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米津玄師のライブを観てきた話

 米津玄師のライブを観てきたので、感想を。「米津玄師 2022TOUR / 変身」at.さいたまスーパーアリーナ(2022.10.27)

 とにかく良いライブだった。が、めちゃくちゃ楽しかったことを言語化するのは野暮だ、と思う自分とある程度は書き残しておきたいという自分がせめぎあっている。けれどせっかくnoteを始めたわけですし。ゆるく日記スタイルで行きたいと思います。


前段 自分にとっての米津玄師



 米津玄師は2015年の3rdシングル「Flowerwall」の頃から聴いていて、ファン歴は7年くらい。私は今20なので、小6くらいの時に出会った計算かなと。深夜時代のCDTVの特集コーナーがきっかけで知ったはず。

 小学校高学年~中高、という1番多感な時期に出会ったこと、そして「はじめて同時代性を感じながら応援し、スターになっていく瞬間を見てきたアーティスト」 ということからとても思い入れが深い。(ボカロ世代ではあるが、ハチは完全に後追い)

 米津玄師を知る前まではBUMPやRAD、スピッツなど既に地位が確立されたバンドを聴いてたので、リアルタイムのワクワク感は希薄だったんですよね。「自分の世代にも藤原基央みたいなカリスマがいて欲しい」という欲求がどこかにあったのだけどそれに完全に見合った形。

 「LOSER」「orion」「ピースサイン」…とシングルやアルバムごとにジャンルが変わっていくスタイルも上に挙げたバンド達とはまた違った魅力があり、新曲を聴くワクワク感たるや尋常ではないものがあって。2017年の「灰色と青」なんかは1番鋭かった時期の菅田将暉とコラボするという驚きもあって印象的。シングルのタイトルを見るとその時の生活を思い出す、という感じ。思い出は多々あるけどここでは割愛。

また、彼の楽曲がもつはぐれ者への目線や「ここではないどこか」への憧憬や喪失感を感じさせる世界観は落ち込みがちだった中高の時の逃げ場になってましたね。どこか思春期のヒーロー的な存在でもあったかも。


コロナ禍と米津玄師


ライブの参加は今回が2度目。前回のツアー『HYPE』の横浜アリーナ公演以来。このライブのことは非常によく覚えていて。
 5年越しに生歌を聴けた喜びや、大好きな「ホープランド」を聴けた感動などもあったけれど今となってみればコロナ前最後のライブだったなと。

  開催されたのが2020年2月15日。既に横浜のクルーズ船の報道はあり消毒は要求されていた。マスクと声出しは任意だったので、結局はノーマスクだったし、曲の合唱、レスポンスも普通にあった。けれどこれが今のところ大歓声流を耳にした最後のライブの記憶、というかコロナ前の世界の記憶かも。

 ツアーも翌週の広島公演以降は全て中止に。(非常にいいセトリだっただけに円盤化されなかったのが悔やまれる)。そしてその後のロックダウン真っ只中にリリースされたのが売上100万枚以上を記録したアルバム『STRAY SHEEP』。

『STRAY SHEEP』


 「Lemon」「パプリカ」といった誰もが知る曲が入りながらも内容は非常に重たく内省的。  
このアルバムを締める「カナリヤ」は完全にコロナ以降の人々の人生を肯定するムードの曲。最終回でコロナ禍の世界を描いたドラマ『MIU404』の主題歌『感電』も収録されており、2020年のコロナ禍の空気感をよく反映した作品と言える。自分もこの作品を聴くとあの年の何ともしれん薄暗さを思い出す。(受験もあったしね…)

 米津玄師はその後も「Pale Blue」や「M八七」と楽曲をリリースしつつもライブは未開催という状況が続いており、今回の『変身』が実に2年半ぶりのツアー。結果的に自身最大のヒットアルバムを引っさげてのツアーにも。

 という状況だったので期待値も相当高い。自分も浪人を経たこともあり、コロナ前の記憶とケリを付けにいく感覚もあったし。クソ長い前置きが付きましたがようやく本題です。

開演前

 会場はさいたまスーパーアリーナ。サムネにもしたが、とにかく大きい。グッズを装備したファンたちの集いを見て、この空気感久しぶりだなと思った。米津玄師のライブには米津玄師みたいな長い前髪の男性がちらほら見かけられておもしろい。

