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夏の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part1

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

夏の文字 「遠」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

7月31日(月)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(7月1日〜4日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

7月4日

たかひろ(サイトからの投稿)
ベランダに出て空を見上げると、薄灰色の雲が空を覆っていた。7月7日、今日は七夕。織姫と彦星が天の川を渡って出会える特別な日なのに、僕を気遣うように、目の前には静かな空が広がっている。僕から遠く離れた空では、二人は出会えているだろうか。僕は物思いにふけ、静かに部屋に戻った。

東方健太郎 @thethomas3
郊外都市の駅のホームを通過する列車の警笛が高らかに鳴り響いて、辺りの静寂は一瞬、その空気ごと突き動かされた。ひそひそ、その警笛に破られた静寂にささやき声が混じる。彼は右手の人差し指につけたオニキスのリングを見つめ、そっと瞳を閉じた。遠くから心なしか涼しげな風が、秋の訪れを告げた。

巻柄ぽん @iNFEuOxmHtIg2gV
遠くで雷が鳴った。
雨宿りに立ち寄った木影に同級生の先約がいた。目が合うとすぐ逸らされる。しばらく無言で雨が止むのを待っていると、隣からボソボソと小声が聞こえてきた。声をかけられたが内容が雨音でわからない。もう一度尋ねてみた。
「好きです!」
大きな雷の音が今度は間近で聴こえた。

リツ @ritsu46390630
理想とはほど遠い人生に嫌気が差したので、理想のわたしを探していました。頭の中にいたわたしを、探し求めて彷徨いました。ついに見つけられたようです。それは、誰もが羨むような美人で、周りから好かれる明るさを持ったわたし、ではありませんでした。でも、確実に見つけられた気がしているのです。

藤和 @towa49666
小学生の頃遠足に行くのが嫌だった。ひたすらに歩かされるのも嫌だったし、みんなから嫌われている僕には友達なんていなくてお昼時時には班のみんなから罵声を浴びながらお弁当を食べた。そんな僕を見て、先生はみんなと仲良くしろと僕を責めた。だから今、大人になって遠足がなくなって安心している。

かまたま @kamatama_dance
カーン、カーン。指定の皮靴で学校の廊下を走ると、コンクリートの壁から反響が聞こえる。この音が、僕を時間も場所もここではないどこか遠くに連れて行ってくれる気がする。隣の君に好きだと言えない焦燥感も、何も変わらない二人の距離も反響音に乗せて僕と飛んでいけそうで、今日も僕は廊下を走る。

円寺える(サイトからの投稿)
望遠鏡を覗き込むと白く輝く星があった。天体に詳しくないので、これが何の星なのか分からない。近くに二つ星があるので、夏の大三角というものか。今日は八月十一日。母が星になった日。母は、この三角のどれかになっているのだろうか。そうだとすれば、あとの二つは、祖父母の星でありますように。

五十嵐 舟(サイトからの投稿)
見上げる事が遠い動作になった。下ばかり見て、もはや首と顎がくっつきそうだ。
空と星が遠くなったのは機械に支配され過ぎた結果に見えるのは自分だけだろうか。ここでは夏に広がる星達さえ遠い。頭部と背中がくっつくくらい見上げてみたい。そうしたら縛られる事なく自分らしく歩けている気がした。

ぽんちゃん @PooonFFchan
ジィジィとバッタが鳴き続ける草むらを沢山駆けて駆けて、夜露が脚を濡らしたって平気で、月は上弦でもうすぐ満ちる。いつか私を見て知って。止まらない、だって黙っていられないから。もう自覚しちゃったから。出来るだけ遠くへ飛んで肉体だって凌駕して。両腕を翼に変えて。デネブ、あのひとの元へ。

陽香(サイトからの投稿)
「あの星に、手が届けばいいのに。」と強く思った。青く光る、届くはずもない遠い星。ただ純粋に、その星に惹かれた。死ぬまでに一度くらいは、もっと近くでその美しさを堪能したいものだ。名は、「地球」というらしい。

なまこ @namaco0909
こんにちは、お元気ですか?
今日も金ピカの円盤からご機嫌な挨拶が鳴り響く。返事はまだ、ない。
目玉がチャーミングな君も、洒落た星屑の輪っかの君も、僕がぐるりと周ってばびゅんと通り過ぎるのを静かに祈ってた。
ここは地球から148.5億マイル。鯨のラブソングをお供に、僕は更なる深遠を目指す。

なまこ @namaco0909
星の光をかき消す様な閃光の華が空に咲いた。
「冬の方が綺麗に見えるのに」
皮肉る声を諭して遠くの三角形をなぞる。
「織姫と彦星に花を添えると思えば乙なもんさ」
「……俺、犬派だし。冬が好きなの」
んで、お前のそういうとこ、きらい。
くすぐったそうな呟きが、轟音と歓声に紛れて溶けた。

なまこ @namaco0909
ねえ、星でも探してるの?
少女が訊いた。その男はいつも、どこか遠くを見ていたから。
良い年して随分とロマンチストなのね。大切なものって、近くにあると思うけど?
寂寥感に滲む丸い瞳にも、彼の焦点は合わない。
老いたからこそ、だよ。
溜め息と共に、男は胸ポケットから眼鏡を取り出した。

