月30日

しろい月 @Lune__blanche_
見上げると、星たちが澄ました顔でそこにいた。堂々と定位置について煌めく、オリオン座や牡牛座、双子座。あまりにきちんと正確にいるので、自分が迷子になった気持ちになる。ふと、昔は違う星の繋ぎ方をしていたことを思い出す。途端に星たちが動き出し、様々な形に姿を変える。自由だ、そう思った。

あきすき(サイトからの投稿)
今日の卒業式が終われば、僕は学生ではなくなる。学生用の定期券は使えなくなるし、今歩いている通学路は通学路と呼べなくなる。風に吹かれた枯葉が、カラカラと音を立てて足元を横切った。前に進んでいるはずなのに何かを失っている気がして、少しだけ寂しい。成長とは、何かを失うことなのだろうか。

兎野しっぽ @sippo_usagino
夫の定年が近づいている。友人の中には、夫と二人きりの時間がストレスで離婚を決意した人もいる。
不安を抱きながら迎えた退職日。ワインで乾杯しながら、リタイア後の暮らしについて話し合う。
「次の仕事の上司がなかなか手厳しそうでね」
明日から夫は、専業主婦のわたしの部下になる……らしい。

戸田なお @tarogorojp
おかあさまがずいぶんとかわいい表紙なことと秘書検定のねこが仰向けになって眠っている表紙をご覧になられておっしゃった。あら本当ね。中のイラストもかわいいわよといいながらぱらぱらめくり大体問題は最後二択となり差し出がましくない方が正解よとケニストンさんの秘書さんの微笑を思い浮かべた。

英令目野ピイ @lmnopdesu
「郵送して下さい」と窓口に青年。私は封筒のサイズと重さを量る。「定形内郵便なので84円です」青年は120円出した。「それだと定形外の料金ですよ」「いいんですこれで」「しかし」「この手紙は僕の想いの分、重たくなっているので」私は再度封筒を手にした。彼の真剣さのせいか、重いように感じた。

おかゆ @Okayuno140
「放課後、時間ある?」貴方から呼び出されたからといって、期待しないつもりだった。二人きりの教室。静寂を切り裂いたのは「あいつに告白しようと思う」と震える声で紡がれた決意で。案の定、相談相手にしかなれない自分が恨めしくて。今回は、どんな邪魔をしてやろうか、と今から必死に考えている。

戸田なお @tarogorojp
忍者は心を持ったら切り捨て御免にあってしまい哀しい結末で姫は立派なお侍いになると道中思っていたようでそれは単なる口約束で忍者は死ぬ定めを感じ姫さまに菊の花をひざまづいてわたそうとしたのかと忍者生活の儚さを感じ風神の門を見終わりぼんやりした。菊の花でもう斬殺される定めを感じていた。

高羽志雨 @hirotan165
コーヒーを持って、定位置になった壁際のカウンター席に座る。数分後、誰かが隣席にココアを置く。
見上げると、ここ1ヶ月頻繁に顔を合わす彼だった。
2週間後のバレンタインデー。
チョコレートを渡すと驚かれるだろうか。

受験生らしい彼に、年齢が三倍以上だろう私から。

戸田なお @tarogorojp
元町のとんかつ武蔵に入りロースカツ定食を頼む。記憶はもうずっと前にさかのぼりキャベツを千切りにする男性の丸まった背中を思い出す。こどもたちの間でちょっとした有名人でもう今はキャベツの千切りは添えられていない。キャベツの千切りだけを仕事にしていたようにみえたけど糸のように細かった。

山口絢子 @sorapoky
定期入れを落とした。雑誌の全員プレゼントで、大好きな漫画家さんの絵が描かれているものだ。諦め半分、交番を訪ねると、なんと親切なかたが届けてくださっていた。そして半世紀後、その定期入れがとんでもない価格で落札されていることを知った。とてもお金では換算できない、宝の思い出である。

玄冬 @takeyabu69
僕は定例会へ急ぎ足で向かっていた。少し遅れると連絡はしたけれど、周期的な「甦り」はほぼ定刻に始まるのだ。石楠花という名前の石化した乙女を、僕たちは紳士同盟のもと召喚している。僕らの不文律が強ければ、甦りも長く続く。純血と人類の存亡を賭けて、開花の荘厳なる芳香が僕を呼んでいる。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
親父さん、年取っちゃったもんな。店仕舞いの前日、鯖味噌煮定食を運んでくれた手は長年の仕事の繊細さと過酷さを物語っていた。「鯖味噌だけでも教えてよ」ニヤリと笑い、手を差し出してきた親父さんと握手して店を出た。昨夜、店の味そのままの鯖味噌が出来た。急に皺の増えた我が手をじっと見る。