 ここで書きたいのは物販の話。米津玄師の物販はとにかく早く、優秀。事前にアプリで購入リストを作成、現地でQRコードを提示、即購入。この間、導線に一切混乱する要素なし。大量のスタッフによって待ち時間も待って5分という衝撃。そこまでライブに足を運んでいるわけではないが、数万人規模の公演でこのスムーズさは感動の域でしたね。


 その後、開場。位置はアリーナ後方通路側。会場の大きさからすると不安だったが、米津玄師は物理的に大きい(188cm)ので歌ってる姿が見えないってことはなかったな。客入れのBGMでHarry Stylesが流れており興奮気味にその時を待った記憶。本人セレクト。


本編

さて、ここからは印象的だったことを箇条書きのスタイルで。すべて言語化するのはもったいないし。詳細なライブの流れはナタリーの記事なんかを読んでください。セトリも載ってるしね。

歌がうますぎる

 今回のライブでとにかく印象的だったのはその圧倒的な歌のうまさ。
 米津玄師の楽曲は基本キーは低いが、サビで裏声に入らず一気に張り上げる楽曲が多い。そのうえ、早口で難しい単語を詰めていくスタイル。素人でも喉キツそう、歌うの難しそうってわかる。
 また、前述のとおり『STRAY SHEEP』は重めの作風のため、比較的ゆったりした「聴かせる」タイプの曲が多いんですよね。ライブで歌えるのか?って正直思ってた。ただ、そんな素人の疑問など余裕で打ち崩しましたね。

 バラード曲での、のびのびと広がるような高音、サビに向けて徐々にためていく歌いだしの低音のかっこよさ、ロック曲での荒ぶったシャウト、歌詞に合わせた強弱どれも最高。あまりの表現力と歌声の引き出しの多さにずーっと惚れ惚れしていた記憶。バンドスタイルの演奏が多かった前回のツアーに対して、今回はマイク一本ソロ歌唱のパートが多く、メンバーがいても基本スポットライトは米津玄師のみにあたる、という場面が多かったので、歌を聴かせたいツアーだったのかなと思った。

 前回見た時は高音が安定しない部分を勢いのあるシャウトで補うことでアツい歌唱になるようにしていたイメージだったので、(これにももちろん感動した)今回のテクニック満載の歌唱にはただただ圧倒された…。印象に残った曲は後述します。

曲のイメージと完璧に合致した演出

 歌の次に印象的だったは楽曲のイメージと完璧に合致した演出。特に照明。米津玄師の楽曲がもつ抽象的なイメージを完璧に再現していた。

 例えば、「Lemon」ではスタンドマイクに立つ米津玄師のみに真っ白なスポットライトが当たり、ほかの空間は真っ暗。教会の神聖さを思わせる空気感で、大切な人の喪失を歌ったこの楽曲にはぴったり。ほかにも「カナリヤ」で淡く黄色い光線が鳥かごを作り出し、曲の内容が開放的なムードになるにつれてほどけ、カナリヤが空に向けて飛び立つイメージを作りだしていく。「パプリカ」では、真っ赤な夕焼けの赤。曲が持つ幼少期のノスタルジーに添う。
 かと思えばロックな「ゴーゴー幽霊船」や「アンビリーバーズ」ではド派手な映像演出とフラッシュ、ダンサーの登場でしっかり盛り上げる。

 この曲のトーンに合わせたシンプルな演出の美しく心地よいことといったらなかった。会場は大きなアリーナ。いくらでも足して足して山盛りの演出にできるのにそれをやらない素晴らしさよ。自分が持つ楽曲のイメージが壊されない嬉しさもある。 しっかりと余白を残す演出と空間に漂う米津玄師の圧倒的な歌声。楽曲への没入度たるや半端ない。いい曲、好きな曲の世界観にじっくり浸る時間、ライブの醍醐味。

 米津玄師のライブは圧倒的なエンターテインメント空間に浸る、というよりは楽曲の世界観に耳を傾け思いを巡らせていくというスタイルだなと改めて。自分、曲、ステージ、米津玄師、演出。現実逃避というよりはリアルな自分の悩みや思想を頭に巡らせながら曲に潜っていく感覚。そのため大きな会場でもどこかパーソナルな空気が漂っていると感じるし、それこそが魅力なのかなと。心地よい内輪感。

