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二月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part4

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

今月の文字は「分」。

2月28日までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローいただくと更新のお知らせが通知されます。

応募作(2月19日〜25日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

2月25日

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
実は、殆どの天体が天秤で均衡を保っているのだ。ほんの僅かな変化で、軌道やら公転周期やらが変わってしまうから、夥しい数の分銅が宇宙には存在している。少し前、月と釣り合う分銅が少し多くなり、天秤が揺れた。少し前だが、人間の時間では太古の昔だから、まぁ、あまり気にせずともよかろう。

石森みさお @330_ishimori
この国では夜に点せる灯りの数が限られていて、人々は小さなランタンに寄り集まる。神の怒りに触れた罰だとも、分かち合う喜びを忘れぬための儀式だとも言われている。少年の頃、街の高台から見た灯りはまるで誘蛾灯だった。老いて死にかけた今はどうだろう。坂を登り、どうか美しくあれと目を見開く。

梅吉 @tmk2bay
「お前には分不相応だ。」かつてそう言って私から全てを奪った男が、目の前にいる。あれだけの仕打ちをしておきながら、私を覚えていないらしい。「私は善い人間でした。」と、天国行きを主張している。「では奥の扉へどうぞ。」奴は悠々と扉の奥に消えた。馬鹿め。地獄の門は美しく飾られているのだ。

メイファマオ @molmol299
分限を弁えろと言われている気がする。
折角書いて応募した140字小説がネットの海に溺れて消えて検索しても出てこないこの謎現象。
私の文章は所詮泡沫、読む価値無しと誰かに判子を押されているのではないかという不安。
と、同時に上等だ、誰が読もうが読むまいが関係ない、と吠える私の中の文の鬼。

水原月 @mizootikyuubi
人間には物語が必要らしい。私が見守っている人は、毎日ウイスキーを作ってばかりで、本や映画などとは縁遠いが、そう主張する。
「ほら、天使さんの分け前。今回の結末はどうかな?」その人はウイスキーを入れた試飲用グラスを掲げて笑う。私はウイスキーを舐めた。スモーキーな物語の味がする。

若林明良(サイトからの投稿)
従姉との結婚のため俺は恋人を捨てた。幼少期より俺は従姉に懐いていた。美しい妻と莫大な財産を手に入れる。両親は既に亡く俺の胸ひとつで決まった。初夜の寝物語に妻が言った。貴方は産まれてすぐ分家に育てられた愛人の子、私の弟だと。知ったところでどうもしない。この僥倖を味わい尽くすのみだ。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
分かれ道のカーブミラーに歪んだ私の像は冬の名残の色で、北へ帰ることもできず、南へ消えることもできず。三年履いている合皮のブーツの中で親指を握る。爪のかたちの違いを笑いあった日が、生まれる前のように遠い。いつか見せると言った町は別に綺麗じゃないよ、雪の白には、犬の小便が目立つんだ。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
三つの頃から私は小狡い少年だった。二つに分けたケーキはよく見比べてから「大きいほうをあげよう」と弟に渡した。蔵に現れた古い悪魔の申し出にも、私にもっとも都合のいい契約を取り付け、弟へ共有した。私の腹から二つの腫瘍が見つかり、弟の妻が双子を産んだことも、つまりはそういうわけなのだ。

柊鳩子 @yorunohituzi
母の遺品を整理していたら、母の好きなクッキーの缶が二人分、私と姉の名前が書かれたシールが貼られて出てきた。姉と顔を見合わせて缶の蓋を開けると、中は愛読書や愛用の万年筆や腕時計、そして手紙が入っていた。
「喧嘩しないように分けておいたから、だって」手紙を読んだ姉は涙声でそう言った。

秋透清太(サイトからの投稿)
豪奢な扉を開くと小さな部屋に老人が立っていた。その後ろには同じような扉があり、老人はそれを開けるように促してくる。扉を開くとまた同じ景色が広がっていて、当然のように老人が立っている。後ろに先ほどまでいた部屋はもうない。九枚目の扉を開ける。老人はいない。十枚目の扉は半分開いている。

秋透清太(サイトからの投稿)
棺が焼却炉に吸い込まれていく。分水嶺だけは見誤っちゃいけない。それが寡黙な父の口癖だった。定年を目前にして職場のビルの屋上から飛び降りた父は、どこかで分水嶺を見誤ったのだろうか。母は父の遺影を抱えながら焼却炉を一点に見つめている。その感情は読み取れない。煙の臭いが鼻にこびりつく。

秋透清太(サイトからの投稿)
息子はなにかを選択するのが苦手らしい。どちらが好きかと問えば、大抵分からないと返ってくる。そんな息子がテレビにくぎ付けになっている。画面の中では赤いドレス姿の女性がピアノの鍵盤を叩いている。「ピアノやりたいの?」私とテレビを交互に見てから、息子が静かに頷く。なぜか胸が温かくなる。

 @Z9hmdBIPGCSspEx
下界から漂ってくる風船を集めてた。後から来た弟がずっと泣いてるから一つお裾分けした。弟が拗ねてわざと風船を割ると中からママの声が溢れ出した。「私の坊や愛してる」弟が泣き止んだ。涙雨はもう降らない。下界の洪水も治るだろう。愛は何度でも飛んでくる。雲の上で二人、風船を楽しみに待つよ。

石森みさお @330_ishimori
立派な庭つき邸宅の門前で、達筆な「お裾分けです」の貼り紙とともに沈丁花の枝が花瓶にさされていた。ははぁお金持ちは雅なことをするものだと皮肉じみた気持ちで一枝いただく。門前の花瓶ですら立派だったのに、帰宅して曇ったコップに移された花の香は、それでも濁ることなく尖った鼻っ柱を慰めた。

MOTOM(サイトからの投稿)
 大昔、空は緑色だった。ところが、巨大生物が群れをなし、パクバク・パクバクと空気を食べ、何万年も食べ続けた。あまりにも美味しかったらしく、止められなかった。もっと効率よく分解消化していれば、大気層も薄くならず、空が青くなることもなかっただろう。エコデザインの危機を迎えている。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
太陽が星座を飲み込んだ。なだらかに引かれた稜線から光がこちらに零れ落ちてくる。見る間にそれは二つ、三つ、四つと無数に分裂して飛び散り、それぞれの色を帯びて輝きだした。そこから生まれた龍の白い溜息を椿が受け取りぽとりと着水してみれば、半円状に広がった小さな波を跳ねた魚が飲みこんだ。

ななやお @80_tmy
ある満月の夜、1匹の黒兎が月のかけらを拾った。兎は拾ったかけらを火に掛けた。ほんのり甘い香りがしてバターのような黄色の湖ができた。兎はそこで、自分の黒い闇を洗い落とした。真ん丸い黄色の湖に灰色の兎印が残された。東の空が白み始めた頃、湖は跡形もなく消え白い兎が草むらに向けて跳ねた。

辻本亮典(サイトからの投稿)
 実に長く生きてきた。あとわずかで寿命も尽きる。ならば自分史を記録しよう。
 余の自分史はある意味争い事の歴史でもある。いたるところで争い事が起こった。規模はどんどん大きくなり、多くのものが死んだ。余は嘆き体が震えるほど怒った。それは新たな死を招いてしまった。
 余の名は地球。

橘 静樹 @chiasunroof
指の付け根が軽い。カバーを失って敏感になった皮膚が、風通しの良さに苦笑いを浮かべる。
左手に重みが欲しい。腕時計をつける。だけど、軽さは消えたりしない。
薬指をじっと見る。何もない。ぐるぐると回る秒針が視界に入る。巻き戻ったりもしない。
世帯が二つに分かれたんだ。ただ、それだけだ。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
やはり性分に合わねェな、と、方様は申しんした。つまり御身請けはなさらぬと云う事だ。方様から申しんした事であるのに、ほんにまァつれないお顔で。地獄で恋などするもんやァない。わっちは錐を振り上げた。「側室は合わぬゆえ、正──」方様の喉元に錐を刺し言葉を奪うと、わっちはその後を追った。

東方 健太郎 @thethomas3
きっちり時間通りに君は来た。話はあとにしよう。笑いながら君は言うけど、私には届かない。きっともう光は届かない。影は深く夜のしじまを照らしている。そうこう言いながら、二分もの時間を過ごしてしまった。待ち合わせの時間には、悠長な待ち人が笑いかける。静まり返った空に、月の光が君を知る。

193(サイトからの投稿)
「ボールペン貸してくんない?」と同僚。「いいよ~ちょっと待ってね」と私は筆箱の沼の中を漁る。「あった!あっ」と渡そうとしたものの、ボールペンのバネ、そして芯、そして本体が分解された状態で発掘され、一瞬にして漂う気まずい雰囲気。「…いじめられてるなら相談のるよ?」ご、誤解だから!

