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一月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part2

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

今月の文字は「定」。

1月31日までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローいただくと更新のお知らせが通知されます。

応募作(1月6日〜12日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

1月12日

藤和工場 @factouwa
この世界にもやっと人が定着したね。不安と安心の概念を与えたからさ。そのために、生きる以外にも価値をつけてしまった。いくつも試したけど、結局こうさ。仕方ないよ、不安を煽り、安心を得ようと価値にすがる、そんな人間が僕は大好きなんだから。とんだ鶏だね。僕たちの存在意義だもの。

さなみ @7Tr04
焼肉定食を見ると、高校時代の元彼の尭を思い出す。「尭」という字は焼肉定食の「焼」の右側。初対面でそんなことを言われたからだ。

尭は現在、教師をやっているらしい。自己紹介のたびに黒板に「焼肉定食」と書くのだろうか。
尭にもう一度会えたら聞きたい。なんで定食なの?

晃ゆみ @kouyumi23
我が百貨店食品売場では、恵方巻の予約を承っている。
金棒を持った黄鬼が来て、1本持ち帰りたいと言うが、2月3日指定時間以外のお渡しはNG。
だが黄鬼は、繁忙日の為、当日来店はムリとの事。私は上司に相談、特別OK!
黄鬼は恵方巻を持ち、バンザイしながら帰った。
あっ黄鬼様−!金棒お忘れですよ−!

巻柄ぽん @iNFEuOxmHtIg2gV
私はズボラだ。だから線を引くために定規なんて使ったことがなかった。
そんな私が一枚のハガキのために定規を取り出す。震える手で線を引き、書き終わったと同時に深いため息をついた。目先には欠席の文字に二重で線が書かれたハガキ。
「おめでとう」
見上げた空には飛行機雲が一直線に走っていた。

秋助 @akisuke0
僕が小学生のころ、雲型定規で曲線を描くと雲を生み出すことができた。悲しい気持ちのときには雨雲が、友達に優しくできなかったときには雷雲が空に浮かぶ。大人になってから定規はどこかに失くしてしまったけど、不安を抱えてもあの不思議な経験を思い出せば、僕の心には雲ひとつない青空が広がった。

羅央 @rao_gaogao
我等の未来ほど不安定なものはない。先闇暗し、刀刃こぼれ、それでも光をと足掻き、溺れ、心の奥底でぬめぬめドロドロ、決して光の届かない黒に、深く深く堕ちていく。重い鉛がしがみつき、我も我もと涙する。涙の雫がパチンと弾け、深い眠りから僕は目覚める。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
定時で上がれた。背中を丸めて歩く道の先では、アパート群を浮かびあがらせる橙から紺青へのグラデーションの帳が下りている。その途中の宵の明星も煌々たり。鼻をくすぐるのは人の家から流れてくるカレーの匂い。あぁ、久しぶり、久しぶり。どこに居たって幼い頃にみたあの景色にいつでも還れるのだ。

きり。 @kotonohanooto_
わたしは、いままで「わたし」と仮定していたものを脱ぎ捨て、自分が想定した「わたし」を着て生きることにした。そう決めると、とてもすっきりした。見た目はどこも変わりない。けれど、これは昨日までのわたしではない。今までできなかったこともできるだろう。明日を楽しみにして、わたしは眠った。

チバハヤト @T91485594
近所に個人経営の電気屋がある。店主は定価から一切割引しない。機械の気持ちが分かるからだという。先日、古いラジオを修理に出した。修理から返ってきたラジオはどこか誇らしげだ。スイッチを入れるとラジオが勢いよく喋りだした。どこかの球団のベテラン選手がサヨナラホームランを打ったらしい。

旅人 。 @ryoi44
寂しい、寂しい。増えていく、でも僕しかいない。終わりが来ている。寂しさで、手は伸びていく。柔らかな感触に触れる、僕じゃない誰か。怖い、寂しい。少し先が見えた、少しだけ。痛みの先に安定があった。寂しさに抱き込む。僕ではない温度、呼吸の震え。共有する痛み。大切になる誰か、ありがとう。

余白 @yo_ha_ku_23
定まらない視界の先にうっすらと見えるそれを触るとサラサラしていて黄金色に輝く物体が金髪の君だと分かった瞬間ぼやけていた脳みそに乱れが生じる。愛撫を辞めてこちらを向く君の顔が微笑みかけている。誰だか分からない君は行為を再開。それだけに集中すると私の中の錯乱は緩やかに消失して行った。

Rista @Rista_Bakeya
必要経費を算定して請求書を作る。カフェの片隅で仕事をしていたら突然警察に囲まれた。定型文のような聴取で判ったのは不正な細工の現場と間違われたこと、早とちりと思われた通報の内容がやけに具体的だったこと。「あなたの方が怪しく見えたのよ」真犯人を捕らえてきた雇い主の言葉が手錠より痛い。

山尾登 @noboru_yamao
私の「定期落としましたよ」との声かけで、妻と交際し始めたのは半世紀前のこと。何をどうしてこうして、こうなったのか。今じゃ何もかもが定かでない。私は今日で、後期高齢者。めでたいのだろうか、そうでないのか。妻はいつもの通りの仏頂面で無関心。夫婦は空気のようだ!と断定できる私の近況だ。

