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これから綴る一連の文章についての権利一切を、わたしは放棄する。
こんにちは、インターネットを見ている人。あなたがどんな経緯で、あるいはどんな検索方法で、この文章を読んでいるのか、わたしは知る由もない。知りたくもない、とまでは言わないが、個別の案件について興味があるわけではない。何か特定の特殊な事情がパイを占めているとかそういう話ならやぶさかではないが。
この文章は、あなたの自由に使っていい。とりあえず出せば単位が貰える講義のレポートの文字数稼ぎに使ってもいいし、適当な相手へ書くラブレターとして使ってくれてもいい。編集者だか文筆家だかが逃げて突然空いてしまった雑誌紙面の穴埋めに使ってくれても良いし、あの忌まわしいデザイン殺しの、調味料ラベルなんかに記載する文字として使ってくれても構わない。
正直わたしにはわからない。今までの人生で書いてきた少なからぬ数の文章についてもそうだし、今書いているこの文章についてもそうなのだが、そもそもこれはわたしの文章と言えるのだろうか。誰か教えてくれないだろうか。ねえ、これってわたしの文章ですなんですかね。
まあ、「わたしの書いた文章」とは言えるのかもしれない。間違いなくわたしは手を動かしてこの文章を書いているわけだから。でもそれってわたしの文章って言えるのだろうか。これは間違いなく、わたしがわたしの身から切り離した文章なのだろうか。グレーターチーズを削るみたいな感じだろうか。グレーターチーズから削り出されたチーズは「粉チーズ」ではないだろうか。じゃあこれは「粉わたし」とか?
「文体」とか言う。誰にも「文体」があるとか言う。誰にも唯一無二の人格や人となりがあるように。DNAみたいなものだろうか?本当に果たしてそんなもの存在するのだろうか。誰かの文章を分解液に入れて構造を見たら、そこにはその文章独自の配列が備わっているのだろうか。
そもそも、もしかしたらこれだって、わたしがただ、既存の文章を写経しているだけかもよ?
もう一度繰り返す。
わたしはこの文章の権利を放棄する。万が一何かしら利益が出た場合も、一切のロイヤリティーを支払う必要はない。
これはあなたの文章だ。
これはわたしの文章だ。
いやーちょうどいいところにちょうどいいサイズの文章が転がっていて助かりました。あ、わたしはネットで小説を書いてる者なんですけどね。いやいや、趣味でやってるようなもんですよ。でもそれなりにプライド持ってやってます。
もちろん昼間は仕事をしてます。それなりに忙しくしているもんですから、最近はなかなか小説を書く暇もなくてね。いや、別に誰かに頼まれてやってるわけでもないんですけどね。まあやるなら上、目指したいじゃないですかあ。人生一度くらいはバズってみたい、じゃあないですかあ。まあ筆名、というかただのハンドルネームですね、偽名でやってるわけですけど。まあ偽名でもいいから一度くらいは一山当ててみたい、ってなわけで頑張って毎日小説書いてネットにアップしてるってわけですけどね。
ネットに小説を放流するようになってちょうど一年くらい経ちますかねえ。いやあネットの世界ってのは結構難しくてねえ。それなりに読んでもらえることもありますが、基本はなしのつぶてですよ。でも、読んでくれる人は読んでくれるので、始める前よりは「ネットも捨てたもんじゃないなあ」なんて思いますよね。
そんなものなんで、頑張って書くわけですけど、ほら、わたしの仕事って年度末〜年度始めが結構忙しいじゃないですかあ。え、知らないって?まあそうでしょうけど、実際そうなんですよ。あ、年度の始めや終わりはみんな忙しいって?いや、まあ良いじゃないですか。とにかく、その忙しさにぼんやりかまけてたら、ほら、こないだ雷落ちたじゃないですか。ああ、落ちたんですよ、うちのそばに。そしたら停電しちゃって。パソコンがクラッシュですよ。ははは。災難なことに、書きためてた小説のストックがロストしちゃってね。バックアップは大切に、なんて。まあプロの作家でもなんでもないんで、自分以外は誰も困んないんですけどね。ははは。
で、消えちゃった小説を思い出しながらもっかい書き直してみたりするんですけど、なんででしょうねえ、これが上手くいかない。筆が進まない。小説っていうのは案外、インプロヴィゼーションみたいなものなのかもしれませんね。二度と同じものは書けない。全く同じ文章をタイプしたところで、それは全く同じ文章とは言えないわけですよ。瞬間瞬間がやっぱり大事なんです。なんぼ校正できるなんて言ってもね。
そんなこと考えてたら、いつの間にか月日が流れてるってわけじゃないですか。ほら、そうすると、インターネット上にしか存在しない、あ、僕はリアルでは小説書いてるなんて誰にも言ってないんで、仮想現実にしか存在しない僕なんて、忘れられたら存在してないのと同じじゃないですか。だからね、焦っちゃって。早く小説書かないと、なんて。そしたら余計に筆が進まない。
そんなんで、やばい、自分が消えちゃう、こわい、どうしようなんて思って頭抱えながら血眼になってふわふわネットの海を漂ってたら、見つけたわけですよ。この文章を。好きに使っていいなんて書いてあるこの文章を。こんなラッキーな話はないじゃないですか!まるでわたしのためにある話なんじゃないか、なんて思っちゃいますよ、これは。これはわたしの文章だ!って。何度も何度も読み返しましたよ。いやあ、そりゃあ小説家なんて、自分の文章が好きじゃないとできないですからね。
あ、もちろんわたしも権利は主張しませんよ。好きに使って構いませんよ。むしろ大歓迎ですよ。いろんなところに載せてください。バズってみたい〜なんて下世話なこと言いましたけど、ほんとうのところは、わたしの文章がいろんなひとに読まれることだけなんです。わたしの文章が誰かの中に入っていって、その人の身体の組成の一つになることなんです。
だからこれは、あなたの文章なんです。
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