2月24日

滴一滴 @teki1teki
近所に生えていたイチョウの木が、今日、仕事から帰ると、切り倒されていた。この道に黄色の毛布が敷かれることも、葉の散った枝を見て寒々とした気分になることも、もう無いのだ、と考えると歩く気が起きず、晩酌用に買っていたビールを開け、切り株を眺めながらそれを傾けることしか、出来なかった。

そら @neru_nen_aile
雨の日の街を歩くと傘がカラフルに行き来し、まるでイルミネーションだと変な妄想が捗る。それに自分でも苦笑いしてしまう。傘をたたみ地下道へ続く階段を降りる。階段は濡れて少々滑りやすい。気をつけて歩くも靴の鳴る音が楽しくさせる。そんな幼稚心にも苦笑いを。そんな雨の午前。私は生きている。

いもの おのこ(サイトからの投稿)
小さなホールケーキを目の前にして、君から「3等分ね」って言われたけど「分度器もないし、2等分なら簡単だから」と言って、君たち2人に切り分け、僕はその場を離れた。あの時3等分していたら、今、君の隣には僕がいたのかな。今頃、君たちは子供と仲良く3等分したケーキを食べているんだろうね。

青垣宝(サイトからの投稿)
彼の時計は常に進んでいる。時間にルーズな彼は、時計を進ませることによって遅刻を防ごうとしていたが、3分、5分、10分、20分と進んだ時計の時刻に慣れ、また進ませるということを繰り返しているうちに、時計として用をなさない状態になってしまった。彼の遅刻癖が治ったという話は聞かない。

夏見有 @you_natsumi
朝のアラームは一分ごと、腕時計は十分早める。それでも時間にルーズなのは変わらなかった。改札を出てゆったりと歩く。まだ十五分も前で思わず笑った。要は心持ちの問題らしい。
待ち合わせ場所には既に彼女の姿。はやる気持ちに身を任せて足を前に出す。こんなにも軽やかな小走りは初めてだった。

想田翠 @shitatamerusoda
「分けてあげる」
小さなクッキーさえ割って差し出してくれた。
でも…肝心なものは分けてくれなかった。

白い天井を見つめ続けた虚無感も唾さえ飲み込めない絶望感も…全部全部、白い紙ではなく僕が受け止めてあげたかった。

半分真っ白なままの日記を抱えて君との日々を誰にも分けずに生きていく。

はぼちゆり @habochiyuri0202
母の机から一冊の本が出てきた。古びていて小汚く、手に取るだけで不快感が湧く変な本だった。知らない文字で読めなかったが、挿絵からどうやら呪術の本であることが分かった。「『夫が優しくなる本』ですって、面白そう。それに素敵な装丁、まるで…」「か、肩でも揉もうか?」私は妻の言葉を遮った。

カピちゃん(サイトからの投稿)
僕はカピバラ。癒し系と言われて人気者だが、生物学上の分類は鼠だ。しかも、世界最大の。和名は鬼天竺鼠。この厳かな名前は僕のかわいらしいイメージには合わない。さらに中国語では水豚と書くそうだ。僕、豚じゃないのに。そこにイルカがやってきて、君の気持ちが痛いほど分かると言う。共に泣いた。

今村スイ @tsuduru_0716
家の中を、いわば生前整理している。残された時間はもう長くないから。思い出の品の数々も処分する。ただ一つ捨てられなかったのは、父が遺した腕時計だった。時を刻み続けるそれを左手首にはめ、空にかざす。はね返された太陽の光がまぶしく目を射た。きっとこの時計の重みが、今の私の、命の重みだ。

本田臨 @ayakobooklog
例えばケーキを分けるとき、自分に大きい方をくれる人といれば幸せになれるんじゃないかしら。夫はいつでもそうしてくれるの。
うっとりとそう言った彼女の腕には、コンシーラーで隠しきれない痣がある。十年前よりだいぶふっくらとしていて、ああ、このひとはもう逃げることはできないのだと思った。

瀬都 @setoka_kazahana
忘れかけていた故郷の空は明るく晴れていた。実家へ帰る道すがら、見知らぬ女子高生とすれ違う。ローファーの靴音に放課後の夕暮れ道を歩いたあの頃の私達が重なった。見下ろした自分の足には役目を終えたハイヒール。穏やかな春の日差しより、夕方に光る車のヘッドライトが温かいのはどうしてだろう。

石森みさお @330_ishimori
仰げば尊しの「わかれめ」を分かれ道の「分かれ目」だと思っていた。おかげで人生の岐路に立つと脳内で歌が自動再生されてしまう。就職結婚、それから離婚。目の前の用紙に判を押すと高らかに歌声が響いた。微笑んだ私を夫はどう思ったか。どうでもいいか。今こそ分かれ目、未来は明るいと信じている。

みなつき(サイトからの投稿)
分はわきまえている。高望みはしない。そんな風に生きてきた。何故そのように我を見る?我はみすぼらしいか?潰れた目、額の傷は敵に後ろを見せなかった証拠。毅然して胸を張る。「やめてくれ」と思いながら、暖かい手に折れた前足を委ねる。優しくするなら、もう捨ててくれるな。子猫の時のように。

タケイチ @TAKEiCHi140
「お姉ちゃんの、盗ってきた」と、彼女は鞄から煙草とライターを取り出した。髪を耳にかけ、ぎこちない手つきで火を点けると、甘ったるい匂いが広がって、煙が空気に溶けていく。「吸ってみる?」いじわるそうに笑いながら、彼女は煙草を僕のくちびるに付ける。こうして僕らは淡い蜜と罪を分け合った。

ななやお @80_tmy
残すは、最終コーナーに差し掛かったところ。俺は奴を右目に、身体半分の距離を追い抜けずにいる。

いつもそうだ。
俺の人生あと一歩。
悔しい…

諦めかけたその時、奴の背中が激しく震え始めたのが分かった。

いや待て、俺の方がまだ分があるか?見えなかったゴールが今ハッキリと目の前に現れた。

yellow @superdropshot
昼間、暇で暇で。
恋人とゴロゴロして不毛な時間を過ごしていた。
突然恋人が起き上がって耳を済ませた。
「来る」
と言った。
「アシタカかよ」
と突っ込みながら私も耳を澄ました。
石焼芋!
ふたりで急いで家を出て追いかけて
分け合って食べた。
昼下がり部屋着で公園で食べた芋。
幸せ。これぞ。

ななやお(サイトからの投稿)
「分を弁えなさい」死んだ母が教えてくれた唯一の言葉だ。

そしてあの苦々しい日々を思い出す。
あの日も酷く寒くて、薄曇りの日だったか。

悔しくて悲しくて消えたかった。

でも、
死ななかった。
死ねなかった。

分を弁えて、
生きることを選んだ。

そして、
今日は私の結婚式。

本田臨 @ayakobooklog
分不相応な願いを持つと要らん苦労をするぞと幼い頃から私に言い聞かせた祖父は、分不相応な願いを持った長男を勘当し、それに反発した長女に出奔され、唯一手元に残った次女に迎えた婿も分不相応な願いに魅入られて出奔した。私の母である次女もまた、婿は帰って来ると分不相応な願いを抱いている。