ひよどり @tHnKxWWfvLTUtIH
今月のラッキーナンバーは1らしい。
そんな数字に関係なく、僕は今日も定期をタッチする。表示金額は137円。隣駅に住む彼女と喧嘩した日から変わらないそれは、面白みのない日々が表れているようだった。
衣嚢が震える。
「明日、引っ越すから」
気づいた時には、隣駅で降りていた。残金は1円だった。

想田翠 @shitatamerusoda
夫は不妊治療に非協力的だった。友人の妊娠報告が連続して情緒不安定になると「これが俗に言う不妊様か。」と冷笑した。お客様は神様だと客自身が言うのはおかしいが、話が違う。
「お前に産みの苦しみはわからない!」筆の進まぬクリエイター様が吠えた。言うだけは容易いと帝王切開の傷跡を撫でた。

山尾登 @noboru_yamao
定時で帰ると言って出かけた夫だ。日付が変わっても帰宅しない。また、浮気の虫が這い出してきたのだ。私はお定まりのように「はなから信用していないから・・」と毒づいていると携帯が鳴った。「ご主人が交通事故死されました!」警察からの電話に「主人はもともと死んでいますから」と応えて切った。

MEGANE @MEGANE80418606
「初めまして。私は『色欲侍』と申します」定型文。削除。「久しぶり。元気してた? 俺はお前と別れてから寂しい日々を送っている」定型文。削除。「みてみて〜! 昨日、酔っ払って愛猫構いすぎたら額に綺麗な三本線!」親友からの定型文じゃないメッセージと添付されたまぬけな写真に、ふっと笑う。

.kom(サイトからの投稿)
今日も残業だ。たまには早く帰りたい。部屋はぐちゃぐちゃ。掃除なんていつやったっけ?
夕飯を作る気力も無い。料理作るの好きだったのにな。
とりあえず今の大きなプロジェクトが終わればきっと。っていつも思ってる気がする。明日こそは、目指せ定時退社。

1月11日

藤和 @towa49666
定時になると同時に鞄を持って机から離れる。上司がなにか文句を言っているけれど、今日の分の仕事は終わらせたのだから文句をつけられるいわれはない。他人に仕事を押しつけるしか能のないやつが上司なんて、とんだ災難だ。他人の業績をかすめ取るだけで給料が上がるなんて良いご身分だ。馬鹿らしい。

うたがわきしみ @arai_chi2
「お前の顔を持って会いに行く」ハサミ男からの連絡。【定期】という奴だ。いつもコートを着て電信柱の影にいる。内ポケットにじゃらじゃら音が鳴るほどハサミを束ねて。私は袋女。頭が紙袋なのでガサガサする。元の顔は思い出せない。ハサミ男がまた新しい紙袋を被せに来る。顔を切った日からずっと。

あまくに みか @ten1092ten
女四人、顔を突き合わせて、雨夜の品定め。
外見良し。性格良し。年収良し。家事分担。
「そんな男、どこかに落っこちてないかな」
「ないない」
「やっぱり気楽が良い」
「気楽といえば」
女四人、顔を見合わせてニヤリと笑う。
友には無条件を。愛には「型」を。
女たちの夜は更けていく。

東方 健太郎 @thethomas3
ぼんやりと視界が霞んでいく。ムンクの叫びという絵画を思い出して、その主人公の姿形を模倣してみる。或いは、叫び声をあげる。空が二重にみえる。いや、空ではない。雲が、太陽が二重にみえる。自動販売機の陰に人影がある。三重に、四重にぼやけている。視線を定めて、その自動販売機を蹴り上げた。

矢口 てる @yaguteruss
出張時に定宿にしているところがある。顔見知りのスタッフのサービスは手厚く、疲れている時には栄養ドリンクを差し出してくれ、朝食を摂る時間がない時にはサンドイッチを用意してくれる。そんな小さなサービスが積み重なって2年。先日はついに、僕をこのホテルのオーナーとして迎えてくれた。

みず(サイトからの投稿)
仕事終わりの私はその定刻を待つ。彼からの連絡は決まって金曜日の20時15分だった。その整った顔立ちに黒縁メガネはよく似合った。彼から連絡が途絶えて3年。その定刻は私にとって意味を変えた。子どもの寝かしつけをしている私はスマホ画面の通知に気づくはずもない。その3年ぶりの連絡にも。

今村スイ @tsuduru_0716
いつもの時間、いつもの通り家を出る。いつもの時間、いつもの通り駅の改札を通り抜ける。いつもの電車に揺られているうちに、海が見たいと思った。まぶたを閉じると波の音さえ聞こえる気がする。いつもの駅では降りずに、私は定期券の区間外へと運ばれていった。今日は私の、年に一度きりの誕生日だ。

へいた @heita4th
喫茶店で母と待ち合わせる。休日にいつも行く店。中に入ると店の人が「今片付けますね」と言う。他の席も空いているのに。「どうぞ」と窓際の席に通される。いつも座る場所。「指定席だね」母が小声で言う。「そんなのないよ」私が答える。店の人が笑顔で注文を聞きに来る。恥ずかしい。けど、嬉しい。

