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2023年12月の記事一覧

ドラマ・シリーズ「正義の異邦人:ミープとアンネの日記(原題:A Small Light)」

とても秀逸なドラマ・シリーズで60分の8話から成る。 題の中の人名、ミープ・ヒースは、アンネ・フランクと7人を隠れ家でかくまった、主な4人の内の中心的な人物である。 幼い頃、オーストリアからオランダ人家族の元に養子にきた女性であり、歴史的にはアンネ・フランクに比べると、ほぼ無名であるが、ナチス・ドイツのホロコーストに真っ向から立ち向かった一人間としては、後世まで語り継がれるべき人である。 このドラマは、史実に基き、演出上の脚色は加えられているものの、事実を歪めるものではまった

少女の日記としてではなく、一人の人格ある人間のものとして「アンネの日記 増補改訂版(文春文庫)」を読む ⑪ 日記のひとつのピークである部分 ~ 巣離れと旅立ち 

この日記が書かれたのは、日記が終わる5か月前のこと。 長い日記の中でも、アンネがひとつの結論めいた決意を記したといってもいい部分かと思う。 一見、両親への反発、特に母親への嫌悪のように思えるかもしれないが、もはや精神的に、そういう段階を遥かに過ぎていることがうかがえる。 つまり、自分を「未熟者あつかい」或いは「子どもあつかい」するという差別に対し、敢然と決別する決意を表明し、また独自のパラダイム(価値観を伴った、物事の見方・捉え方)に従い、より高い理想に向かって旅立つという

カポーティの才能と人格は、数年間だけ一緒に暮らした親戚の老女との日々によって培われた

「ティファニーで朝食を」で知られる、アメリカの大作家トルーマン・カポーティ(1924ー1984)ほど複雑な生い立ちを持つ作家は、いないであろう。 簡単に言うと、見た目も中身も普通では無く、蔑視されていた為、両親の離婚後は、同じく蔑視されていた遠縁の、実質独り暮らしの老女に預けられて育った。 しかし、その親戚である老女(当時60歳前後)、ナニー・ランブリー・フォーク(Nanny Rumbley Faulk)は、他の一切の相手を差別することが無いばかりか、愛情深く崇高な精神の持

太陽のように温かな母親の人柄が、チャップリンの才能を開花させた ~ 「チャップリン自伝ー若き日々」を読む ③

本当に「どん底の」暮らしをしていたが、母ハンナは、心までどん底では無かった。 清貧という言葉があるが、ハンナはチャップリン兄弟に、人としての矜持を保つ尊さを教えていたことがわかる。 映画「KID」にも、捨て子であったジョンに、食事の前にちゃんとお祈りを捧げるように促すシーンが出てくるが、これもチャップリンが実体験から身についていたことだとわかる。

100年前に描かれた、何気ない1枚のイラストが語り掛けてくるもの

妻と娘と、久しぶりに浜屋のレストランに行ってみることにした。 まだ、子どもが小さかった頃。 屋上のプレイランドで遊具に乗った後、8Fのレストランで食べて、更に7Fのおもちゃ売り場に寄る。 これが、「ゴールデン・コース」なのだった。 すいてるだろうと思いきや、20分待ちの行列!サービスがしっかりしていて、美味しいので、年配のファンもかなり多いらしい。 やっと席について、待っていると壁に架けてある小さなポストカードの額が目に付いた。(下の画像) 何となく気になるイラストで、近寄っ

太陽のように温かな母親の人柄が、チャップリンの才能を開花させた ~ 「チャップリン自伝ー若き日々」を読む ②

私の幼い頃、けっして裕福ではなかったが、チャップリンの母ハンナに比べれば、遥かに恵まれていた。 私も外へゆくより家に居る方が好きだったのだが、こんなにも優しく母にしてもらって二人で過ごした記憶は残念ながら残っていない。 あらためて、「ヒトを育てるとは?」と「ヒトにとって豊かな暮らしとは?」とは、どういうことなのかについて考えさせられる。 尚、文末に気になる表現があるが、これは母ハンナが極度の栄養不足などで、精神に異常をきたしてしまうことを指している。