酒部朔 @saku_sakabe
もう幸せはないんだと、家族なんかいらないと泣いていたらシロクマが、じゃあそれを分けてよとやってきた。何でも持っていってくださいと言うと、いいんだねと言って家に入った。庭に回って中を覗くと、私と何年も口を聞かなかった母が喜んで料理を温め、弟はキャッチボールをねだっていた。雪が降る。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
「先生は十二分に分を尽くしておられましたわ」落胆する私を彼女が励ました。明日をも知れぬ命で笑む姿が心を刺す。私が父君に責められた事を薄々察しているのかもしれない。「治療薬が、きっと出ますよ」労咳で痩せた顔で独り言つ彼女はとても愛しく、生の儚さが際立ち、自然と言葉が去っていった。

桜花音 @ka_sakura39
「もう2月も終わりか」
鬼のお面を見た瞬間に号泣して、それでも必死に豆を投げた節分。
上手く湯煎が出来なくて、半泣きになりながら作り上げたチョコレート。
そのひとつひとつが愛おしくて、大切な宝物。
桃の節句に旅立つ君。僕の手元から離れてしまっても、ずっと君の幸せを願っているよ。

シーラ @sii_ra_ra
「貴方に三分時間をあげましょう」と神様は言った。僕は考えた。カップ麺ができるまで三分。でも食べる時間はない。最寄り駅まで徒歩三分。誰にも会いには行けない。僕はスマホを手に取った。SNSの僕のアカウント、大事な人みんなと繋がっている場所に「ありがとう」を書き込んだ。僕の最期の三分で。

シーラ @sii_ra_ra
人間は分類するのが好きだ。男だ女だ大人だ子供だ、なんとか族なになに科の植物動物。自分もそんな風に分けられるのだと思うと、時々息が苦しくなる。みにくいアヒルの子が実は美しい白鳥だったという童話のように、私も人間ではない別の何かかもしれないではないか。そんな心は水鏡に映らないけれど。

シーラ @sii_ra_ra
一分一秒でも早く彼に会いたい。定時ぴったりで退社した私は走った。まるで恋を知ったばかりの少女のように。待ち合わせの映画館の前、私を見つけて貴方は微笑んだ。「そんなに急がなくてもいいのに」ああ全然分かってない!私は首を横に振る。「やっと会えるんだもの」舞台挨拶で登壇する推しの彼に。

2月23日

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
ポケットから二十年前の蛙が出て来た。「ああ、ここにいたのだ。」急いで風呂の残り湯に、干涸びた蛙をプウカリと浸ける。台所の幸せに分類された巻紙に答えを書いて置く。すると、風呂場から「アタリ!」と叫ぶ蛙の声が聞こえる。私はニンマリとして次の謎が何処から出て来るのかソワソワし始める。

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
分別することなら何でも知っていると豪語する店に行ってみた。扉のところに、紙が一枚貼ってあった。『何にも、わからなくなりました。』そんならいいやと帰った。その晩、サワラの焼いたのを食べ、布団は温かった。夜にはもう何もかもが溶け、わからない証拠もなくなり空は一つに繋がって輝いていた。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
積もった雪のその下で炎が揺れているのを眺める。融雪カンテラ。線路の分岐器の凍結を防ぐものだ。彼女が凍ったら同じ方向にしか行けないんだよね、と言っていたのを思い出す。融雪カンテラが溶かしてくれるから。そう言って彼女は別の道を選んだ。マフラーに顔をうずめて目を瞑る。この季節は嫌いだ。

いものおのこ(サイトからの投稿)
私は、分刻みどころか、秒単位での仕事を要求される。そんな要求をされたところで「できないものはできない」と返事をするのだが、なかなか聞いてはもらえない。それどころか「できるだろ!」と何度も何度も頭を叩かれる。自分で選んだ仕事ではないが、来世はキーボードにだけはなりたくない。

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
季節外れの春にキスをされる。2度目のキスは風呂場の隅にしゃがんでいた。3度目は私から渡したい。それなのに肝心要の気分屋の春は、クリーニング屋の2階に吊るされている。叫んで転んだら、春は風になって3度目のキスを私に不意打ちする。私達は小指の赤い糸で、次の季節へと私達ごと結んでいく。

茉亜 @hanatoko33
(ちょっと大分に行って来る)幼馴染からの突然の電話。はい?なんで大分?母さん達には上手く言っておいてくれ?人を伝言板扱いすんな。昔からふわふわと頼りない。それでいて、妙に大胆。知らない街の海辺に独りぼっちでも、心配なんかしてやらないからな!数日後、やつから大量のかぼすが届いた。

茉亜 @hanatoko33
夜分失礼致します…旦那様、今夜も中々眠れぬご様子…薬湯をお持ちしました…夢見が悪い?毎晩のように草むらを掻き分けて蛇から逃げる夢を見る?…そうですねぇ…蛇は夜を掻き分けて、貴方の枕元に忍び寄っているかもしれませんねぇ…ふふふ、そんなに震えてどうかなさいましたか?

大宮みか(サイトからの投稿)
5分間の出来事が私の人生を変えた。
その日橋の上で佇む私を助けてくれた彼女は、一瞬で私の心を掴んだ。
気が付けば連絡先を交換していた。その後、私は彼女に会うために日々を過ごすようになった。彼女と出会ってから、私の人生は明るく変わった。
僅か5分程の出来事が、私の未来を変えたのだ

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
雨の向こうのお日様が、薄い緑色のくまを取ってまっ白に光り、宝石と見分けがつかない雨はカチンカチンと小さな虹をあげている。何だか今日は一秒が長く煌めいている。「私達の今はどっちに居るだろう。」そう言うと、青空がふるって希望をこぼした。踏み出す勇気は雨粒を踏むと「今」と微かに笑った。

秋助 @akisuke0
長かった同棲も彼との別れで終わる。不要なものを捨てる度に、心の中に淀みが積もるのはどうしてだろう。思い出を分け合うと言えば聞こえはいいが、嫌いを押し付けてるだけなのかもしれない。私達でひとつずつ得たものを、私達がひとつずつ失くしていく。鍵を開けるのも閉めるのも、全てこの手だった。

夏川涼(サイトからの投稿)
学生の頃、ある体育の授業で、授業の最初に毎回、全員12分間トラックを走った。12分には理論的な根拠があると聞いた。近年、運動不足解消のため、自宅内で12分間足踏みをすることがある。人間ドックの問診でそう言った。理論的根拠はないと言われた。しかし、自分には十二分に意義があると思う。

夏川涼(サイトからの投稿)
5分前精神という言葉がある。これは、旧大日本帝国海軍の伝統で、定刻の5分前には準備を終えておき、定刻と同時に作業を始められる状態にしようとする精神のことだという。学生の頃、叔父から、待合時刻の5分前には待合場所に到着しているべきだと言われた。今も、社会人のルールなのかもしれない。

玄冬 @takeyabu69
クロスワードを解く僕は、いつも言葉を捜している。君にあなたにあの人に、ぴったりな言葉が言えたなら何か変わっていただろうか?迷っている間に、僕の分岐点は混交してゆく。そして、口口に示される問いには、沈黙で答えてしまう。無口な人だと思われても、心は饒舌なのだと言葉の交差点で揺れ動く。

小塚友若(サイトからの投稿)
「大分の分は何故イタと読むのでしょう?」「分からないよ」
「当時の天皇がここには大きい田があるなと言い、大き田が大分になったらしい」
「き田が分に?」「昔、分はキタと読んでて、なまったとか」「何故なまる?」
「そこなのよ。大いに分からないところね」

松本俊彦(サイトからの投稿)
また、失敗だ。やはり無謀だったのだ。先輩のやり方はいつもそうだ。思いつき。行き当たりばったり。もっと展望をもって、じっくり取り組んでほしいのに。付き合わされる俺たちが迷惑していることが、この人にはわからないのか。そして、いつもの口癖だ。「やった。これではダメなことが分かったぞ。」