森戸林 @Rin_Morito
ついに独り身のまま30代も終わろうとしている。仕事に忙殺されてやつれた自分に、若き日の輝きは感じられない。今日の夕食もスーパーの惣菜だ。 『賞味期限切れ間近、定価の半額』 それを手に取り、自分に重ねようとして、それからやめた。金と年だけ嵩んで価値は下がる。惣菜の方がよっぽどマシだ。

彩田青(サイトからの投稿)
「君と向かい合って飲むハイボールが1番美味しい。」そう言ってあなたは笑っていた。ボックス席のタッチパネルで頼む薄いハイボールから、カウンターで若女将に作ってもらって並んで飲むハイボールまでずっと一緒にいると思ってた。「お勘定で。」なんて高級なセリフ、誰の隣で言えるようになるかな。

朔良 @tsukikomor
「夢は無限だ!自由にあるがまま思い描け!すべてはそこから始まる!」
ふっ、何それ?アメリカ大統領になるぞ!とか?セレブとパーティー三昧だって?英語赤点だけど気にしない?ははっ。
ってか、夢って何?妄想?希望?目標?
だったら次の定期試験は英語満点取るぞ!くらい壮大な夢を掲げとくか。

.kom2(サイトからの投稿)
もう、決まってるから。もうとっくに決まってるから。
なんて言ったら引かれちゃうかな?
ずっと支えてくれて、支えたくて、まぁ、こうなるの予想通りというか、想定の範囲内だよね。だから、これからも、ずっと一緒に居てください。
プロポーズとしてはカッコつかないな。

よつ葉 @Kleeblatt3939
どこに行っても僕は定員からあぶれてしまう。次第に居場所を探すのも嫌になって、一人を選んだ。港に停泊している大きな船を見に行ったら、定員はついさっき埋まったと言われた。浜辺であいの風が運ぶ青いシーグラスを拾い、橙から紺碧に沈む空を見上げる。世界は僕にかくも冷淡で、酷なほど美しい。

よつ葉 @Kleeblatt3939
辞書をある人は定点観測地点と呼び、ある人は言葉の海を渡る船だと言う。私はどうだろうか。光の差さない心の闇に手を入れ、掬ってみる。ほとんどの感情は指の隙間から零れ落ち、手のひらに残るのはほんの少し。僅かに掬えた心を照らし、その正体を私に教えてくれる灯火のようなものだと思っている。

よつ葉 @Kleeblatt3939
三月前にこの家に養子にきた。養父母の実の子供は五人もいて、初日から遠慮なしに兄弟扱いだった。コップの柄はキリン、スプーンとフォークは怪獣柄で、食事用の椅子は一番上の兄弟の左側。靴は靴箱の下から二段目の一番右。学習机は二つ上の姉の隣。ここには生まれたあの家と違って僕の定位置がある。

赤井紫蘇(サイトからの投稿)
うちでは調子の悪い人は「今日は低空飛行なんだ」と宣言していた。
宣言するとそれ以上は誰も話しかけてこないし、家事も免除してもらえる。
誰だって絶好調の日もあれば、落下しそうな日もあるし
心が安定するまでは、野生動物のようにじっとしてたっていいよね。そんな我が家のルール。

戸田なお @tarogorojp
壁にかかった星空の定点観測のお写真をみていると父の人生は船に乗って北極星を目印に進むような上向きの人生だったなと感じた。父のことを思い浮かべたのはきっとこのペンションの廊下の壁がわたしが冬のオリオン座を星座版を両手にもって見上げていた頃住んでいた家と似ているから。M78。s18かな。悲

戸田なお @tarogorojp
函館バスセンターからバスで一時間揺られると大沼国定公園に着いた。今日のお宿国民宿舎ユートピア大沼に向かって歩き始めた。ここはカナダみたい。わたしは湖をみながら深呼吸をした。水面が太陽の光で乱反射している。ショパンはこのような光景を曲にしたのだ。もっと左手と右手の縦を大切にしよう。

朝本箍(サイトからの投稿)
定義すれば理解できるのだと考えていた。名前だけで貴方を知り、明日には消えるSNSで今を共有し、並ぶハッシュタグで気持ちを推し量ったように。今、貴方の作品を前に言葉がない。名づけられなくても確かにあるものがあるのだと初めて知った。あぁ、それでもこれを理解したい。

玄冬 @takeyabu69
東京二十三句、街区に佇む男と女。口寂しいと定まった十七音を詠む声は、都会の乾いた音がする。誰かが発した上の句の渋谷新宿豊島区へ、千代田文京港から墨田台東葛飾に流れる景色は物語る。嵐のように舞い降りる、僕とあたしと君と俺、坩堝に熱く囁いて季節は解けて色づいてゆく。