レオン(サイトからの投稿)
夜空を見上げると、他の星より大きく明るく輝く2つの星。

わたしが歩くと桃色の星がついてくる。どこまでも。

少し遠くの夜空で輝く、空色の星を探した。

「見つけた」

空色の星も、桃色の星に近づいてくる。

夜空で桃色と空色の星が出会ったとき、空の下では私達2人の笑顔が輝いた。

高瀬 七(サイトからの投稿)
『うわぁ素敵な靴!』良かった、喜んでもらえたみたいだ。『こんなにお洒落な靴、履いたことないよ』そう、君はヒールを履かない。いつもスニーカーで、タッと駆け出していく。軽やかさに見惚れてしまうよ。でも、不安なんだ。捉え所のない所も君の魅力なんだけど、どうかあまり遠くに行かないで。

山尾登 @noboru_yamao
巡り合えて三度目の逢瀬の宵。私は思い切って不治の持病を彼に打ち明けた。一呼吸あったにせよ、「生涯一緒だよ!」と受けとめてくれた彼。その眼差しの篤さで、私は女に成れた。やがて幸せの一年目、彼に打ち明けられる。気が遠くなるほどの借金がある彼。後出しジャンケンを許せる愛情は私にはある。

黄瀬智哉(サイトからの投稿)
「夏の大三角って、覚えてる?」結婚を控えた僕らは、川沿いの夜道をゆっくりと歩いていた。「えーっと・・・。あ!あれかな?」「そう!一番高いのが織姫星で、右へ遠く離れているのが彦星だよ。」「二人は一年に一度しか会えないんだね。」僕は、僕らの間に天の川が流れていないことを嬉しく思った。

7月3日

朝比奈 来珠 @raise_hina
試合で負けた宵の夜、河川敷を歩いてふと思い出した。小さい頃、父と一緒に歩いた道。「あっ、お星様だ!」私はその光星を見つけ指をさす。「これは一番星だね」その時、私は何故か、その星に手を伸ばしていた。「今は届かない星でも、いつか手にする時が来るよ」掴めそうで掴めない遥か遠き星を。

楓雲 @fuun_desu
徴兵があった。戦争で国は疲弊し、民を兵士として動員するに至った。今朝、妻が発った。元看護師だったが、戦場では歩兵として特攻するらしい。私の両足は既に、爆弾で無くなっていた。幻肢痛だけが疼いていた。
「大丈夫だよ」
 と。久遠の笑顔で、笑いかける君。――それがただ、恨めしかった。

明日香 @asukahuka
永遠に生きることにした。寂れた終着駅の駅長に合言葉を伝えると、彼女はいった。「途中で取り消しはできませんが」私が頷くと同時に銀河色の汽車が到着した。ふかふかのコンパートメント席に寝転び、体を丸める。「さようなら」と見送ってくれた駅長が、泣いているように見えたのは気のせいだろうか。

ツヒレ(サイトからの投稿)
いきなり家に呼び出された。
最近遠距離でずっと会えてないし深刻な話をしそうな顔をしていたから、別れ話でもするのかと心配した。
「ごめん、もう我慢できない。」
やっぱり、別れ話か。
「漏れる。」
…え?
トイレから戻ってきた彼女は昔2人で行こうと約束していた海外旅行の、雑誌だった。

MEGANE @MEGANE80418606
香水売り場を通りすぎようとした時、私はその香りに呼び止められた。香りが、一瞬で遠い記憶を呼び起こす。夏空の青さがはてしなく、ここではないどこかに連れ去られていかれそうで怖かった。ただ泣くばかりの幼い私を、母が抱き上げてくれた時、首筋から香った匂い。やわらかな母の香水の匂い。

@nu_sousaku
夜の海に行く。好きな人と、ドライブで。ロマンチックな響きだ。そして響きでしか考えないのが、私の悪い癖。右も左もただの闇。でも、遠くで闇が揺らめくからたぶん海。目が合う。運転中なのに器用な人だ。獰猛な光が私を見ている。自分の輪郭が浮き上がって、怖い。でも、ロマンチックだなって思う。

ヤマサンブラック @zantetsusen
特急電車の座席に、隣り合って座った。息子を連れて帰省するのは、何年ぶりだろうか。窓枠に肘をつき遠くを眺める息子の横顔は、元妻に少し似ている。私は目を閉じ、少し眠った。改札を出ると、老いた両親が笑顔で待っていた。照れ臭そうに、息子は両親に挨拶した。背丈はもう、私を追い抜いたようだ。

イマムラ・コー @imamura_ko
遠距離恋愛にも程があると思った。ある日彼女が留学すると言ったのだ。どこへと聞いたらパリだと言う。とりあえず1年は帰って来ないつもりらしい。びっくりしたが応援してあげたいと思った。出発の日僕は空港まで見送りに行った。僕らが生まれ育った月から地球へ向かう人で今日も空港は賑わっていた。

藤和 @towa49666
遠くに行きたいとずっと思っていた。具体的にどこに行きたいとかそういうのはなくて、ただここではないどこかに行きたかった。ここで生きていくのはあまりにも辛くて、苦しくて、どこか遠くへ行けば救われると思った。でも、どこまで遠くに行っても救われない。追い詰めているのは自分自身なのだから。

甘衣 君彩 @kimidori_novel
あれがベガ。あれがアルタイルだ。地球から見たら近いが、実は十五光年も離れている。光の速さで動いても、会うのに十五年かかる。織姫と彦星の遠距離恋愛には誰も敵わない。

