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[怪談]祈らずの神

これは俺の高校時代からの友人Nが体験した出来事。
Nとは長い付き合いになるが、可笑しな体験を何度もしているらしく
ここに書いていく。

まずNってのは旅好き冒険好きの怖いもの知らず、暇さえあれば田舎の観光地や寂れた場所へよくバイクでツーリングに行くような奴だった。
それゆえいろんな地方で危ないことにもあったりしたらしく、
かくいう俺もNとのツーリングでは何度も危ない目に合った。

秋口の3連休、俺とNと友人もう一人で紀伊半島にツーリングに行った時のことだ。
熊野を過ぎたあたりで奈良方面へ続く山道に入ったところだ。
昔のナビってのは今ほど精度が良くなくて、ひどい山道を案内された。
車でもすれ違うのがやっとみたいな細い崖の道で、法面加工なんてもちろんされていない。
本当にこの道で良いのか?と、俺たち3人はおっかなびっくりしながら走っているとNが突然
「あ・・・、来る!」といって止まれのサインを出し急ブレーキをした。
俺は何事かとNの後ろに停車する。

すると一瞬合ってドッカーンと大きな音を立てて大岩が俺たちの目の前に落ちてきた。
俺たち3人は心底肝を冷やした、
もしNが止まらずにあのまま走っていたら今頃は・・・

命の恩人のNに感謝した。
しかしどうして急に止まったんだ?
まさか未来予知でもしたのか?
なんて聞くと、Nは自分自身でも理解できないような感じで
「何かスゴイ悪い予感がしたんだ、だから止まったんだ」
・・・と直感なのか本当に未来予知でもしたのか不思議なことを言う。

まあもともとちょっと感覚のずれた不思議なところのあるヤツだったし、
本当にそういうのってあるんだなと思う事にした。

この落石事故だけでも九死に一生体験なんだけど、
問題はこの後だった。

落石で道を塞がれ進むことが出来なくなった俺たちは仕方なくもと来た道を引き返すことにした。
細い山道を10km以上引き返すのはとても億劫だった。
まあ命があるだけでも良かったな…なんて考えていると、
またNが急停車、バイクを路肩に止めた。

また落石を未来予知したのか?なんてNを茶化すと、
Nはバイクを路肩に止め道のわきに向かって歩いて行く。
Nの向かう先には小さな祠があった。
見た目はかなり古く、屋根?の部分は腐ってボロボロ、全体的にコケがびっしりと生えていた。

その祠の前に立つとNは手を合わせ、神妙な面持ちで黙とうをしだした。
俺ともう一人の友達も自然と祠に手を合わせ目を閉じ深くお祈りをする。
男3人が山奥の祠に手を合わせる、シュールな光景かもしれないが、
先程の落石事故から奇跡の生還をした俺たちには、
さっきのはもしかすると神様が助けてくれたのかも…なんていう風に思え、
自然と神様に感謝してしまうのだった。
神様ありがとうございます、このご恩は一生忘れません。
そんなことを心の中で祈っていると、

「「「じゃあ、その命ちょうだい」」」

どこからか聞こえたその声にぎょっとし俺は目を見張る。
他の2人も同じように声を聞いたのだろう、とても驚いた表情というよりはとてもおびえた表情をしている。
あの声は誰の声?実際に聞こえた声?・・・というよりは頭に直接聞こえたような。
どこから?俺たち三人は自然と古びた祠の方を見つめた。

ふつう祠にはなんとか観音だとかなんとか地蔵なんて文字が書いてあったりするものだがそれらしきものは何一つ書かれていない。
俺たちは何に祈ったんだ?
一瞬のうちにいろいろな悪い想像が頭を巡ったが、俺たち三人は慌ててバイクにまたがりや峠道を駆け下りていった。

良く知らない神様に変にお願いをするのはやめたほうが良い。
帰り道で俺はそのことばかり考え、見知らぬ神様に祈ったことを深く後悔した。

<つづく>

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