柊鳩子 @yorunohituzi
久しぶりに定時で帰える。車窓から少しずつ暮れていく空を眺めながら最寄駅に着くと、夕暮れのオレンジがまだ空の端に淡く残っていた。 そして、いつも閉まっている駅前の本屋がまだ開いている。久しぶりに本を買って、その後明日のパンも買いに行こう。帰り道、足取りが軽くなるのも久しぶりだった。

MOTOM(サイトからの投稿)
 大人は嘘をつく。天の川に黒い穴があるのは、暗黒星雲が光を遮るからなのに、兎が食べたとお伽噺にしてしまう。パパやママは早く寝たいから、水素やヘリウム原子の説明もせず、僕が生まれた訳も定かにしない。星間物質が自己重力で収縮し星が誕生するように、AIが無くても僕は再生できるだろうか。

1月10日

しろい月 @Lune__blanche_
それは、白くて深い旅。想定もできないことが起こったり、あるいは、心から強く願えばどこへでも行けてなんだってできる。あまりにも優しくて、このままこの世界にゆらゆらと揺蕩いたくなる。どうか、迷子にならずちゃんと無事に明日を捕まえにいけるように。今日も、そっと深く祈りながら、目を瞑る。

明日香 @asukahuka
案の定、ママは今夜も帰ってこなかった。アパートの冷えた部屋を出て粉雪舞う道路を歩いた。公園につくと、傷だらけの少女がブランコをこいでいる。近づいた私に少女が言った。「こっちに来る?」私は震え声で返す。「死んでもいや」少女は「よかった」と笑って消えた。ひとりの私に風が吹く。

イマムラ・コー @imamura_ko
右斜め45度からの僕の唇は、不安定な動きで彼女の唇をかすめることなく通り過ぎてしまった。気まずい沈黙の後、彼女は去っていった。家へ帰ったらもう一度角度を計算し直してみようと僕は思った。この時、僕の頭の中にはまだ次があると思っていたのだ。僕には恋の定理がまったく理解できていなかった。

雪菜冷 @setsuna_rei_
真っ赤に迫る鳥居を潜ると胃が重くなる。沢山の人が手を合わせ交差する願い。空っぽの心に沁みて痛い。カラン。揺れる絵馬。『S高に──』進まぬ筆。横目には期待に満ちた親の眼差し。一流企業勤めの父のスーツは美しい。透明なレールに怯え震える指先では字も定まらず、絵の中の馬も逃げてしまった。

藤和 @towa49666
物には定位置を決める。それが片付けのコツだと聞いた。そんなことを言われても、どいつの定位置がどこなのか、まずそこから決められない。物にあふれたこの部屋で、居場所の定まらないお気に入りたちが、じっとこちらを見ている気がした。きれいな部屋には憧れるけれどミニマリストにはなりたくない。

 @Z9hmdBIPGCSspEx
今夜はバッファロー定食がいい。大盛りの白飯に闇を焼いた物。そこに赤いクコの実を乗せる。闇の焦げを噛むと、心にバッファローの群れが現れた。泥川の畔で皆静かに佇んでいる。子らは群れの内側で眠り、月は彼等の背中を等しく照らす。時々私を威嚇するから、早く食べ終えてしまおう。また闇を食す。

晃ゆみ @kouyumi23
我が百貨店、紳士服売場に青鬼が来た。
2月3日に向けて、パンツを新調したいとの事。
「このパンツは通常のトラ柄と違い、当店限定デザインです。良い素材を使い動き易く大変人気があります」青鬼はお買上げ!
「青鬼様、当店のクレジットカード作りませんか?今なら、大豆から身を守る盾をプレゼント!」

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
太陽が水のように流れ冬の粉の鋭い風が吹く。空は青光りツンと目にしみ込む。限定品の幸せの裏地を買った。これで春が来るスカートを作ろうと思う。誰かの幸せで出来た裏地。小鳥の唄にも負けぬ心音が裏地から聴こえる。この裏地を売ったその人はその後幸せになれたのだろうか?私の裏地が風で広がる。

タケイチ @TAKEiCHi140
シベリア気団による寒波が、君の住む街に大雪をもたらした。大気はずっと不安定なままで、しばらくはこんな天気が続くという。雪に埋もれていく街の様子を、僕はスマホの画面で眺めることしかできなかった。一月が過ぎて、君との音信が途絶えた。百年が過ぎて、君はまだ眠っている、深い深い雪の底で。

粒 あん子(サイトからの投稿)
定期的に会う父から貰った「お小遣い」は帰りしなに下らない買い物に遣ってしまう。SNSで皆が付けてるジュエリー、ペラペラのワンピース、適当に籠に放り込んだ菓子。帰省して父から貰ったお年玉は見栄も無い心からの五千円札。歪んだ癖字で「みほちゃんへ」遣える訳がない。遣える訳がないんだよ。

粒 あん子(サイトからの投稿)
定吉二人きり。進化しない劣情をシティホテルで持て余す。旅館だろうがモーテルだろうがパリッと糊付けされたシーツはどこでも同じ匂いだ。唾液を啜る度に時間も吸われていく。都合の良い常識の範囲内で重なる私達は7日間どころか24時間だってお互いを共有できない。目が合えば丁寧に微笑むだけ。

