J-POPレビュー #9 おすすめカバー曲7選

今やカバー曲は1つのジャンルと化していると言っても過言ではない。90年代までは決して多くはなく、Winkのような洋楽の歌謡曲化や、安室奈美恵やMAXのようなユーロビートのJ-POP化が中心であったが、2000年代からは「ZOO」(蓮井朱夏)「贈る言葉」(FLOW)「Choo Choo Train」(EXILE)ら往年のヒット曲に始まり、徳永英明らカバー曲を強みとしたアーティストによるカバーアルバム、スピッツやイエモンなどの有名アーティストのトリビュートという形でのカバーなど、音楽業界で市民権を得た。前述した曲についても、忠実に歌い上げたものから、物議を醸すほど大胆なアレンジを施したものまで様々である。特にFLOWについては名曲のパンクアレンジということもあり、当時賛否両論があった。
現在カバー曲自体のトレンド感は正直それほどではないが、今回はあえて今紹介したいカバー曲を7曲挙げる。


1.「浪漫飛行」Psycho le Cemu (2003)

原曲はもちろん、1990年の米米CLUBのヒット曲。ヴィジュアル系バンドの3rdシングルとしてリリース。ガチガチのコスプレで身を固めた彼らは一見色物扱いされがちだが、かなりキャッチーな曲を作る。そんな彼らが唐突にリリースしたこのカバー曲、ただのカラオケにも聴こえなくないが、彼らの世界観そのままに、突き抜けるような爽快感のある仕上がりとなった。他にカバー曲をリリースしておらず、この曲を聴くと何となくバンドの世界観含め、選曲の妥当性がわかるかもしれない。本家のJALのCMから一転、こちらはアニメのオープニングにでも使えるのではないか。


2.「Movin' on without you」浜崎あゆみ (2014)

トリビュートアルバム「宇多田ヒカルのうた」収録。「Distance」と「A BEST」、期末の決算時期に発売された大物のアルバム同時発売は、当時ワイドショーで大きく取り上げられた。当事者同士では意識はないにしろ、そんな二人がトリビュートという形でかかわり合うとは、激アツである。浜崎あゆみに一時期ほどの人気が無かったことからか大きな話題にはならなかったが、この組み合わせは全盛期を知るものとしては一大事。歌唱力の衰えも指摘されていたが、この曲に関しては最大限の力で応えた、良い仕上がりだと思う。疾走感溢れる曲調に耳が少しキンキンするような高音のボーカルを当て嵌めると、なんとなくavex風になるような。


3.「KYOTO」シギ (2009)

トリビュートアルバム「JUDY AND MARY 15th Anniversary Tribute Album」収録。多くのトリビュートアルバムの中で比較的早めにリリースされた本作は、比較的ソニーの知名度の高いアーティストで固められている。その中でシングル2枚・アルバム1枚をリリースしたのみの彼女が大抜てき。期待されていたのだろうが、この曲以降の音源のリリースはなかった。原曲自体がアルバム曲ながら非常に人気の高い曲であるが、独特のボーカルが相まってどこか哀愁漂うような仕上がりとなっている。このアルバムについてはいきものがかり、school food punishmentらアーティストの世界観と原曲の見事な融合の図れている曲が多く、屈指の名作だと思っている。


4.「君のいちばんに…」鬼龍院翔 (2017)

カバーアルバム「オニカバー90's」収録。ソロになっても音楽的には変わらないが、このアルバムは基本的に往年のヒット曲のカラオケをひたすら歌うという内容であり、ミリオンヒットやアーティストの代表曲中心で非常に聴きやすい。しかしながら、このLINDBERGの曲は個人的には好きな曲ではあるが、代表曲どころかヒットしたとも言い難い。アルバムの中で女性ボーカルの曲もこの曲のみであり、アレンジも工夫してきているあたり、キリショー本人が余程この曲に入れ込んでるのがわかる。それにまつわるエピソードは見当たらなかったが、是非そんな気持ちのこもったであろう1曲を聴いてほしい。


5.「空も飛べるはず」ねごと (2017)

ポスト・チャットモンチーと目されながらブレイクを果たせなかったガールズバンドの11枚目にして最後のシングル。スピッツの代表曲であり、おそらく散々カバーされてきているこの曲。ボーカル蒼山さんの主張しすぎないゆるさが絶妙にマッチしている。ねごとの良さは代表曲「カロン」のような明るいアップテンポな曲よりも、この曲のようなスローな曲であったり、マイナーなメロディのほうが活きてくる。カバーはオリジナルを超えることはないというのは大前提として、名曲中の名曲の看板を汚さない曲ではないか。それだけに映画主題歌のタイアップが付きながらも、ヒットしなかったのが惜しい。


6.「DEPARTURES」HYDE (2015)

トリビュートアルバム「#globe 20th-SPECIAL COVER BEST-」収録。カバーベストと銘打っているが、トリビュートアルバムと同義であろう。ダブルミリオンを記録した冬の名曲をカバーする大役を担ったのはまさかのHYDE。globeとHYDEというのはかなり斬新な組み合わせであり、このカバーにも小室哲哉が携わっている。HYDEのボーカルの強みは、どのようなキーでも安定した発声かつ艶っぽい歌声が出せるところにあり、まさにこの曲はうってつけである。曲中の息遣いやAメロ・Bメロとサビの歌い分け、完全にこの曲を自分のものにしている。小室本人が携わっているとは思えないほどガラッと変えてきたアレンジも必聴ポイント。

7.「果てしない夢を」森友嵐士,大黒摩季,池森秀一&DAIGO (2018)

DAIGOのカバーアルバム「Deing」収録。前回のテーマに続きこの曲で記事を締めるためトリに。アルバム自体は往年のビーイングのヒット曲をこれでもかと詰め込んだ作品で、ビーイング系の豊富なライブラリを改めて存分にアピールする作品になっている。オリジナルではコーラス担当だった大黒摩季に加え、ミリオンバンドのボーカル2人が参加した、オリジナルより豪華とも言える、ビーイングオールスター的な陣容である。歌のパート分けはオリジナルとは異なり、元々のアーティストのパートをそのまま歌っているのは大黒のみ。安心して聴けるクオリティであり、別バージョン的な立ち位置で全盛期に聴きたかった。ちなみに原曲の長嶋茂雄的なゲストの参加はないので、ある意味原曲よりも完成度は高い。


今後も様々な形で新たなカバー曲が世に出されていくことであろう。挙げきれなかった曲もまた多く、機会があれば記事にしていきたい。

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