J-POPレビュー #8 ビーイング系の男性ボーカル曲7選(後編)

後編へ。

90年代のビーイングブームを支えた男性ボーカルアーティストだが、ヒット作のクオリティの高さの反面、その後が続かなかった。ブーム終焉以降の男性アーティストはチャートではほとんど見かけず、コンスタントにトップ10に入るのはBREAKERZぐらいという厳しい状況である。
事務所の売り方についてもどうか。個人的に売り方が気になる例として代表的なものはB'z。2016年10月配信リリースの「世界はあなたの色になる」は名探偵コナンの映画主題歌とアニメOPに起用され、映画は大ヒット。しかし映画は4月公開、アニメでは5月から起用されており、当時毎週この曲を聞くたびにまだ発売されないものかと気を揉んだ覚えがある。
「Still Alive」は 2017年1月期の日曜劇場の主題歌で、最後のミリオンヒットとなった「今夜月の見える丘に」以来17年ぶりという話題性も抜群だったが、6月に「声明」との両A面の2曲目でひっそりとリリースされた。
「WOLF」についても、「イチブトゼンブ」以来9年半ぶりの月9主題歌であったが、2018年10月期のドラマ開始にも関わらず、2019年5月リリースのアルバム「NEW LOVE」にようやく収録された。折角の大型タイアップをふいにしている感は否めない。
また、他のレコード会社でも期間限定パッケージのような再出荷バージョンがリリースされることはあるが、B'zについても「The Ballads」のクリスマスを意識した赤盤、「ULTRA Pleasure」「ULTRA Treasure」のウインターギフトパッケージと唐突に収録内容の変わらない別仕様盤をリリースしている。そこまで購買意欲を掻き立てる商法とは思えないが…
それでは本題に入る。


5.「心のリズム飛び散るバタフライ」 doa (2006)

オリコン最高位38位。8thシングル。アニメや小さなものも含め5つのタイアップが付いた。doaは倉木麻衣やZARDなど多くのビーイング作品を手掛ける徳永暁人を中心とした3ピースバンド。バンド名の由来はメンバー3人の頭文字をとったものであり、WANDSを思わせるネーミングである。15枚のシングルを最終的にリリースしたものの、ヒットには恵まれなかった。
本作はタイトルの長さに、大型CMタイアップがないもののサビ頭にタイトルを持ってくる往年のビーイングの手法を思わせる作品である。アコースティックな作風ながら、ボーカルが少しねちっこい歌い方である。"都会(まち)"や"程(みち)"なんて歌詞の言い回しに始まり、とにかくクサい表現方法。そもそもタイトルが何とも独創的である。キャッチーさには欠けるが、アコースティックで渋めなサウンドと歌詞の組み合わせが面白い。ブーム後にひっそりと活動していたのが勿体ない。


6.「Mysterious」 Naifu (2008)

オリコン最高位36位。2ndシングルにて名探偵コナンのOPに抜擢されたが、実働2年で活動を終えた4人組バンド。ナイフと読むが、由来が刃物のナイフなのかはわからない。少なくとも、バンド名にセンスはあまり感じない。作詞者が歌うという独自のスタイルで、本作は荒神直規がボーカルを担当している。
曲調はビーイング全盛期なサウンドを2008年風に解釈したものと捉えていいのかもしれない。ボーカルもZYYGのような少し暑苦しい歌い方。個人的にはヒットだけれども、商業的に成功しなかったのが残念。サビ前の"mysterious"のフレーズの後、急に転調する展開も面白い。タイアップでおなじみのタイトルに加え、"秘密"や"謎"、"麻酔"という歌詞はかなりコナンに寄せている。また、全体的にも蘭と新一のことを歌っているようにも感じる歌詞である。doaもそうだが、ボーカルのチョイスが時代に合っているといえないのが残念である。


7.「真っ赤なLip」 WANDS (2020)

オリコン最高位14位。遂に復活し21年ぶりのリリースとなったWANDSの最新作。初めて名探偵コナンのタイアップが付いた。彼らについては改めて説明不要、ボーカルが変わることに何の抵抗も感じないバンドはここぐらいである。個人的には2代目のボーカルの和久二郎は当時全く気付かないレベルだったが、上原大史は別物でこれはさすがに違いがわかる。ただ、和久がただ似ているだけのボーカリストだったのに対して、上原は似ていないが上手いアーティストだと今のところは感じている。
踊るコナン君やメンバーチェンジを経ての復活と話題先行型ではあるが、曲自体は普通にかっこいい。全盛期のサウンドそのままとはいかないが、旧メンバーの進化とバンドの王道を織り交ぜた本作は当時を知る人にも知らない人にも聴いてほしい。個人的に"No way 無邪気に隠した"の歌い方にWANDSっぽさを感じた。これからの活動に期待。


番外編「果てしない夢を」ZYYG,REV,ZARD&WANDS featuring 長嶋茂雄 (1993)

オリコン最高位2位。この曲を語らずしてビーイングを語れない、ということで番外編の8曲目。プロ野球中継のテーマ曲。当時新人アーティストのREVとZYYGはそれぞれデビュー1,2か月の大抜擢だったが、同じく新人のBAADは入ってないという謎のチョイス。アーティスト名の順番もアルファベット順でもあいうえお順でもない意図は不明。
ビーイング版We are the worldとでも形容できる本作は、シンプルな歌詞ながらも前向きなメッセージがすんなりと入ってくる。上杉昇と坂井泉水の二大巨頭の存在感は抜群で、作詞も二人が担当。ちなみに作曲は出口雅之を抜擢。ZYYGはどこへ?コーラスにも大黒摩季や近藤房之助、川島だりあらを起用する豪華布陣。しかし大黒摩季はコーラスの出とはいえ当時既に売れっ子だったにも関わらず、メインメンバーでないのが勿体ない…そして最後に触れたいのはやはりミスターの歌声だが、こちらは僅か2フレーズ。とりあえず聴いてみるのみ。


最後にービーイングの現在地

B'zと倉木麻衣に依存し、他の露出はコナンタイアップぐらい。音楽事業者としてのビーイングを取り巻く環境は年々厳しくなっている。それでも現在はT-BOLANにZYYG、WANDS、FIELD OF VIEWが活動再開。デビュー30周年のZARD、20周年のGARNET CROWについても企画が始動されている。現在事業の主軸となりつつある不動産同様、豊富なレジェンドアーティストたちはビーイングの有形資産である。これらの力で復権を狙う…までは難しいにしろ、作詞作曲を含め有効活用しながら、新たなアーティストの台頭を待ちたい。

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