敵わないんだ。あいつらよりは近い。だからそんなに泣くな。それに、離れていても俺達はずっと友達だ……なんで叩くんだよ。

喜村幸輝 @ma_su0v0
夜の散歩がてら夜空を眺める。
「あ、流れ星!」
何歳になっても流れ星はテンションがあがる。願い事は決めていた。
「金、金、金!」
唱えられた。唱えられたが。
「金ぇ!?」
流れ星が消えない。
それどころか遠くにあったはずが……足元にどでかい穴があく。
まさか、流れ星は足元に落下するとは。

喜村幸輝 @ma_su0v0
もう疲れたなと思った時。
--キィ……
公園で寂しげに風に揺れてブランコが鳴る。
整備もされていないようで随分と錆び付いている。
--キィ……
誰も見てないね?
恐る恐るブランコに着席する。
--キィ……
足でブランコを揺らす。
遠い昔の懐かしい音がした。
少し、私もブランコも元気がでた。

喜村幸輝 @ma_su0v0
辺りは真っ暗、暗闇。そんな中、忽然と遠くの方で光が揺らめいていたら、皆どうする?
私は虫である。明るいものに飛び付くことがある。
最期に見えた光は、闇の中の一時の希望の光で、痛いや熱いや苦しいより、綺麗で残酷な光なのだな、と思った。
思ったと同時に、意識がなくなった真夏の夜だった。

山中団子(サイトからの投稿)
今日も夜風にあたりながら君のことを考えている。どんなに遠く離れていても君のことでいっぱいなんだ。過去のことは忘れちゃえばいい。未来は僕が輝かせるから。この夜空に広がった小さく輝くこの想いを両手一杯かき集め、君の元へと届けるよ。どうか受け取ってほしい。僕の思いを。

mako(サイトからの投稿)
2人の気持ちが少し遠かっただけ
同じ思いの量じゃなきゃ
きっといつか綻びが現れる
だからさ「少し遠い」今のうちに。

大丈夫だよ。大丈夫
あなたも、私もお互いだけじゃない
もっともっと素敵な人と出会える

だけど
そう思えるのはたぶん 遠い、遠い、未来。

7月2日

常波 静 @nami_voiconne
私には、遠心力がある。人の中心に立つ性格で、周りに人が集まってくる。けれども踏ん張っていないと遠心力ですぐに振り飛ばしてしまう。だから最後まで私の近くにいる者はない。夏の熱気を浴びながらひたすらトラックを走る。振り向くまでもない。後ろには誰もいない。前に足音。周回遅れの君がいた。

@nu_sousaku
暑い。大学から徒歩20分の安アパート。おんぼろクーラーと背伸びした専門書。宇宙は今も確かに広がっていて、星々はどこか遠くで燃え滓になろうとしているが、それはそれとしてカーテン越しには知ったことではない。僕は『熱力学入門』を開く。すみっこに丸文字のメアド。あの人のメアド。熱い。

水原月 @mizootikyuubi
プールに飛び込み、地上の音が遮断された。腕を大きく回し、足でリズムを取り、息継ぎ。より遠くへ、より速く、水になる。
耳の奥で、夏のピアノが鳴り響く。蒸し暑い夕方、君が音楽室で弾いてくれた曲。左側のコースに君の気配。最後の競争。
僕らきっと、うんと遠くへ流れる波になるんだ。

emanon(サイトからの投稿)
遠出っていうのは
とてもわくわくしたものだ。
小学校の遠足、中学、高校の修学旅行、家族旅行、
それが今では
赴任、出張、社員旅行
ただ歳をとっただけで
こんなにも変わるもんかねえ。
悲しくなるなあ。遠々。

七壺寛 @ryoi44
幼い頃に貰った望遠鏡を実家で見つけた。丘に建つ家の窓から遠くを眺める。視界の丸に葉っぱ岩が映った。紋様が葉のようで、昔そう呼んでいた。葉っぱ岩を見つけた幼い僕をレンズ越しに探す。淡い影のような小さい僕が岩の傍にいた。雨の降り始めのように、土の匂いが立ち上った。幼い僕を近く感じた。

海老名 恵多(サイトからの投稿)
遠退く浜辺と引き換えに、私は何か透明なものを得た。白く荒れる波が、私の心をかき乱す瞬間。それに込められた熱い思いに気付く。頑張れと小さなそれが私を押し返す。私は浅い呼吸を整え、荷物がぎちぎちに詰まった車の窓から顔を出し、叫んだ。「遠くに行っても忘れないから‼」海が優しく波打った。

楓雲 @fuun_desu
遠巻きで、友人が泣いていた。教師にミスを叱られ、授業中だというのに嗚咽を漏らし、泣いている。声をかけたかった。だが恥に包まれた小さなプライドが、それを邪魔する。想い人へのたった一言が、喉に支える小骨のように、むず痒かった。――目眩がする。
「すみません。保険室行っていいですか?」

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
その大木は幽遠な趣を湛え立つ。
魂喰らいの鬼子は、遠野の山奥でその大木に出会った。
木は大妖であった「遠野に鬼は居てはならぬ、腹の中に隠れよ」大妖は樹洞に鬼子を匿う。神が問うた「それは鬼の子か」大妖は答える「いいや、これは山人じゃ」
神罰にて大妖朽ちた時、鬼子は初めて後悔を知った。

こたつ(サイトからの投稿)
子供の時,ももという名の犬を飼った.今から40年以上前だ.親に頼み込んでやっと飼うことを許してもらった.しかし世話をしたのは最初だけだった.約30年前に,天寿を全うし遠くへ行ってしまった.もう一度ももと会えたら,抱きつきいっしょに遊び,散歩に行きたい.夢に見る.また会いたい.