冨原睦菜 @kachirinfactory
唐揚げ定食の前で涙を流す失恋したばかりの親友。ポツリポツリと語り出す。今まで私が失恋した相手はさ、全員結婚して子どもが複数いるらしいの。きっと彼もそうなるわ。なんだか私の失恋が少子化問題を解決してる気がするよ。おしぼりで涙を拭う。やんなっちゃうねと薄く笑い、漸く唐揚げを頬張った。

右近金魚 @ukonkingyo
揺り椅子の主が不在になり半年が過ぎた。ホームは寒いの、と手紙が届いたので肩掛けを贈ることにした。祖母の定位置だった椅子で彼女の好きな緑色の毛糸を編む。糸が足りなくなり古い手編みのチョッキを解いて継いだら、春の野原みたいになった。そっと網目を辿ると暖かい。愛を編み直しているようだ。

凌我 @sironekokuro283
今日で俺の運命は決まる
そう言われて働いてきた
俺は店長に呼ばれた
ついに俺が店長になる時
そう思っていた
君の次の誕生日に君に言いたいことがある
今日は俺の15歳の誕生日
君の誕生日だったから君の親御さんにお礼と一緒に話を聞きにいってきた
君は今までよく働いてくれた
だがクビ確定だ

句読点。 @novel_green
日曜日_僕ね、鳥が好きなんですよ_ラジオから流れる大好きな人の声。いつか、あなたと恋に落ちたい。月曜日。重たい腰を上げて仕事へ。定時退社。お気に入りのカフェへ。コーヒーはホット。あなたと一緒。席に腰を下ろし、本を開く。あなたが書いた本。カウンターから声がする。『僕、鳥が好きで…』。

佐竹 @sayu_n0
「定吉二人キリ」、彼女は愛しい男の性器を切り取ったけれど、私ならあの人のどこを切り取るかしら。
ーーそうね、やっぱり人差し指がいいわ。
私の全てをなぞって暴いてくれる、細い指と短く揃えた桃花色の爪。
貴女を白百合色の骨になるまで口の中で転がしたら、箸置きにするわ。
ああ、なんて素敵!

1月29日

凌我 @sironekokuro283
コーヒーとパンケーキをください
店員は無言で店の奥に下がっていく
どれだけ待っても店員は出てこない
ここから見える店員をどれだけ呼んでもこっちは向こうとしない
案の定コーヒーもパンケーキも出てこなかった
やはりスポーツショップで頼んでも意味はなかったか

凌我 @sironekokuro283
試合の判定は覆らない
どれだけ勝っていても
相手を圧倒していても
俺はあいつに勝てなかった
開始10秒静まり返った会場で
試合終了の判定がくだる
あいつがやっていたのは空手でで
俺は剣道をやっていた
圧倒的に勝っていたのに
俺は勝てなかった

凌我 @sironekokuro283
俺の名前は定男
なぜそんな名前にしたのか親に聞いたことがある
定男というのは自分というものを持ち続けて自信を持ち他者に流されない
そんな人間であれよという意味だと言われた
俺は今周りの人の意見を聞いて多数派の意見を尊重する村の長
俺の名前は定男

凌我 @sironekokuro283
俺は国境を引く係
俺は人々を分ける係
俺は地域を分ける係
定規を使って線を引くだけ、それだけで場所も人も何もかも分けることが出来る
それが神の力
今日も新しい線が引かれ
国が分かれ、人が分かれ、いくつも新しいものができていく
線を消す力が手に入るまで

cofumi @cofumi8
私は言葉を知らなかった。
星に祈ることも、神様に祈ることもできなかった。
手を伸ばし、足でリズムを取り、時には大きな欠伸をしたけど、全身で願いを伝えた。
「汝、もう全ては決定しておる」それは満月の夜だった。
「可愛い女の子です!」
私は誕生したのだ。願いは叶った。

太陽や月など @as1mind1soul
ふらふら遊んでいる私に先生は一風変わった助言をくれた。数式の定数の気持ちを知りなさいと。あちこち聞いて回ったら、関数は定まっているけど未知だと言う。積分は定まっていないけど必須、確率では定数の分散はゼロだ。みなバラバラ。でも確固たる定義を持ち、背筋をピンと伸ばして誇らしげだった。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
定期試験の一週間は部室棟が使われないから、五階の掃き出し窓から屋上へ。貯水槽の影で白い息を無理に潜めて夜を待つんだ。シルク地にスパンコールを縫い付けた空が降りてくるから、くるりと巻き取ってお化け屋敷の幕に使うといい。朝まで上手くやれたなら、次の次の文化祭までに誰かへ教えておけよ。