戸田なお @tarogorojp
兄さんの時計です。安田から渡された時計は5分進んでいた。兄さんは未来志向の人で死んでしまったことにも気づかずいるんだろうなと思った。兄さんはタイムマシーンに夢中であるとき庭をみていたらいえのまえに翼のない飛行機型車が停車した。白い帽子と白いスーツ姿の男は25歳の兄さんと似ていた。

リツ @ritsu46390630
「最近、仲間が増えてきたんです」
ヘモグロビンは俺を運びながら言った。
「主が鉄分不足を気にして、積極的にレバーを食べてるみたいで」
だからか。俺たち酸素はフットワークが軽くなり、体内の隅々まで旅するようになった。
「じゃあね」
ヘモグロビンと別れた俺は、新たな細胞での観光を楽しむ。

yomogi @yomogi585354524
7:56分発上り電車。発車から18秒後、ビルの間に一瞬だけ富士が見えた。母はそれをご褒美富士山と呼んだ。ご褒美なら現金がいいと言うと、「そーんなもんよ」と独特の節回しで返した。楽ではなかった母の人生のご褒美が、誰にでも見れるものなのが悔しかった。富士は母が煙になった日も見えた。

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
分度器。くすんだプラスチックがところどころ欠けたり割れたりした、分度器。中途半端に大きいせいで、筆入れに入りそうで入らない困りものだった、分度器。分度器が本当に必要になった場面って、これまでの人生に一度だってあっただろうか。ねえ、そう思わないか、分度器。僕も今、君と同じ立場だよ。

モサク @mosaku_kansui
窓の外では強い風が、冬から春へと季節を渡す。粘膜細胞が私の顔の両端でむずむずと言い始めた。呼応するように、マスクで隠れた中心にさらさら流れるものがある。足指は靴の中にまだ冬の名残を留めているのに。体のあちこちから聞こえてくるそれぞれの言い分。愛おしくて煩わしい、これが私の早春賦。

たつきち @TatsukichiNo3
「7分割ってさぁ」丸いホールケーキを睨みつけている。
「ケーキの下に分割用の等分シート敷いてるでしょ?その通りに切ればいいの」姉が言う。
「うん」
「どうしたの?」
「7だよ?割り切れてないよ。そもそもこの等分シート合ってるの?」
「わかった。私が切る」
ラッキー7は、案外、始末に困る。

あおいざかじゅーり @juurijurio
ダイイング・メッセージがあった。遺体は仮面を握りしめ、赤いちゃんちゃんを指差し、付近には折れた画鋲が転がっていた。仮面とはペルソナつまり別名のこと、赤いちゃんちゃんは還暦、60だ。そして折れた画鋲は画鋲の半分、画を抜くとびょう、秒だ。60の秒の別名、つまり犯人は分さん、あなただ。

草野理恵子 @riekopi158
皆でゾンビみたいに歩いていたら、空から人が降ってきた。全身紫君が眼球のない眼窩をもっと大きく広げて人だよーって叫んで受け止めた。人は胸のとこがドライアイスみたいに冷たくて紫君は随分凍傷で焼けてしまった。受け止めたからね。大丈夫だよって言った紫君の腕の中でドライアイスさんは笑った。

草野理恵子 @riekopi158
どうしていいか分らなくなり歩いていると、幽霊の真似をする子どもに会う。幽霊のセールスでこの街に来たと言い、道路の犬の糞を足先で剥がす。幽霊になれば何でもできると言う。「おじさんは幽霊になる?幽霊団子なら串に刺さっても平気だよ。やってみる?」巨大な串を取り出し♪だんご3兄弟を歌う。

颯光(そうひ)(サイトからの投稿)
きれいな死に顔でよかった。愁いを含んだ雲の流れを見つめる。寒冷な空から白い花が降る。雪を啄むと、白鳥の羽毛は黄金色に輝き始めた。雪片に満たされた宇宙の中を一羽の鳥が飛びだってゆくのが見えた。どこへ行くのだろう。初めてのことなのでわからない。3分前まで白鳥は皇子の姿をしていた。

雨琴 @ukin66
「今から私は呪いをかけます」と言って、あなたは罰するように口づけをした。ご褒美の前借りか責任の前払いか。どちらにせよ、これで頑張らないわけにはいかなくなった。唇を離す刹那、下唇を軽く噛まれた。自分で選んだ道行きだから、別の道を行くのも自分で選んだらいい。嘘つきと言われた気がした。

戸田なお @tarogorojp
犬島精錬所美術館で松涛のお家が空に飛んでいこうとしていた。何回も玄関出入りした。趣きのある玄関であって柔らかい光を感じた。三島由紀夫さんが持ち合わせていた独自の美的倒錯的昼下がり。三分一建築家は事故の顛末を知らないのにあのときの人々の驚きをむしろその方が残り香を表現できていはる。

ペリドット @saihate76
薄暗い灯りの酒場で、僕は君を90分5000円で、指名をする。誰かと指名が被れば、僕の時間はすり減る。焦れば、焦るほど、言葉が出ない。君を独占したい。嫉妬ってこんなに、心を焦がすものなんだね。醜い顔をした自分がいるよ。「延長しますか」と黒服の声が遠くにこだました。

ペリドット @saihate76
毎日のように強盗の事件が報道される。強盗は最初の五分が大事らしい。いかに早く、足跡を残さず。人生を棒に振ってしまう可能性が大きいのに、何が人を駆り出すのだろうか。ゲームみたいな感覚で、犯罪が生まれる。五分前に踏みとどまって。あなたの時間は有限ではない。

ペリドット @saihate76
深夜にお笑いのコンテストのDVDを見る。制限時間4分。320秒。お笑いに点数をつけるなんて難しいだろう。その上、出来次第では、「人生が変わってしまう」魔力を持っているんだから。夢がありつつ、残酷だ。でも、挑戦しようとしている人の目は、あんなにもきらきら光っている。

リツ @ritsu46390630
母は愛しの我が子の成長に涙ぐんでいる。すでに自分よりも大きい我が子をいつまでもおぶってはいられないだろう。そろそろ限界かもしれない。その親子とは、仮分数。「帯分数に直せよ」と、問題集に載せられた。子はもうすぐ独り立ちするのだろう。それでも母は変わらずに、子に寄り添い、支え続ける。

アヒル隊長 @taicho_ahiru_tw
去っていく背中を見ることもできず、俯く。地面にぽたりと雫が落ちて、咄嗟に上を向いた。溢れちゃいけないわけでもないのに、手で仰ぐのは誰のためだろう。目に映る空は涙越しでも青くて、青すぎて、こんな晴れた日を選ぶなよ。怒りじみた感情に少し笑えて、瞬間、後ろから風。進めと言ってる、多分。

2月22日

月夜の獏 @yumemisakka
「あと何分?」
昏い目で彼は私を見た。
「…さあ?」
もうすぐ死ぬという私に死ぬまであと何分と聞くの。相変わらずデリカシーがないのね。
なんでこんな男と一緒に居るんだろう。ああ、でも掌に触れてくるこの温もりに嘘はない。
あと1分かもしれない。でも永遠を願っても良いでしょう?この温もり。

草野理恵子 @riekopi158
オカピが好きだよね。園内の、象かコアラかの分かれ道。そこにオカピが見え隠れしていた。「オカピっておかぴーな名前だね」オカピはシマウマかキリンかわからない動物。君は言うと思っていたことを言って、すると思っていたことをする。君は人間か人間でない物かのふりをして笑った。どっちにする?