藤野(サイトからの投稿)
定かではない記憶がへっぴり腰でやってきた。記憶の歩行はたどたどしく、風がふけば飛びそうなほど。風の手は記憶にまとわりついてひとゆれふたゆれみゆれして飛びだった。ゆれは軋んで光を生む。光は深いところから沁みてくる。朝焼けのようにゆっくりと遠い昔あなたに恋した記憶が目を覚ます。

うたがわきしみ @arai_chi2
部屋の何処かでカラカラと井戸を汲み上げるような音が鳴り響いた。と、畳が跳ね上がり腰の曲がった老婆達が次々と下から這い出てくる。目の無い彼女達はひたすら障子の向こうへ消えて行く。背中を掻こうとした手がふいに何かに掴まれる。纏わり付く粘液。まだ振り向いてはいけない。想定内だよ母さん。

1月9日

白井いずみ @shiroi_izumi
「……定時やねんけど」
「……仕事残ってるんちゃう?」
「誰のせいやと思ってんねん」
「……出社日しか会えへんし」
「……まあ共犯か……」
「打刻だけする?」
「さすがにな」
「……はよ落ち着いてほしいわ。色々」
「下半身?」
「お互い様やろ」
 二人だけの会議室に小さな笑い声が響いた。

メイファマオ @molmol299
暴言と甘言が定期的に繰り返され、私はどうしたら良いのか判らなくなる。 相談しても皆が知るのは『優しい彼』で、嘘つき呼ばわりされるのは私。
疲れた。
また彼が暴言を吐き、私は無言でIC録音機を出す。
狼狽する彼に呆れ果て電話をした。
私を敵視する姑に溺愛する息子を引き取れと伝える為に。

pokazo @pokapoka_pokazo
息子が持ち帰り雑に置かれた学校の書類。目を通し必要事項を記入するのは親の務めなのだろうが。あなた実の家族との接し方もわからないの、と、妻に愛想を尽かされたばかりの僕には少々荷が重い。数年ぶりに筆箱を手に取る。中にあった使い古しの定規、その目盛りは掠れ、最早何も測ることはできない。

今村スイ @tsuduru_0716
深夜に台所へ行くと、父が読書をしていた。確かにそこは父の定位置だけれど、読書なんて珍しい。私が妙な顔をすると、ちょっとねと彼は笑う。おやすみを言い合った後に本の表紙を見ると、それは昼間、私が読みさした小説だった。くすりと微笑んで私もまた、温かい明かりの下で物語の中へと入っていく。

温水空 @soranukumizu
僕は屋上の縁に立っていた。一歩踏み出せば、全部終わる。そう思った時、傍らに死神がやってきて言った。「困るなぁ、今日は定休日なんだよ」僕は馬鹿らしくなって、死ぬのを止めた。あれから何十年後の今。死神はあの日と同じ表情で僕の枕元にいる。「あの日が君の定休日で良かった」僕は呟いた。

水原月 @mizootikyuubi
朝方、裏山から狸らしき獣が降りてきた。玄関に座り、おでん、と鳴いた。夕方になっても、獣は座っていた。おでん、とまた鳴く。結局、根負けして家に入れた。定規で好物のはんぺんを切り分ける。綺麗に切れた。大根や卵、こんにゃくなどを煮込んだ出汁を獣に味見させると、満足そうに唸った。

きり。 @kotonohanooto_
一定の歩幅を保って、ゆっくりゆっくりゆっくり歩く。性格なのか、ついせかせかと歩きがちで、それでは散歩にならない、と、あるとき気づいた。急いでるひとのじゃまにならないように、ゆっくりゆっくりゆっくり歩く。冬の匂いがする。雪が降るかもしれない。帰ったら、あったかい紅茶を入れて飲もう。

水沢ながる @mizunagaru
今日も定点観測にいそしむ。ストーカーに悩まされる彼女を救う為だ。
彼女の部屋に入ろうとする男を見つけ、警察に通報して捕まえてもらった。でも、彼女はまだ怯えている。
「もう一人いるんです。今もきっと、私を見張ってる筈です」
もう一人? 誰だそいつは。彼女の部屋のカメラ、増やさないと。

兎野しっぽ @sippo_usagino
母親の振り袖なんて着るつもりはなかった。古臭いし、お下がりはごめんだ。わたしはわたしだけの振り袖が着たい。
一目見てから決めろと祖母に言われ、眠っていた振り袖を引っ張り出す。ずっと奥に仕舞われていたそれは、想定以上にきれいだった。
着物もあなたに着てほしいのよ、と祖母は笑っていた。

善最はち(サイトからの投稿)
あ、しまった。今日は生姜焼きの予定だったのに肝心の生姜を買い忘れたらしい。味噌焼きにすれば、と言うと、もう生姜焼きの口だからと譲らない。夫にとって、献立の予定は決定事項なのだ。わざわざ生姜ひとつを買いに出ていく夫を呆れて見送りながら、一方で、わたしはその予定を楽しみにしていた。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
さしたる目標もなく漫然と群れに従って泳いできた私達の生活は、時折り目に映る怪しげなしがらみを見て見ぬふりでやり過ごし、いつも通り降り注ぐ青い光に不安を紛らしながらも、本当はとっくに虜になっている定置網の中の魚の様です。諦めていますが、子供達だけでもどうか網目をすり抜けますように。