三日月 月洞 @7c7iBljTGclo9NE
定かではない──探偵は言った。僕は些か驚いたが、同時に期待通りだと感じた。実に彼らしい。謎アレルギーの探偵は、いつだって最後まで謎を謎とは認めない。密室殺人を前にしても『これが謎かはまだ定かではない』と云う。「犯人はお前だ」唐突に探偵が僕を指した瞬間、彼の腕に小さな発疹が増えた。

梅吉 @tmk2bay
「申し訳ありません、天国は定員オーバーです。これ以上の魂の受け入れはできかねます。」公務員風の男は眉を下げて言った。「現在拡張工事中ですので、もうしばらく現世でお待ちください。」彼は僕の履歴書に何やら判を押した。また人生が始まろうとしている。輪廻を抜けるのはいつになるだろう。

猪野々のの @inono_nono
定ーー。
集中力をとにかく高める。心を自身が生み出した創作キャラクターに命を、魂を投影させる。
誰が見てくれるのか、わからない。
誰も見てくれないのかもしれない。

それでも、それでもいい。
私はその"誰か"に書いてるのではないのだから。さて、本日も文字と向き合おう。他でもない私の為に。

相原梨彩 @aihara_risa_
真夜中、疲れからか鼓動の音が早くなり目が覚めた。様々な色が塗られた爪を切ればパチンと大きな音がして爪が飛ぶ。色鮮やかな爪は白色の床を彩る。何もない私を彩りたい一心で私は爪を切り続ける。爪を切り終えた時、深爪で痛い指と対照的に鼓動は安定したリズムを刻んでいた。

しばかおるこ @ArcOkimuy
三人目の子が産まれた。両親がお宮参りと桃の節句のお祝いをくれた。デパートで子供服と玩具を買ってくれたので、ついでに次男の送り迎えと長男の宿題の相手をお願いとラインで頼んだ。「ばあば、租調庸って何?」「難しいこときかないで」「昔の人は大変だったんだね」育児に定年はなさそうだ。

もよりいと @moyoriito
はにかんで「好きになってよ」と呟くように言った。それから3ヶ月が過ぎた。特別あらたまった返事もせず、今日もお互いのデスクを挟んで目の前にいる。定例会議の資料を渡そうと、少し大回りをしてデスクに向かう。溢れ出るたくさんの気持ちが駆け足にさせる。「好きになったけどどうすれば」

ヒトリデカノン(サイトからの投稿)
人類が二人きりになった。
「嘘つきはあなただったのね」「僕は君に嘘ついたことはない」
最後の最後に嘘をついていた人はもう死んでしまっていたことがわかった。とっくの昔に嘘つきはいなくなっていたのか、この間死んだ人がそうだったのかは定かではない。地球上にはそんな二人がもう何組か……。

猫とひまわり @orange_tomatoo
「定員制です。お早めに」自動車学校のCMの声がやたらクリアに聞こえるのは、目の前で母がヒステリーを起こしているせいだろう。ナイフで出来た塊が一気に攻撃を仕掛けてくる。やりたいだけやればいい。どんなに傷を負おうと反撃しないのが一番。母自身がそうなように、私も母親の愛し方が分からない。

句読点。 @novel_green
『ねぇ、これ、もらってくんない?』薄暗いカウンターで。あれからどれくらい経っただろう。貴方と私の、曖昧な繋がり。連絡が来るのも不定期。きっとそういう関係。それにも慣れて、本気の感情でさえ消え去って。昨日、カウンターで見かけた貴方の薬指、銀色に輝いていた。あ、好きだったんだな。私。

れん(サイトからの投稿)
昔から三人寄れば僕の定位置はいつも左側だった。ランドセルがぶつかりながら歩く時も、あの娘を真ん中にライバルと歩く時も、負けて二人の結婚式で記念写真を撮る時も……そして時が過ぎても、僕はやっぱり左側を歩いている。小さい息子と笑顔の妻と。僕よりもっと左側の夕日がなんだかあたたかい。

友川 創希(サイトからの投稿)
会社の昼休みには多くの人がレストランとかに行ったりするが、俺の場合は妻の作ってくれた弁当だ。今日もお昼休みになるとバッグからお弁当箱を出す。俺はこの弁当箱を開ける瞬間が1日の中で一番好きなのだ。――ぱかっ。うん、今日もキャラ弁。安定したクオリティーだ。