あひる隊長(サイトからの投稿)
おやすみなさい、と挨拶を交わし、改札を通る。見送る彼の顔はプロフィール写真と少し違ったけれど、別にいい。多分、向こうも同じことを思っているだろうし。お酒の量も会話の内容も適度で、いい人だった。それだけだ。なのに、誰かに急かされているような気になる。私はこれを恋にできるのだろうか。

草野理恵子 @riekopi158
白熊の夫婦の部屋だった。床は黒く凍り、私は下着姿で手足を丸めていた。暖炉に火は点かず古い写真がはめ込まれていた。写真は人のようで白熊のようで見分けがつかなかった。私は白熊の指がひらがなをなぞることを想像した。鉛筆を舐める音やその時の息や涎が私の臍から下の冷たさを和らげる気がした。

井上幸 @megumi_140moji
窓越しにふくりと膨らむ蕾を眺めてカップを傾けた。カラメル色の枝、赤紫が上品に映える。そっと部屋に風を入れ微かな香りを楽しんだ。暖かな陽射しが微睡みを誘う。チチッ、ぱたぱた。小さな気配に顔を上げると目が合った。こてりと首を傾げる客人と春の待ち遠しさを分かち合う。君は花より蜜かしら。

草野理恵子 @riekopi158
タイヤを首に巻いていた。なんで?って聞いたら、首巻きって答えた。首を温めたら全身温かいって言った。たいやきに似てるねと合わせると、君は察しがいいと褒められ気分がよかった。彼は子供のようで老人のようで宇宙人みたいだった。翌日、タイヤごと飛んでいくのが見えた。たい焼きは一人で食べた。

羅央 @rao_gaogao
「お前そんな先のことばっか気にしてるから、毎日つまんねんだろ?明日さえ、どうなってるか知る由もない。そうだろ?」河原で並んで話し込む。「自分が何者かもわからないなら、化けるかもしれないだろ?毎日暗く過ごすより、楽しく生きたいなら飯行かないか?」
覗き込む笑顔に全てが救われた。

猫とひまわり @orange_tomatoo
田中はレストランで、まだカットされていないピザを、トゲトゲがくるくる回るカッターを使いこなして、綺麗に切り分けられる。ホールケーキを切る時も、大きさがバラバラだからじゃんけんを、なんてことにならない。先輩に怒られ、自分は何もできない、と落ち込む田中への励ましはうまくいかなかった。

亜来輝 @Tellalie_TRBY
父はいつも、幼い僕に“あい”をくれた。母のいない分、僕にあいをくれた。他の子にはなくて、大きさはどれも違うけれど、手で触れて、目に見える確かなあい。あいを自慢したくなった僕は、包帯を取り友人にそれを見せた。青ざめた友人から零れた「痣」という言葉を聞いて初めて、あいの名前を知った。

夏見有 @you_natsumi
喪服をしまい、いただいたどら焼きの封を切る。私はもう同級生の葬式に出るような年になってしまったのか。喪失感よりも時の流れにぞっとした。
手のひらほどのどら焼きを半分に割り、かじる。思っていたよりもずっと重たかった。もう片方をラップでくるんで、冷蔵庫の煮物の影にそっと隠した。

江口穣 @JoEguchi
ぼくは見たんだ。星が散るのを。その欠片ひとつひとつが人の暮らす土地だった。だからぼくは船に乗った。何が残り、何が残っていないかを確かめるために。そんな過分の責任を負う義務なんてない、ときみは言う。でもあるんだよ。消えゆく星の輝きを、そのときぼくはきれいだと思ってしまったのだから。

あおいざかじゅーり @juurijurio
分と糞は仲がいい。いつも一緒というわけではないけれど。分が刻んでいる間、糞は出たり、分が測られている間、糞は誰かの栄養になったり。文がきて糞より自分といようと分に言ったけれど糞もそれに頷いたけれど、文が糞のことをたたみかけたけれど、それでもこのクソ野郎がいいんだと分は言い切った。

ヒトシ(サイトからの投稿)
「分数の割り算って、よくわかんないよね。二分の一で割るって何よ。一個を半分に割ったから二分の一なんでしょ?意味不明だわ」そう言いながら彼女は、半分こした肉まんの、ちょっとだけ大きい方を僕にくれた。半分こして食べる肉まんの美味しさは倍になるってことかもね、と僕は心の中でつぶやいた。

藍沢 空 @sky_indigoblau
コン、とスコップの先に何かが当たる感触があった。両手で土をかき分けると、錆びた缶が顔を覗かせる。蓋を開けると、親友と埋めたタイムカプセルの中身は十年前そのままだった。スマホのカメラを向けると、画面の向こうの親友も松葉杖を振って喜んでる。切符も取ったし、久しぶりの再会まであと少し。

ちまこっぴ @risusaruZ
生死を分けたのは些細なことだった。あの日、帰る僕を君が呼び止めた。おかげで土砂崩れに巻き込まれなくて済んだ。あのまま帰っていたら確実に僕はあの時間にあの道を通っていた。
でもおかしいな。前の時はあそこで君に呼び止められてはなかったんだ。もしかして、君も2週目?

Rista @Rista_Bakeya
見つめるキャッツアイ。食卓の隣、緑というか瞳孔全開の黒い目を輝かせてこちらを見上げてくる。「わたしの分は?」そのアテレコは多分正解。でも魚の干物は塩分が多い。「ないよ」目が見えてた頃から華麗な盗みはしない、黙って目線で訴えるだけ。なのに結局いつも、ほぐした身をお裾分けしてたなあ。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
分割鏡は蜂の巣に似ている。ハニカム。そのような事を考えていたら僕は教授の話を聞き逃してしまった。せっかく、彼が先週見付けた新星の話をしていたのに。大切な時に限って裏腹に雑念が多いのは、僕の悪い癖だ。新星には《地球》という名前が付けられたらしい。人間という家畜を2匹送るという話だ。

今村スイ @tsuduru_0716
街角で懐かしい香りを嗅いだ。かつて妻がつけていた香水。あまりの香りの良さに頭がくらくらすると言うと、主成分はアルコールですから、と冗談めかしていた。ほどなくして香りがふっと掻き消える。きっと、すべてはそんなものなのだ。苦笑して目を閉じると、今は亡い妻の笑顔がおぼろによみがえった。

戸田なお @tarogorojp
国分寺駅からバスに乗る。バス停の手前の画材屋に寄るのが目的である。今東京芸大の女性が裸婦のモデルになってくださっている。ルノアールのような赤い色をだしたい。絵の具売り場へいくとこれだという色がある。赤紫色で800円だ。店主が僕なんか絵の具の値段気にして絵描いたことないわと微笑む。

いしざきまこと(サイトからの投稿)
自分の事、胃に少し痛みを感じ僕は病院に診てもらった。MRIにはいり、1週間後にまた来て下さいと言われた。しかしその日の夜先生から電話があった。MRIによくない物が映っていたので明日直ぐに来て欲しいと言われた。悪性の出来もの出来ています。え!僕がこれから1分1分大切に生きたい

森林みどり @midorimidori53
3つの小皿におやつを分けて、私たち三人兄弟はどれが一番多いかよく見た。それが今日一日の重要な課題であるかのようにじっと見た。外から帰ったばかりの砂っぽい裸足に、団地の台所の床が冷たい。勝手口の窓から白い光が差す。解き終わって、三人はそれぞれの皿から今日のおやつをゆっくりと噛んだ。

森林みどり @midorimidori53
「残り10分です。」私はテストの残り時間をコールして、時計の秒針をにらむ。途端に進みが遅くなったようだ。終わりを意識すると時は急に重さを増す。教室を見回すと一人の男子生徒も秒針をじっと見ているのだった。静かな教室で一緒にゆっくりと進む時間に耳をすます。ゴトリゴトリと時は進む。

貴田雄介(サイトからの投稿)
「分を弁えろ」職場でも家庭でもどこにいても同じ口調で怒られ堪らなくなって逃げ出した。当てもなく街を彷徨う。商店街のスーパーでパック寿司を貪り、古本屋で爆買いし、うどん屋で饂飩を啜る。締めは銭湯。だんだんと考えがまとまり吹っ切れてくる。こうなりゃ徹底的に自分本位に生きるしかない。