乃一罪子 @tsumiko1st
朝、幼馴染と喧嘩した。クラスは違うが同じ中学。廊下でも体育館でもすれ違ったが「……」「……」仲直りのきっかけがない。

夕方、正門で笑顔の幼馴染が「したっけね!」と手を振る。「したっけ!」反射で返した定型句は素通りで、視線は僕の後ろにいた彼女の友達へ。「はんかくさ!」皆で笑った。

1月8日

梅吉 @tmk2bay
会計のとき、「クーポン使いなよ。」と彼女の声が脳裏に蘇った。俺が定価で買う度に勿体ないと怒られた。デートの度に喧嘩していたんじゃないか、としわくちゃの割引券を取り出しながら思う。券は期限切れだった。ったく慣れないことはするもんじゃないな。俺らしくもない。券をまた財布に押し込んだ。

雨琴 @ukin66
ガム噛んで吐いても食べたことになるのかな。パンだったらならない気がする。飲みこむことが条件なら喉を通ることが食べるの定義か。でも吐いたら? 吐いたらもったいないと太っていく。売れ残りの肉まんをゴミ箱に投げて、バイト代で菓子パンを買う。他の生き物の骸を食べてまで生きる必要とは一体。

久保田毒虫 @dokumu44
俺は昔から、いろんな人から「君、なんだか変わってるよね」と言われてきた。俺はそれが嬉しくてしょうがないのだ。確定的な事象の何が面白いのか。不確定なものこそ意味があるのだ。偏屈で結構。偏屈万歳! マイノリティ万歳! そして俺は今日も叫びながら壁に向かって卵を投げつける。

冨原睦菜 @kachirinfactory
年末の温室で、真っ赤な苺として生まれ育ったからには、生クリームたっぷりのクリスマスケーキになりたいと、どんな苺も思っているはずですって?本当にそう思うの?私はそんな苺の定められた運命から脱出したいわ。私はね、粒々の餡子とお餅の十二単を纏ってひとり静かに微笑む苺大福になりたいのよ。

イマムラ・コー @imamura_ko
友人2人が「1月の星々」に参加すると言ってきた。今月の文字は「定」だが、歴史上の人物縛りで対決しようじゃないかということになった。1人は歌人の藤原定家にすると言い、もう1人は徳川13代将軍の家定を使うと言った。僕はといえばなぜか阿部定の名前しか出てこず、ちょっと情けなくなってしまった。

りみっと(サイトからの投稿)
今日も私は先輩と共に出張だ。SEホヤホヤの私は、現場で稼働中のシステムを扱う術や顧客対応を先輩の反応を見ながら学ぶ。食事をとるタイミングも同様。地方だと夜八時位で閉店することも多い。店も選べないことが多い。昼にカツ丼定食等しっかり食べておくことが、いかに大切であるか良くわかった。

草野理恵子 @riekopi158
天から神みたいな人がぼろい舟で降りてきた。僕達ペンギンはみんな心配した。神みたいな人は人だったので僕達ペンギンと違って仮定が好きだった。この海にはもう水が無いのに有ると仮定して舟を漕いでいた。カキカキという音が世界に響いた。ぼろい姿になって一心に漕ぐのを僕達は一日黙って見ていた。

雨椎零 @amatsui_rei
三角定規は嫌いだと君は言った。どうして?と聞くと真ん中の穴から幽霊が見えてしまうからだそうだ。覗かなければいいんじゃない?そう言うとそれでもだめと言う。ノートに置いたそのときに、穴から目玉が見えるらしい。僕は穴から世界を覗いてみた。危ないと翳した彼女の手のひらの目と目があった。

草野理恵子 @riekopi158
君の心はもう僕から離れ水の中に向いている。赤い体育館の中二人しか残っていない。巨大な青い球が流れてきて僕はそれに乗ったが、君は水の中に自ら固定された。僕は戸口の方に流れてゆく。君は何か言いかけ口を開き口だけの顔に固まり体育館の色になる。口から何かこぼれる感じがあり水に手を入れる。

流星(サイトからの投稿)
はー、疲れた。今日も残業か。お腹空いた。早く帰りたい。
会社の定めって、なんだ。定時に帰れた試しなんて無いじゃないか。まあ、責任持って働くってそういう事か。知らんけど。
今日も私は、生きていく為に、ひたすら働く。

モサク @mosaku_kansui
一定のリズムで刻む鼓動が一駅ごとに早くなって。少し早く着いたのにやっぱり今日も彼が先だった。
「僕もいま来たところだよ」素直な君は、つなぐ指が温かいとほっとして微笑む。待たせたくないのにいつも僕のほうが早いから。ポケットの懐炉をそっと撫でる。おかげで一時間も早く笑顔を見れたよ。

