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「彼の中の宇宙」

「火星でウランを掘削していたんだよ。」
彼は真っ直ぐにその人を見て、そう言った。

「重機の搬送は大変でしたか?」
その人は返した言葉を、すぐに後悔したけれど彼は微笑みながら、
「私はアンドロメダの総長だったからね、簡単な事だったよ。」
と語るのだった。

彼は物語の中で春を迎え、夏の陽射しを楽しんだ。
落葉をサクサクと踏みしめ、彼の宇宙は拡がり初雪を見上げて襟元を左手で寄せる。
時折差し込んでくる長い陽光に眼を細めながら、彼は確かに異星での出来事を懐かしむのだった。

その人は、どんな時も彼の話を聞き進んで行く。彼の頬を優しく緩める物語は、その人の頬をも解いてくれたという。

彼達の周りで、樹木の実や蕾はまだ堅く口を結んで春を待っていた。

その人は彼の首元を見上げて、
「冷えて来ましたから、そろそろ帰りましょうね。」
と促した。

彼の宇宙は漆黒ではなくて、ほのかな色が重なり合い、三月の明け方に似た温もりがあったのだろうかと、その人は話してくれた。

今年最後の満月が、三月の明け方に似た温もりを滴らせるように輝いている。

星)☆

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