2月21日


いしまるかずき @kazugloomydays
運転が好きだ。一度、車社会に出ると、身分も性差も無くなり、真っ平らな世界の上を走る。ヤクザも罪人も、死にたくないという前提のもと、規則に従って、走ってゆく。人間社会も同じならいいのに。そんなことを思いながら、優雅に走るベンツを横目に、オンボロハイゼットのアクセルを踏んだ。

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
「ポッシャン、ポッシャン、ツイツイ、ツイツイ」途方に暮れたように目をまん丸したスズメが、水の中の青い魚のように濡れて光りながら、春に雪の歌を歌うと、辺りの調子が何だか変な具合になった。「これが、季節の移り変わり、見えない物達の細胞分裂だよ。」私は初めて見るその光景に涙が出た。

森林みどり @midorimidori53
チャイムが鳴って出てみると、水質検査に来たという。男が試薬を入れた水道水は忽ちピンクに濁る。「こんなに体に良くない成分が入っている。浄水器が必要です。」私は男を追い出したい。だがピンクの水から逃れられない。隣の部屋で寝ている赤ん坊が、私が分泌したピンクの乳を飲むところを想像して。

塩見佯(サイトからの投稿)
あなたを二十五分割してみました、と部長は言った。よく眠っていたのでつい。つい、で人のことを分割しないでほしい。なんとか元に戻させたが心臓が足りない。……ついうっかり。……なんですって。かわりに、と差し出された黒猫を胸に納めてぼくたちは手を繋ぎ家へ帰る。なぁ、と胸で猫が鳴く。困る。

羽田繭 @tea_for_four
底の底にいるような夜、びかびか発光する額を両掌で隠し目を閉じるとチョウチンアンコウの視界になる。指の間から光が漏れても餌は現れず、私は身一つでうろうろ彷徨うだけ。光らなくていい、誘われる側になりたい。雌に取り込まれその体内に飼われる雄になりたい。深く冷たい海の重みをかき分け進む。

森林みどり @midorimidori53
夜、私はあなたのアパートの部屋に侵入する。パソコンの前の背中にそっと近づく。何をしているの。画面を覗き込む。モザイクがかかっていて分からない。次にあなたの顔を覗き込む。あなたの顔は写真のままで固まっている。私はあなたの部屋に忍び込んだ暗くて黒い影。だから私には全て秘されている。

TAKA001 @001TAKA
夢は破れるもの。ひとりで抱え込まないことさ。心の中で濡れ落ちた紙飛行機をひろげてごらん。悲しみを分けあえる様にキリトリ線が書いてある。
さぁ一緒に写真を撮ろう。ピースサインはハサミになるよ。きれいに切って本の栞にするんだ。物語はもう始まっているからさ。
主人公は君で相棒が僕なんだ。

猫とひまわり @orange_tomatoo
困った。普段、化粧はファンデーションで肌色を整えて、眉毛を描き足すくらい。分厚いと思う本の厚さが違うように、化粧が濃いと思う基準も人それぞれだと思う。足したり引いたり、算数を習っていた頃と変わらない。あの人のことを考えて、ずっと計算を続けている。正解が会わないと分からないなんて。

森林みどり @midorimidori53
ある女性が結婚して家を買った。その女性が話している。「水辺がよかったんです。水は汚いものを浄化するでしょう。だから水のある場所が第一条件でした。」夜の暗がりに大きな澄んだ池が浮かび上がる。私はなんて賢い女性なのだろうと思う。自分の顔が青白く映ってさざ波に揺れる。私にはできない。

 @AoinoHanataba
村が飢饉になった。村を愛していた神様は救いの手を差し伸べた。
「私の身体を分け合ってお食べ」
 神様は舌を噛み切り、村人達は涙しながらその肉塊を食べた。神様はとても美味しかったらしい。村人達は心もお腹も満腹になった。
 
僕は神様の事を愛していたから、どちらも空腹のままだったけどね。

MEGANE @MEGANE80418606
老人は縁側で煙草を呑みながら、「ありゃあ、すさまじい剣の達人だった」と遠くの空を見る。「長短八本の刀を使い分け、見事に敵を切り捨ててた」「その人の名は?」貴重な証言者に興奮して詰め寄る。「俺たちは、ぶん、と呼んでいた。ほら、八と刀で」短くなった煙草の先で空に文字を書く。「分」と。

なみ @goo31Hlz
金属にプラスチックにゴムに皮……出かけるときでも眠るときでも、常にありとあらゆる素材を身に着けていなさいーー母からのその教えを守ってきたから、私はこうして、日本一の長寿者になれたんでしょうね。神さまも、見捨てる気にならないってわけですよ、こんなにも分別がめんどうな人間のことは。

羅央 @rao_gaogao
「知ってるか?終末時計が表す人類滅亡まで後、90秒だってよ」自販機の前、振り向きざまに奴は言う。てことは人類残り27年か。皆どうするかな。地球に残らず火星とか、または地下で暮らすのか、星を旅することも出来るな。そしたら食料は、「早く来いよ」気がつくと奴はずっと先。自分だけが自販機の前

柴田裕希(サイトからの投稿)
キーホルダーが出てきた。当時流行っていた恋人と分けて持ち、二人揃って完成する形や文字。「うわ、そういうタイプだったんだ」隣で夏美が言う。「ずっと、ってことはその後、一緒、とかだ」と茶化すように、明日には奥さんになる彼女が言う。修学旅行で君が押し付けてきたことは今日は黙っていよう。

こたろう @tDdKt587KklMAWJ
彼女がマンションの7階から飛び降りようとした。
次の日、一緒に病院に行った。「当分の間様子を見ておいて下さい」医者に念を押された。
付き合う事になった時「お互いに素直でいようね」と彼女は言った。
あれは、他に好きな娘が出来たことを告げた直後だ。約束は果たしたのに。何故だか分からない。

2月20日

藤和工場 @factouwa
僕の中には五人いる。
ひとりは生まれたくなかったと喚いている。
ひとりは死にたいと嘆いている。
ひとりは消えたいと歌っている。
ひとりは眠りたいと呟いている。
ひとりだけは、お金の心配をして、うろたえている。
そいつだけが、まだ、執着している。
生きたいは五分の一のマイノリティ。

わこり @meronnsoda_2518
「ここに飴玉が1つある。これをお前と均等に分けようと思うんだが、どうしたら良い?」

「いや無理でしょ。飴玉なんて小さな物、綺麗に2等分できる訳がない」

「ほら、この飴玉やるよ。これでお前は飴玉が貰えて嬉しい。そして俺はお前の喜ぶ顔が見れて嬉しい。どうだ? 綺麗に2等分できただろう?」

小鳥遊 @ritsu_t25
妻は時々、私の前でいきなり手話を始める。若い頃にひらがなの五十音だけ覚えたようで、突然右手が細やかに動き出す。私は手話を知らないので、妻が何を言ってるのか全く分らないのだが、妻は手話が終わると必ず「あ〜すっきりした。言いたい事全部言えた」と嬉しそうに笑ってビールを飲んでいる。

夏川涼(サイトからの投稿)
彼はすぐに戻って来るはずだった。しかし、1分、2分、何分たっても、戻ってこない。戻って来る気配もない。静かに、ただ時が過ぎていく。どうしたのか。一体どうしたというのか。あれほど言ったじゃないか。なぜだ。なぜ戻ってこないんだ。こだまよ。私のあの声は小さすぎたというのだろうか。

亜来輝 @Tellalie_TRBY
好きな幼馴染が俺を見て泣き出した。そして俺を抱き「大好きだよ」と囁く。勘違いしそうになるが、こいつの好きは俺と同じではないと、十分知っていた。だから俺は抱き返さないし、涙も拭かない。ただ、出逢った日から最期まで意識されていないことが悔しくて、伝わらない愛してるを「ワン」に込めた。