飯田 禅 @odilontamago
「果物通販サイトで毒入果物が販売される事件が発生しました。果物は生成系AIで作られたものでしたが、販売時の掲載義務である毒味動画もAI生成の偽物でした。警視庁は販売者を逮捕しましたが、これもAI生成の偽人間でした」
僕は遠い目をして同居人に聞く。
「なぁ、このニュースって本物だと思う?」

飯田 禅 @odilontamago
僕は人類で初めて火星の地に降り立った。
だが、この風景は遠い昔に見た記憶がある。
僕は記憶を頼りに謎の地下施設を見つけ、その最奥の部屋で一つのボタンを発見した。これは人類の謎を解くボタンのはずだ。僕がボタンを押した瞬間に眼前は白く光り、『記憶制御型ゲーム』のエンドロールが流れ始めた

飯田 禅 @odilontamago
50億光年の遠方から地球に来たという男は突然次のように言った。
「この星で放映されてた『五月の君』ってアニメが突然打ち切りになった理由を調査に来た」
「声優さんの不倫が発覚したせいみたいですよ」
「そんなくだらない理由でお蔵入りに?地球人には費用対効果って概念が欠如してるな」

西風こういち @iwVtbjJOMZfGBoB
眠れない夜に開く日焼けした単行本。遠い異国の恋愛小説。そっとページをめくると私の体温を感じた本が語りかけてくる。「愛を深く表現できるのは深く傷ついた人だけ。だからきみは歌えるはずだよ」。夜の魔法。夜はいつでも信じる勇気をくれる。星になった母がきっと見守ってくれているから。

圓城琴音(サイトからの投稿)
「わたし、宇宙に行く。宇宙は広いから、一人で泣き放題だもの」彼女の目は赤く腫れていた。僕はただうなづいた。「でも、ちゃんと私のこと紐で繋いでおくのよ。私が遠くに飛んでいったら、あなた悲しくて、一人で泣いちゃうものね」僕はうなづいた。彼女が一人で泣かないように、そっと手をつないだ。

三屋城 衣智子 @Miyagiichiko
遠くへ来た。なんて言葉じゃとても足りなかった。僕達は今、地球から大体9兆4599億km先へとやって来ている。太陽が近い。「あれが黒点ですかね」「フレアがあっちで起こったぞ」だなんて彼女と言い合いながら、二人手を繋いでどんどん進んで行く。
ところで、霊体でも焼けると死んでしまうんだろうか?

(サイトからの投稿)
遠い空の向こうで星が光っている。微かな音をたてている。海の冷たさがなくなってきた。水と自分の境界があいまいになる。水の分子が僕を呼ぶ。想いだけが浮かんでいる。これで僕も、星々に住む人々になれる。天翔ける日が来れば、もう一度君の笑顔に会いたい。主よ御許に近づかん。雷の音が遠ざかる。

葉月 茶友 @saya6000
遠くに光が見える。あれは誰かのための明かりであり、わたしのために光っているわけではない。夜景を見て家々の光を見ていると、その一人一人が私と同じように生きて生活しているのだ、と考え、不思議に思う。他人も明かりも遠く、しかしお互いに人生を歩んでいる。何故だか光が近くなった気がした。

三屋城 衣智子 @Miyagiichiko
ぼくのママようせいになったんだよ。その子が言う。なんの妖精にって聞くと「アルタイルかな、ベガだったかな、なんかほしにいるようせいなんだってパパいってた」と言う。
「遠い星になったんだよ」っていうからうそだってぼくおこっちゃった。だってほしだとあえないもの。
目から、流れ星が落ちた。

三屋城 衣智子 @Miyagiichiko
夏、熱い背中に恋をした。

何をするにも手探りで。
だけど多分本能でわかってたから、自分のいいところを必死になって寄せ集めてアピールし続けた。
まるであなたは地球、私は月。
近くて、遠い。

恋多き友達は「自然体が一番だよ」とかって言うけど。
私の気持ちもわかってよ。

初恋、なんだよ。

林さゆり(サイトからの投稿)
遠い眼差しの先に何が見えるのか
私にはわからなかった。
貴方は決して近くにはいかない。
私は気になり足早にその何かに向かうと
小さな仔猫だった。
貴方はその仔猫に寄り添った場合の
責任と触れ合うと関わりを持たずには
いられない衝動と戦っていたのだ。
きっと人間も同じ。遠くていい。

Yuko(サイトからの投稿)
「遠い夏の日ってどういう意味なんだろうね」唐突に彼女が言った。怪訝な顔をしていると、「だってほかの季節は言わないじゃない?遠い冬とか」確かに。ちょっと考えて「一番幸せだったときって意味なんじゃないか」と返す。彼女はははぁと納得した顔でうなずく。「じゃあこの夏は遠くないね」

7月1日

冨原睦菜 @kachirinfactory
風が運ぶ狼の遠吠え。家畜のフンに火をつけて暖を取る大草原での野宿の夜。地平線まで広がる星空に吸い込まれそうだ。我々も狼も銀河を生きる小さな命の仲間、何も怯えることはないと父さんは言うけど、背中の方から聞こえてくるとちょっぴり怖い。思わず僕もアオ~オ~ゥ~と天に向かって吠えてみる。

