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夏の星々(140字小説コンテスト第4期)結果発表

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

夏の文字 「遠」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

「季節の星々賞」として一席、二席、三席の3賞+佳作7編(計10編)を選出しました(応募総数919編)。ご応募いただきありがとうございました。

選評(評・ほしおさなえ)とあわせて受賞作は後日hoshiboshiサイトへも掲載します。
また、優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。

一席、二席、三席の方には特製の賞状(ほしおさなえによる手書きのお名前入り)を、さらに一席の方には図書カード(3000円分)を贈呈いたします。

年4回のコンテスト後に、各回の一席のなかから大賞を1編選出します。
年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

受賞作

入選

一席

あやこあにぃ @ayako_annie 
ドン。花火の鈍い音が、遠慮がちに家の中に流れ込んでくる。私はこの一年で骨が浮いたシロの横腹を撫でる。名前を呼ぶと辛うじてしっぽを振る体を腕に抱けば、ドン、と次の花火が上がる。去年は一緒に見たそれを、今年は瞼の裏に浮かべる。永遠に続くと思っていた当たり前の名残を、精一杯抱きしめる。

二席

明日香 @asukahuka  
疎遠になっていた友人と久しぶりに会うと、彼は電車になっていた。「ずっと夢だったんだ」ブレーキ音で話す友人を、僕は祝福した。そうか、友人が線路に身を投げたというのは悪い夢だったんだ。彼の体に揺られながら終点を目指す。窓ガラスに滴る雨を見ながら、彼が寒くなければいいと願った。

三席

酒部朔 @saku_sakabe 
祖母の家の電話番号をまだ覚えている。もう家はない。レースのついた黒電話が鳴るのを想像する。遠くの土地で突如鳴り出す電話のベル。暖かな食卓にかかったら、ごめんなさいを言って切ったらいい。もう忘れよう。もしも誰も出なかったら。真っ暗な部屋で鳴り続けたら。もしもその後誰かが出たら。

佳作(7編)

ヤマサンブラック @zantetsusen 
最終レースで交通費まで使い果たした俺は、自転車を盗んだ。ビニール傘を壊し、その金具を使えば鍵は開く。自宅までは三時間。汗が目に沁み、顎から滴り落ちる。俺は自転車を停め、Tシャツを捲りあげ顔の汗を拭った。まだ明るい空に、白い月が浮かんでいる。俺は再び漕ぎ出した。月ほど、遠くはない。

世原久子 @novel140tumugi 
夏日の終わりの草いきれ、蚊取り線香の煙、夕飯を作る匂い。日が暮れた後の町はいろんな気配が潜んでいて、早く帰ろうとしていたくせに遠回りをしてしまう。濃密なのに透き通る夜の始まりの紺は、遠くに浮かぶ一番星がよく映える。この町に溶け込んでいるかふと気になって足元を見遣り、次に空を仰ぐ。

しろくま(サイトからの投稿) 
遠い昔、この土地には水神様がいた。水神様のおかげで田畑はうるおい、村人たちは毎日おいしい食物と水を得ることができた。そんな水神様はもういない。十年前に神を辞めて、普通の人間となってしまったのだ。今は、我が家の水道水をおいしくしてくれる便利で優しい私の旦那である。いつもありがとう。

高遠みかみ(サイトからの投稿) 
遠花火って季語あんねんけどさ。俳句の。秋の。先輩が俳句書いててん。で先輩なんて意味っすかって。遠くに見える花火のことやで、ってそのままなこと言われて、なんかしゃれてますねって言ってん。俺は近くで見たいけどなぁって返されて。なんかふられた気分なって泣いたって話。そんだけ。

yomogi @yomogi585354524 
帰宅すると遠野の河童が胡瓜を齧りながら水風呂に入っていた。「やあやあお疲れさん」と労う姿は上司にそっくりで、俺は苦笑しながらもエビアンで再会の乾杯をした。毎年夏になると、冷蔵庫に丁度入るだけの魚を持って河童はやって来る。幼い頃、乾いたお皿に水を掛けてやった恩を忘れない律儀な奴だ。

チアントレン @chianthrene 
文字を読むことを辞めようと思った。漢字でもアルファベットでもない国に越して、すれ違う誰かの顔色すらぼやかして、無限遠の大自然だけを眺めた。
文字のない日々は得た。それだけだった。
気付けば山の季節を読み、草木の盛衰を読み、海の機嫌を読み。僕の脳はとっくに、読み続ける形に歪んでいた。

祥寺真帆 @lily_aoi 
毎晩、望遠鏡をのぞいている。ゆっくり二回瞬きをし明日を見る。子供の頃はいいことがあるか、社会人の頃は嫌なことがないか、家庭を持ってからは大切な人が元気かどうかが気がかりだった。今はというと、明日も自分がそこにいるかを確認している。急なことは苦手なのでちゃんと準備をしたいのだ。

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予選通過作 受賞作

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