秋透 清太(サイトからの投稿)
定常業務をこなすために引き出しから定規を取り出す。今年で定年を迎える私は、未だに設計図を手で書いている。若い頃には、安定した線を描くと一定の評価を受けてきた。時代遅れだの杓子定規だの言われているのは知っている。機械がなんだ。パソコンがなんだ。私は最後まで、自分のやり方を肯定する。

秋透 清太(サイトからの投稿)
真夏の体育館がボールの弾む音で溢れている。生徒たちは小さなホワイトボードを囲んで次の試合の作戦を立てている。挑戦し続けるこの子たちの目は、日差しを反射した水面のように輝いている。安定を理由に教師という職を選び、公務員となった私の目はいったい、どんな色をしているのだろう。

秋透 清太(サイトからの投稿)
古い港町にあるその定食屋には、テーブルも椅子もひとつしかない。ネットにも雑誌にも情報はないのに、何かに導かれるように毎日一人から三人は客がやってくる。扉を開けた客はひとつだけ用意された席に座り、窓枠に切り取られた海を眺め、潮騒の音に撫でられながら、店主が作った定食を食べていく。

秋透 清太(サイトからの投稿)
真っすぐ頷いて意見を肯定すると、それだけで彼は目尻を下げる。もっと自信を持てばいいのにと思うけれど、きっと変わることはないし、変わってもらっても困る。彼は自分を認めてくれる人を求めている。私の意志とは関係なく、ただすべての意見を肯定していれば、私は彼の傍にいることができる。

秋透 清太(サイトからの投稿)
仕事に専念することを選んだ私と、家庭と仕事、ふたつの幸せを手に入れようとした貴女。負けたくない。そしてそれ以上に、負けてはいけないと思う。負けてしまったら、私は私を信じれなくなる。今日の定例会で全てが決まる。揺れる電車の窓に映った自分の顔は、なぜか泣いているように見えた。

MOTOM(サイトからの投稿)
 気高い生き物は、同類から触れられるのを嫌う。白猫のビアンコは、夜毎に街に出かけ傷ついては帰って来る。
 恋猫というよりも、まるで妻子を失った戦士。今はナニモノも信じられなくなり、心の底の青白い氷塊が消え去るまで時間さえ忘れ、我が家で定宿を得たように昏々と眠り続けている。

句読点。 @novel_green
本屋さんへ行った。田舎の本屋さん、目当ての月刊誌は置いていなかった。ふと目に入ったガラスペン。ガラスペンで詩を書く…楽しそうだ。定刻通りのバスに乗り、足早に家へと帰る。自室にて。インクをペン先に伝わせ、ぽたぽたと、垂らしてみる。涙みたいだ。私が書いた文字は、私の涙からできている。

1月28日

羅央 @rao_gaogao
目が覚めるとそこは眩いばかりの光の中。その中央に天使がいた「は?」思わず声が出る。キョロキョロ忙しく状況を把握しようと試みた。そっか。あの時、道に飛び出した子猫を助けようと、追うように飛び出したのは僕だ。さっきから僕を見つめるその瞳は、なにか言いたそうだ。僕の命の査定の時間なのだ

綺想編纂館(朧) @Fictionarys
重力は常に一定のようで、実はそうでもない。例えば空気が浮つきやすい時期なんかは、誰かがうっかり空まで飛んで行ったりしないように少しだけ重力が重くなる。バレンタインデー前なんて特にそう。ふわふわと落ち着かない気持ちの一方で、いつもより恋に落ちやすいのも重力のせい。多分、きっとね。

さくらいくみ @sakuraikumiArt
同じ時間に家を出て、同じ道を通り駅に向かう。同じ場所で電車に乗り、同じ座席に座る。同じ日々の繰り返し。何も変わらない日常の中、何も変えられない自分。ところが、今日はいつもの座席に先客。定位置ではない場所に座る。今日は何かが変わるかもしれない。変えられるかもしれない。

タケイチ @TAKEiCHi140
考えてもわからないことばかりで頭の中がいっぱいになったら、心の重心を胸のあたりまで下げること。胸がそわそわして気もそぞろなときは、お臍のところまで下ろすこと。心に定位置はないから、そのときどきでうまく調節するのよ。と僕に教えてくれた人はいま、身体を折りたたんで泣きじゃくっている。

水原月 @mizootikyuubi
初めて気球に乗った時、気分は砕氷船だった。冷たい大気を割り開いて、絶対に辿り着けない高度まで、ぐんぐん進んだ。 気球操縦士の私は、今日もお客さんを乗せて気球を飛ばす。「気球にのって~どこまでいこう~」定番の曲を皆で歌う。どこまでも行こう。雲を越え、星を越え、宇宙も越えるのだ。