雨琴 @ukin66
「おやすみ」と言って手をつないだまま、ぼくらはダブルのベッドで瞼を閉じた。法律にも生物学にも心理学にも阻まれることなく指先も唇も触れ合える。きっとぼくらは元々ひとつだった。だから免疫も抗体もわけがわからなくなって、自分で自分を傷つけてしまう。林檎色の川のほとりで、意識が遠のいた。

たつみ暁 @tatsumisn
子供の頃は、憧れた職業には必ず就けると信じていた。花屋さん。学校の先生。漫画家。ロックバンドのキーボード。成長に併せて夢は移り変わり、根拠の無い、実現の可能性を確信していた。今、私は何者にもなれなかった平凡で貧乏なその日暮らし。きらきらした舞台ははるか遠く、手は届かないままで。

たつみ暁 @tatsumisn
自分の名字が好きじゃなかった。遠近。「遠いのか近いのかどっちなんだよ」子供の頃はからかいの的。「トーチカなら隠れろよ」大人になっても、上司という名のパワハラおっさん方に、憂さ晴らしの槍玉に挙げられた。でも。「私は好きよ。だって、私もその苗字になるんだから」愛しい人が、微笑んだ。

たつみ暁 @tatsumisn
遠くまで行こうと、子供の頃約束したひとがいた。その背に乗って、山脈を越え、海も一息に渡って、はるか彼方へ。だけどある年に豪雨が降り続けて、山が大きな土砂崩れを起こし。ふもとの国を守るため、かのひとは己の身体を岩と化して土砂を食い止めた。魂が遠くへ行った龍に、この国は守られている。

高橋 義樹(サイトからの投稿)
 組長と若頭は銃を構え、殺し屋に「お前は終わりだ」と言った。殺し屋は遠くを見ている。組長は「何を見てる」と尋ねた。殺し屋は「何も」と答えた。若頭が倒れた。組長は「何をした」と叫んだ。殺し屋は「何も」と答えた。組長は銃をうった。が倒れ「何をした」と呟いた。殺し屋は「何も」と答えた。

ナゾリ @Naz0n0vel
俺が「山派」ならアイツは「海派」だし、カレーは「シャバシャバ派」と「ドロっと派」で分かれるし、それでも「みんなでキャンプに行こうぜ」と誘ったら「そもそもインドア派だ」って言うし……どこまでも縁遠い奴だなと思ったら、名字まで「遠藤」っていうね。
悪いな遠藤、俺が「近藤」じゃなくて。

六井象(サイトからの投稿)
 幼稚園の遠足で行った刑務所で、死刑囚のおじさんに、「幸せになれよぉ」と言われる。

六井象(サイトからの投稿)
 サーカスの空中ブランコ乗りの手から手へ、祖父の骨が入った骨壺が渡される。少し遠回りしたが、果たして祖父の夢は叶った。

黒野綯路 @High_Delight
疲れ切った両足が、機械的に帰途を辿る。そのうち入ってみようと思っていたバーは、五日前から閉まったまま。路地で出迎えてくれる捨て猫は、三日前から見ていない。憧れた都会の煌めきは、田舎の街灯とそっくりで。光から逃げた先、アパートの扉の前。遠くで猫が鳴いたから、僕はそのまま通り過ぎた。

六井象(サイトからの投稿)
 遠距離恋愛なの私たち。病棟がこんなに離れてるんだもの。

朝比奈 来珠 @raise_hina
今年もまた君と会えたね。僕にとって、君は遠くにいるようで近くにいる。あれから何年経ったのだろうか。君と結婚間近という日に、初めて出会った場所だった丘の上、あの天の川へ帰った。けれどこの日の夜になれば、また君に会えると信じて幾年もこの日に足を運ぶ。来年もまた、ここで会おう。

Luna @Luna_twnov
間違っていると思った。俺らはイカれてる、と。陰鬱な梅雨のある日、アイツは一輪に紫と水色が混じる紫陽花を見つけると愛おしそうに目を細めた。「土が悪いのか、花が変なのか」と俺が横で溢すと、「うっかり混ざり合ってしまうのは、きっと自然なことなんだよ」と言った。触れた花弁は永遠になった。

椎井 慧 @she_satoshi
「クズ」
今日も客の罵詈雑言を全身に浴びて、汚れた心で帰宅した。きちんとした食事を作る余裕などなく、適当に煮たうどんを鍋のままキッチンで立ち食いする。キッチンの小さな窓から遠く光るテールランプが見えた。その光がぐにゃりと歪む。あれ、うどんの湯気かな。鼻をすすりうどんをかき込んだ。

なつの真波 @manami_n
どれだけ肌を寄せても、唇を重ねても、あなたの目は私を通して別のものを追い求めている。
そんなことは知りながら、ただ一時の情欲を求めてしまう浅はかさを見透かすように、あなたは唇を歪めて笑う。
「綺麗だよ」
嘘吐きの言葉が遠雷のように胸に響く。
笑って、私は枕の下のナイフに手を伸ばした。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
少女が1人、療養所の窓から街を遠見していた。「地縛霊って本当につまらないわ」ツラツラとぼやく。少女が亡くなり霊となったのは先月の事だ。「あれだけ外に出たかったのに、やっと死ねたのに、地縛霊なんて」街の入口で齢3つの弟が姉に手を振り、優しき少女は、今日も生きているふりをして笑った。