生活はつづく


 米津玄師のライブはMCが少ない。今回もまとまって話していたのは約2か所。そこで語られた内容は、①観客には自由に楽しんでほしい、見た目ではおとなしくとも沸々としたものが胸にたぎってくれれば良い。 
②人生はクソである、けれども今日だけはそうじゃなければいい。そう思えるような一夜にしたい(大意)
というもの。

 それから今回のツアーはopとedに映像があったのだけど、終演時に流れた映像はライブを終えた怪物の着ぐるみ(米津玄師)が車に乗って帰路につくところにエンドロールが被る、というものだった。

 MCも映像も生活に根差した感覚がある。
また、ライブという異空間でもなお、楽しみきれない、居心地の悪さを感じてしまう者への視点もある。100万枚を売り上げるアルバムをリリースし、誰もが知っている名曲を生み出したポップスターになった現在でも、そういったはぐれてしまう者へのまなざしや、生活を彩るものとしての音楽表現をしたい、という感覚を忘れずに伝えていることには感銘を受けましたね。

 音楽と人間性は別物という考え方ももちろんできるけれど、結局こういう思慮深い人柄に惹かれているからファンをやっているんだなとも再認識。また、コロナ禍になってすぐリリースされ、混沌とした日常の変化を切り取った『STRAY SHEEP』のツアーならではとも。

印象に残った楽曲

 最後に印象に残った楽曲をポツポツと挙げようかなと。

「POP SONG」1曲目。てっきりアルバムの冒頭を飾る「カムパネルラ」辺りから始めると思っていたので意表を突かれた。音源だと「君」を肯定したあとに、皮肉が折り混ぜられるっていう絶妙なダークさを残した歌詞が印象的だったけれど、ライブで聴くと完全にポップな狂乱という感じ。ピエロのようにゆらゆら闊歩しながらステージを練り歩く姿が印象に残っている。

「カナリヤ」「Lemon」「海の幽霊」
 前述した歌唱力と照明の演出がバキバキに決まっていたと思うのがこのパート。「カナリヤ」の黄、「Lemon」の白と黒、「海の幽霊」の青、とパッと視覚に入る鮮やかな照明の美しさ。スタンドマイク1本、歌1本勝負の貫禄。
 3曲とも曲調はゆったり目のバラードのため、連続して聴くと疲れる部分は正直あったが、それを吹き飛ばすようなシンプルな歌唱の強さ。
特に「カナリヤ」のサビでの消え入るようなかすれのはいった高音、「Lemon」Cメロの絶唱にも近い切実な響きをもった高音は最高…
 このツアーが開催されるまでの約2年半を慈しむような雰囲気もあり、しみじみと聴き入る。

「アイネクライネ」「ゴーゴー幽霊船」
 セットリストの入れ替わりが激しい中今でも昔の定番ナンバーが聴けるのは嬉しい。何年も披露されているだけあってムキムキの仕上がり。

「アイネクライネ」の間奏の部分のギターはライブで聴くとつんざくような轟音になりある種のトリップ空間のようになるのがたまらん。改めて聴くとバンド色が強い曲だなとわかる。青と紫の照明がステンドグラスのような空間を生み出す演出もピッタリで、美しかったですね。

 「ゴーゴー幽霊船」は何度聴いてもすごい曲だなと。独特な言葉選び、調子ハズレなバンドサウンドの妙、(Aメロのチューニング外れギターのパートも再現される)、カウントの盛り上がり、死角なしの名曲。さすがに身体が飛び跳ねる。実質のデビュー曲がスタメンでちゃんと盛り上がるのはたのしい。完全に王者の風格。

「アンビリーバーズ」
 3rdアルバムから。この曲がセトリ入りするのは意外だなと思いつつ。今は絶望であってもいずれ希望に転ずる、という世界観はご時世にも合ってて聴くと胸が熱くなる。現在の非バンド路線の楽曲の走りでもあるんですよね。2番Bメロの「貶されようと 馬鹿にされようと 君が僕を見つめてくれるなら キラキラ光った パチパチ弾いた」の「君」の部分を客を指さしながら力強く歌う所に感動。
 