三日月 月洞 @7c7iBljTGclo9NE
猫の定めとは、如何なるものか。時折そう考える。薄情だと云われるが、そのような事もなく。家につくと云われるが、浮気を許さぬ程度には人への執着がある。兎にも角にもマイペースだ。
応えぬと知りつつ飼い猫に問い掛けた。
「君の生きた意味は?私は……」
──アンタに会う事だよ。空で、またね。

千代 @utsutsu__
「一!分!厘!毛!糸!忽!微!繊!沙!塵!埃!渺!漠!模糊!逡巡!須臾!瞬息!弾指!刹那!六徳!虚空!清浄!阿頼耶!阿摩羅!」ジャッジャン!「一阿摩羅円ということで」「あわや涅槃寂静でしたね」「素晴らしい取るに足らなさでした。大切になすって下さい」「開運ナノでも鑑定団、また来週」

すーこ(サイトからの投稿)
「ごめん、やっぱり残業確定。できるだけ早く帰る」夫からのメール。今日は結婚記念日。今日こそ定時で帰ると出ていったが、案の定残業。でもいいの。彼の愛は伝わってるから。ピンポーン。「宅急便です」夫が何か頼んだのかしら。「はい」「お届け物です」「どうして」「サプライズ。約束果たしたよ」

すーこ(サイトからの投稿)
出版社に勤めて三ヶ月。そそっかしいところがあり、先日は校正ミスをしてしまった。落ち込んでいると、先輩が定規をくれた。定規を置いて校正すると、見るところがずれずに済むという。今日は早速その方法で取り組んでいる。「八兵衛さん、集中しているところ悪いんですけど、そのゲラ先月の分ですね」

すーこ(サイトからの投稿)
趣のある小料理屋にやって来た。雨の中わざわざ来た甲斐があるというものだ。一定の間隔で鹿威しの音がする。心が安らぐ。「女将さん、鹿威しのいい音が響いていますね」「そんな物うちにはございません」「でもほら、この音」「うち雨漏りが酷いんです。竹の音は、竹の器を主人が作っている音ですね」

すーこ(サイトからの投稿)
人は限定という言葉に弱い。もっと自分の好みに忠実に選ぶべきではないか。せっかく選択の自由が与えられているというのに、期間限定だの限定10食だの、限定という言葉に踊らされている者のなんと多いことよ。私は負けない。いつものさばみそ定食を……「すみません。冬季限定、すき焼き定食を一つ」

すーこ(サイトからの投稿)
安定した職に就けと親は言う。確かに僕の本職ははっきり言って儲からない。真夏に暑い服を着なければならないし、周りに仲間はおらず、責任重大。知らぬが仏なこともある。でも、僕はこの仕事に誇りを持っている。子どもたちに少しでも希望を与えられる喜びを味わえる、公認サンタクロースという職に。

ほたほた(サイトからの投稿)
「ちょっとちょっと、あなたの子どもの頃からの定期預金が消えてたのよ。」
 母からの電話は、いつも唐突に話題に入る。慣れてはいるが頭を巡らす。どうやら休眠貯金になったらしい。母は、銀行に泥棒がいるようなもんだよ。と大騒ぎだ。こうして
私のひさびさの休日は終わっていく。

うたがわきしみ @arai_chi2
布団に痣ができるくらい眠る。起きればまた笑顔で壁を作る日々。枕に描かれた兎の絵に頬が溶け、沈む。矢印色の空が定刻を示す。「押し入れにはドーナツの穴から入る」 兎が歯をカチカチと鳴らす。ガラス味の穴。見えないだけで皆自分だけのガラスを持ってる。ひたすら誰かの相槌を待ち傷つくだけの。

友川創希(サイトからの投稿)
まだ1ヶ月も付き合っていない彼に今日、告白された。告白は嬉しいけれど、こんなにも早すぎる告白に私は正直戸惑っている。私の中では早くとも半年後の話だと思っていたから。「なんでこんなに早く?」「告白はいつからしていいなんていう定義はないいだろ?」彼はそう言って私の手を握った。

友川創希(サイトからの投稿)
出張のついでに何か娘に買っていこう。娘はチョコレートが好きだからチョコレートのクッキーなんて買ったら喜ぶだろう。お土産ショップでそんなものを探していると『地域限定』と書かれたお饅頭が目に止まった。クッキーと一緒にこれも買おう。

友川創希(サイトからの投稿)
まもなく高校前のバス停にこのバスが到着する。やっとこの人混みの中から出ることができると考えると体が急に軽くなる。バスがゆっくりと停車する。前の人に続いて運賃箱の近くまで行くと、ICカードをタッチする。ん? 変な音がした。「お客様、定期期限切れです」今日は何か起こりそうだ。