高橋 義樹(サイトからの投稿)
 沿道の人混みをかき分け進む。襷をかけた彼が走り抜けてしまう。私は焦り強引に進む。人の間に彼が見えた。「トシくん頑張れ」と叫んだ。遠く離れて行く彼に届いたかな。人混みから出て中継場に向かうメッセージがきた。
 声、聞こえたよ。
  やったぜ区間賞。
 私は走って中継場へ向かった。

兎ワンコ @usag_oneko
深謀遠慮な彼は決まって何かを遠望している。彼曰く「俺は遠い未来を掴むのが好きだから」と豪語する。
彼と行った花火大会でも、視線はいつだって打ち上がる花火ばかり。「いつかはあんな大きく、皆から注目される人間になりたい」と彼は言った。
私は、花火に照らされる間近の彼の横顔しか見れない。

高橋 義樹(サイトからの投稿)
 9回裏2アウト満塁。バッターボックスの奴は悠然と構える。奴に2本のヒットを許している。低めに投げ、内野ゴロに打ち取る。サインに首を振り。オレは汗を拭う。渾身のストレートを投げた。奴が振ったバットは音なく回りボールは、遠くスタンドへと消えた。後から響いた金属音が耳に残った。

藤和 @towa49666
遠くで雷が鳴っている。足がすくんで動けない。どうしてこんなに雷が怖いのか、自分でも理由はわからない。ここで突っ立っていても、このまま雨に降られるだけだ。なんとか脚を動かして家に向かう。雷の音はどんどん近づいてくる。空も黒い雲で覆われる。はるか先の稲光が見えた瞬間、意識が遠のいた。

いえろー @86001yellow
「犬を飼いはじめたの」3日に1回はテレビ電話をしている遠距離の僕らにすると、随分急な報告である。彼女が抱える仔犬はふにゃんと眠たげなゴールデンレトリバー。こりゃでかくなるぞ。「帰国したら散歩、手伝うよ。ところで名前は?」彼女がもじもじと呟いたのは、俺の名前。こりゃややこしくなるぞ。

桜 花音 @ka_sakura39
「永遠なんて信じない」
冷めた目をして十歳の娘が言う。
そんな寂しい事言わないでよ。これから先、信じたくなる事がきっとあるから。
「そう思わせた本人が何言うの」
ピシャリと容赦ない。
ママはいつだって信じているのよ。もちろん今回もね。
今日、三度目になる永遠の愛を誓った。

ぽんちゃん @PooonFFchan
テレビで流れた星占い。【reunion!惑星は逆行し、思わぬ人との再会、縁が分たれてしまったものとの邂逅が果たされます。過去に置いたしがらみを解いて。過去を振り返ることは後退ではなく、あなたを遠くまで飛ばすための助走なのです。】私はもうあなたなんて要らないのに。戻って来なくていいよ。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
夏休みを待てなくて僕は家出をした。本当はうんと遠くまで行ってしまいたかったが、実際は見覚えのある橋の下で自転車を停めて夜を迎えただけだ。
懸命に鳴く虫の聲。季節が尚早だから一匹ぼっちなのだろう。応答無し。哀しい早熟者。
夜が明けたら家に戻ろう。何処へ逃げたとて、僕には翅も歌も無い。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
草の海に孤島と浮かぶ無人駅が私の棲家。
乗降客は皆無だが、顔馴染が毎日定刻に鈍行列車から降りてきて、私の体を撫で、食べ物をくれる。急行をやり過ごす間の泡沫の逢瀬。彼らは私を駅長と呼び、雨風を凌げる小屋をも設えた。
私は鼻先を天に突き上げて、遠くから軌道に乗ってくる匂いを待っている。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
娘は近頃めっきり父母と会話をしない。年頃でもある。
最後に家族で楽しんだのは、町外れの広場に来たサーカス。非日常に胸が躍った。
男女ペアの空中ブランコに娘は感激し「素敵。どうしてできるの」と言い、父は「遠心力だ」と二度言った。父の魅力を問われて母は「逆張りした」と臆面もなく言った。

志々尾美里 @CCO_ATP
天文部の部員は三人。僕と同級生と寡黙な後輩。今日も後輩と宇宙に広がる星の神秘について話をする。星の事なら延々と、いや永遠に語っていられる。同級生は嫌がるけど、後輩はいつもニコニコ僕の話を聞いてくれる。ある日、同級生にその事を話したらこういった。「そりゃ、あの子は耳が遠いからなぁ」

志々尾美里 @CCO_ATP
夏は大好き。私の家は駅から遠くて立地も悪い。だけど夏になると、県外から色んな人が訪ねてきてくれる。「ようこそ、今日は何して遊ぶ?」精一杯のおもてなしで、皆を歓迎する。帰って欲しくないから一人残らず閉じ込めちゃう。でも近頃は来る人が減ってる。集団失踪事件が起こるんだって。恐いねぇ?