米津玄師はいつも「君」に歌いかけている。そしてライブでの「君」とは今目の前にいる「観客=あなた」という具体的な存在。

爱丽丝」~「KICK BACK」
 もう当日のTwitterでも話題沸騰でしたが、常田大希がギターとして参加したパート。

 「爱丽丝」のギターソロで「ギター常田大希!」と発せられた時はさすがに耳を疑った。  別に歌唱で参加している訳では無いのに、あの特徴的なワウだけで「常田大希の音」と分かるのは、まじギターヒーローと思ったし、米津玄師のライブでありながら会場の全員の意識を全て引き受ける瞬間があったスター性には度肝を抜かれましたね。さすがにこの日イチの盛り上がり。

 そして「KICK BACK」ですが。会場全員が1番待ち望んでいた楽曲、という空気だった。前回まではこのポジションはまだ「Lemon」だったと思うけれど、新曲が待望されるすごさ。 正直、音源で聴いた時は久々のロック調の曲調には喜びつつも、常田大希の足し算志向が全面に出すぎて勿体ない曲、と思ってました。1つ1つのパートはかっこいいのに全部繋げると逆に平坦だな、みたいな。 
  ただまあこれはライブを聴くと覆って。とにかく全編ハイライト。冒頭の「未来 努力 A BEAUTIFUL STAR」から荒々しい米津玄師のボーカルがとにかくアガるアガる。クラップもいいタイミング。演出も火を焚いたりして完全に熱狂側に振ってましたね。
 あと音源できくと唐突に感じる大サビ前の「幸せになりたい~」の一連のブリッジが生だと非常に切実な空気感を帯びる。ある種熱狂に突っ込んでいくこの楽曲でもこういった祈りにも近い要素を入れてくるのは米津玄師の味だなと再認識したり。
 足し算、足し算が生み出す熱狂的な空気感には抵抗を覚えるときもあるが、静かな曲が大半を占めた今回のセトリだとカタルシスがあったし、なにより一番話題のタイミングで聴けたというのもあるので大変印象的でしたね。今後のライブでは定番化必死。
 
 米津玄師の楽曲はこういうブチアゲ曲が不足しているので、音遊び的なテンション高い曲がもう少し増えるとセトリは楽しくなるかもと思った。なんにせよ、ライブ版を聴くと音源では物足りない。それくらいの力はある。負けた。


「ゆめうつつ」
 個人的に近年の米津玄師の楽曲の中で一番お気に入り。全楽曲でも上位に入るくらい好きな曲なので聴けてうれしかった。「米津玄師は楽曲の導入部としてのAメロ」が最高、と常々思うのだけどこの曲はまさにそれ。
 文語めいた強張った単語が並ぶ歌詞が眠る前の走馬灯のような情景を見事に描き出しているし、それを支えるビートもドリーミーでジャズっぽい心地よさがあり、最高の相性。言葉とメロディが完璧に一致したときの気持ちよさをこれでもかと味わえる名曲だと思っていて。
 その心地よさはライブでも全く損なわれることはなかった。紫の照明のなかシャボン玉とともに花道を練り歩く米津玄師。まるで夢のような風景の中で歌われるのは「羽が生えるような身軽さが 君に宿り続けますように」
というささやかな祈り。「KICK BACK」が生み出した狂乱とは対極の親密でピースフルな空気感。この二つが共存するところに嬉しさがあった。
(シングル「Pale Blue」の中で唯一mvがない楽曲なので、若干影が薄い気がする。もっと聴かれてほしい。)


まとめ

 こんなところです。米津玄師は楽曲のサウンドも歌詞も時期によって明確に変化があるので点ではなく線で追うのが本当におもしろい。これを生のライブでも実感できるのは嬉しいことだなと。あとこれだけ権威化してもなお、居心地の悪い人々へ歌を届けたいという目線はかなり明確ということがわかり、そこもグッと来ました。来年のツアーはタイミング的にはアルバムかな、とか想像しつつ次のアクションを楽しみに待とうかなと。生活がんばろう…

 しかし、ライブレポートってざっくり書くだけでも疲れる。これを批評とか織り交ぜたり、詳細に書いたりしてる人たちってすごいな…と。とんでもない労力のものを読ませてもらっていたんだな、という気づき。作文ってむずかしい。

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