若林明良(サイトからの投稿)
「そこは役員の定位置やから停めるな!」会社の玄関に一番近い駐車場の一画。名前書いてる訳じゃなし、別にいいじゃないですか。「…あんたってほんま、会社員に向かへんね」そうですね。俺は何かを定められるのは大嫌いだ。だからさっき日本文学振興会から芥川賞受賞の連絡が来たが、辞退してやった。

れん(サイトからの投稿)
また恋が実らなかったと嘆くと悪友が失笑した。じゃあ僕はどうしたらいいのだろう?ギターで恋を奏でればいいのか?それともドラムを叩きながら恋を叫べばいいのか?悪友は狙いを定めたような目で、もういいかげん気づきなよ君の目の前の唯一の理解者と恋をすればいいでしょと指鉄砲を向けた。

うたがわきしみ @arai_chi2
沼地の泥はよく喋る。
この足跡はあなたのお母さんのものね。歩幅をご覧なさいな。るんるんしてる。服装も当ててあげましょうか。お定まりの赤いワンピース。また逢い引きね。その男は足も大きいけれどきっと――
黙れ。シャベルを泥に突き刺し、私はタニシの背をなでる仕事に戻る。
喜びよこんにちは。

1月27日

玄冬 @takeyabu69
ちはやぶる神経毒となって、ネット世界の流言は唐紅に燃えた。爆発的な瀰漫によって喪失された声なき声。顔のない花の名前を手折る。残酷な香りのあと、忘れ去られた電界の哀しみは定刻を守る、虫は丸く蹲って想い出に辿り着く。同じ風景は嫌だとリセットして、世界は静かな多次元の夢に返り咲く。

一見 才 @SI_hitOmi_NoveL
無人駅。繋がれぬ手が二つ、悴んで並ぶ。
嗚呼、矢張り止めておくべきだったのだ。丑三つ刻、貴女の眠る場にこうして現れて仕舞うことを
果たして、定刻通りに二人の髪が靡く。貴女の透けた素足と唇が鉄の箱の前爆ぜる。……そんな白昼夢を見続けた。
次の電車を待つ。

また、繋がれぬ手が二つ。

猫とひまわり @orange_tomatoo
言わせてほしい。言わせてもらってもいいだろうか。坂井は飲んでいた缶コーヒーを強く握りしめた。さすがにスチール缶は握りつぶせない。だが、その手にも声にも怒りの感情が溢れている。
「坂井さんなら、これくらいいいかなっていつも甘えちゃうんだよね〜」
これくらいの定義を決めたのは誰だ?!

矢口 てる @yaguteruss
趣味は何かと問われる場面は、往々にしてある。婚活でも、就活でも。だがそこで本が好きだと回答すると、趣味を持たない人の定型文のように捉えられてしまう。本当に趣味だとしている人間にとってその考えは、理不尽極まりなくないか?私は本棚に並んだ本を眺める『積読本鑑賞』を趣味としているのに。

MEGANE @MEGANE80418606
第一印象は「異様に長い直線定規」だった。彼はモデルと並んでも違和感がないほどの高身長で姿勢も良い。第二印象は「どこまでも強い直線定規」だった。コンビニのバックヤードで、喫煙禁止のルールを破った強面の先輩を真っすぐな瞳で注意していた。だから私も直線定規のように彼を好きだと伝えよう。

飛馬 光 @AsumaHikaru
パタンと手帳を閉じた.僕の来月の予定は何もなし.こんなことがあっただろうか.
先月までは君との予定でいっぱいだったのに.
手帳を見るたびにその空欄が心の空洞とリンクして切なくなる.

だから逢いに行くよ.海の向こうにいる君の元へ.

予定がないって実は何でもできるんだから.待っててね.

三日月 月洞 @7c7iBljTGclo9NE
或る日、日輪の美声が世界に響き渡った。
「天体型槽櫪の間《地球》、これにて定員オーバーです」
それは不老不死の薬が遂に発明された直後の事であった。
蒼穹が端から捲れ、神々の大匙が地に挿し入り、天の伯楽が人々を刮げ取るように地上を狙う。
「あゝ、良いケンタウルスの種が育ってくれたわい」

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
空を割る笑顔が昇り、風がエラエラとちぎるように声を持っていく。ここは定員1名しか入れない家。でも私が出逢った、ありとあらゆるもの達がペチャクチャと毎日賑やかに生きている。定員1人だけの部屋で、1人の私の中は私の人生の巣窟。温かい心の扉を開いて、定員総数億の家に今日も私は遊びに行く。

ikue.m @ikue_mini
かつて漁師だった私は人魚の肉を食べてしまい、死ねなくなった。人の命は定まりないものとはいえ、すでに三百年。生き続けるのも難儀である。しかし楽しみもある。それはやはり恋だ。いつの世にも美しい女性はいる。ただ、一度も成就せぬのは、人魚の肉を食べた時すでに百歳だったからだろう。残念だ。