志々尾美里 @CCO_ATP
毎日毎日、体を、技を、心を磨いて研いできた。それでも、生まれつきの差は覆し難く、積み重ねた努力が容易く打ち砕かれる。心に陰る敗色の雲。泣言の雨をどうにか堪える。冗談じゃない。こっちは初恋奪われてんだ。怒りで臓腑が煮え滾り、轟き響く戦意の遠雷。処女はあげたでしょ。勝ちは私が貰うよ。

兎ワンコ @usag_oneko
あなたに電話する夜。「上手くやれている?」などと、心配した素振りをしてみる。あなたは笑って「大丈夫」とはにかんだ様子。窓辺にもたれ、他愛のないことばかり口にする。こんな時間が永遠に続けばいいのに。願っても、星の灯るは儚くも霞んでしまうのだ。

Luna @Luna_twnov
「愛は合一だよ」と教えてくれたお前が小さくなって、初めて俺らは収まりが良くなった。骨壷の中は退屈だろと思えど、お前が出てくる気配はない。合一なんて以前の俺らでは無理な話だったのに、どこに行くにも離せなくなったそれに今更笑えた。遠くに行ったお前を認めたくなくて、今夜も同じ夢を見る。

木立花音 @kanondaabyefp
バス停に毎日同じ少女がいる。「何歳になったの?」と僕は声をかけた。「15歳」「じゃあ同い年だ」「でも見ない顔だね」「僕は遠い場所に住んでいるからね」彼女が首を傾げる。僕を覚えていないようだがそれでいい。この近くの道で、君を庇って死んだ高校生がいたなんてこと、忘れた方が絶対いいから

なつの真波 @manami_n
暗闇の中、チカチカと何かを訴えるように瞬く光が愛しい。
伸ばしかけた指を諌めて、そのまま温かいカップに手を伸ばす。
ふう、と湯気を飛ばせば、まるで星雲が掠れるみたいに景色がけぶった。
ねえ、遠いところへ行った君。
もう少し待っていて。
世界の最後をお土産話に、きっとすぐに会えるから。

ヤマサンブラック @zantetsusen
最終レースで交通費まで使い果たした俺は、自転車を盗んだ。ビニール傘を壊し、その金具を使えば鍵は開く。自宅までは三時間。汗が目に沁み、顎から滴り落ちる。俺は自転車を停め、Tシャツを捲りあげ顔の汗を拭った。まだ明るい空に、白い月が浮かんでいる。俺は再び漕ぎ出した。月ほど、遠くはない。

ピエール◯子おにぎり @pieeeeerumaruko
「土のちょい下に口書くでしょぉ、その口の下唇に付くくらいからカタカナのイを限りなく細ぉく書いて横に漢字の水の右側みたいなん書いたらしんにょうでまとめてください。それが遠いという字ぃです。あんたがなんべんもなんべんも、会えへん理由をあの子にそう言うてきかせてきた字ぃです。さいなら」

ピエール◯子おにぎり @pieeeeerumaruko
「淡い」という言葉が思い出せなくて、「遠い」と表現したその人のことを私はいつまでも覚えている。あの気持ちにちゃんと水をやって「友情」や「恋」、「ひと夏のアバンチュール」にでも育てていれば、もっとましな青春が送れたんじゃないかと、息子が学校から連れ帰った朝顔を見るたびに考えている。

ピエール◯子おにぎり @pieeeeerumaruko
茜ちゃんは、遠近さんて名前の先輩が好きだった。手紙を渡すからついてきてと言われたのは、小学四年生の頃。
大人になって、茜ちゃんとは疎遠になってしまった。帰省しても、会いにさえ行かない。家は一番近所にあるのに。中学の部活も、高校も同じだったのに。
あの頃、二人で野イチゴを食べたのに。

椎井 慧 @she_satoshi
梅雨明けを宣言するラジオの声が飛び込んできた。空を見上げると、遠くの入道雲が我先に太陽の光を浴びようとひしめき合っている。大きな花を咲かせた朝顔が、その雲を掴もうと精一杯に蔓を伸ばす。十七歳の私は夏風にはためくスカートの裾をぎゅっと握りしめた。

冬林 鮎 @fybys1_ayu
見ているだけで良かった。フロントでの上品な振舞いも、事務所で睡魔と戦い揺れるシニョンも。その君が今僕の隣に横たわりアルクトゥールスを見上げている。満天の星空を閉じ込めた滑らかな半球と、穏やかなアナウンスに耳を傾ける君。遠くの星を掴む様に、僕は冷房に冷えたか細い手を恐る恐る握った。

モサク @mosaku_kansui
窓際の席が空いていると、君はいつも早足になる。「どうしてあんな遠くへ行くの?」向かいの席でうつむく顔を夏雲が覗いた。「なんでそんな遠くにいる?」テーブル越しにぬぐえない涙がもどかしい。僕たちも穂肥の季節。「君の笑顔が僕の養分だよ」「これじゃモテないね」吹き出した君は耳まで真っ赤。

結城刹那 @hungsei194807
遠近法。近くにあるほど大きく鮮明に描き、遠くにあるほど小さく曖昧に描く手法だ。芸術家なら誰もが基本として備えている。僕も例外ではない。君がモデルの時を除いては。僕の絵では、君はまるで時空が歪んだように大きく鮮明に映る。君は僕の感情も感性も狂わす。でも、僕は君の映る絵が一番好きだ。

結城刹那 @hungsei194807
織姫と彦星を隔てる川は一年に一度会うことを許してくれる。でも、君と僕を隔てる川は生涯を通じて一度も会うことを許してくれない。それでも僕は、短冊に『遠くにいる君ともう一度会うことができますように』と描く。この願いを描く時、僕の脳裏には君の姿が映るから。君を好きになったあの日の姿が。

