OUR ONE WEEK/月曜日
※縦書きリンクはこちらから https://drive.google.com/open?id=1t5utrvA65kBPlEtGZGNyUofCVOvkiilM
月曜日
■アツミ
月曜日だけは、夜が二回あるような感じがしませんか?
休みが終わるのがどうにも惜しくて、日曜日は大体いつも夜更かししてしまいます。ああ、もう月曜日なんだな、と思いながら。
そして仕事が終わってまた夜がきます。はあ、まだ月曜日なんだ、一週間って長いなあ、と思いながら。
なんか馬鹿みたいですよね。
あれ、これはどっちの月曜日だっけ。
遠目にコンビニを見ると、その光の強さに目がくらむような気がしました。でも、いざ光の中に入ってしまうと、そのまばゆさにもすぐ慣れてしまいます。
「フランクフルトならあるじゃん」
「フランクフルトとアメリカンドッグは全然違うじゃん」
「そう?でも、アメリカンドッグって結局ソーセージが核でしょ?」
この人は何もわかっていないな、とわたしは思いました。
「あの皮、甘くない?」
心底、この人は何もわかっていないのだと思いました。
「雪見だいふくだって、皮がなかったらただのアイスじゃん」
「ああ確かに。そういうことか」
「アメリカンドッグ、作りますよ」
顔を上げると、無表情の店員がこちらに向かってそう言っていました。
「いや、でも悪いんで、こんな深夜に」
無表情の店員は、冷凍庫からアメリカンドッグがたくさん入った袋を出して、奥のフライヤーに油を注ぎました。
「そんな毎日来られたら」
小さくそういう声が聞こえた気がしましたが、気のせいかもしれません。
「靴下とかバスタオルとか、こういうのって昔から売ってたっけ?」
「売ってたんじゃない?」
そうかな?
「こんなに何でもあったっけ?」
わたしはネクタイピンを眺めながら言いました。
「あったよ。コンビニってそういうもんじゃん」
そうだったかな。
「大変だね、コンビニは」
「そうだね。まあでもコンビニでも買えないものだってあるんじゃない?」
「例えば?」
「それは、愛とかでしょ。やっぱり」
わたしはいつまでこの人と一緒にいるのだろう、とわたしは思いました。
明日には、今のわたしはもういないかもしれません。
彼のことを好きなわたしがいないこともあるだろうし、わたしのことが好きな彼がいないこともあるでしょう。
人間というのは、そんなに連続したものではありません。今日思っていたことをすぐに忘れてしまいます。今日感じていたことをすぐにどこかに追いやってしまいます。
何故かわたしは目だけで避妊具を探していました。生理用品は目立つところにありましたが、避妊具はなかなか見つかりませんでした。見つかりにくい場所に置かれているのはどういう理由があるのだろう、と考えましたが、よくわかりませんでした。
「アメリカンドッグ、結構時間かかるね。雪見だいふく溶けちゃいそう」
「一旦戻してくればいいじゃん」
「そうだね」
彼はわたしのパーカーのポケットに入れていた手を出して離れていきました。
雑誌のコーナーを見やり、ふと見上げると、空に完璧な月が浮かんでいました。
「なんかここのところ、毎日月が丸くない?」と彼に聞きかけて、彼が今は横にいないことに気がつきました。
アメリカンドッグ出来ましたよ、という低くて小さな声が聞こえました。
「わざわざすみません」という声も、「ありがとうございました」という声も、彼に届いたかどうかわかりませんでした。レジ横のモニターに表示される数字を見て、わたしたちはお金を払いました。店員の男の子は、どこかで見覚えがある顔でした。仕事柄、大学生くらいの年齢の子はみんな見覚えがあるように思えるんです。
コンビニから出て歩き出すと、駐車場に伸びた二人分の影が、ゆっくりと縮まって離れていきました。
児童公園は静かでした。月の光と蛍光灯が、公園を青く白く照らしていました。
「もうすぐ冬だね」と私が言うと、彼は「もう冬じゃん」と言いました。
「今日、アツミちゃんが寝てる間、雪降ったんだよ」
また、永遠みたいに長い冬が来ます。
「なんだよ」
「どうしたの?」
「あの店員、アメリカンドッグと雪見だいふく同じ袋に入れやがった!」
白いトレーの中に、餅の裂け目から白いバニラアイスが溶け出していました。
明日から始まる新しい日のこと。だけではなくて、今日のことを話しながら、わたしたちは抱き合って眠りにつきました。ムカイくんはやはりもう一度仕事に就こうと思っているということ、わたしは今日観た映画の淡々とした世界の日々のこと。
わたしたちは流れていきます。逸脱と合流を繰り返しながら。わたしたちは逸脱を愛します。合流を愛します。何もかもが絶え間無く動き続ける中で、わたしたちは浮かんだり沈んだりするだけです。深く息を吸い込んで。
わたしたちがいなくても、わたしたちの完璧な日々は完璧に続いていきます。わたしたちがいても、そのサイクルはぐるぐると回り続けます。
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