テキストヘッダ

ループしない

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 こんなことばっかり続けている日々じゃ 
 全然だめだってちゃんとわかってる

 大学生の頃住んでいた街はとにかく坂道だらけの街だった。満員のバスに乗って大学に行くのが嫌で、ギターを背負って坂道を歩いていると、ゴルゴダの丘を十字架を背負って歩いているみたいな気持ちになった。
 大学は楽しくなかった。嫌な気持ちの集まる場所だと思っていた。先生も学生もみんな与えられた役割を演じているみたいに感じた。まだ幼かったということだろう。

 恋人の家も坂道の上にあった。一見閑静な住宅街に見えるのだけど、数年前に通り魔事件がって、犯人はまだ捕まっていなかった。青い蛍光灯が点々と並んでいて、少し薄気味が悪い場所だった。
「こんなとこまで来てもらってごめんね」
 年上と付き合うのが初めてで、最初は結構舞い上がっていたような気がする。なかなか部屋に入れてもらえなくて、でも公園でしゃべっているだけで割と楽しかったのであんまり気にならなかった。

「女のバンドは長く続けるのが難しいんだよ」
「妊娠とか結婚とかあるもんね」
 僕がそう返すと、その人は「違う」と言った。
「女はずっと同じで気持ちでいられないんだよ」
 それは男だってそうなんじゃないだろうか、というようなことを言ったような気もするけど、はっきり覚えていない。今思い出すとなんとなく納得できてしまうので、余計にその時の自分が彼女の言葉にどういう感情を抱いたのか思い出せないのだ。
 多分この人とはいつか別れてしまうんだろうな、と僕も思っていたので、「そんなのずるいじゃん」と返したかもしれない。女々しくて恥ずかしい記憶だけど、別れ際にも同じようなことを言ったことははっきり覚えている。

 その人が貸してくれたCDはどれもピンとこなかった。
 僕はちょうどレコードプレイヤーを手に入れて南米の音楽なんかに手を出し始めた頃で、多分ジャケットを見ただけで「うーん」と思っていた気がする。まだ幼かったということだろう。


 そんななのに、身勝手なことに、軽音サークルで誰かがコピーしていたバンドが次々に解散していくのを見て思うことがある。
 僕が耳にしたことのないバンドであっても、永遠にそこにあり続ければいいのに。解散とかわざわざ言わず、何も言わずにそこにいるだけでいいのに。
 音楽は無くならない、永遠にそこにあり続けるみたいなことをいう人がたまにいるけど、そんなのまやかしだろうと思う。だからこそ、永遠にそこにあり続ければいいのにと思うのだろう。
 どうしてそんな風に思うのかわからない。死んでいなくなったりするよりも、「解散」という文字を見る方がよっぽど辛い。勝手なのを重々わかった上で書くけど、誰かの「決断」みたいなものを見るのが僕は怖い。

 解散しちゃったんだ。
 その頃の彼女から借りたCDの中で、一枚だけ今もよく聞いているアルバムがあって、そのバンドが解散してしまったらしい。
 いいな、と思ったのはその人と別れてしまったずっと後のことだった。

 最高の気分とちょっぴり
 切ない思いで手を振って
 また君に会える日を夢見て笑う
 そんなこと考えてたのに
 いったいどうしてみんなそろって
 こんな変なとこにいるんだろう ねえ

 はあ切ないな、と失恋ソングみたいに聴いて、自分でも恥ずかしいような気持ちに浸っていただけだったけど、もうそのバンドが解散してしまった今聞き返すと、ずいぶん違う歌に聞こえる。

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