藍沢 空 @sky_indigoblau
子どもの頃、森の中を分け入って見つけた菫の群生地。木々の間から差し込む光と苔むす地面にひそやかに咲く紫の小さな花が幻想的で、お気に入りの場所だった。あれから数十年、森はほとんど住宅地に変わったが、どこかに残っていた種が毎年、家々の庭に花を咲かさせているらしい。命の力はかくも強い。

夏見有 @you_natsumi
友人とのバカ騒ぎも恋人同士のいちゃつきも、理解ができなかった。きっと痛みに鈍感なんだろう。全く羨ましい。
落とした視線の先にはグレーのタイルが広がる。その場しのぎのねじれた思考に自分のことながら呆れ返った。今更ほしいだなんて言えない。もう、横目で彼らを見下すことしかできなかった。

玄冬 @takeyabu69
春雨の上がった透き通る感情に虹を架ける。
背中から翅のように伸びた、幾筋もの反射は概ね恋しい何かで、口に出してしまうのが怖いくらいだ。遠目に分度器を当てて、その角度の鋭意の先を推し量るのはナンセンス。
虹は鱗粉となって降りしきるから、皆傘を畳まずに想い人と寄り添っている。

青垣宝(サイトからの投稿)
私は算数が苦手だった。特にあの分数という奴。1を5で割ると5分の1なのは分かる。でも1つのケーキを5人で分けるとなると話は別だ。イチゴが載った5分の1と載っていない5分の1は違う。授業中そんなことばかり口にする私を教師も同級生もうんざりした顔で見ていた。私はそれから無口になった。

神鍋 実 @kannabe_140
最初は空耳だと思った。
「何か言いましたか」と尋ねると、夫は赤くなった顔を隠すように新聞に視線を落とした。
「俺も還暦や。お前のことが分からなくなる日がくるかもしれん。やから言えるうちに言うことにした」
私は静かに次の言葉を待つ。
「愛してる」
真剣な眼差しが私をまっすぐ捉えた。

葉菜(サイトからの投稿)
私は20歳であなたに会った時からあなたが好きだった。私の気持ちをあなたに伝えた日の事を覚えていますか。あなたは照れながら私を受け入れてくれて交際し家族になり60年。いつも一緒にいてくれてありがとう。でも、もうさよならね。だって私はあと数分で永遠の眠りにつきますからね。幸せでした。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
分陰を惜しまずゆきなさい。と、父は云った。最期の言葉だった。分陰を惜しまず会社の為に働いた彼は、要領良く遊び呆けていた他の人間よりも早く逝った。私も同じ人生を辿れと云うのだろうか。彼には後悔はなかったのだろうか。遺書を、開いた。
──自分の為にゆきなさい、分陰惜しまずゆきなさい。

久保田毒虫 @dokumu44
駐車場はどこも空いてなかった。30分待っても1時間待っても空かない。俺は仕方なく月に駐車した。すると月のウサギが飛んできた。「困りますよ勝手に停められては。ここは心にゆとりのある人しか停めてはいけないのです。人間はどうもせっかちだ。心にゆとりを持たないと駐車場なんて空きませんよ」

MOTOM(サイトからの投稿)
 「お前のためなら命をあげるよ」と懸命に歌っていた天使が亡くなり、もう何年になるだろう。「つかまえなさいチャンス」、と何度も言われた。しかし、神の御心は分からなかった。この世に有るものを比べ、無いものを欲しがる人間の愚かしさを何度も見てきた。ちっぽけな正義感などに騙されない。

酒部朔 @saku_sakabe
桜に氷雨。氷に花びらが透けて見える。奇異な天気で待ち合わせ。桜パンケーキにシロップをたくさん掛けて分けましょう。傘をゆらして彼女は踊る。びしょ濡れのパンプスが地下街に水溜りを作る。「別れるのがそんなに嬉しいの?」「これから私が一人で食べ切れないだろうパンケーキの葬送をしてる」

そら  @neru_nen_aile
唐突に現れたソイツの名前を聞きたくも知りたくもないのだが、それでもソイツの存在をとおの昔から知っていた。しかし、私の身に降りかかるとは夢にも思っていなかった。しかし、ソイツが私のことを蝕む現実が訪れた。ならば私はソイツを言い放った元恋人よりも数倍幸せになって見返してやる、多分。

そら @neru_nen_aile
一分でもいい。一秒でもいい。
我が侭が通るならば、人よりこの子の流れる時間が少し遅くなってほしい。
目を閉じて哺乳瓶を咥える姿を、楽しそうにハイハイする姿を、目一杯の笑顔を、この不甲斐ない私達に記録として記憶として残していてほしい。
いつか通り過ぎる愛おしく尊いこの時間を。

.kom(サイトからの投稿)
「最初に決めたんだから、グダグダ言うな。」
髭面のボスが怒鳴り散らす。
「そんな事言ったってコレっぽっちじゃ。」
泣き出しそうな部下達を前にボスがもう一喝。
「何言ったって分け前は変わらねぇ。」

東方 健太郎 @thethomas3
小春の風邪を引いた。鼻先をくすぐる桜花の芽吹きは、いじらしいほどにマスクの上から頬を撫でる。もういい加減、こんなマスクライフはやめにしたい。ノーマスクノーライフでは、やってられない。小さなウイルスの分際で、或いは、それはちっぽけな存在としての人間の在り方を教えてくれるというのか。

2月19日

コロコロ(サイトからの投稿)
 陸上部に入部した僕と君。放課後よく、短距離走で競いあった。でも、僕は一度も君を追い抜けなかったな。
 10分前、テレビでオリンピックに出ている君を観たときは正直悲しかった。君はまだ世間に嘘をつくんだなと。

 僕は…
 ドーピングをしてまで1位を取る君なんて見たくなかった。

 @AoinoHanataba
「ごめんね……ごめんね……」
 謝罪を繰り返しながらも、恋人は僕をあの世に道連れにするために、腕をしっかりと掴んだ。黄昏時を利用して恋人に会うために、あの世に行ったんだが……。自分であの世に行く事を選んだ人を連れ戻すのは無理か。
 
まあ、現世に戻ったところで心中するからいいけど。

寝る子は育つ(サイトからの投稿)
 おみくじで凶を引き当てたのは、ほんの5分前のことであった。別に心底信じきっている訳ではないが、私の心は落胆する。仕方ない、あれの実行は今年も止めておこう。

 1年後。彼女の手には大吉と書かれたおみくじが握られていた。その年からであった。全国の賽銭泥棒が一気に行動し始めたのは。

夏川涼(サイトからの投稿)
「分刻みのスケジュール」とか言う。とても忙しいということだろう。例えば、2時1分。そこで次の予定が入っている。そんなスケジュール、経験したことがない。そんなスケジュールって、あるか?とも思う。無理があるだろう。ただ、少し、羨ましくもある。いやいや、あり得ない。「ふん!」と思おう。

アイダマ @aidamatoh
カレンダーを握り締めてあなたはさめざめと泣いた。清廉潔白な両目からは滔々と哀しみが流れ落ちる。僕にはその胸の内が、深刻さが少しも理解できていない。そのくせ傍らに立ち尽くす自分だけはやたらと惨めに思えて涙が込み上げてくる。この分水嶺はいつかきっと、途方もなく僕らの行く手に横たわる。

夏川涼(サイトからの投稿)
数年前、格安ツアーで台湾を訪ねた。その際、九分でレトロな街並みを満喫し、十分ではランタン上げを体験した。「九分十分」という言葉がある。大同小異との意味である。しかし、台湾の九分と十分は、そうではない。2大観光地とも言われるだけあって、それぞれに個性があり、訪れる価値があると思う。

水原月 @mizootikyuubi
紀元前の人間。研究所に突然現れた青年について分かったことは、それだけ。
夜になると「ぴうねかもり、おみわたり、ねつぃゆきら(太陽神は海を渡り北に行ってしまった)」と泣くので、研究所近くの梅祭りに連れ出した。
「せんせー!きやらつゃ!(綺麗!)」
梅を見る青年の瞳は、太陽のようだ。