黒子徹 @kuroko_toru2
私が、一番嫌いなやつ。必ず、定時から五分遅れて出社する上司。ぶよぶよの紺のネクタイに、お気に入り感を出してくる鞄。お前のこと誰も興味ない。暴飲暴食のサラダランチの日々が続く。ある日。プロジェクトで私はミスを犯した。上司は言った。俺なら、カタつけれるから。任せろ。おっと、どうした。

MOTOM(サイトからの投稿)
 男の前の鉄鉢に「チャリ・リーン」と音がした。五円玉が転がった音だった。ぐっと睨み返した。次は「チ・リリーン」の乾いた音。今更返す言葉もない。近頃の通行人はお恵みの定石や作法も知らない。自分の罪や汚れを小銭に移し、そっと渡して救われるのだ。昨今、百円玉以下では両替も赤字になる。

たつきち @TatsukichiNo3
彼自慢の雲形定規のコレクション。漫画もデジタルで描く時代の今、何に使うのだろう?そもそも、彼は漫画を描くわけでもない。純粋な雲形定規のコレクターだ。それにしても思った以上の種類がある。
「それでも、全ての雲が描けるわけではないんだよ」
あとどれほど集めたら全ての雲を描けるのだろう。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
海を見下ろす丘に置かれたコンテナが少年の家だ。定期船の乗組員をしている父親が、異国の文字が記され少し錆びた鉄の箱を安く手に入れたのだ。決して広くは無いけれど、世界中を旅した我家を誇らしく感じてる。
母親と二人で父の帰りを待ちわびながら見る夢は、幾千もの色様々なコンテナが集う世界。

1月7日

温水空 @soranukumizu
僕が吐いた息で、空に浮かぶ満月が霞んだ。僕は手元に意識を集中させる。かじかむ手で、儚く不安定な灯火を必死に守ろうとしたが、努力虚しく線香花火は地面に吸い込まれて消えた。僕は祈るように彼女を見る。「一分持たなかったら、別れるって約束したよね」しかし彼女は言い残して去って行った。

白井いずみ @shiroi_izumi
ゲーム音と、ガチャガチャという音が響く。
 扉が開いた。
「……3時やけど」
「あ……ごめん」
「……大会近いんやっけ」
「え……うん」
「よー分からんけど、頑張っとるやん」
「……コンボ、安定せんくて」
「東京?」
「うん」
「音響くで。ほどほどにな」
「ん」
 扉は閉まり、足音が響く。

永津わか @nagatsu21_26
予定は未定が定説で、規定も固定もお呼びじゃないの。弛んだ縄で、縛られているのはお好みで? 身体は意のまま、お勘定はできるでしょう。ええまさか、きっと間違えないでいて。ゴミの袋はドアの脇、定価の教えはいらないわ。必要なのは高値の協定、安い定規は買わないで。査定は貴方の目と手で頂戴。

永津わか @nagatsu21_26
定規で半分こするとぴったりふたつになった。手も足も生えてすぐに二人。荷物も半分、軽くなった鞄でめいめい出かけていった。それから何年、分かれた二人は一緒にいた。半身が寂しいの。いると寒くない。もう切り口はないのに丁度いいらしい。でもお互いの目を見たいからひとつには戻らないんだって。

いまえだななこ @na2na1ko6
前に好きな食べ物を聞いたら
「塩さば定食」と返ってきた。

「お魚焼いたのと、ごはんとお味噌汁だけでいいの。ふつーので。自分でも作れるけど、誰かに作ってもらって準備や片付けもしてもらえる。それがいいの」

それ以来、母の日にはふつーの塩さば定食を作ることにしている。

雨琴 @ukin66
私が生まれた日に子猫を拾った。共に育ち、就活のドタバタの中息を引き取った。もう飼わないって決めたはずだった。子育てを終えた頃、年間自殺者より多くの保護猫が処分されていると知って引き取ることにした。その子も天寿を全うし私も定年。今から次のをとはいかない。預かりボラの余生も悪くない。

雨琴 @ukin66
誰かが不倫したらしい。表舞台に出られなくなるとわかっていて我慢できなかったのか。特定の一人しか愛することができないなら、その人との間に生まれた子どもは愛されてないのか。兄弟がたくさんいても一人だけ? 一人だけを特別愛するなんて差別じゃないの。そも性別を超えられない程度の愛なんて。

雨琴 @ukin66
就労支援でマナーを覚え、Office製品も学んだ。アイメッセージもアサーティブコミュニケーションもアンガーマネジメントも身につけたのに、応募して祈られるくり返し。採用された職場の憧れた社会人たちはアサーションもへったくれもない。クローズだから定着支援も受けられなくて社会復帰の道は遠い。

晃ゆみ @kouyumi23
我が百貨店で働きたいと応募してきた赤鬼とオンライン面接中。
「毎年2月3日以外、お仕事はされていなかったんですね」「は…」
背中を丸め、返事は聞こえず。
採用は×だが
「何かご質問は?」と聞いた途端、赤鬼がエンジン全開!
「定休日は?昇格は?退職金は?福利厚生は?」
ちょっ、ちょっと落ち着いて!