もよりいと @moyoriito
昼下がり、勉強の息抜きにでもとベランダに出る。洗濯物がそよそよ揺れて、シャボン玉がふわふわ飛んでいる。「一緒にどうです?」推定20代後半であろうお隣のお姉さんが緑の吹き棒を差し出してきた。状況を飲み込めないまま「ぜひお願いします」なんて言って、勢いよくふーっと吹いた。

ヒトシ(サイトからの投稿)
「ご注文は?」「日替わり」「あいよ」そのやりとりを続けてもう十数年になる。日替定食しかないくせに、大将は毎回注文を聞く。一度、理由を尋ねたら、『そいつが生きることを諦めてないってのを確かめてるんだ』って笑った。今日もまた生きていることを実感するために、俺はこの店に通い続けている。

CASTlE(サイトからの投稿)
 星々が、月と太陽の会話を聞いていた。「月(ライト)、あなたは卑怯です。」
 「そうだよ。ぼくはひきょうだよ。」
 星々がニッと笑う。
 「シャイニング、あなたは、バカだよ?」
 月と太陽が、じっとにらみつめていた。
 天文学者は、星空の座標を、一定の位置に定めることを考えた。

ikue.m @ikue_mini
明日で世界が終わるらしい。私の座右は「明日世界が終わるとしても、私は今日りんごの木を植える」というルターの言葉だ。定められた運命は変えられない。しかし明日本当に世界が終わるかどうかは、明日にならなければわからない。私はりんごの代わりにぬか床にきゅうりを漬けた。明日の朝食のために。

貴田雄介(サイトからの投稿)
人には生まれ持った星がある。運命と言う人もいる。人生には予め定まった道があるということなのだろうか?と智彦は考えた。丁度、7年勤めた会社を辞めようと考えていた所だった。この転職も予定されていたのだろうか?そんな途方もないことと、それ以上考えることを止め、面接会場の扉をノックした。

ヒトシ(サイトからの投稿)
いつからだろう。定規で線を引いたように真っ直ぐな道を、最短距離で歩くのを当たり前に思っていた。道草も、寄り道も、まわり道も、面倒で無駄なことのように感じてた。でも今は、私の身体も、森の木々も、川の流れも、雲の行方も、まっすぐな線は1つもないと知っている。見上げた空に輝くまるい月。

三日月 月洞 @7c7iBljTGclo9NE
「して。定々と姫の目に映っている儂の姿に触れる事は出来ぬと、いったいぜんたい、どのような身勝手な了見でそんな嘘を吐くのだ?儂は姫の為に帰って来たのだぞ」
「私の目に方様が映るのは、方様が生きておられるからです──まだ」
姫が顔の横に翳した手鏡には、姫の姿を映さぬ我が瞳が揺れていた。

三日月 月洞 @7c7iBljTGclo9NE
定期船には今日もあの子は乗っちょらんかった。ずっとずっと待っちょる。帰郷するんば待っちょる。「島は好かん」と上京し、電話1つも寄越さん息子。船ん来るたび、港ゆく──。

「婆さん、いつも誰待っとんな」
「馬鹿息子だよ」

忘れる病の母親は、孝行息子に手を引かれ、迎えと共に、家路ゆく。

猫とひまわり @orange_tomatoo
「これは定めなんだ、分かってくれ!」
「あなたが犠牲になる定めなんて、私は認めない!」
「なんて君は物わかりが悪いんだ」
告白のような二人の会話が大好きで、私は今日も小説を開いた。
「悪者になりたくない人たちが作り上げたものが定めなんだ」
自由に本が読める時代に生まれてよかった。

すみれ @sumire_sosaku
台所中にコンソメの食欲をそそるいい香りが漂う。定時に上がれた日には、作り置きの煮込み料理を作るのが私のルーティーンだ。丁度いい大きさの保存容器を探そうとしていたら、手のひらサイズのものを見つけた。コロナ禍直前に祖母の家に行った時に私の好物を詰めてもらったそれは、まだ返せていない。

すみれ @sumire_sosaku
予定外の帰省のため、夕方の高速バスに飛び乗った。海沿いの大きな橋を渡っている時、目の前に広がった淡い黄色とピンクと紫の、なんとも言えないグラデーション。写真を撮りたいが、高速を走っている車内からは無理だ。目に焼き付けようとしながら、この景色を文章に起こせない自分の未熟さを呪った。

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

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