秋助 @akisuke0
寝起きに頭がぼんやりするのは、夢泥棒に夢を盗まれた影響だ。良い夢が続くと現実に戻れなくなるし、悪い夢が長いと虚構で亡くなってしまう。優しい人には狡い奴から盗んだ良い夢を、狡い奴には優しい人から盗んだ悪夢を均等に分ける。夢泥棒は現実と虚構、正義と悪のバランスを取る現代の義賊なのだ。

春告草 @PXyVA5QaxwP6hy9
「まっず」
話に夢中になって2時間近く放置されたメロンソーダは、メロン成分が沈みグラスの中ですっかり炭酸水とメロンソーダに分離してしまっている。
「どんな味?」
興味深そうに俺の顔を覗き込む彼女にグラスを向けると、彼女は迷わずそれを口にした。
「まずいね」なんて、嬉しそうに言うな。

箱の中の猫(サイトからの投稿)
明日、母と袂を分かつ。許されぬ恋と望まぬ妊娠の結果が私。男に愛を使い果たし、私を腹の外に出し、抜け殻が残った。母乳に愛情成分は無かった。父の欠落が私を厭世的にした。高校の卒業式は母の姉が来た。アパートの身元保証人もその伯母だ。餞別の茶封筒と一枚のメモをくれた。私の人生が動き出す。

黒猫(サイトからの投稿)
1秒、1分、1時間と時は過ぎていく。
それに伴い段々と意識が落ちていく。
辛いこと、悲しいこともあったけど最後は笑って家族に見送られながら死ぬことができる。
人間結局いつかは天が定めた時間によって死ぬんだから皆も私と同じように最後まで足掻いて幸せな最後を遂げてほしい。 

タケイチ @TAKEiCHi140
男女の生殖器を象った御神体が彼方此方に屹立する神社の、祠の外縁に座った小さな人は言った。死んだ人間の魂は八つに分割される。そうして分けられた欠片がまた八つ合さって、一つの新しい魂となる。だからお前と同じ魂の欠片を持った人間が五十六人いるんだにゃ。小さな人は元の姿になって欠伸する。

かわうそじょう(サイトからの投稿)
きらきら光るそれを見つけたのは、部活終わりのことだった。夕暮れの光を反射していたそれを他の誰にも見つからないように自分の手の中に隠し、早足で帰る。本当は冷たいはずなのに、輝きが漏れないように力を入れたせいで手の中が熱くて、心臓がどきどきした。やった。明日はきっと、焼肉だ。

秋透清太(サイトからの投稿)
物置で遺品を整理していると黒い箱から六分儀がでてきた。まだ物事の良し悪しも分からなかった頃の記憶が甦る。「これは、お星様までの高さを測るものなんだ」毛布のように温かく柔らかい声で祖父はそう教えてくれた。縁側に出て一番明るい星へと六分儀を構えてみる。祖父までの距離が分かる気がした。

秋透清太(サイトからの投稿)
「父さんこれ教えて」と言われて息子がテーブルに広げた問題集に目を落とすと、分数の掛け算の問題で手が止まっていた。「父さんはな、算数よりも自分で考える力を養ってほしいんだ」息子の頭を撫でて背中を向けると、台所で洗い物をしている母さんが鼻で笑った。それを真似した息子にも鼻で笑われた。

193(サイトからの投稿)
兄がいた頃は四等分だったから切りやすくて良かったな。兄が就職とともに家を出て、父と母で三等分するのは難しかった。父が亡くなり、半分こ出来るようになったと思ったら今度は母が入院してしまった…今の私は0なのかな?○なのかな?食卓の上のバウムクーヘンを見つめながら、そんなことを考えた。

193(サイトからの投稿)
自分の気持ちを直接伝える勇気がなかった私はラブレターを書き、好きな人の机にそっと忍ばせた。良い返事がもらえるかな…と数日待ってみたが一向に返事が来ない。友達づてに聞いてみると白紙の手紙しかもらってないとのこと。あ…フリクションペンで書いたからか…私の想いは届く前に儚くも消えたのだ

193(サイトからの投稿)
スマホのアラームが鳴り、時刻を確認するとまだ余裕があるなとスヌーズにして再度眠る。またアラームが鳴ったが迷わずスヌーズ。スヌーズリピートしていたら、これまでとは違うメロディが鳴り響き慌てて画面を見ると職場から電話が…たった5分されど5分。どうやら私は半日近く眠りこけていたようだ…

だいやま(サイトからの投稿)
『はい、もう一度』『お母さん頑張りましょう』『もう少し』ここは『第一分娩室』


『オギャー、オギャー』

分娩室は、神秘的な雰囲気に包まれた

今、母親と分かれて、自ら生きているこれから長い間、自分の道を切り開き生きなければならない自分として、次に母親と分かれるまで

緋芭まりあ @A_Mary_geha
一分一秒だって無駄にはしたくない。そう思っているのに、ついだらけてしまうのはテスト前の性なのか。言い訳を重ねて後々後悔することを、過去の自分に言ってやりたいと思えるのは、少しは自分が成長した証なのか、はたまた今をもがき苦しんでいる証拠なのか。とりあえず前進あるのみ。頑張れ、自分。

ikue.m @ikue_mini
タカシは今日も大好きなおじいちゃんの部屋へ行く。「おじいちゃん、クッキー半分こ」「おお、ありがとう」でもタカシの小さな手でクッキーを半分に割るのは難しかった。大半が粉になったクッキーを拾い集めながら、涙目のタカシにおじいちゃんが言う。「そうか、アリさんにも分けてあげるんじゃな?」

酒部朔 @saku_sakabe
きみの形見としてきみの育てた大根を分けてもらった。嘘みたいに重くてわたしは、ごめんと言って少し引きずった。煙突からはきみの煙が昇っていく。あなたのおうちはここですと部屋に入れ、一緒に音楽など聴いていたりすると安心できた。毛布にくるまる。とてもうれしくてあったかくてとても悲しいな。

冨原睦菜 @kachirinfactory
寸分違わぬその容姿。あなたが姫の生まれ変わりとお見受けした!そう足元で跪く男は狐の耳がある。ちょっと待て!その姫ってなんだい?昭和体型の爺いのどこに姫要素があるんだい?その体型こそが姫の証拠。そろそろお戻りくださいませ。狐耳男はふさふさの尻尾をふわんと振って、俺に手を差し伸べる。

れん(サイトからの投稿)
10時40分になると、ランチ準備中の海側の窓から、手を繋ぎ遊歩道を歩く白髪の男女の姿が決まって見えていた。だが、秋になって男性の方が一人ショボショボ現れるようになり、そのうち彼も消えた…時が経ち、春の日差しの中に、胸を張り颯爽と車椅子を押す男性が見えた。椅子の女性は海を見ていた。

もとし @motobaritone
鏡に映り込んだ自分の顔を見た。本当はもっと美形が良かった。より美しい顔を手に入れようと通販サイト開く。『オーダーメイドで自分好みの美顔に!』迷わず”美顔”の項目にチェックを入れた。注:周囲は誰一人あなたである事に気が付きません。『ご注文確定。一万回目のご利用、ありがとうございます。』

リツ @ritsu46390630
「夜分遅くにすみません」
電話をかけた母親が言っていた。大人ならではの気遣いに、少し憧れた。10才の自分が言ってみたら笑われそうだから、大きくなったら言おうと思った。しかしZ世代の私が大人になった今は、夜でも気軽にメッセージをやり取りできる時代。なかなか言う機会がなくて、少し悔しい。

羽田繭 @tea_for_four
知識というのは大きな木みたいなもので、それぞれの枝に分かれています。だから図書館の本も0から9の類に分けられて並んでいるわけです。先生、僕19番!足りないよ、僕はどこ?そうだね君は、分類できません。君たちは知識を獲得していく存在だからですよ。なんで?『何で?』ほら、そこから始まる。

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

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