想田翠 @shitatamerusoda
彼氏とはオンラインでしか会えてないの。「このご時勢ねぇ。」
他の女にも愛想ふりまいてて…。「それは背信行為じゃない?」
毎週定刻の約束があるらしくお暇することに。彼女は既に私の存在を忘れてスマホに夢中。
「推しを彼氏って呼ぶタイプ!?」
無言で配信を凝視する瞳はガラス玉のようだった。

矢口 てる @yaguteruss
規定では60歳で定年になりますが、一定数の方は契約社員として会社に残られますね。出社日も不定期ですから、定期券の購入はお控えいただき、定価で切符をお求めください。定時は17時。詳細な書類は定形外郵便にてお送りしますね。当社の『掟』ですから。
あら、最後だけ『てへん』がついちゃったわ。

りふぇーる @riru008723
老舗の鯛焼き屋の暖簾に書かれた文字を見て「これ、何て読むんですか?」と僕は店主に尋ねた。「変体仮名で【たいやき】です。向かいの店の暖簾も同じ書体で【すし】です」……なるほど。今日、真奈が渡してきたノートの切れ端に書かれた謎の暗号文字は変体仮名で【だいすき】だったことが確定した!

りふぇーる @riru008723
「温泉行きたい」居間で明日の漢字の試験勉強中の高校生の娘が、突然呟いた。「由美が先月行ってきた【さだやまけい】ってとこ、すごく良かったって」「【定山渓(じょうざんけい)】のこと?北海道は遠いよ」「……じゃあ、東北ならいい?【おくいりせ】とか」いや、娘よ。まずは漢字の試験を頑張れ。

旅人 。 @ryoi44
酋長の老女は思った。兄は生き残るだろうか。樹上から遥か下を覗いて、兄を思うのは何度目だろう。老女は静かに海を見上げた。天を覆う海原が迫っている。海は落ちる寸前だった。鈴の連なりが鳴り響き、鯨の歌で村が揺れた。定めの時が来ている。私達は種に乗って生きる。老女は昔見た夢を確信した。

草野理恵子 @riekopi158
彼女は足を上げ棒で支えていた。何でそんな恰好をするの?何でって桃を剝くため。桃を剝くのにそんな恰好をするの?棒で支えなければ足が不安定になる。そう言って顎の辺りで桃を剝き始めた。彼女と桃の薄い色の肌に産毛が生え光が当たっていた。彼女はうまく剝くことができず深い湖のような眼をした。

草野理恵子 @riekopi158
三十年も?と聞き返すと三千年ですと言うのでそれも聞き違いだったのだろう。船首を上げて砂に旅客船が埋まっていた。子供がいなかったのでこの船を子供がわりに見守りました。情緒を安定させるために毎日チェロを聴かせました。チェロが妻なのですが……と言って撫でた。子供を青い月が照らしていた。

若林明良(サイトからの投稿)
毎年元旦に自分の顔を写真に撮る。定点観測というやつで赤ん坊から56になる今までずっと続けている。たまにパラパラ漫画にして見るが面白い。35を境にどんどん人相が悪くなっている。ここには書けない事を随分して部長に就任した頃だ。死ぬ前には地獄の酒に合う煮凝りみたいな顔になってるだろう。

モサク @mosaku_kansui
連休明けの集積所には、収集車を待つゴミがあふれかえる。それはまるで定められたルールにより分別された、見栄の名残り。忘れていた夢の残滓。一年前の決意は、折り目も新しいテキストとともに屑になる。それでも生まれ変わった紙が誰かの役にたつように、また新たな志を立てるのだ。計はここにあり。

1月6日

黒子徹 @kuroko_toru2
面倒なことになった。頬杖をつきながら、三角定規をくるくると回す。見覚えのない財布が、机の中に入っている。中身を確認したいが、斜め後ろの女子は、俺のことが好きだ。時計の針が、いつもより残酷に進んだ。俺はとうとう、諦めて中身を見る。誕生日おめでとうございます。放課後、後輩を殴った。

かっくん @kakkun4141
『家の玄関を跨いだら男のプライドは捨てる』
同僚はタレントの言葉を引用して夫婦円満のコツを語った。
ふ〜ん。でも、こっちはとっくの昔に男のプライドを捨ててるけどな。俺には定期的に跨ぐドアがある。中に入れば、そこは非日常の世界。今日も声高に命じられる。
「さあ、女王様とお呼び!!!」

かっくん @kakkun4141
知り合った頃は、彼女は一定の距離を保ちながら俺の後ろをついて来た。だんだんと親しくなるにつれて、その距離は縮まっていく。恋人同士になると、腕を組んで寄り添って歩いた。そして、俺たちは結婚。
「えー、まだ買い物するのかよー!」
今では荷物をいっぱい抱えた俺が彼女の後ろをついて行く。

宇呂椎太 @UroSheeta
彼の落とし物を拾ったこと、これが私たちの始まりだった。拾った定期券に書かれていた駅が私と同じということから話がはずみ、すぐに恋に落ちた。あれから数年。あなたはどこにいますか。今何をしていますか。私の最寄り駅はあの頃のままです。いつかここに帰ってきたあなたが見つけやすいように。