結城刹那 @hungsei194807
君と話しながら夜空に放たれる花火に目をやる。周囲が轟音に包まれても耳元でささやく君の声ははっきりと聞こえてくる。こうして二人で花火を見るのが夢だった。でも本当は、もう少し違う形で見たかった。二人が見ている花火は同じだが違う。遠くにいる君は僕が見ている花火の裏側を見ているのだから。

Luna @Luna_twnov
「どれくらい遠いのかなぁ」と隣の瞳が夜空を見上げて揺らめいた。僕の肩ほどしかない背を天に近づけようと精一杯つま先を伸ばす姿は、あえて見なかった。隣り合う星々は互いに何光年も離れている。近づくことはない。君との天体観測は戒め。「でもずっと隣にあるんだね」と微笑むから、僕は苦しくて。

ハルキ4×3 @oumugai_nsi
この最終電車が発進すれば彼女とはもう会えなくなる、でも彼女は「バイバイそしてまたね」と笑顔で言った。僕は返す言葉を出そうとするが。そんな都合も考えずドアが閉まった、少しずつ彼女から遠くなるにつれて、彼女は泣き出した。その姿が見えなくなってから僕も涙が溢れた。

木立花音 @kanondaabyefp
星空の下、誰か好きな人いるの?と隣の親友に聞かれ「星が流れたら言うよ」と答えた。彼女の一つ隣にいる彼を横目に見ながら。その日空は曇っていて、結局星は流れなかった。
あれから十年。結婚式場を出て空を見上げる。あの日の記憶も、遠い空の彼方。おめでとう、私の親友。さようなら、私の初恋。

たつきち @TatsukichiNo3
遠くに雷が聞こえるたびに僕は窓にしがみつく。近づく雷が、僕をどこか遠くに連れて行ってはくれないかといつも願っては虚しく見送っていた。全てを打ち砕く勢いの雷よりも僕を遠くへ誘ったのは他の誰でもない僕自身だと、あの頃の僕に教えてあげたい。悲しむことは何もないと教えてあげたい。

平沢ヌル @hirasawa_null
宇宙葬を望む人がいる。方法は様々だが、そこを永遠の居場所とすることは、ある種の人々の望みに適っているらしい。私は思う、母なる地球と最後には同化することと、その存在の限界まで遠くに至ろうとすることと、どちらが人間らしいのかと、宇宙ステーションの爆発事故で死んだ両親を思い出しながら。

八木寅 @yagitola
遠足は嫌いだった。いつもひとりぼっちだから。でも、あの木には天狗がいるかもとか、あの花には妖精がいるかもとか、あの草木の向こうからは虫たちが僕たちを観察してるかもって想像して遊ぶようになったら、ひとりが楽しくなった。誰にも邪魔されずに自由に描いた世界で楽しめる。ほら、今もこうして

雨琴 @ukin66
もう何もかも投げ出したい。私は公園のベンチに座りこんだ。もう仕事に行かずこうしていよう。靴の中で角質化した足の皮膚が痛む。深い考えもなくちぎって捨てた。その皮膚を蟻が巣穴に運んでいく。蟻はこんな私でも食べるのか。きっと命はそうして遠い祖先からつながっている。生きていたいと思った。

東方健太郎 @thethomas3
あの日から、彼は懸命に追いかけてきた。友人の背中を、恩人の後ろ姿を、黄昏の夕景を。やっと、ここまできた。そう言える日を、この場所で迎えたい。そんな風に考えていた時間が、まるで遠い記憶の中に隠れている。だけど、その願いの叶う夜は、今、まさに遠景のビルディングの灯りのように煌めいた。

泉ふく @fuku_izumi
「遠くの星を入れるときはこうしてピント調節ネジをゆっくり回すんだ」
そう言い、私の手の甲に暖かいゴツゴツの手が重なる。この瞬間が好きだった。

今夜も望遠鏡に星を入れる。
我ながら上手くなった。
でも手の甲の暖かさはない。
星になった貴方に逢う為に…暖かさの為に。明日もまた星を入れる。

神崎 鈴菜 @suzu_nasuzusiro
拙い英語では、遠い異国の地で宿を取ることも出来なかった。貨物船に忍び込んで日本を出た時に決めた覚悟が、ガス灯の炎のように揺らいでしまいそうで。肩に重たい荷物を掛け路地裏からメインストリートへ出れば、星影が薄らと透けるアンブレラスカイ。これから進む道が少しだけ明るく見えた気がした。

圓城琴音(サイトからの投稿)
「こら!」先生の声に一緒にいた友達がすっと唇を隠す。彼女達は校則を破って口紅をつけていたのだ。その瞬間、自分の唇にだけ色がないことに気がついた。先生が私の唇を見て「よし」と言うと友達が「遠藤はね」と一斉に笑いだした。私は苦笑しながら彼女達の口の端からはみでた赤い線をただ見つめた。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
み空色の飾りが美しい遠華鏡越しに、走る彼の背中を見つめた。
「もし本当にこれだけ沢山の彼が居たら、誰か1人は私を好きになってくれるかな」
遠華鏡を目から離すと、当然彼は1人しか居ない。絶対に私を好きにならない、私の先生。遠い恋が胸を貫き、私は再び、遠華鏡が映す嘘を覗いて心を隠した。

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予選通過作 受賞作

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