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[怪談]蜘蛛の渡り

そんなに怖くないかもしれないけど
深夜にタバコを吸っていた時の話。

深夜に家の前でタバコをふかしていたら、
ピチャッとどこかで水の滴る音がした。

雨でも降って来たのかなと思って空を見上げたが
星がきれいに見えるほどの快晴。
空耳かと思ってその時は特に気にはしなかった。

別の日、深夜にタバコをふかしているとまたピチャッと水の落ちる音が聞こえた。
空耳じゃない。
何だろうなと思って周囲を見渡す。
屋根から夜露でも落ちたのか?エアコンの室外機から水でも垂れたか?
そう思ったけど近くには水が落ちたような跡やそれらしき水が落ちる様な構造物は無い。

変なこともあるものだな…ぐらいに考えて
しばらくはその水音を気にしないようにしていた。

そんなある日、
いつもと同じように深夜にタバコを吸っているとまた音がした。
今度はかなり近い場所でだ。

しかも今回は音がピチャッ、ピチャッと一定のリズムで段々と近づいてくる。
30秒に一回ぐらいのペースだ。
音の感じ的に高い場所から落ちてくるような音。

なんの音だろう、どこに落ちているんだろう。
街灯に照らされたアスファルトに目を凝らすと、
人の足跡ぐらいの感覚で水の落ちた後が続いている。
ピチャッと水が落ちる。
近くまで行きその場所をよく見ると、
水滴の付近にクモが1率いた。

クモは上から糸を垂らして俺の顔の高さぐらいにぶら下がっている。
上を見ても木や電線なんて雲がぶら下がれそうなものは何もない。
まるで空から糸を垂らして降りてきたというような感じだ。

ピチャリピチャリ、
水滴の音は雲の糸を伝ってはるか遠くの空の暗闇から降りてきていた。

クモが糸を風にのせて移動するなんて話を聞いたことがあったから、
このクモもそんな種類なのかな?
なんて思って珍しいものを見れてラッキーぐらいに思った。

しばらくクモを観察するとクモは大きさ5cmないぐらい。
形的にはハエトリグモみたいでちょっとかわいらしい見た目だ。

ちょうど煙草を吸っていた俺はいたずら心からその雲にタバコの煙を吹きかけてみた。
するとクモはそれこそ煙のように霧散して消えてしまった。

それを見て俺はなんだかもったいないことをした、
悪いことをしてしまったなと少し後悔した。

これが俺が水音を聞いた最後だ。
それ以来水音を聞くこともなければ、その変なクモと会う事もなかった。

この話と関係あるかは分からないが、
あのクモを見てから数か月後、はす向かいの家のご主人が行方不明になった。
ご主人は市役所に長年勤めてきた真面目な方で特に失踪するような素行の悪い人ではなかった。
その人もタバコを吸う愛煙家で、
俺が夜に煙草を吸っていると、ベランダでタバコを吸うご主人を見かけ、目が合うとコクリとうなずき軽い挨拶をかわしていた。

ご主人が行方不明になる少し前、
例の水跡が一直線等間隔でその家に向かって伸びていたのをよく覚えている。

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