想田翠 @shitatamerusoda
究極の選択:才能と知性どっち?
大半が才能と即答。何者かになりたくてなりたくて…こんな辺鄙な美大まできたんだから。
「知性かな。家庭を持って定年まで公務員を勤め上げて…が理想。」
皆の首を傾げさせた彼は今、トロフィーを胸にフラッシュに囲まれている。
よれたネクタイ姿で呆然と視聴した。

想田翠 @shitatamerusoda
「共感よりも称賛が欲しい。そこに一定数の批判が雑じったとしても。」
線香の匂いが立ち籠める部屋で見る写真の中の彼はホッとしたように笑っていた。
対比であの日の笑顔が強がりだったとわかる。
主がいなくなり初めて誹謗に対する憐みの共感が集っている。
彼の衝動は俺の人生をかけて称賛しない。

葉山みとと @mitotomapo
直線には果てがないらしい。それなら始まりの点Pになって、定規で照準を合わせれば、教室の壁を貫いて国境もオゾン層も超えちゃって、その先までもどこまでも、跳んで飛んで行けるだろうか。遠く宇宙を思いスラっと線を引く時、私は少しだけ自由になる。

茅場 秋仁(サイトからの投稿)
価格高騰の為とメニューに記載がある。
 「麻婆定食ね。お客さんどうしました? えっ、この料理も追加する?」
 気づくと2品になっていた。
 「ヤバイ、お昼休憩終わりそうだ」
 定時で帰れず、帰宅する前にあの店で夕食を取る。メニュー表には、更なる価格高騰の為と書かれていた。

藤野(サイトからの投稿)
隣の人が「アイスホタテコーヒー」と頼んでいた。ホタテアイスクリームのコーヒーだろうか。ホタテが丸ごと入ったアイスコーヒーだろうか。新しい出会いは大切なのだ。アイスとホットのコーヒーがそれぞれ届いた。定価850円のセット価格だった。隣の人は交互に飲みだした。新しいな。

滴一滴 @teki1teki
貴方は自分に自信があるから、安定した私との生活と、刺激的な誰かとの生活を両立できると思ってる。だから、3時間後のサイクリングで、急な眠気なんて来ないし、自転車のブレーキもちゃんと作動するし、私の運転する車とぶつからないと思ってる。はぁ……貴方って本当に、自分に自信があって、素敵。

酒部朔 @saku_sakabe
水色の日曜日の鼻面をへし折った。火曜日はオレンジ色。酸っぱい白ワインは有罪と断定。ぼくは正月の夜起き出して、また眠り、近所の郵便の音を聞いている。年賀状来ましたか。ぼくは赤が好きだからあれはいいものです。毎日髪を赤くしていたら、洗面所がふたり分の殺人現場みたいになった。

かぼすサワー @BDJklv0wXT3eC6y
大物芸能人が差し入れとして御用達。政財界の関係者なども足しげく通う和菓子店。文豪たちが愛した味。高級最中。神楽坂というだけで緊張してしまう。ファイトだ私。安くない交通費を貯めたではないか。一口目の感動を想像すると勇気が出た。いざ、勝負だ都会の店。そして飛び込んでくる定休日の文字。

矢口 てる @yaguteruss
職場に悩みはつきものだ。仕事の方向性が全く異なる上司と一緒に働くのは、意欲がなくなって困る。一日の大部分を過ごす場所なのに、僕の居場所はここではない気がしている。収まりが悪いと言うか…息苦しくて落ち着かない。だから今は定位置があるものを羨ましく思うんだな。お掃除ロボットでさえも。

若林明良(サイトからの投稿)
「日曜は定期演奏会だからダメなの。ごめんね」。遠くから見てるだけでは我慢できず、思い切って映画に誘った。井上尚哉のシールをスマホに貼ってる君は強い男が好きなんだな。僕はボクシングジムを検索し入会を済ませた。帝拳総会ってどんだけ血が降るのかな、怖いな。でも次は一緒に行けたらいいな。

モサク @mosaku_kansui
ばあちゃんは百均ショップの品揃えに目を白黒させながら「これに塩梅よう盛ったらちょうどよかろう」と、仕切りのある皿を買った。ひとり暮らしをする俺が心配だったのだろう。ばあちゃんの飯は定食屋みたいで、俺はピザが食べたいと我儘を言ったものだ。ふと、懐かしくなり買ってきたお節を皿に盛る。

酒部朔 @saku_sakabe
持ってない言葉ばかり羨んでは石の裏の蟲を集めており、爪ばかりが伸びてしまった。欲を出し、太古の存在との約定に背いて紫の毒虫を噛み砕いてしまって、手が落ちない汚れで染まる。しかしそれを入れた万年筆は歌うように二十四日間、美しい詩を吐き続けて、ぼくのことばはかんぜんにうばわれた。

酒部朔 @saku_sakabe
詩を書いている。空気清浄機の音がする。すれ違う定めの恋人たちの歌。会いたいと言う唇は、月の歯車に粉砕されて砂塵になった。伸ばす指は北極星に騙される。君のラメは唯一の手がかりなのに、雪解けの川みたいに泣く。砂塵は夜中、空気清浄機に入り込んで赤いライトを点滅させたが、僕は眠っていた。

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