J-POPレビュー #6 ビーイング系の女性ボーカル曲7選(後編)


前編に引き続き、4曲を紹介する。

ビーイング系のアーティストはメディア露出が少ないというのは前編でも触れているが、90年代初頭にはB.B.クイーンズやZARDが音楽番組に出演していた。ブームがピークを迎える頃には見かけなくなっており、露出を控えるメディア戦略が定着した。
当時、ネットやSNSのない時代。タイアップやテレビCM以外に、ビーイング歌手のPVが流れる「NO.」というミニ番組があり、ブームが終焉した99年までこの番組は続き、他のレコード会社にはない宣伝の手法をとっていた。
それでは続きへ。


4.「easy game」the★tambourines(2001)

デビューシングル。作曲は倉木麻衣などでおなじみの大野愛果。バンド形式になっているが、ピチカート・ファイブやらBONNIE PINKやら色んなエッセンスが詰まっている印象。この曲についてはコンピレーションアルバムに収録されていたことが出会いの始まり。
ボーカルの声質はそこまでパンチが効いてないけど、いい意味で曲を邪魔せず雰囲気に乗っかれている。ビーイングらしくないと言ったら失礼か、雑貨屋とか喫茶店で流れていそうなお洒落かつ疾走感のあるポップス。聴き込むか、BGMで流すかでいえば後者のほうで、サクっと聴きやすい曲調だと思う。時代が歌唱力のあるアーティストを求めており大ブレイクは難しかったかもだが、玄人筋にはもっと評価されてほしかった。オリコン100位以内は2曲のみと商業的には大失敗だった。

5.「mysterious love」小松未歩(2002)

オリコン最高位16位。17枚目のシングルで最後のトップ20入りした曲。番宣バラエティ番組「TVおじゃマンボウ」EDテーマ。懐かしのおじゃマンボウが番宣バラエティと銘打っていたことを今更知ったし、そもそも番宣バラエティというジャンルって存在するのか疑問である。
名探偵コナンのタイアップを数多く手がけ、ファンにも概ね好評だった小松未歩の楽曲だが、10枚目のシングル「あなたがいるから」で最後である。しかしこの曲はコナンタイアップでないにも関わらず、タイトルに"mysterious"と入っている。コナンのタイアップを請負うアーティストは誰しもがタイトルやら歌詞に一度は入れたことがあるであろう単語だが、タイアップ欲しさに起用された曲よりよっぽど合っている。彼女の曲は明るく爽やかな曲が少ないが、キャラクターを守り、求められる曲作りができているのだと思う。


6.「雲にのって」三枝夕夏 IN db(2007)

オリコン最高位12位。こちら名探偵コナンOPに起用されている。作曲はビーイングでおなじみの岩井勇一郎(ex-New Cinema 蜥蜴)。アニメタイアップや愛内里菜とのコラボもあり、この時期のアーティストの中ではコンスタントにチャートに顔を出していた。
アニメ自体の物語が核心に触れた時期に起用された曲だが、お経のようなラップ(ポエトリー・リーディングと言うらしい)でAメロをぶち抜く大胆な構成をコナンのOPというドル箱で挑戦した意欲作。ちなみにビーイングで女性ボーカルのラップと言えば大黒摩季の「熱くなれ」とZARDの「痛いくらい君があふれているよ」の2強を推したいが、大黒摩季は曲の勢いでごまかしきれており、ZARDはスローテンポな曲にラップを乗せる難易度の高さ。本作はリズムも歌詞のイントネーションも違和感が強く、特にラップの歌詞の区切り方がもう少しどうにかしてほしかった仕上がりである。2作品に比べても大分やってしまった感が否めない。是非聴き比べてほしい。


7.「Sissy Sky」宮川愛李(2019)

オリコン最高位20位。こちらはデビューシングルで、自身で作詞を手掛ける。名探偵コナンのEDテーマ。突如現れた女性ソロボーカリストは同事務所所属のアーティスト・みやかわくんの妹とのこと。
曲については同タイアップでは珍しい、アニソンアーティストが歌うアニソンのような、疾走感がありながらも憂いを帯びた曲である。詞はつぎはぎな印象だが、抜ける感じの高音が特徴的なボーカルで、音源では高音に移る際の声質・ダイナミクスが自然で上手。個人的には近年のビーイング系アーティストの中では当たりと断言できる。5月のMETROCKに出演するようだが、INABA/SALASも同イベントに参加することから、今後も音楽フェスにビーイングアーティストが出演することを期待して良いのかも。

最後にービーイングの音楽に対するこだわり

以上7曲はオリコントップ10入りのヒット曲やミリオンアーティスト以外を挙げた。そんな選曲ができるぐらい女性アーティストは名曲やインパクトのある曲が多い。メディアの露出が少ないため、小松未歩を筆頭によりミステリアスな印象を持つ方が多い。
女性アーティストだけでなく、ビーイングは同じ曲のバージョン違いが多い。特に多いのがZARDで、「運命のルーレット廻して」や「永遠」といったヒット曲でも音源化されたのは3バージョン。(バージョン違いのクレジットは無いのでちょっと意地悪である)かなりの数のパターンを作って、その中の厳選したアレンジを世に送り出しているようだ。ブームが起きることによって意に反し商業主義的なイメージにを持たれやすくなるが、ストイックに音楽に向き合う実態も垣間見える。何バージョン作ろうが世に出なければ金にならないわけで、かなり細かいディティールにまでこだわっているようだ。
女性アーティストについては、沢山のソロ・ユニットがデビューしているものの、ここ数年はヒットが無い。2000年代は倉木麻衣・愛内里菜・GARNET CROWがトップ10入りを続けていたが、ZARD亡き今倉木麻衣のみで持っている状況である。「Love,day after tomorrow」のヒットからなんと今年で20年、そろそろレーベルの顔となれるニューカマーの登場が待たれる。事務所の力は全盛期に比べると衰えは否めないが、アーティスト自身の実力で、またビーイング系アーティストをチャートシーンに返り咲きさせてほしい。

まだまだネタの尽きないビーイング、男性ボーカリスト編に続く。


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