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針葉樹が見上げる静寂

「彼に逢いたいよね。」
彼女はそう言った。
背が高い彼女の視線は、珍しく真っ直ぐ空をとらえていた。

「本当に逢いたい。」
君は座ったまま膝を見て答える。

 彼が見ているであろう景色の連なりを、
Landと言うタイトルの映画で君は観たばかりだった。

 君は、彼女と彼に逢いに行った旅を思い出していた。
社会に出たばかりの三人は、違う景色の中で生きていた。アメリカは果てしなく広がり、彼はその中に収まっていたと、彼女が君に呟いたことがあった。
夢に微かに触れつつも、曖昧でとらえどころのない日々は、確かに君と彼女を迷わせてはいたが、焦点の合わない未来は興味深いものだった。
 彼の見据えた先にはアメリカがあり、其処は君たちを虜にしていた。しかし、厚い隔たりは二人に複雑な色を重ねて行く。

「僕は、女の人を愛せないから。」
彼が伝えた言葉が、君達に沁みて行くときの空の色は、無垢で何処までも何処までも濁る事はなかった。

砂漠は赤茶けたサラサラな粒子を、時折舞い上げて君達を迎え、そして見送ってくれた。

君達の車だけが砂漠の道を走り進んだ。

山々では、風や鳥や姿を見せない者達の音だけが流れ、透明な空気に溶けていく。

針葉樹の先端は気取った沈黙を続け、君達が見上げる気配を感じていただろう。

帰国の空港で、彼は彼女にキスをした。
大切な友として。
君は見送りに来てくれた彼の友人に、きつく抱きしめられ、友としてのキスを受けた。

空気が透き通るこの季節になり、君達は彼に逢いたいと語る。

それは尽きない空の広さに繋がるのかも知れない。

ロビン·ライト 主演、監督「Land」へ捧ぐ

星)☆

針葉樹が見上げる静寂


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